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女中の服を着ても退屈しない

 屋敷に戻ると、リートン教授に報告しに行くノーノーンと別れ、エヌマは部屋に戻ることにした。


(チッ、やたら訳のわかんねぇ絵ばっかだな)


 廊下の壁に飾られている絵に悪態をつきつつ、酒場でのリートン教授の言葉を思い出す。


『魔法大学の教授だ、馬鹿者。どうやら面白い線を見つけたらしい』


 邪悪な笑みを見た気がする。

 それ以後、彼は黙ってしまったからどういうことか聞けなかったが、ノーノーンに説明を要求すると彼は『アイヤー、つまり嫌いな人を蹴落としたいってことネー』ということらしい。


「あの野郎らしいことだわ」


 思い出して、その時と同じ言葉を呟く。

 エヌマは興味がなかった。今はとりあえず、部屋の寝具で惰眠を貪ろうという素晴らしい目的が。


『おい、女!』


 あったのだが、曲がり角の少し先に使い魔がいてリートン教授の声が響く。


「あ? 何だよ、何か用か? 私はこれから寝るんたが、邪魔すんなら許さねーぞ」


 与えられた仕事は終わったと彼女は思っていたが、リートン教授は呆れた声でまだ終わってないことを知らせる。


『やれやれ、おめでたい頭をしているな。忘れているかもしれないが、お前は女中という身分だ、朝のことは特別だっただけで、本文は雑用だ』

「はぁ!?」


 当然、納得いかない。


「ふざけんな、こっちは朝から働かされて眠いんだ。酒も飲んだ、眠いんだよ」

『勤務中に酒を飲むとはな。これはノーノーンの監督不足だが、そもそもは酒を飲んだお前が悪い』

「んだと!?」

『ふむ、良い機会だ。お前には私の仕事がどういうものか知る必要もあるだろう。すぐ私の書斎まで来い』

「勝手に決めるな! お前の仕事なんか知る必要はない!」

『お前は仕事をしないで飯が食えると思っているのか? 今、お前がやる最大の仕事は私の言うことを聞くことだ。無理なら出ていってもらってかまわん、私は困らんからな』

「ぐっ」

『わかったな。早くしろ』


 リートン教授は一方的に告げて、使い魔は背を向けて歩いていく。

「チッ」

 舌打ちしたエヌマは不満な顔で怒りを廊下の柱を蹴ることで一応保留にし、重い足取りで自室へ向かった。



「おい、何だこの服は!? なんで私の部屋に置いてあったんだ!」


 リートン教授の書斎の扉を荒々しく開けて入ってきたエヌマは、それまでの旅人の服とは違った、広く流布されている女中が着る、可愛らしいエプロンドレス、可愛らしい膝下まで届く長いスカート、可愛らしいヘッドドレス。

 やや男性目線に沿った造りではあるが、歴とした女中の衣服を着て、エヌマは顔を真っ赤にして現れたのだ。


「ほう、馬子にも衣装だな。もう少し言動に気をつけたら驢馬にはなるだろうが」

「うるせえ!」

「不満かね?」

「ふ、不満はねーよ! ただ何でこんなもん用意した?」

「君は女中という立場だ。それをわからせることと、良い加減あんな汚ならしい服装で屋敷にいられたらローレンの掃除が終わらない」

「けっ、金持ちは綺麗好きだな」

「君が汚いだけさ」


 さて、とリートン教授は無駄話を切り上げる。エヌマも言動はアレだが、女の子である。可愛い服を着ることはやぶさかではない。


 ただ、慣れるまでに時間はかかるだろう。


「私の仕事とは、まぁ大まかに言えば大学講義と論文作成の2つだ。それで、これから大学に行かなければならない」

「なら、さっさと行けばいいだろ」


愚かな返答に、これ見よがしにリートン教授は呆れたような溜め息を吐いた。言いたいことを理解したエヌマは、それでも教授の態度にカチンときたものの、会話を中断させるのは面倒だから、ここは我慢する。


