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弱い死神に価値はありますか  作者: 神楽あまみ
12/53

2-2-1

「うさー。どこにいるの、うさー」

 黒銀は玄関の扉を開くと、メイドの卯佐(うさ)を呼んだ。

 しかし、出て来るどころか返事すら返ってはこない。

 仕方ないのでリビングまで背中の荷物を運ぶと、ソファで寝ている卯佐を見付けた。

 片足を背もたれに引っかけ、上半身がソファから落ちそうになりながら高いびきをかいていた。乙女でなくともあり得ない程にだらし無い格好だった。カーペットに空になった酒瓶が何本も転がっており、どうやら飲んだくれて眠ってしまったようだ。

 本当に掃除していたのか怪しかった。どうせゴミ箱の中身を回収して終りにしてしまったに違いない。

 黒銀は対面のソファに由旬という荷物を放り出すと、卯佐を起こそうと声を掛ける。

「ちょっと、卯佐。起きなさい、卯佐。起きないと水ぶっかけるわよ」

「うぅ~~ん。……かけるならお酒にして……」

「お酒をかけても良いけど、火もかけるわよ」

 卯佐がもぞもぞと起き上がる。怠そうに周囲を見回すと、黒銀を見ることもなく挨拶を交わす。

「……おはよう」

「おはようじゃない。あなた仕事もしないで何をしてるのよ」

「見て分からない? 飲んだら眠くなったんで寝てたの」

 卯佐は悪気のない様子で答える。

「……そう」

 黒銀は文句を言っても無駄だと思い、卯佐を相手にするのを止めた。こんな駄メイドしか派遣して貰えない自分に嫌気が差す。

 学生寮はフィア毎に一軒ずつ与えられており、成績のランクによって広さや豪華さが変わってくる。もちろんメイドの質もランクで決まり、最低ランクの黒銀達にはこの程度のメイドしか宛がわれない。卯佐を見ていると、沙希がランクを上げたがる理由が実感できた。

「ところで黒銀さんよ。そこなソファで寝とるんは誰やね」

 卯佐はどこの方言だか分からない言葉で質問をしてきた。相手をするのも面倒なので、黒銀は適当に答えておくことにした。

「……道に棄てられてたから拾ってきたの」

「あちゃ~。ダメでしょ。よく分からないものを拾って来ちゃ。返してらっしゃい」

「わたしもそうしたいのだけれど……」

 ちゃんと説明しないと駄目だろうか。面倒だけれど仕様がない。

「ん? こいつ……もしかして由旬?」

 黒銀は驚いた。卯佐が名前を当ててしまった。どうしてただのメイドが管理局の調査官と知り合いなのだろうか。もしかすると、調査官にもメイドが派遣されているのかもしれない。

「卯佐の知り合いなの?」

「いや、えっと、ちょっとした知り合いかな。そんな事より、どうしてこいつがここに居るのよ」

「空から落ちてきたと言ったら、信じる?」

 卯佐の知り合いならば、後の面倒毎は全て押し付けてしまおうと、黒銀は説明を始めた。問題は信じて貰えるかだ。

「……ああ、はいはい、分かりました。分かってしまいましたよ。こいつ結界陣を抜いてきたのね。で、疲れて眠ってしまったと」

 信じるどころか納得されてしまった。まるでいつも結界陣を突き破っているかのような物分かりの良さだった。

「仕方ないわね。じゃあ、黒銀は客間の準備をしてきてちょうだい」

「じゃあ、じゃない。準備するのはあんたよ」

 仕事を押し付けようとする卯佐に黒銀が言い返す。

「ちっ、ケチ。はいはい、分かりましたよ。準備してきますよ。まったく人使いが荒いんだから」

「あなた、自分を棚に上げすぎ」

「それじゃあ、五分後に運んできて。五分よ、五分」

「えっ、ええ」

 黒銀は返事をしてから、卯佐に仕事を押し付けられたのに気が付いた。

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