5-1-13
黒銀は浮かんでいた。アンプルから得た神力は底をつき、周囲から取り込もうにも、浮いているだけの神力を得るので精一杯だった。最早、翠を拘束する力もない。拘束は白銀にやって貰おうと思っていたのに、どこかに吹き飛ばされて姿が見えない。これで翠の戦意が喪失していなければ、黒銀には抵抗どころか逃げることすらできない。
「シロー、シーロー。どこにいるのよ、まったく。用事のある時は居ないんだか……ら?」
黒銀は文句を言うけれど、吹き飛ばした原因の半分が自分にあるのを思い出した。
「ま、まぁ、仕様がないわよね。この世界に慣れてないんだから……?」
慣れてない。そう、白銀は慣れていないのだ。それを黒銀は放置し、無視してきた。今だって、どこかで気絶しているかも知れない白銀を探しにも行けない。
だというのに白銀は黒銀とツヴァイになりたいという。もしも黒銀が白銀の立場だったら、そんな冷たい奴とは頼まれたってツヴァイになったりはしない。
「シロ? 白銀? どこに行ったの。おねがい……、お願いだから、わたしのそばに……」
不安が胸に押し寄せてくる。いつか、どこかで感じたことのある感覚だった。
胸が締め付けられ、苦しくて、苦しくて、生きているのに死んでいるような感情。傍にいて欲しいのに、求めてはいけない虚無感。それなのに触れて穢してしまう罪悪感。
黒銀は胸を押さえて丸くなる。
その時、翠の叫び声が響いた。
「うあああぁあぁあーー! くろがねーー! くろがね! くろがねぇぇ!」
翠の回りに五重もの円環が回っていた。更に新たな円環を組み上げる。七本目の円環魔方陣を組み上げると、鎌を掲げて発射態勢になった。
本当はもっと組み上げたかったけれど、翠がまともに制御できる円環数は七重までで、それ以上は逆に威力が下がってしまう。
翠の屈辱を晴らすには足らないけれど、霊体を跡形もなく吹き飛ばすには十分すぎる威力があるのは間違いない。
「私は優秀なんだ。お前になんて負けない!」
翠は錯乱していた。自分が負けるなんてあり得ない。あってはいけない。そんなものがあるのなら、目の前から排除しなければならない。消し去らなければならない。それが翠のプライドを守る、唯一の方法だった。




