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町の中は賑わっていた。明らかに学生と思しき少女達が散策していた。黒銀は「平日に何故?」と思い、今日が休みの日であるのを思い出した。
ここ最近はずっと自習が続いていたから、曜日の感覚がおかしくなっていたのだろう。どうりで沙希から訓練をサボるなと文句を言われなかったわけだ。
この町には死神候補生しかやって来ない。天使候補生とは完璧に生活範囲が区切られており、ただでさえ接点のない天使候補生との会合の機会をゼロにまでしていた。そうしなければならない程に死神候補生と天使候補生は仲が悪い。
「うあ、人で一杯だ。シロ、帰ろうか」
黒銀は人の多さに当てられて、今すぐ帰りたい誘惑に駆られていた。
しかし、物珍しい場景に興味津々の白銀に、その言葉は聞こえていなかった。
「ねぇねぇ、クロちゃん。クレープがあるよ。あっちはたこ焼き。あそこはアイスかな。あっ、ドネルケバブまであるよ」
「食べ物ばっかりね。食いしんぼキャラ確定?」
「違うよ。絶対違うよ」
必死に否定するところが怪しい。しかし一時間も歩いて来たのだから、どこかで休みながら軽い物なら食べても良いなとは思う。
「何か食べましょうか。何がいい?」
「えっ、いいの。じゃあ……」
白銀が周囲を見回していると、黒銀は背後から声を掛けられて驚いた。
「やあ、黒銀。遅かったわね」
「ゆっくりですね…」
声の主は沙希と杏子だった。
「二人とも、どうやって……」
自分達よりも早く着けるはずがないのに、既に買い物をして楽しんでいた。謎だ。
「え、なにを言ってるのよ。隣の寮から移動してきたのに決まってるでしょ」
「十分くらい…だよね…」
「あ……」
そんな方法があることに、黒銀は今更ながらに気が付いた。
どうりで卯佐の買い物が早いはずだ。毎日、二時間以上も歩いて買い物に行く割には疲れていないなと思っていたのに、どうして気付かなかったのだろう。
黒銀はショックで崩れ落ちそうになる。方法にではない。自分の愚かしさにショックを受けたのだ。
「だ、大丈夫だよ。クロちゃんはがんばったよ」
白銀のフォローになっていない言葉を聞きながら、黒銀はその場に座り込んでしまった。