1-3-2
教室に戻ると、自習だと思っていた生徒が仕方なさそうに席に着くところだった。黒銀も急いで席に戻る。
知幸は全員が席に着いたのを確認すると、声を張り上げた。
「皆さん、何故か遅れてしまい、申し訳ありませんでした。これから午後の授業を始めますが、その前に皆さんの新しい仲間を紹介します。白銀君、入ってきて下さい」
知幸が呼び掛けるけれど、廊下にいる筈の白銀は入ってこなかった。
「白銀君? どうしました、入ってきて下さい」
再度呼び掛けるけれど、やはり白銀は入ってこなかった。
「教授、扉が閉まっていたら、結界で聞こえないんじゃないですか」
「……そうですね」
生徒の指摘に知幸は恥ずかしそうに扉まで戻り、白銀に入室を促した。
白銀が教室に入ってくると、生徒全員から驚愕の声が上がった。
死神候補生が集う教室に、天使候補生にしか見えない少女が入ってきたのだから驚いて当然だろう。知っていた黒銀ですら声を上げたくなるほど、あり得ない光景だった。
「はいはい、静かにして下さい。紹介をかねて説明しますから、私語は止めて下さい。――はい、それでは紹介します。彼女の名前は白銀君です。この様な格好をしていますが、皆さんと同じく死神を目指す仲間ですので、仲良くしてあげて下さい。それでは白銀さん、挨拶をお願いします」
「は、はい。このタビ、みな様方の教室にヤッテまいりましタ、し、白銀ともうします。ヨロシクおねがいします」
しすぎるほど緊張していた。所々アクセントがおかしい。
「白銀さん。そんなに緊張しなくても良いのですよ。皆さん仲間なのですから」
「は、はい。ごめんなさい……」
白銀は知幸の言葉に却って畏縮してしまう。黒銀の印象とは違い、恥ずかしがり屋なのかもしれない。
「ええと、白銀君は一見すると光属性の天使候補生に見えますが、受けている神力は純粋な闇系統のものです。間違いなく死神候補生なのですが、とある事情からこの格好をしています」
説明になっていない説明に、教室中が再度ざわめく。知幸が静かにするように促すけれど、いい加減な説明をした張本人の命令など、誰も聞く耳を持たない。
また学園長に怒られるんじゃないかと黒銀が思い始めたその時、一人の生徒が立ち上がって、全員を代表するかのように声を上げた。
「教授、事情とは何なのですか。そんな説明では納得なんか出来ません。死神候補生が黒以外の制服を着るのは規則違反です」
彼女はこの教室で委員長を務めている生徒だった。
名前を翠と言って、珍しく改造されていない学園指定の制服に身を包み、緑色の瞳が印象的な少女だった。瞳が緑色をしているので翠と名付けられたらしい。生真面目で成績優秀ではあるが、沙希のいたずらを見逃すなど、行動原理に問題が在ると評価されている。
ちなみに、規則で定められているのは色だけで、黒ければどのようなデザインでも制服として受け容れられている。
「翠君の疑問はもっともです。ですが、これ以上はお答えできません。納得は出来ないでしょうが、今は受け容れて下さい。それと、白銀さんは特例として白以外の着衣は禁止になります。これは学園長の命令です」
死神科の統括責任者である知幸が口に出来ないのだから、これ以上の反論は無意味だと全員が納得して話は終わり……の筈だった。
しかし、どうしても納得出来ない生徒がいた。
それは『特例』という、規則をねじ曲げる言葉に憤りを憶える翠だった。
「そんなバカな話が有りますか! 私には理解できませんわ。これでは黒衣の制服が神力を得る為の触媒だと言う教えが嘘だと言う事になってしまいます。教授はご自分が教えていた授業が嘘だったと仰るのですか」
突飛なことを言い出した翠に、知幸は思わず怯んでしまった。女性に怒鳴られると条件反射的に弱気になってしまう知幸である。
「い、いえ、そうではありませんよ。誓って嘘じゃないです。皆さんの制服は媒体となっています。それは翠さんも実感として分かっているはずです。ただ、何事にも例外が有るように、本質が闇に属する人もいるということです」
