城を走ります。
あまりの急展開に固まってしまった王国陣営。
意外にも正気を取り戻したのは王が最初だった。
「はっ!あ、あいつらはどこに行った!?」
「ッ!つ、土煙が、邪魔で見えません!」
「お前には魔法があるだろうが!」
今思い出した、といった表情で王を見るマリアーナ嬢。
ここらで周りの兵士並びに魔法使いたちもハッと正気を取り戻す。
人と言う生き物は自分のキャパ以上の情報一気に流れ込んでくると当たり前のことが出来なくなってしまう悲しき生き物なのだ。
「う、ウィンド!」
詠唱の後、放たれた魔法により辺りの煙が晴れる。
「あ、あの二人は!?」
かつて2人がいた地面には巨大なクレーターがあり、底に大きな穴が空いている。
「あ、あの穴から逃げたものかと…………」
まんまと逃げられたという事実顔を真っ赤にする王。
「ぬ、ぬぁんだとー!?」
その日、城では男の悲鳴が鳴り響いたそうだ。
◆
一方その頃の2人は王宮の廊下を走っていた。
「さーて、これからどうする?」
「とりあえずこの世界の地図が欲しいよね」
「ああ、後は金銭かな。しばらく分の旅費が欲しい」
と、急に城がにわかに騒がしくなる。
どうやら、正気に戻った王達によって2人の脱走が城全体へ知らされたようだ。
全く気にしていない2人は構わず走る。
「でも、助かった。さすが師匠お手製の服だな」
「ね!こっちの世界の魔法?とやらも防げるみたいだしね」
実は2人が着ていた服、これは2人の師匠にあたる人物から贈られたもので大変優れた物となっている。
着用者が思い浮かべた服になり、フードを被れば変装までできるとんでもない代物で、いざ戦闘に入ると着用者をあらゆる脅威から守るという便利機能つきだ。
「適当に走ってるけどそろそろ外出たいよな……」
「窓蹴破る?」
「最終手段に取っておこう」
不穏なことを呟く白音と開人。
「そうだな。ところで俺たちの異能についてなんだけど」
そう言ってステータスオープンと唱える開人。
「【災厄の黒帝は骨と踊る】と、【黒き帝の誓い】は何となく分かるとして【異世界転移便利セット】ってなんだ?」
「うーん、なんだろうね〜?私も文字から考えると便利な機能の詰め合わせみたいなものかな?」
白音も、ステータスの書いてあるボードを出して話す。
「うーん、なんかもっと詳しく見れないかな…………」
そう呟きながらボードを弄る白音だったが、何かに、気がついたように声を上げる。
「あ、出来た」
「マジか。早くない?」
「天才ですから」
軽口を叩き合う2人。
「で、どうやんの?」
「えーとね、知りたい項目をダブルタップすると、説明欄が出てくるみたいだよ」
「あ、本当だ。出来た」
2人で異能の情報を共有した結果、こんな感じだった。
〜開人〜
【災厄の黒帝は骨と踊る】
黒星開人のみが所持する異能。
自身の骨を自由に成長させ、武器、防具として使用することが可能。
身体に接している自身の骨は操作することが可能だが接していないものは操作できない。
また、対象を一定以上吸収することで対象を骨の姿で創り出し操ることができるようになる。
【黒き帝の誓い】
黒星開人のみが所持する異能。対象者との念話、視界共有、また対象の位置把握が可能となる。また、リンク時には対象との1部能力共有が行える。
【異世界転移便利セット】
黒星開人と赤羽根白音が異世界転移した際に、転移のショックから身を守るために発現した異能。
異世界生活での便利機能として以下の能力を内包している。
【言語理解】
既存する全ての言語の読み書き発音が行える。
【情報操作】
対象のステータスを表示することが出来るが格上には効かない。
また、自身のステータスの隠蔽が行える。
【限界突破】
成長の限界が無くなり、成長速度に補正がかかる。
〜白音〜
【鮮血の女王は月夜に嗤う】
赤羽根白音のみが所持する異能。
自身の血液を放出し、自在に、操ることが出来る。
触れていなくても血液の操作が可能。
自身の血液が劣化することはない。
また、対象を一定以上吸収することで自身が血で創り出した物に吸収した対象の能力を付与することができる。
【赤き女王の誓い】
赤羽根白音のみが所持する異能。対象者との念話、視界共有、また対象の位置把握が可能となる。また、リンク時には対象との1部能力共有が行える。
【異世界転移便利セット】
黒星開人と赤羽根白音が異世界転移した際に転移のショックから身を守るために発現した異能。
以下の能力を内包している。
【言語理解】
既存する全ての言語の読み書き発音が行える。
常時起動。
【情報操作】
対象のステータスを表示することが出来るが格上には効かない。
また、自身のステータスの隠蔽が行える。
【限界突破】
成長の限界が無くなり、成長速度に補正がかかる。
とまあこんな仕様だった。
2人はとりあえず疑われない程度に適当に歩きながら話す。
「うーん、色々気になることはあるけど、やっぱり1番は【異世界転移便利セット】かな?これ、便利すぎるでしょ」
「そうだな。能力も勇者とやらに与えられる『異言語理解』と『鑑定』、『超成長』に似てるんだよな……」
「まあ、あって困ることはなさそうだし、むしろ便利すぎてこんなに貰っていいのかって感じだけど…………」
その時、2人に近づく集団を察知する。
「白音」
「うん、分かってる」
「油断すんなよ」
「そっちこそ」
そんな会話が終わった瞬間、曲がり角から武装した一団が現れる。
「どうやら、今回侵入してきた賊は男と女が1人ずつの2人組らし……」
2人がいるとは思っていなかったのか、それとも単純に驚いただけなのか一瞬固まる兵士一同。
「はーい、賊その1でーす」
「ほーい、賊その2で〜す」
そんな兵士達の状況をを気にせず陽気に話し出す2人。
急いで戦闘準備を整えた兵士が聞く。
「お、お前達が例の……」
「あー、そういうのいいから」
「そうそう、ボク達が言うことはただ一つ」
不意に近くの窓と反対方面の壁へと移動する2人。
そんな2人の行動に怪訝げな表情を浮かべる兵士達。
「「あばよ、とっつあん!」」
そう言うと白音を筆頭に助走をつけ窓へと飛び蹴りをかましそのまま落ちていったのだった。
「ッ!なんだと!?」
慌てて窓に駆け寄る兵士一同。
そこには屋根をかけてく抜けてゆく2人の姿があった。