勇者(冒険者)、役人を追及する
◇ ルニーナ
キレイです。幻想的な光景がひろがっています。さっきまでモンスターのいた場所に、光の粒が無数に舞っています。
スライムを倒した時にも見られる現象ですが、体が大きいぶん、そのスケールも大きくなってます。
彼はぼんやりと空中に視線をただよわせています。モンスターを倒した達成感につつまれている様子はありません。
ふと彼が地面に目を落とします。そこにはコブシ大の結晶が落ちていました。体が大きいと結晶も大きくなるようです。
見守っていた町のみなさんから、ポツポツと拍手が起こり始め、やがてそれは歓声へと変わっていきました。
「よくやった!」
「ありがとう、兄ちゃん!」
彼はそれに対して特に反応を見せず、地面の結晶を拾いあげてから、こちらへ歩み寄ってきました。
「ほら、これもやるよ」
彼が無造作にほうり投げた結晶を、私はかろうじてキャッチしました。
「これがオーガのエーテル結晶ですか。スライムのものとはくらべものになりませんね」
レルノくんがもの欲しそうに見つめます。正直、これをもらっても困ります。取っておけるなら別ですけど、数時間で消えてしまうなら使い道がありません。
「レルノくんが使いますか?」
「いえ、プレゼントされたんですから、先輩が使ってくださいよ」
回復するほどエーテルを必要としていないんですよね。使ったのは〈解析〉の魔法だけですから。
「満杯の時に使っても効果がないから、魔法でエーテルを使いきってから回復させるんだぞ」
「その行為になんの意味があるんですか?」
「レベルが上がるだろ?」
「体内のエーテルを使いきってから、結晶で回復させる。そのサイクルをくり返すのが、レベルを上げるための近道なんです」
レルノくんが補足してくれました。それは初耳です。戦っていくうちに、エーテルの使い方が洗練されていくぐらいに考えていました。
ただ、私はレベルを上げることに興味ありません。自然に上がるぶんで十分です。
「どうやって倒されたんですか?」
「見てなかったのか?」
「見ていてもわからなかったんです」
「普通になぐっただけだよ。まあ、コブシが当たる前に、波動で吹き飛んだんだろうけどな。それよりお前、俺のレベルを計っていただろ?」
「はい……」
やはり、気づかれてました。
「いくつだった?」
「39です」
「ふーん、そんなもんか」
彼からするどい目を向けられます。怒っているんでしょうか。
「すいません、勝手に計ったりして」
「誰にも言わないなら許すよ」
「わかりました。誰にも言いません」
◇
町のみなさんが集まってきて、彼はたちまち取り囲まれてしまいました。
「お兄ちゃん、強いねえ」
「まあ……」
「スゴいねえ、あんな大きなモンスターを倒すなんて。冒険者なのかい?」
「そうです」
「たいしたもんだ。わしはついて行けなくて、三日くらいであきらめたよ」
「俺は三日ぐらい戦い続けても大丈夫ですよ」
彼はひとりひとりに愛想よく返事をしています。意外に社交的なようです。
「でも、冒険者は今、肩身がせまいんだろ?」
「そうなの?」
「食っていくのが大変らしいな」
冒険者にとって、今は冬の時代だと言われてます。春の時代を知らない私にはピンと来ません。冒険者の方がどんな生活をしているのかも知りませんし。
「それにしても、さっきのモンスターはなんだったんだろうねえ」
「あんな大きいのは初めてだよ」
「町に現れるのはスライムぐらいだからなあ」
彼が何かを思いだしたかのような顔をしてから、どこかへ向かい始めました。どうやら、連邦の方たちに話があるようです。
「あんたらが連邦の役人か?」
「そうだ。君は冒険者か?」
年配の方が答えました。初めて見る顔です。おそらく、新たに派遣された方でしょう。もう一人の方は知っています。半年前まで駐在されていましたから。
「オーガが町に出てきたのは、あんたらがダンジョンにしかけた結界が原因じゃないのか?」
彼が問いつめるように言いました。図星なのか、連邦の方たちの表情がくもります。不穏な空気がただよってきました。
「おい、今の話は本当か?」
「……そうなのか?」
「お役人さんが原因なの?」
町のみなさんが口々に言いました。もし本当なら大問題です。自宅を壊された私にとってはビッグチャンスです。
「君はいろいろと詳しいようだな」
「ああ。ついさっき、ダンジョンの奥まで見に行ってきたからな。病的なほど厳重な結界が張られていたよ」
連邦の方たちは沈黙することで、暗に認めました。
因果関係はわかりませんが、もしそれが事実なら、自宅の修理費用を弁償させられます。ここは彼を応援するしかありません。
「しかし、スライムが町に出てきたことはともかく、オーガについては必ずしも関係があると言えないのではないか?」
「いや、上層で細工をすれば、当然下層に影響が出る。モンスターにとってエーテルは唯一のエネルギー源。それが突然なくなれば、新天地を求めるしかないだろ? その結果、モンスターの大移動が起こって、はじきだされたのがエサを求めて地上に出てきてしまうんだ」
「……」
反論なしです。やりました。連邦の方たちを言いくるめました。そのまま、補償についての話に持ちこみましょう。
「無関係ではないことを認めよう」
年配の方が認めました! 町のみなさんがどよめきます。
「あんたらが原因か!」
「あやまれ!」
騒然となってきました。また石が飛んできそうです。みなさん、冷静になってください。大事なのは壊された建物を元通りにさせることです。
「ただ、申し開きをさせてくれ。我々が日常業務として行っていた『管理』が、不測の事態によって中断したことが原因であり、決して故意ではなかったことを」
年配の方の言いぶんにも一理あります。でも、それとこれでは話が別です。ここで引くわけにはいきません。
「君は――エスペロの冒険者か?」
「エスペロ? 聞いたこともないが、ギルドの名前か何かか?」
話が変わりました。彼が知らないふりをしているように見えません。ついでに言うと、私もエスペロがなんであるのか知りません。