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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の蜂起編
15/49

勇者(罪人)、連邦打倒を宣言する

今回から新章に突入です。

連邦との本格的な戦いが始まります。

     ◇ ルニーナ



 ちょっとみなさん聞いてください。


 私、巻きこまれました。巻きこまれてしまいました。


 ――伝説の勇者に。



     ◇



 どうしてこんなことになったのでしょう。誰か夢だと言ってください。


 今日は役所で朝をむかえました。彼の『ルニーナ以外の見張みはりを認めない』という希望で、ここにまることになったのです。


 後輩のレルノくんが朝一番に様子を見に来てくれました。


「昨日はここに泊まったんですか」


「はい。イスの上で寝ました」


「それは大変でしたね」


「別に、それ自体はたいしたことなかったんです。穴のあいた家に帰っても、かえって憂鬱ゆううつになりそうですから。それにもっと大変なことがありましたし」


「何があったんですか?」


「彼への差し入れを持ってきたと、町のみなさんが役所へお越しになったんですが、連邦の方との間で険悪けんあくなムードになったんです。彼が仲裁ちゅうさいしてくれてその場はおさまったんですが、それから差し入れで宴会えんかいが始まって、夜遅くまで騒いでいたんです」


「そんなことが……。じゃあ、寝不足ですか」


「いえ、意外にぐっすり眠れました」


「それは良かったです」


 証人として彼に同行することついても、ざっと説明しました。


「出発はいつなんですか?」


「今日にも出発です」


「急な話ですね」


「家のことを頼んでいいですか? レルノくんに全部(まか)せますから」


「わかりました。でも、裁判ならこの町でもできますよね。なんで、わざわざ連邦の国まで連れて行くんでしょうか」


沈没ちんぼつさせられたのは連邦の船ですから。連邦に対する罪は、連邦の国でさばきたいんだそうです」


「言われてみるとそうですか」


「問題はどこまで連れて行かれるかです」


「この辺りは連邦の友好国ばかりですが、なんだかんだで連邦の国は少ないですからね」


 私たちの町――ノルダピエードは、ブルアルバーロ州にありますが、役人が派遣はけんされているように、連邦の支配下にあると言っても過言かごんではありません。


 とはいえ、純粋じゅんすいな意味での連邦とは、魔導士の一族がおさめる五つの大国たいこくによって構成こうせいされたものであり、それらの国は大陸の中心部に集中しています。


 連邦の中心と言えるのがゴルフポールドです。東のみやことも呼ばれています。なぜか、彼が行きたがっている国です。


「アルト城へ行くと言っていましたが、とりあえず行ってみるって感じなんですよね。そこがどこにあるかもはっきりしませんし」


「アルト城ならミロのすぐ近くですよ。有名な監獄かんごくがあると聞いたことあります」


「ミロって連邦の国でしたっけ?」


緊密きんみつな関係ですが連邦ではないと思います。確か、アルト城だけが連邦の直轄ちょっかつ地だったような……」


「そこだったら遠くなさそうですが、たらいまわしにされて、ゴルフポールド辺りまで連れて行かれたらどうしましょう」


「ここから一週間以上かかりますからね。でも、父親がゴルフポールドの出身だって、先輩言ってませんでしたっけ?」


「はい、今はそこにいないみたいですけど、親戚しんせきはまだ住んでいます。まあ、父親といっても数回会っただけの関係ですけどね」


 小さい頃は一緒に住んでいたそうですが、物心ものごころがついてからは一度も会いに来ていません。でも、手紙はよく送ってきます。私のほうから会いに行ったこともあります。


 ちなみに、魔法が使えるのは父親の血を受けついでいる影響です。この辺りは魔導士の一族が少ないので、ただ魔法が使えるだけで重宝ちょうほうしてもらえるんです。


「あの人はどうしてるんですか?」


「元気ですよ。昨日はお酒をたくさん飲んでましたから、まだ寝ているんじゃないですか」



     ◇



 それから二時間後。とうとう出発の時がやって来ました。


 もう心にちかいました。くじけず、へこたれず、この試練しれんを乗りきってみせると。


 メンバーは私、彼、年配ねんぱいの方、従者じゅうしゃの方の四名です。面識めんしきのある方は町に残られるようです。


 彼は拘束こうそくされているにも関わらず、リラックスした様子です。チラッと目を向けると、意味深いみしんな笑みを返されました。


 年配の方は昨日会ったばかりですし、気むずかしそうなので話しかけづらいです。その点、彼は話しやすいですが、共犯きょうはん者と思われかねないのでしたしくするわけにはいきません。


「先輩、無事をいのっています」


 レルノくんとの別れを済ませます。ちょっとおおげさですよ。別に危険な旅に出るわけじゃないんですから。……そうですよね?


 外へ出ると、広場に馬車がとまっていました。それと町のみなさんが大勢おおぜい集まっています。私を見送りに来てくれたのかと思いきや、こんな言葉を次々(つぎつぎ)とかけられました。


「ルニーナちゃん、彼のことを頼んだわよ」


「彼を助けてやってくれな」


「彼は町を救ってくれた。今度は我々が救ってやる番だ」


 私にいったいどうしろと? いくらなんでも恩を感じすぎじゃないですか。ていうか、少しは私の心配もしてください。


「どこへ向かうかは決まったのか?」


「南へ行く」


 彼の問いかけに、年配の方が答えます。


 私も気になっているんですが、そのぼんやりした行き先はなんですか。北に行っても小さな村と海しかないので、南に行くのはわかってます。


 馬車へ乗りこもうとすると、怒声どせいが飛びかい始めました。


「お前らはあやまったのか!」


こわした建物を直してから行け!」


「リンゴの価格は下げないぞ!」


 気持ちはわかりますがやめてください。連邦の方を刺激しげきすると、全部私に返ってきますから。それと、今はリンゴ関係ないでしょう。建物の話だけにしてください。


 馬車のまわりにみなさんが集まってきます。馬もおびえています。こんな状況で出発できるんでしょうか。


「みなさん、落ち着いてください。俺は大丈夫ですから」


 彼が呼びかけると、混乱がおさまりました。意外と常識人なので安心しました。


「今日はこんな朝早くから、お見送りありがとうございます」


「気をつけろよ!」


達者たっしゃでな!」


 温かい声を投げかけられた彼は、馬車に乗りこむ直前、手かせのはめられた両腕をかかげました。


「それじゃあ、みなさん。これからちょっくら行って、連邦をぶっつぶしてきます!」


 ちょっ、何言ってるんですか!? 


「「「うおおおお!」」」


「やってやれ!」


「頼んだぞ!」


 町のみなさんが熱狂ねっきょう的な歓声でこたえます。


 連邦の方が目の前にいるんですよ。顔を引きつらせているじゃないですか。もうこの場にいるのがえられません。


 私は無関係、私は無関係。心の中でつぶやきながら、さっさと馬車に乗りこみ、ずっと下を向いていました。

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