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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
16/49

勇者(罪人)、馬車の遅さにイラつく

     ◇ スニード



 住民に見送られながら、馬車が町をあとにした。街道に出ると、すぐに人家じんかが見えなくなって、周囲はのどかな風景に変わった。


 馬車は二頭引きで結構ゆれる。四人でギュウギュウづめの広さだから、となりのルニーナとは体が接触している。


 それにしても遅い。歩いているのと変わらない。楽といえば楽かもしれないが、イラつくレベルの遅さだ。そういえば、昔から馬車に乗りたいなんて一度も思わなかったな。


「走ったほうが早いと思うんだけどな」


 つい不満を口にする。向かいに座っていた連邦の役人がこちらを見た。


「あいにく、君ら冒険者と違って、我々は足が遅いんだ」


 人類じんるいは戦士と魔導士の一族に大きく分けられる。どちらであるかは刻印こくいんの現れる場所で判別はんべつできる。全身に現れるのが戦士で、手のひらに現れるのが魔導士だ。


 いわゆる戦士はエーテルを身体能力の向上こうじょうに用いる。だから、近接きんせつ戦闘が得意で足も速い。ただ、基本的に攻撃手段は打撃しかない。


 一方の魔導士は、エーテルを魔法の発動はつどうに用いる。レベルアップで上昇するのは、魔法の威力いりょくと効果だ。身体能力がほとんど上がらないから、ダンジョンを進む上ではお荷物になる。


 俺はダンジョンを走りまわる冒険スタイルだったので、ずっとあとになるまで魔導士の仲間ができなかった。ていうか、確実に拒否されるから、さそうこともなかった。


「風景がめずらしいのか?」


 周囲を見まわしていたら、役人が声をかけてきた。


「ああ。この辺りに来たのは初めてだし、地上を歩く機会があまりなくてな」


「そうなんですよ。だから、私と彼は昨日会ったばかりで、赤の他人なんですよ」


 ずっとうつむいていたルニーナがあやしさ満点に言った。


「それより、俺の出した条件を忘れていないだろうな」


「おぼえてるよ」


「俺に少しでも魔法を使うそぶりを見せてみろ。その時は容赦ようしゃしないからな」


 役人をにらみつける。このぐらいおどしておけば大丈夫だろう――と考えたが、いくらなんでもあやしかったかな。


「身のほどを知っているから安心してくれ。私の魔法がレベル39の君に通用しないこともな」


 そうじゃないから安心できないんだよ。これ以上やると逆効果になるから、もう二度と言わないけど。


 状態異常にかかる確率と時間は、レベルの差があればあるほど増大ぞうだいしていく。同じレベルなら確率は五分ごぶ五分ごぶで、時間はたかだか一分程度。


 だから、レベルの差が相当ないかぎり、有効な拘束こうそく手段ではない。使えるとしたら、拘束するまでの時間かせぎだ。


 この役人はそれを理解している。そして、俺がレベル39だと勘違いしている。


 なるべく、事を荒立あらだてないようにしているのを見ると、俺ぐらいならどうにかできるという見込みこみがあるのか。


 おそらく、これから連れて行く場所に、レベル39を手なづけられる魔導士がいるな。



     ◇



 遅い。なんて遅さだ。もうまる二日走り続けているぞ。風景も見あきたし、退屈たいくつで死にそうだ。ジッと座っているだけのことが、こんなにツラいとは思わなかった。


 他のやつらはどうして平気でいられるんだ。こいつら聖人せいじんか? ああ、今すぐ足かせを破壊して全力で走りだしたい。馬だってそう思ってるはずだ。


「まだ目的地には着かないのか?」


「まだだ。明日中には到着するだろう」


「どこへ向かっているのかだけでも、教えてくれるとありがたいんだけどな」


「連邦の監獄かんごくがある場所だ」


 その連邦ってのがわからないから聞いたんだよ。監獄に入れられた経験もないから、それがどこにあるかも知らない。


 逃げようと思えば、いつだって逃げられるが、そうしないのはやつらの手のうちを確認しておきたいからだ。


 今のところ昔と変わらないが、新たな魔法や拘束手段がないと決まったわけではない。あと、監獄がどういう場所なのかも確認しておきたい。


 昔は高レベルの悪人を捕まえるためにどうしていたか。やり方はいたってシンプルで、相手よりレベルの高いやつに対処たいしょさせていた。


 一定いっていのレベルにたっすると、冒険者をやめて傭兵ようへいになるやつがいる。何を隠そう、俺も傭兵的なことをしていた時期がある。


 おかざりのギルドマスターに就任しゅうにんし、有事ゆうじの際に協力する契約をかわしていた。それで毎月一定の収入を得られたからありがたかった。冒険は出費しゅっぴがかさむからな。


 いちおうギルドに顔をだしたけど、数カ月に一回だったから、何をやっていたのかすら知らない。用心棒みたいなものだし、向こうもそれを承知しょうちの上だった。



     ◇



 三日目の宿に着いた。連邦の役人とその連れがどこかへ行ったので、部屋でルニーナと二人きりになった。


「ずいぶん従順じゅうじゅんなんですね」


 ルニーナがめずらしく話しかけてきた。馬車ではほとんど口を開かず、話しかけても気のない返事をするだけだった。


「昔から素直すなおで良い子だったよ」


「何かたくらんでるんですか?」


「それを聞きだすよう、あいつに頼まれたのか?」


「そんなこと頼まれてませんよ。私としても、あなたが逃げてくれたほうがありがたいですから」


「……どうしてだ?」


「だって、証言する必要がなくなれば、すぐにだってノルダピエードに帰れるじゃないですか」


「それもそうか」


 納得したが、そうはならないぞ。ルニーナ、逃げだす時はお前も連れて行く。少なくとも、ゴルフポールドまではついて来てもらう。


 悪いとは思っているが、今の俺にはどうしてもお前が必要なんだ。絶対に悪いようにはしない。お礼もはずむから、しばらく俺のワガママに付き合ってくれ。


 ただ、急ぐ話じゃない。役人にぐちするかもしれないし、話を持ちかけるのはもう少しあとでいいか。

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