「不安ではあるが、君を護衛と従者を兼任させて連れていく。やれやれ、不満そうだな? さっき言ったことをもう忘れたか?」

「・・・・ふん。忘れてねぇよ」

「結構、では早速行くぞ。荷物持ちをしろ、この鞄だ」

机の上に置いてあった革製の鞄を無造作にエヌマへ投げつける。

「っん、これ軽くねえか?」


 上手く受け止めたが、中身の入ってなさそうな痩せた鞄に怪訝な顔をする。

 教授は大して感慨もなさそうに、「必要なものはすべて研究室にある。しかし、教授という地位にいると外聞を気にする連中も多い。これはそいつら用の目眩ましだ」と言った。

要するに、鞄も持たずに大学に来るのは学生を指導する者としては不真面目ではないか? ということらしい。


「けっ、良い御身分で」

「ふん。お前ほどではないさ」


 悪態をつき合う。

リートン教授は車椅子で机から移動し、エヌマの前で止まる。


「さあ、行くぞ。早く扉を開けろ」

「へいへい。そういえば、それってどうやって動かしてるんだ?」


 エヌマが指差したのは車椅子。リートン教授自身は何も動かしている動作がなく、何となく不思議な思った。


「これは魔法石加工の職人に作らせた物だ。私の意思と繋がっていて、私の自由に動かせる。まぁ一応後ろの手すりを誰かに押してもらえば移動は出来るが、お前には頼まん」

「残念だ。崖から突き落としてやろうと思ったのによ」


 リートン教授はフッと笑い、エヌマが開けた扉から出た。



 魔法大学は街の郊外にある。街の誘惑から学生を守るためらしいが、あまり効果はないことは既に証明されている。


「おい、あの偏屈がスゲー良い女を連れてるぞ!」


 授業をサボって酒場にいた何人かの学生たちは、つまみを食べながら新しい話題に夢中だった。

 学生の一人が目撃したのは、車椅子な座る魔法大学の名物リートン教授と、その後ろに不機嫌そうな顔でついていく女中だ。特に女中は美しく、服装もフリルの多い可愛らしいもので、既に学生以外の炭坑夫や職人や商人たちを魅了していた。

 当の本人は、集中する自分への視線に落ち着かないのか、眉間にシワを寄せつつ頬を赤くして、張本人のリートン教授に文句を言っていたが。


「本当に趣味の悪い奴だ、私を辱しめて何が楽しい?」

「さあ、何の話しかわからんな」

「どうやら魔法大学の教授様は耳が悪いようね、ぼぁっ!」


 エヌマは教授の耳元で大声を出した。突然だったので対処に遅れ、リートン教授はかおをしかめた。


「ぐっ、馬鹿なことを。君の方がイカれてる」

「へ、私は長寿でまだ若いから、どっかの車椅子に乗ってるやつと違って成長するから、マシになるんだよ」

「ふん。そう願いたいね、なるべく早くしてそうなって欲しい。こちらの身が持たん」


 というやり取りだったが、何を思ったのか、学生たちは突然耳元に顔を近づけたのは、甘い愛の言葉を囁いた、と思ったらしい。

 めでたい連中だ。

 しかし、次第に彼らはリートン教授に対して嫉妬のような感情を持つようになる。

 元々彼らは落第生だ。成績が悪くなれば素行も悪くなる。柄の良い者は誰一人いなかった。

 特に、リーダー格のランドーンはエヌマに惚れてしまったようで、忌々しそうにリートン教授の悪口を繰り返し、あまつさえ自分こそがエヌマに相応しいとまで言い出した。


「よしお前ら、あの女をさらっちまうぞ!」


 号令をかけられ、落第生たちはおおー! と気勢を上げる。

最後まで読んでいただきありがとうございます!エヌマの格好は僕の趣味です(笑)本当はもっと早く着せようと思ってましたが、何故か今回着せることになりました、でも結果的に良かったですかね。

本格的にトラブルが二人に襲いかかりました。さて、どうなってしまうのでしょうか。作者自身も楽しみです。


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