「本質が闇? 教授、意味が分かりません。詳しい説明をお願いします」
「すみませんが、今はまだ説明出来ません。ただ、明確な理由があっての処置です。全ては学園長の判断ですので、僕には言えないのです」
学園長の決定は絶対だった。逆らってはいけない。とくに知幸にとっては。
「教授は白銀さんが私達よりも優れた存在だと仰りたいのですね」
翠の飛躍する発言に、教室中の誰もが呆気に取られていた。知幸にとっても意外な反論だったのだろう。咄嗟には返答が出来なかった。
「……誰もそんな事は言っていませんよ」
やっと出てきた言葉は、平凡極まりないけれど、その場にいた全員の思考を代弁していた。
「いいえ、言っています。白銀さんが学園にとって特別な存在であるから、特例を作ってまで優遇すると仰っています。つまりは私達よりも優れているからですよね」
「あ、あのですね。決してそんな意味では有りません。いいですか、たとえ大きな力を持っていたとしても、使いこなせなければ意味がありません。いつも言っているように、死神は力があれば良いものではないのです」
「……分かりました」
「分かって頂けましたか」
素直に理解してもらえて良ったと、知幸は胸をなで下ろした。取り敢えず白銀に座って貰おうと、空いている席を物色する。
「それでは白銀さんは……」
理解を得られたと思い、安心して続きを始めた途端、またしても翠の大声に中断された。
「それでは、アインスでのフルフィアースで実力を試させて下さい!」
翠以外の全員が固まった。
翠が一体何を言い出したのか、誰もが理解できずに教室が静寂に包まれる。
放送事故が確定しそうな静寂が続いた後、生徒全員の絶叫が教室を満たした。
フィアースとは、フィア同士が敵対し、提示された条件を先に成し遂げたフィアが勝者となる訓練の総称である。
危険がないようにルールが決められており、スポーツの試合と大差ない意味合いである。
その一方、フルフィアースにはルールがない。
何をしてでも条件を満たすことだけが求められ、上級者同士でのフルフィアースは過酷すぎるとの理由で、滅多に行われないほどだ。
しかし、この教室の生徒達は未だフルフィアースを経験した事がなかったので、過酷との噂に対しての実感は全くと言っていいほど無かった。
漠然と大変そうだと思っている程度なので、気軽に行おうとする生徒が偶に出てくるのだけれど、許可されることは滅多にないのだった。
アインスのフィアースとは、一対一で行う訓練である。通常は四対四のフィア同士で行うのだけれど、人数が揃っていないチームに合わせて減らすこともある。
栞坂学園の歴史の中で、アインスのフルフィアースは行われた記録はない。
スポーツの試合感覚で行うフィアースとは違い、ルールの無いフルフィアースは決闘と同義だったからだ。しかも、実力の格差が大きければ一方的な苛めになってしまう。
学年首位の実技成績を誇る翠と、入学したばかりの白銀とでは、そもそも試合にも成らない。
「す、スイちゃん。ダメだよ、そんなこと言っちゃ」
翠の暴走を止めに入る者がいた。それは翠のツヴァイである若葉だった。いつも暴走する翠を止めようと、報われない努力をしている。
「いいねぇ。それでこそ翠だ」
椛が翠を焚きつけた。
椛は頻繁に暴走する翠に油を注ぎ、巻き起こる騒動を楽しんでいた。そのくせ自分が騒動を起こすことはない。
「まったく。無意味な事を」
柊が翠の挑戦を呆れて見ていた。
柊は騒動を巻き起こす三人を、ただ傍観していた。止めても無駄だと悟っているので、一歩引いた位置から事の成り行きを見守っている。
椛と柊はツヴァイの関係であり、翠と若葉のツヴァイと一緒にフィアを組んでいる仲間だった。
「だ、駄目ですよ翠さん。白銀君は入学したばかりです。翠さんとの実力は計るまでもありません」
知幸が慌てて止める。このフィアースを認めると言う事は、苛めを認める事に他ならない。絶対に認めるわけにはいかないのだった。
