5-1-2
実習室に入ると小さな部屋になっており、そこで訓練用の服へと着替える。着替えると言っても鎌を振るだけだけれど、気持ちは引き締まった。
「シロ、あなたに実習は無理よ。終わるまで、ここで待っていなさい」
黒銀が白銀のことを思いやって待つように言うと、白銀は首を振って拒否した。
「わたしも行くよ。こうなったのは、わたしの所為だもん」
「いいえ、あなたは待っているの。足手まといは要らない」
「あ……ぅ……い、……いや、わたしは嫌。わたしはクロちゃんと一緒にいたい。邪魔だったら無視しても構わないから、お願いだから一緒にいさせて」
白銀の瞳が潤む。黒銀は顔では平静を保っていても、心の中は揺らいでいた。
「わたしも連れて行きたいの。でも、中には死鬼が放たれているのよ。とても危険なの」
死鬼とは死神の敵だ。闇でできた靄のような物体で、それが何なのかを黒銀は知らない。授業では裏側の世界から来た生物で、死神の敵だとしか教わらない。実際に会った生徒はいないけれど、実習では何度も対峙していた。
その死鬼が障害物としてはだかり、行く手を阻んでくる。もちろん本物ではないけれど、強さのレベルが変更できる方が厄介だといえた。レベル5で実戦レベルとされており、レベル9では三倍もの強さになる。魔法を自由に使える死神には障害物でしかないが、神力を温存しておきたい黒銀には面倒な相手だった。白銀を庇いながらではとても戦えない。
「いいじゃないの。わたしと杏子が守ってあげるわよ」
沙希が気軽に余計なことを言ってくる。
黒銀だって連れて行きたいのだ。離れたくない。しかし、飛ぶことしかできない白銀を連れて行くのは、沙希と杏子にも負担を掛けることになってしまう。
「沙希、わたしは勝ちたいの」
「だったら連れて行くべきだ。その方が黒銀も本気になるだろうからな」
「わたしはいつも本気よ」
「素直じゃないなぁ。足手まとい、結構じゃない。それが仲間ってもんだよ」
「でも……、でも……」
黒銀が何か言い返そうと口籠もっていると、軽い電子音がそれを遮った。
「作戦開始時刻です。生徒は実習を開始して下さい」
放送が作戦の開始を告げる。議論している時間は無くなってしまった。
「……行きましょう」
白銀には出口へと向かう黒銀を見ていることしか出来なかった。付いて行きたいのに、どうしても身体が動いてくれない。
怖かった。ここで拒絶されたらと思うと、無理に付いていくことが良いのか、いけないのかが分からない。
「何してるの。行くわよシロ」
白銀は視界が明るくなったように感じた。雲間から光が覗き、白銀を照らし出す。
そんな気がした。
「まったく、素直じゃないんだから」
「うん…」
走っていく白銀を見詰めながら、沙希と杏子が微笑み合っていた。