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伝説の勇者(レベル:マイナス39)  作者: mysh
勇者の復活編
10/49

勇者(モンスター)、港で暴れる

     ◇ スニード


 もうお礼とかいいだろ。せいせいした。やるだけのことはやったし、あいつをぶん殴りに行こう。


 俺は砂浜をつっきって、船の停泊ていはくする桟橋さんばしへ向かった。生まれてこのかた、あんなデカい船に乗った記憶はない。ていうか、船に乗った経験さえほとんどない。


 あらゆるダンジョンは地下でつながっているから、多少遠まわりになっても、大陸のすみずみまで行けるからだ。


 それに、俺ぐらいになると、断然だんぜん走ったほうが早い。地上では体力に限界がくるが、下層かそうなら一日中走り続けても疲れない。俺からすれば、船は荷物を運ぶものであって、移動手段ではない。


 ――と言いたいところだが、今の俺は気軽にダンジョンを進める身分じゃない。地上の道もくわしくないし、あれに連邦とやらの都市まで連れて行ってもらおう。


 水夫すいふたちは積み荷をおろすのにかかりっきり。明らかに格好の違う、この町の住人と思われる数人が、届いた荷物を町のほうへ運んでいる。


 そんなわけで、桟橋を歩いていても、何も言われないどころか、注意すら向けられない。そのまま渡し板をつたって、船に乗りこんだ。


 こういうことは堂々とやることが重要だ。それで他人の目をあざむくことができる。デッキからハシゴを使って船室せんしつへおりた。


 すれ違った水夫からあやしまれたが、何も言われなかった。さっさと積み荷の置き場所へ行こう。確か、安定させるために、船底ふなぞこへ置くっていう話を聞いたことある。



     ◇



 積み荷置き場にたどり着いた。水夫が二人いたが、積み荷のかげに隠れてやりすごした。


 奥のほうへ行って腰をおろし、木箱に身をあずけた。


 驚くほどうまく事が運んだ。水夫には悪いけど、見つかった時は実力行使(こうし)でいくしかないな。でも、ずっとここにいたら、いずれ見つかるな。中に隠れられそうな箱かタルでも探すか。


「これは……」


 あるものが目にとまった。見おぼえのある紋章もんしょうが、木箱にデカデカとえがかれている。


 忘れるわけがない。これは俺を石化させたあいつの家の紋章だ。あいつの屋敷でもイヤというほど見たし、着ていたローブにも刺繍ししゅうされていたっけ。


 それが俺へのいやがらせのように、ほぼすべての積み荷にえがかれていた。


 そういうことか。小国を支配する家の出身としか聞いていなかったが、もしかして大出世だいしゅっせを果たしたのか? まさか、連邦っていうのはお前がつくり上げた国なのか?


 全身に広がっていく衝動をおさえられなくなり、たまらず近くの壁板にそれをたたきつけた。


 ――ヤバい。船体せんたいに穴があいた。



     ◇ ルニーナ



 彼をさがすため、浜辺までやって来ました。念のため、さっき入ったダンジョンの入口を確認しましたが、そこにはいませんでした。


 最後に見たのは、定期船のほうへ向かう姿です。辺りを見まわしながら、桟橋へ向かいます。


 すると、桟橋のほうが騒がしいのに気づきました。怒声どせいがたて続けに聞こえてきて、たくさんの人があわただしく行きかっています。


 ただ、ここからでは何が起きているのかわかりません。定期船は……あれ? 定期船はどこですか? それに、見慣れない灯台とうだいのような建物が……。


 それが定期船でした。かたむいています。船首せんしゅが空に向かってそびえいます。もう沈没ちんぼつ寸前すんぜんです!


 ふと浅瀬あさせを進む人影ひとかげを発見しました。太ももまで水につかった状態で、こちらへ向かって歩いてきます。


 よく見ると、彼でした。全身びしょぬれです。どうしてあんなところを歩いてるんでしょうか。


「どうしたんですか?」


「いや、ちょっとな……」


 彼は動揺した様子で答えました。


「ふ、船がしずんでるんです!」


「あ、ああ……。そうだな、沈んでるな」


 驚いた様子もなく、彼は後ろを振り向きます。反応があやしいです。まさか……。


「何かあったんですか?」


「んー……」


 彼は気まずそうに頭をかいてから、目をそらして押し黙ってしまいました。もうストレートに聞いてしまいましょう。


「何か……、やったんですか?」


「……」


 否定してください。自白じはくしているようなものじゃないですか。


「いや、ちょっとムカッとして、つい……」


 そんな言いわけをサラッと言わないでください。もっとまともな理由をお願いします。


「ムカッとすると……、船をお沈めになられるんですか?」


 彼はうなだれたままで、反応がありません。素直に反省しているところが逆に怖いです。ていうか、どうやったら、あんな大きな船を沈没させられるんですか!? 


 もしかしたら、私はとんでもないモンスターをよみがえらせてしまったのでしょうか。

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