「為ればこそです。このクラスで一番優秀な私を相手に実力を試せるのですよ。さすれば皆さんの疑いも晴れ、快く仲間として迎える事が出来るというものです」
「スイちゃん、そんな深い考えがあったんだね。白銀さんの事を思いやっていたんだね」
感動の眼差しで翠を見上げる若葉。
「そうよ若葉。これは白銀さんの為なの。私も辛いのよ」
両手を胸の前で組んで、うなだれる翠。多分に演技が過剰だった。
「さすがは翠だ。よっ! 学級委員長の鏡!」
「思い付きで言ったにしては、まあまあですかね」
煽る椛に、冷静に分析をする柊。
「翠さん。申し訳ありません。僕は白銀君を苛めようとしているのだとばかり……。ああっ、僕は教師失格だ」
知幸は頭を抱え、自分の浅慮を恥じていた。
「ねぇ黒銀。あれって、どう。白銀を思ってやってるように見える?」
沙希が黒銀に問い掛ける。返ってきた答えは辛辣だった。
「絶対に苛めよ。あの優等生。少しだけ最低な奴だと思っていたけど、最悪に最低だったわ」
沙希は驚いた。何気なく発した質問に、予想だにしなかった答えが返ってきたからだ。
今までの黒銀であれば「興味ない」とか、「どうでもいい」など、無関心この上ない返事が返ってくるのが常だ。ここまで他者を非難する黒銀を、沙希は始めてみた。
「白銀さんの実力がはっきりすれば、特別扱いされていても、皆さん納得できるのです」
だめ押しとばかりに、翠は言い募る。
「納得してないのは、委員長だけじゃないの」
黒銀が立ち上がりざま声を上げる。教室中の視線が黒銀に集まった。
「……何か仰いました。黒銀さん」
「ええ。いい加減にしろ――と言ったんです」
「なんですって」
黒銀と翠が睨み合う。翠は最前列に座っている為、黒銀が見下ろす形になった。
「どういう意味かしら、黒銀さん」
「新入生を苛めて楽しむのは止めろって意味です。委員長」
「あら、黒銀さんは少し誤解してるようね。私は試すだけで、競うつもりはないのよ。勝つのが分かっているのに、本気で戦う訳が無いでしょう」
「それはどうだか。慢心してる人が本気になったところで、果たして勝てるのかしら」
「何ですって。私が負けるというの?」
「あなたは勝てると思っているの?」
睨み合う黒銀と翠。その横で杏子が沙希に疑問を問い掛けていた。
「委員長は…何をこだわっているの…」
「ああ、あやつは天使に成りたかったのさ。自分が死神なもんだから、白銀が羨ましくて僻んでんのよ」
「う、うらやましくなんてないわ!」
翠が文句を言うけれど、沙希と杏子は意図的に聞いていなかった。
「でも…白銀は死神候補生だよ…。羨む理由がない…」
「それはな、白銀の格好が天使みたいだから気に入らないんだろうさ」
「うわ…器が小っさいんだね…。ただ…八つ当たりしてるだけ…」
「きっとミクロン単位の器なんだろうさ。まったく、突っかかるくらいなら天使科に転校でもすればいいのにな」
もちろん転校など出来ないのを沙希は知っていた。
「そこ! 聞こえてるわよ!」
翠が聞き咎める。
「「うん、分かってる」…」
沙希と杏子がハモりながら答える。
「悪口は陰でなさい。聞こえたら不愉快でしょう」
翠が微妙なことを言い返すと、沙希はその発言を否定する。
「あのなぁ、それじゃ陰湿な苛めに成っちゃうだろ。悪口は大勢の前で言うから楽しいのよ」
「いつも、いつも、あなた達は……」
翠は悔しそうに俯くと、両手を握りしめて震え出す。大きく息を吸い込むと、盛大な溜息を吐いた。
「あなた達は白銀さんとお知り合いなのかしら。随分と仲のよろしい事ね。……あなた達、未だ三人でしたわね。いいでしょう。あなた達も含めたアルティメットを申し込みます。これでフィア同士です。受けて頂けますわよね」
またも教室が驚愕に包まれた。
「み、翠さん。ダメです。絶対に駄目です。ダメったら駄目ダメです。アルティメットは絶対に許可できませんよ」
アルティメットとは、フィア対フィアの能力無制限バトルである。死神候補生の数ある実技訓練の中で、最も戦闘的な訓練だ。
