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弱い死神に価値はありますか  作者: 神楽あまみ
37/53

5-1-3

 実習室の中には大自然が広がっていた。キャンプは小高い丘の上にあり、下は見渡す限りの桧葉が生い茂っている。空はどこまでも高く、青い。

 実習を放り出して寝転んだら、どれだけ気分が良いだろうか。

「ねぇ、杏子。勝つ為の作戦ってある?」

「え……」

 何を聞かれたのか分からず、杏子は言葉を忘れてしまった。

 黒銀とフィアを組んで十ヶ月になるが、こんな事を聞かれたのは初めてだった。今まで何を言おうと独断専行で、作戦なんて立てようとも、聞こうともしなかった黒銀が、いま杏子に作戦を聞いている。

「無いのね」

 黒銀は決めつけ、鎌を振って飛び上がろうとした。杏子は慌てて引き留める。

「待って…このまま行っても間に合わない…。翠の方が早く辿り着く…」

「それはどうして?」

「わたしが翠なら…他の三人を囮にして…目標を確保する…」

「どうして。四人で特攻を掛けた方が早くない?」

「勝利の条件は…死鬼を倒すことじゃない…。目標に早く着くには…囮に死鬼を引き付けさせて進んだ方が早い…。それに退路が確保できる…」

「そうなのか。杏子が言うなら間違いないな。じゃあ、こっちもそれで……」

 沙希が杏子の言葉を受けて行動しようとすると、杏子はそれを否定する。

「駄目…。翠達は全員が強い…。わたし達には使えない…」

 黒銀はアンプルで十分に戦力となるが、問題は白銀だった。とても戦力とはならないばかりか、お荷物だと言っても良い。すぐに倒れてしまっては、とても囮にはならない

「じゃあ、どうすんのよ。先に取られたら、それこそ追いつけない」

「杏子、お願い。どうすれば勝てるの。あなたには策が思い付いているんでしょ」

 杏子には分からなかった。どうして黒銀がわたしをこんなにも高く評価しているのだろうか。どうしてわたしに策があるのを知っているのだろうか。

――わたしは…黒銀に信用され…期待されている?

 今になってやっと気が付いた。黒銀は杏子が沙希のツヴァイだから一緒にいるのではなく、仲間だと思っているから一緒にいるのだ。そして、その気持ちは杏子の中にもあった。ならば、後は応えるだけだ。

「卑怯でも…良い…?」

「えっ?」

「だから…卑怯呼ばわりされても…勝ちたい…の」

「勝ちたい。だからお願い。教えて」

「うん…。分かった…。目標を先に確保するのは無理…。なら目標を取りには行かない…。わたし達は障害の少ない場所を通って…翠のキャンプ前で待ち構えるの…。障害は目標を守るように配置されてるから…迂回するのは簡単…」

「なるほどね。流石は杏子。考えることがえぐいな」

「誉め言葉と…とっとく…」

 事実、沙希は誉め言葉として使っていた。

「でも間に合うのか。死鬼に時間を取られても、あいつらは強いぞ。迂回してたら間に合わないんじゃないの」

「これを見て…。キャンプは目標の対角線上にない…。左へ迂回すれば十分に間に合う…。はず…」

「なるほど。それじゃ、全力で向かうわよ」

 作戦が決まると、黒銀が浮き上がる。それに呼応して沙希と杏子も浮かんだ。

「うわん、ちょっと待ってぇ」

 白銀は浮かび上がるタイミングが掴めずに、ぴょんぴょんと跳びはねていた。黒銀は仕方なく手を差し伸べる。

「シロ、掴まって。……いいのね」

「えっ? あ、うん、行くよ。だって、わたしはクロちゃんのツヴァイになるんだもん」

 黒銀には、その言葉が心強いものに感じた。

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