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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の復活編
12/49

勇者(冒険者)、オーガと戦う(後)

     ◇ ルニーナ



 彼が知り合いのところへ行くように、オーガさんへ近づいていきます。緊張感のかけらもありません。あれがこれから巨大モンスターと戦う人間の背中でしょうか。


「兄ちゃん、あぶないぞ!」


 それを見た町のみなさんから声がかかります。後輩のレルノくんが、私が戻ってきたのに気づいて、そばまでやって来ました。


「あの人がさっき言っていた冒険者ですか?」


「そうです」


「さっき連邦の人が話してたんですけど、あのオーガはレベル32もあるそうです」


「レベル32……。32ってどのくらいですか? スゴいんですか?」


 私は5ですから、それが高いことはわかります。ですが、基準がよくわかりません。成人男性の平均はレベル10ですが、それはあくまで一般の方の話ですし。


「レベル20から一人前いちにんまえの冒険者と認められ、ルーキーなんて呼ばれます。レベル32といったら、もうベテランのいきですよ。実際、レベル30からはベテランと呼ばれます」


 普段ふだんから、レルノくんはダンジョンがらみの豆知識を披露ひろうします。冒険者志望(しぼう)だったそうですが、昨今さっこんの情勢から、その夢はあきらめたそうです。


「あの人はレベルいくつなんですか?」


「わかりません」


「ルニーナ先輩はレベルをはかる魔法が使えましたよね?」


 いわゆるレベルとは、体にまとうエーテルの総量だそうです。つまり、レベルが高いということはそれが多い――イコール使用できる量が多いということです。


 〈解析〉の魔法はそれを計測することができ、数値のかたちで表示してくれます。初歩しょほ的な白魔法なので問題なく使えます。町の方から、計ってほしいとよく頼まれます。


 ただ、問題が一つあります。それは魔法の使用が相手に気づかれてしまうことです。


「こっそり計っても、わかる人にはわかるそうですし、怒る人も多いそうですよ」


 他人のレベルを勝手に調べれば、挑発行為と受け取られかねません。モンスターだって怒るそうです。だから、相手の許可なく使用してはいけないと、書物しょもつに書かれていました。


「でも、知り合いなんですよね?」


「知り合いといっても、今日出会ったばかりですよ」


 レルノくんはあきらめられないようで、期待のこもった目を向けてきます。しかたありません。彼はこちらに背中を向けていますし、先輩らしいところを見せましょう。


「やってみます」


 白魔法は古代語こだいごの呪文をとなえる必要があるため、魔導書を持ち歩いている人も多いです。ただ、〈解析かいせき〉の魔法は使用頻度(ひんど)が高いので、もう暗記しました。


 彼に気づかれないよう、〈解析〉の魔法を控えめに発動します。計測にかかる時間はおよそ五秒。こういう時だけ、やたら長く感じるのはなぜでしょう。


 まもなく、手もとに数値が表示されました。


「レベル39です。オーガを上回うわまわっていますよ!」


 こんな高いレベル見たことありません。さすがです。見直しました。彼は口だけじゃありませんでした。


「ほぼエースじゃないですか」


「エース?」


「レベル40からはエースと呼ばれます。だいたいパーティーのリーダーをつとめるクラスです。ルニーナ先輩、スゴいです。そんな人と知り合いだなんて」


 私がスゴいんですか? レルノくんは先輩を立てるのが上手じょうずですが、ちょっとわざとらしいです。


 その時、彼がふいにこちらを振り向きました。


 気づかれました。なんという勘のするどさでしょう。明らかに、私をにらんでいます。すかさず顔をそらしましたが、かえってあやしまれたでしょうか。


「二割ぐらい上回っている計算ですから、確実に勝てますよ」


「でも、数値にしたらたった7の違いですし、二割って心もとないですよね」


 だいたい私一人分です。私の力が加わった程度で、どうにかなるんでしょうか。そんな単純計算ではないとは思いますが。


「いや、二割はセーフティリードです。腕力わんりょく脚力きゃくりょく、あらゆる力が二割上回っている計算ですから。考えてもみてください。全力で攻撃していれば、絶対に打ち負けることがないんですよ。負けようがありません」


