仲間との脱走
彼の名前は、カジナ。
その名前はここで付けられたもので、俺と同じく人間だった頃の記憶を詳しくは覚えていない。
自分が人間だった。その事実以外は覚えていない。
だが、カジナはここにきて思い出したことがあるらしい。
それは、自分には妹がいること。
その妹は自殺をしてしまったこと。
その2つだったらしい。
思い出した経緯は、切られた仲間の肉を偶然見てしまったとき、ふと思い出したそうだ。
しかし、それ以外は思い出せたことはなく、ただただ平和に豚小屋で暮らしているらしい。
ただ、彼もこのままではいられないらしい。
なぜなら、そろそろ彼が出荷の順番だからだ。
カジナは俺がここに来なくても脱走の準備を始めていたらしい。
そして、カジナは俺にこう語りかけてきた。
「おれと一緒に脱走しないか?」
俺は硬直した。
豚小屋から豚が逃げ出せるのだろうか。
隣の豚小屋に逃げるだけでも見つかってしまったのに、外の世界に行けるのだろうか。
ただ、やるしかない。
俺はそう思った。
衝動的に俺は
「やる」と言ってしまった。
カジナは再び笑みをこぼした。心なしか希望に溢れているようだった。
2日後
「いいか、脱走するのは今日の18:00。つまり二回目のエサやりだ。脱出するチャンスはそれしかない。」
「ああ、分かってる。計画を復習しよう」
・まずマリンが外で椅子に座っているとき、カジナの仲間の豚五頭とともに脱走する
・もちろん脱走はバレるが、仲間の五頭の豚はマリアにタックルしにいく。
・マリンが豚にタックルされている間に俺たちは逃げる
「計画はこれだけだ。簡単だろ?」
「ああ、復習完了だ。でも、さっきから思ってたんだが、タックルする五頭の豚はマリンを恐れて計画に参加してくれないとかないよな?」
「当たり前だろ。豚なんてバカだ。ちょっとそれっぽいこと言えばほいほい言うことを聞く」
「そ、そうだよな」
俺はちょっと複雑な気持ちになった。
17:50 二回目のエサやり直前
「なあ、お前って名前あるか?」
突然カジナが話しかけてきた。
「ねえよ。人間のころはあったと思うけど。」
「じゃあ今からお前はベストだ」
「ベストか...いい名前だな」
そう談笑していると、ついにマリンがやってきた。
「おい、ベスト。ついに来たぞ」
「ああ」
マリアが小屋の戸を開け、雑にエサをやる。
そして、しばらくエサやりをし、エサやりが終わったら椅子に腰かけた。
「今だ!!!」
カジナの掛け声と共に俺含め7匹の豚が小屋を出る。
俺、カジナ以外の四頭は、マリンにタックルをし、俺達は豚小屋から脱走することに成功した。
......?
四頭...?
走りながらふと後ろを見ると、もう一匹豚がついてきていた。