表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
17/49

勇者(罪人)、監獄で迷惑がられる

     ◇ スニード


 やっと目的地に到着したようだ。馬車でトロトロ走ってたから三日もかかった。


 見おぼえのある城壁じょうへきが近づいてくる。連邦の役人に聞くまでもない。アルト城だ。なつかしい。昔とまったく変わっていない。


 北部を冒険する時は、たいていこの街を拠点きょてんにしていた。街の中心に冒険者用のデカい宿舎しゅくしゃがあって、すぐそばに北にも南にも行きやすい便利なダンジョンの入口がある。


 少し行けば、ミロという大きな街があるのもいい。しかも、そこよりも宿代やどだい割安わりやす。そんなわけで、ここは冒険者のたまり場になっていた。


 でも、ここに監獄かんごくなんてあったかな。記憶にないな。


 ここは複数の冒険者ギルドが共同で自治じちする自由な街――悪く言えば、無法地帯だった。ギルド同士が縄張なわばり争いでしょっちゅう衝突してたし。


 門をくぐりぬけて街へ入る。思わず顔がほころんだ。子供のように目を輝かせてしまった。


 街なみはだいぶ変わっている。けれど、雰囲気は昔と変わらない。ここは普通の街じゃない。冒険者が切り開いた街なんだ。


 大通りを進み続けた馬車が、思いもよらない場所でとまった。


「……ここが監獄か?」


「そうだ」


 かわいた笑いが出た。見まちがえじゃない。要塞ようさいだった建物を再利用したとかで、昔から物騒ぶっそう外観がいかんをしていた。


 なんてことだ。信じたくない。


 連邦の役人が『監獄』と呼んだのは、かつて冒険者の宿舎だった建物だった。


 昔は冒険者が集団で出入りしていたから、門前もんぜんまで人であふれ返っていた。正面の扉はいつも開いていて、中から笑い声が聞こえてきた。


 今は誰もいない。扉はかたくざされ、不気味なほど静かだ。


 ――バカにしやがって。


 もう何もかも変わってしまったのか。俺の知っていた世界は、どこにもなくなってしまったのか。



     ◇



 馬車から降りて、監獄に足をふみ入れる。ここを監獄なんて呼びたくないんだが。


 一階は広間ひろまだ。ここの印象は変わらない。内装ないそうや机の置いてある位置が同じだからか、なつかしさを感じた。


 けれど、中にいる人間はまるで違う。ローブを着た役人ばかりで、冒険者の格好をしたやつは一人としていない。人は少なく閑散かんさんとしていて、話し声も聞こえてこない。


 この広間は、ギルドに登録したり、宿泊の手続きをしたり、掲示板で仲間を募集したり、結晶や鉱石こうせき売買ばいばいする場所だった。そういった光景はどこにも見られない。


 連邦の役人が受付うけつけの男に話しかける。まわりの連中からジロジロと見られる。こんな格好をしていれば当たり前か。


 待たされること数分。奥から五十歳くらいのえらそうな役人が出てきた。


「船を沈没ちんぼつさせた冒険者? そんな話は聞いていないぞ」


「実は四日前に起きたばかりの事件で、まだ本国ほんごくに報告が届いているかどうかの状況でして」


「事件の起こった場所で裁判にかければいいじゃないか。どうしてここまで連れて来たんだ」


「沈没させられたのは我々の船ですが、友好国の領内でしたから」


「どこの国だ」


「ブルアルバーロのノルダピエードという港町みなとまちです」


「ずいぶん遠くから連れて来たもんだな」


「事が事ですから、我々ではあつかいに困りまして」


 偉そうな役人から厄介やっかい者あつかいされている。こっちが悪いことをした気分に――いや、実際に悪事あくじを働いたか。


「それなら、ろうにぶちこんで本国の指示を待てば良かったじゃないか。なぜここへ連れてくる必要があった」


「しかし、あの男、我々の手にあまるほどの冒険者でして」


 偉そうな役人がにらむように俺を一瞥いちべつする。


「……レベルはいくつだ」


「39です」


 偉そうな役人が頭をかかえながら、顔をしかめた。


「まさか、エスペロの冒険者じゃないだろうな」


「本人は違うと言っておりますが……」


 また『エスペロ』が出てきたな。冒険者ギルドの名前のようだが聞きおぼえはない。連邦と敵対てきたいでもしているのか。


 それにしても、ピリピリとした雰囲気だな。偉そうな役人はやけにイラついている。同じ連邦の役人を、なんでここまで邪険じゃけんにあつかうんだ? 


 さて、こいつらが約束を守るとはかぎらないし、そろそろ戦闘にそなえておかないとな。ただ、目の前にいる偉そうな役人はたいしたレベルじゃない。


 人間にしてもモンスターにしても、エーテルをつね放出ほうしゅつしている。だから、魔法を使わなくても、近づけばだいたいのレベルがわかる。


 レベルの高いやつはエーテルの使い方がうまいから、肌ざわりからして違う。安定しているからやわらかいんだ。逆に、レベルの低いやつは不安定でトゲトゲしい。


 他の連中もたいしたことなさそうだが、全員を相手にするのは骨が折れそうだ。どの方向から魔法が飛んでくるかわからないからな。


 攻撃してきたら、さっさと逃げたほうが利口りこうかな。


「よりによって、こんな時に……」


 偉そうな役人が舌打ちした。


「ミロきょうはいらっしゃいませんか?」


「……ミロ卿は今、北方ほっぽう視察しさつに行ってらっしゃる。しばらく戻らない」


「なんか、歓迎されてないみたいだな。ここで逃げてあげたほうが連中のためになるか?」


 となりのルニーナに耳打ちする。


「どっちにしたって、迷惑がかかるのでやめてあげてください」


 中がどうなっているか確認したいし、もう少し様子を見るか。それに監獄から逃げたほうが、連中の面目めんぼくもつぶれるしな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