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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の復活編
13/49

勇者(冒険者)、役人を追及する

     ◇ ルニーナ



 キレイです。幻想げんそう的な光景がひろがっています。さっきまでモンスターのいた場所に、光のつぶ無数むすうに舞っています。


 スライムを倒した時にも見られる現象ですが、体が大きいぶん、そのスケールも大きくなってます。


 彼はぼんやりと空中に視線をただよわせています。モンスターを倒した達成感につつまれている様子はありません。


 ふと彼が地面に目を落とします。そこにはコブシだいの結晶が落ちていました。体が大きいと結晶も大きくなるようです。


 見守っていた町のみなさんから、ポツポツと拍手が起こり始め、やがてそれは歓声へと変わっていきました。


「よくやった!」


「ありがとう、兄ちゃん!」


 彼はそれに対して特に反応を見せず、地面の結晶を拾いあげてから、こちらへ歩み寄ってきました。


「ほら、これもやるよ」


 彼が無造作むぞうさにほうり投げた結晶を、私はかろうじてキャッチしました。


「これがオーガのエーテル結晶ですか。スライムのものとはくらべものになりませんね」


 レルノくんがもの欲しそうに見つめます。正直、これをもらっても困ります。取っておけるなら別ですけど、数時間で消えてしまうなら使い道がありません。


「レルノくんが使いますか?」


「いえ、プレゼントされたんですから、先輩が使ってくださいよ」


 回復するほどエーテルを必要としていないんですよね。使ったのは〈解析かいせき〉の魔法だけですから。


満杯まんぱいの時に使っても効果がないから、魔法でエーテルを使いきってから回復させるんだぞ」


「その行為になんの意味があるんですか?」


「レベルが上がるだろ?」


「体内のエーテルを使いきってから、結晶で回復させる。そのサイクルをくり返すのが、レベルを上げるための近道なんです」


 レルノくんが補足ほそくしてくれました。それは初耳はつみみです。戦っていくうちに、エーテルの使い方が洗練せんれんされていくぐらいに考えていました。


 ただ、私はレベルを上げることに興味ありません。自然に上がるぶんで十分です。


「どうやって倒されたんですか?」


「見てなかったのか?」


「見ていてもわからなかったんです」


「普通になぐっただけだよ。まあ、コブシが当たる前に、波動はどうで吹き飛んだんだろうけどな。それよりお前、俺のレベルを計っていただろ?」


「はい……」


 やはり、気づかれてました。


「いくつだった?」


「39です」


「ふーん、そんなもんか」


 彼からするどい目を向けられます。怒っているんでしょうか。


「すいません、勝手に計ったりして」


「誰にも言わないなら許すよ」


「わかりました。誰にも言いません」



     ◇



 町のみなさんが集まってきて、彼はたちまち取り囲まれてしまいました。


「お兄ちゃん、強いねえ」


「まあ……」


「スゴいねえ、あんな大きなモンスターを倒すなんて。冒険者なのかい?」


「そうです」


「たいしたもんだ。わしはついて行けなくて、三日くらいであきらめたよ」


「俺は三日ぐらい戦い続けても大丈夫ですよ」


 彼はひとりひとりに愛想あいそよく返事をしています。意外に社交しゃこう的なようです。


「でも、冒険者は今、肩身かたみがせまいんだろ?」


「そうなの?」


「食っていくのが大変らしいな」


 冒険者にとって、今は冬の時代だと言われてます。春の時代を知らない私にはピンと来ません。冒険者の方がどんな生活をしているのかも知りませんし。


「それにしても、さっきのモンスターはなんだったんだろうねえ」


「あんな大きいのは初めてだよ」


「町に現れるのはスライムぐらいだからなあ」


 彼が何かを思いだしたかのような顔をしてから、どこかへ向かい始めました。どうやら、連邦の方たちに話があるようです。


「あんたらが連邦の役人か?」


「そうだ。君は冒険者か?」


 年配ねんぱいの方が答えました。初めて見る顔です。おそらく、新たに派遣された方でしょう。もう一人の方は知っています。半年前まで駐在ちゅうざいされていましたから。


「オーガが町に出てきたのは、あんたらがダンジョンにしかけた結界けっかいが原因じゃないのか?」


 彼が問いつめるように言いました。図星ずぼしなのか、連邦の方たちの表情がくもります。不穏ふおんな空気がただよってきました。


「おい、今の話は本当か?」


「……そうなのか?」


「お役人さんが原因なの?」


 町のみなさんが口々(くちぐち)に言いました。もし本当なら大問題です。自宅を壊された私にとってはビッグチャンスです。


「君はいろいろとくわしいようだな」


「ああ。ついさっき、ダンジョンの奥まで見に行ってきたからな。病的なほど厳重げんじゅうな結界が張られていたよ」


 連邦の方たちは沈黙することで、あんに認めました。


 因果いんが関係はわかりませんが、もしそれが事実なら、自宅の修理費用を弁償べんしょうさせられます。ここは彼を応援するしかありません。


「しかし、スライムが町に出てきたことはともかく、オーガについては必ずしも関係があると言えないのではないか?」


「いや、上層じょうそう細工さいくをすれば、当然下層(かそう)に影響が出る。モンスターにとってエーテルは唯一ゆいいつのエネルギー源。それが突然なくなれば、新天地しんてんちを求めるしかないだろ? その結果、モンスターの大移動が起こって、はじきだされたのがエサを求めて地上に出てきてしまうんだ」


「……」


 反論なしです。やりました。連邦の方たちを言いくるめました。そのまま、補償ほしょうについての話に持ちこみましょう。


「無関係ではないことを認めよう」


 年配の方が認めました! 町のみなさんがどよめきます。


「あんたらが原因か!」


「あやまれ!」


 騒然そうぜんとなってきました。また石が飛んできそうです。みなさん、冷静になってください。大事なのは壊された建物を元通もとどおりにさせることです。


「ただ、申し開きをさせてくれ。我々が日常業務として行っていた『管理』が、不測ふそくの事態によって中断したことが原因であり、決して故意こいではなかったことを」


 年配の方の言いぶんにも一理いちりあります。でも、それとこれでは話が別です。ここで引くわけにはいきません。


「君は――エスペロの冒険者か?」


「エスペロ? 聞いたこともないが、ギルドの名前か何かか?」


 話が変わりました。彼が知らないふりをしているように見えません。ついでに言うと、私もエスペロがなんであるのか知りません。

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