「でも、彼は丸腰まるごしですよね。冒険者は武器とかを使ったりしないんですか?」


「そのことは気がかりですね。最近は高価になったから使われなくなったと聞きますが、攻撃力が二割から三割違ってくるそうですから」


 でも、相手も腰に布を一枚巻いているだけですから、おたがい様ですか。



     ◇



 オーガさんが近づいてきた彼に気づきました。


「よっ」


 彼が片手をあげて、友だちに会った時のようにあいさつします。彼のほうを向き直った相手の動きが止まります。彼を敵と認識したようです。


「どうした、こんなところまで出てきて。道に迷ったのか? それとも、エサがなくなったのか?」


 相手は聞く耳を持たずに、戦闘態勢に入ります。その状況でも、彼は棒立ぼうだちのままです。危機感ゼロです。


「場所を移さないか? おたがいに、こんなところじゃ実力の半分も出せないだろ?」


 普通に話しかけてますが、相手には通じていない――と思います。言葉が通じるのが亜人あじん、通じないのがモンスターと言われていますから。


 にらみ合いが続きます。相手は今にも飛びかかりそうな体勢ですが、なかなか動きません。時どき、半歩ほど距離をつめるぐらいです。


 彼のほうは相変わらずで、知り合いでも待っている感じです。攻撃されるのを待っているんでしょうか。先に手をだしたほうが負けとか、そんな感じでしょうか。


「オーガは慎重ですね。きっと、自分より相手のレベルが高いことがわかっているんですよ」


 レルノくんの熱い解説が入ります。スゴく楽しそうです。


 かたずをのんで見守っていると、ついに相手がしかけました。くりだしたコブシが衝突する瞬間、思わず目をそむけてしまいました。


「片手で受けとめた!」


 レルノくんの絶叫ぜっきょうがひびいたので、横目で確認します。


 受けとめています。彼は手のひらだけで、相手の大きなコブシを軽々(かるがる)と受けとめています。先ほどあいさつした時に、片手をあげた姿勢と変わりません。


「……あれ? 動きが止まりましたね」


 両者が制止しています。時間が止まってしまったかのようです。お芝居しばいでも見ている気分になってきました。


「いや、あの人がオーガのコブシをつかんで放さないんですよ」


 言われてみると、相手のなぐりかかったほうの腕が、プルプルとふるえています。腕を引きはなそうとしているのに、彼がすずしい顔でそれを阻止そししていたのです。


「スゴいです。あの人、オーガを子供あつかいしています。でも、レベルが7違うだけで、ここまで差が出るものなんでしょうか……」


 レルノくんが困惑しています。私にはまったくわかりません。未知みちの世界ですから。わかるのは、彼が油断しまくりなことです。


 相手は腕を振りほどくのをあきらめ、もう片方の腕でなぐりかかりました。不意ふいをつかれたのか、彼の反応が遅れます。周囲から悲鳴が上がった――瞬間でした。


 彼の右手付近から閃光せんこうが走ったかと思うと、とっさに両腕をかざしてしまうほどの突風とっぷうが起こりました。


 何が起こったのか、まったくわかりませんでした。ひとつ言えることは、相手の姿が消えていることです。でも、彼には一歩も動いた様子がありません。


「……倒したんですか?」


「はい……」


 町のみなさんがザワつきます。あ然と近くの方と顔を見合わせています。


「何をされたんでしょうか」


「聞いたことがあります。一流の冒険者は、格下かくしたのモンスターを指一本ふれずに波動はどうだけで倒すって」


 魔導士でなくとも、魔法みたいな攻撃ができるということですか。一件落着(らくちゃく)ですが、彼は何者なんでしょうか。得体えたいが知れません。


 まさか、本当に『伝説の勇者』だったりしませんよね?

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