フィアースが任務遂行能力の訓練を目的にしているのに対し、アルティメットは戦闘能力を見極めることを目的としている。
フィアースは戦闘を可能な限り回避することが評価に含まれており、滅多に負傷することはないのだけれど、戦いが目的のアルティメットでは負傷は必至だった。
死神は既に死んでいるとはいえ、身体に受ける傷は霊体を蝕み、生前と変わらない痛みを与えてくる。悪くすると心を無くしてしまう者もいる程だ。それ故に、アルティメットは訓練項目に名を残すだけで、実際に行われることは無くなっていた。死神は任務遂行が重要事項であり、その為の訓練はフィアースで十分であり、各試験もフィアース形式で行われる。
「何故ですか! アルティメットで実力を試させて下さい!」
「翠さん。ご自分が何を言っているのか分かっていますか。そんな事を認めるわけがないでしょう」
「そうだよスイちゃん。落ち着いて考えよう。ほらほら、スイちゃんの好きなマスカット味の飴があるよ」
「若葉、私をお子様扱いしないで。今回こそ黒銀と沙希をコテンパンにして、思い知らせて差し上げますわ」
興奮しているからか、翠は本音を漏らしていた。白銀だけならば退いたのだろうけれど、黒銀と沙希が絡んできたとなれば退くわけには行かない。
「でもでも、わたしも出なくちゃダメなんだよね。無理だよ、自信ないよぉ。ねぇ止めよ。みんなが怪我しちゃうのはイヤだよ」
懸命に止める若葉に、翠の勢いが弱まるかと思われた。しかし、騒動を楽しむ為ならば自らの危険も顧みない椛がけしかける。
「そーかー。やっぱり黒銀には勝てないよなぁ。みんな言ってるぜ。まぐれで黒銀に勝った、まぐれ勝ちの翠ってさ」
そんな事は誰も言っていない。椛ですら聞いたことはなかった。そもそも、黒銀と翠が戦ったことはなく、噂に成りようもなかった。
しかし、興奮している翠には効果的な嘘だった。
「な、なんですってぇ! 屈辱だわ! トップクラスの成績を誇る私が、最下位を彷徨う人に勝てないですって。――良いでしょう。どちらが優れているか、この際はっきり、くっきりとさせようではありませんか。教授、断固アルティメットを要求します」
「ですから許可できませんよ。それに黒銀さん達が受けるわけがないでしょう?」
知幸の言葉を受けて、翠の標的が黒銀達に向いた。黒銀達が受けると言えば、知幸が拒む理由が無くなるからだ。
「そうですわねぇ。最下層を這いつくばっている人達ですものねぇ。私達に刃向かうなんて事、怖くて出来ないわよねぇ」
「そうね。自分の力を過信する人ほど怖い者はないわね」
さらに睨み合う二人を余所に、白銀は話について行けずに固まっていた。
「二人とも落ち着いて下さい。アルティメットはフィアが絶対条件です。それに許可が出せるのは学園長だけです。僕の一存では許可できません」
フィアとは死神が作戦行動の際に基本となる単位だ。フィアで作戦行動を、ツヴァイで戦闘を行う。
黒銀はずっとアインスのままだった。相性の良い相手に恵まれないと言うのもあるけれど、一番の原因は黒銀の成績が圧倒的大差で最下位を彷徨っていることだろう。
そんな黒銀とツヴァイになりたがる物好きはいない。ドライに成れたのも奇跡のようなものだった。
「あら、そうでしたわね。黒銀さんはずっとアインスのままでしたわ。もうすぐ学園から追い出されてしまうのではなくて。アルティメットなど受けている場合ではありませんでしたわね」
学園の規則にアインスのままで在学できるのは500日までとされている。それを越えてしまった場合は他の学園に移るか、死神候補生を止めなくてはならない。どちらにしろ栞坂学園には居られなくなってしまうのだ。
翠は黒銀にツヴァイが宛がわれようとしているのを知らない。黒銀も教えるつもりはなかった。
「そうね。あなたの顔が見られなくなるのは残念だわ。大した能力もないくせに得意げになっている顔が笑えたのに」
「なんですってぇ~~! あなただけは許せませんわ。今すぐ実習室にいらっしゃい!」
