王
俺には昔から、才能がなかった。
親から「キング」という名前を授かってから21年。一度も名前に相応しい行いをしたことはない。
オークの村で生まれ、その後こんな名前をつけた親を嫌い、金がなくなり、ギーシャに入った。
それでいいのだろうか?
才能がない。それだけの理由で逃げ続け、悪に染まり、人生を終わらせる。それでいいのか?
幼馴染のサンクは、戦闘のセンスがある。
俺には勝てっこない。
友達のタイガは、頭がとてもキレる。
俺には勝てっこない。
俺は戦闘能力は中の上か上の下。学力は中の中。
ダメダメだ。特化したものがなにもない。
でも俺がギーシャに入ったのは、もう一つ理由がある。
ある日学校から帰っていると、ギーシャの幹部に出会ったことがある。
その人はギーシャの幹部と言ってもとても優しそうだった。
俺はその人に話しかけてみた。もし、いまならば、そんな怖ぇやつに話しかけるなんて危険なことしないだろう。
だが、登場小学生だった俺は話しかけてしまった。
いや、しまったではないか。
彼は予想通り優しく、俺に接してくれた。
その時だった。
俺は後ろから来た車にはねられてしまった。
いまでも鮮明に覚えている。
なにがなんだかわからないうちに下半身に激痛が走り、吹っ飛ばされた。
しかし、彼はそれを見た瞬間、俺の下半身に手を当て、蘇生をはじめた。
蘇生できる生き物なんて見たことがない。
亜人のグワーツだろうか。
(グワーツ:珍しい亜人。手から炎を出したり、水がいくらでも出せたりする特殊能力を持った亜人)
俺はその時からギーシャに憧れた。
理由はよくわからないが、きっと、彼をダークヒーロー的な人だと思ったのだろう。
ダークヒーローに憧れてギーシャに入ったはいい物の、俺が想像しているものとは全く違った。
他人を下に置き、自分が良ければそれでいい。
そんな人間のクズ達が集まった組織だった。
サンクも父に無理矢理入れられていたが、つまらなそうだった。




