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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の復活編
11/49

勇者(冒険者)、オーガと戦う(前)

     ◇ スニード



 やってしまった。今は反省している。もちろん、わざとじゃない。だから、正直に罪を告白した。


 船体せんたいにデカい穴があいてから、すぐに海水が流れこんできた。そばにあったタルで穴をふさごうとしたけど焼け石に水で、あっという間に太ももあたりまで浸水しんすいした。


 しかたなくハシゴで上の階に避難したが、通路の先から大声が聞こえてきたので、マズいと思って、近くの壁板かべいたをけやぶって海に飛びこんだ。


 おそらく、誰にも目撃されてない。我ながら、見事な手ぎわだった――って自画じが自賛じさんしている場合じゃないか。


 でも、ルニーナには知られてしまった。シラを切ったほうが利口りこうだっただろうか。あんな船を沈めるとか、おたずものになるのは確実だ。


 さて、これからどうしよう。素直に捕まるか、それともダンジョンで逃亡生活を送るか。


「……そうだ! 今日の便びんで荷物が届く予定だったんですよ。何か大きな荷物がありませんでした?」


「積み荷の心配をしてる余裕はなかったからなあ……」


「そんなあ……」


 ――あれ? もしかして、疑われてるのか?


「言っておくけど、積み荷を盗もうとしてやったわけじゃないからな!」


「そんなことはどうでもいいです! ああ、ビッグプレゼントが届く予定だったのに……」


 いや、どうでもよくないだろ。でも、全部俺のせいだし、あやまっておこう。


「すまない」


「責任取ってください」


「そんなこと言われても……」


 ルニーナがヒザをついてうなだれる。こいつ、オーバーアクションだな。話題をそらそう。


「急いでたみたいだけど、何かあったのか?」


「そうでした! 町に巨大モンスターが現れたんです。それで『伝説の勇者』さんなら、どうにかできるんじゃないかと思って、さがしに来たんですけど」


「巨大モンスター?」


 町に現れる巨大モンスターか。なんだろう。まったく予想がつかない。ゴブリンは子どもぐらいだし、スケルトンでも人間と同じぐらいだよな。


「連邦の役人が到着したんじゃなかったのか?」


「どうも、連邦の方では手にえないモンスターらしくて」


「情けないなあ、地上に出てくるようなモンスターで」


 連邦の役人ってのはどんだけ弱いんだ。まともな冒険者もいないし。


「そこら辺にいるモンスターじゃないんです。今まで見たこともない大きさで、素手で建物を破壊したりしてるんです。確か、オーガっていう名前だと、後輩が言ってました」


「オーガって……。オーガは第三階層にいるモンスターだぞ。そんなのが地上に出てくるわけないだろ」


「そこまで言うなら、見に行きましょうよ。ついでに、そのモンスターを倒してください」


「わかったよ」


 これは願ってもない展開だ。船を沈めたことをウヤムヤにできるかもしれない。



     ◇



 ルニーナの案内で町の中心部へ向かった。ド田舎の漁村かと思っていたけど、想像していたのと違った。


 建物は少ないが、新しくて立派りっぱなものが多い。道も舗装ほそうされているし、あんな船がやってくるだけのことはある。


 船のことを思いだしたら、急に目まいがしてきた。やっぱり、このまま逃げたほうがいいだろうか。なんか、人がいっぱい集まってるし。


「あれです!」


 ルニーナが人だかりの中心を指さす。ひときわ目立つ建物の前に円形の広場がある。場違ばちがいなやつはそこにいた。


「本当にオーガだな」


「言ったでしょ?」


 取り囲んでいるギャラリーのせいで上半身しか見えないが、オーガにまちがいない。あんな肌の色をした人間がいるわけないし。


「あいつ、道に迷ったのか? どんだけ方向オンチなんだ」


「今はおとなしいですが、さっきは大暴れしていました」


 今は広場をウロチョロしているだけで、だいぶお疲れのようだ。あいつにしたら、地上は生きていくだけでも大変な場所だからな。


「なつかしいな。若い頃はよく一緒に遊んだっけ」


「……お友達だったんですか?」


 最近はリッチのせいで第三階層に近づけなかったからな。本当になつかしい。あいつと本気で戦っていた時が、一番楽しかった時期かもしれない。


「どうですか? 倒せそうですか?」


愚問ぐもんだな。でも、倒していいのか? 誰かが連れてきたんじゃないのか?」


「誰がそんなことするんですか。倒しちゃってください」


 実際にいるんだよ。オーガレベルの結晶なら、それなりの値段で売れるが、それは数時間で消えてしまう。


 だから、より高い値段で売却するため、上層じょうそうまでおびき寄せてからモンスターを倒すんだ。そうすることで、敵を弱らせるメリットもあるからな。


 ただ、他の冒険者にとっては迷惑きわまりない行為だから、ブラックリストにのって、罰金を払わされたりする。まともな冒険者は絶対にやらない。


「別にかまわないけど、偶然現れたとは思えないんだよなあ」


 同じローブを来た二人組が目にとまる。あれがうわさの連邦の役人かな。後ろめたいことでもあるのか、にがい顔でコソコソと話をしている。


 あいつらがダンジョンにほどこした細工さいくが原因かもな。第一階層でエーテルをせきとめていた理由も気になるし、あとで問いつめてみるか。


 昔から、オーガが大好きだ。あいつはいつだってこう勝負。レベルの差がいくら開こうが、それは変わらなかった。


 物かげから〈石化〉の魔法を使ってくるリッチとかいうクズとは大違い。オーガは人間――いや、モンスターができている。モンスターのかがみだ。


 だから、こんなところで倒すのは本望ほんもうではない。できることなら、あいつが本来いるべき場所で、正々堂々と戦って倒してやりたい。


 でも、地上まで出てきたからには、よほどの事情があるはずだ。あいつは地上で生きていけるモンスターではない。俺が引導いんどうを渡してやろう。

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