学園内で魔法が使えるのは実習室だけだ。実習室に来いというのは、魔法で叩きのめしてやると言っているのと同じ意味だった。
「翠さん、落ち着いて下さい。使用許可は出せませんよ」
「教授には頼みません。学園長に直談判して来ますわ」
「そんな無茶な。学園長が許可する筈がないでしょう」
知幸の言葉に翠が引くかと思われた瞬間、教室に声が木霊した。
「よろしい。私が許可しよう!」
勢いよく扉を開き、入ってきたのは学園長の千歳だった。
栞坂学園の最高権力者であり、知幸の姉だ。
傲慢で我が儘に思われがちだけれど、学園世界の運営方針は「秩序ある自由」であり、生徒の自主性を尊重しまくっていた。生徒と教師の意見が対立すると生徒側に味方することが多く、だからなのか生徒からの人気は非常に高い反面、教師からは恐れられている。
「ねえさ……いや、学園長。どうしてここに」
「なに、お前が気にする事じゃない。さあ、どうする。やるのか、やらないのか」
千歳の問い掛けに翠が叫ぶ。
「やっ、やります。やらせて下さい!」
即決だった。迷いは一切感じられない。仲間の了承すら確認しなかった。
それは絶対に負けないという自信の表れなのだろう。事実、二組のフィアには埋めがたい成績の差があった。
しかも、白銀はまだアインスですらない。実習で能力が判定されるまではアインスにも、ツヴァイにもなれない決まりだった。
「お前はどうする。黒銀」
「わたしは……」
沙希と杏子に視線を送ると、二人は何でも無さそうに頷いた。黒銀は一任されたと受け取る。
教室中の視線が黒銀を環視している。緊張のあまり唾を飲み込む者さえいた。
「わたしは、やりません」
「「「ええーーーっ!!!」」」
全員の声が一体となった。これ程までに息の合った合唱は中々聞けるものではない。
「なっ、なんで、絶対受けると思ったのに」「情けないわ。がっかりよ」「失望した。空気が読めない黒銀に失望した」
クラス中から非難の声が上がる。人ごとだと思って言いたい放題だった。
「なんだよ。やれよ~。私が出張ってきた意味がないだろ」
つまらなさそうに千歳が言う。
「やりませんよ。下らない」
しかし、黒銀には千歳が出張ってきた意味など、どうでも良かった。
「どうしても? 頼んでも? 命令しても?」
「やらないったら、やりません」
甘えるように言っても黒銀には届かない。ましてや命令などと言ったが最後、黒銀は頑なになってしまうのだ。
「……分かった。ならば賞品を付けてやろう。お前が勝ったら白銀をくれてやる。他の者にはランクを一つ上げてやろう」
黒銀にとってツヴァイを見付けるのは急務だった。
しかし、黒銀は思う。
これで白銀が黒銀のツヴァイになったところで、学園長から無理矢理にくっつけられるのと変わらないのではないだろうか。自分で見付けなければ意味がないような気がする。そうでなければ黒銀とツヴァイになったところで、お互いに不幸になるだけだ。
「要らな……」「やる! やります」
黒銀の言葉を遮り、参戦の意思を示したのは沙希だった。
「ちょ、ちょっと沙希!」
「いいからやるの。ランクが上がればもっと良いところに住めるし、もっと良いメイドだって派遣して貰える。配給されるお金だって倍になる。こんなチャンスを逃すなんて莫迦でしょ、莫迦。――杏子だってやりたいよね」
「めんどうだけど…、沙希がやりたいなら…いいよ…」
アルティメットは二人の賛同があった時点で開催が決まる。後の二人が反対しても無駄なのだった。
「よし、決まりだ。勝負は一週間後。それまでに白銀と連携出来るようになっておけ」
千歳は楽しくて仕方ないという感じで開催を宣言した。これで撤回は出来ない。
禁断とされたアルティメットが復活するのは、実戦主義の教育方針を掲げる千歳にとっては、何よりも願っていた復活だ。楽しくないはずがない。
「そんな……。みんな勝手に……」
大騒ぎしているクラスメイトを余所に、黒銀は呟くより他にやることがなかった。