薔薇の庭園
のんびりしてます
日の朝、二日酔いに苦しむ二人はエヌマの部屋にいた。
「おい、起きろ。ほら水も飲め」
「うぅぅ。頭が痛い」
「それが二日酔いだ」
アドリアーナ女史はコップに注がれた水を飲む。エヌマも二日酔いのせいか表情がむくんでおり、自分も水を飲む。
昨夜のことは思い出せない、ではなく、思い出したくないが妥当かもしれない。特にエヌマは。
日の傾きでそろそろ朝食だとわかる。女中ならもっと早く起きて、色々と準備をしなければならない立場にあるが、エヌマにその自覚はない。
寝具の上で二日酔いに苦しむアドリアーナ女史の腕を強引に掴んだ。
「ほら、さっさと起きろ。飯だぞ」
「あうぅぅ、お化粧しなきゃっ。でも頭痛いし、むくみも取らなきゃ」
「化粧する前に飯だ。早くしろ」
「お手入れはしないの? あなたも女性でしょ?」
「私にそんなもんいらん。美しくなるひつようとねぇしな」
「美しくありたいのは、女性の義務ですよ?」
「私は私の義務に従ってるんだよ」
そう言って、無理矢理引っ張って歩かせる。
アドリアーナ女史にとって、ここは憧れのリートン教授の屋敷だから、今の自分を見られるなんて悪夢は嫌なのだで、
「嫌です~! 部屋に戻して~~!」
と、泣きべそをかいて、わめく。
ノーノーンは料理人も兼ねている。
剣の腕よりも料理の腕に勝っていた。性格は陽気で豪放磊落。彼にも過去があり、どのような人生を送ったかはわからない。
とはいえ、今はリートン教授の屋敷で働く使用人であることには限らない。朝から作った料理を運ぶ途中。
「アイヤー! これエヌマ! なにしてるネー!」
「見てわかんねぇのか、介護だよ」
エヌマの背中には、嫌~! とわめいているアドリアーナ女史がいて、背負う方は不機嫌そのもので、さっさと下ろしたい顔をしている。
ノーノーンはアイヤーと息を漏らし、
「仕方ないネー、付いてくるネー」
と言って、エヌマは特に反抗することなく、無言で付いていく。
背中の人は、まだ何事かわめいていたが。
エヌマは調理場にいた。
既に料理は運んでいるから仕事はないので、少し遅めの朝食にありついている。
「何で私がここで?」
「当たり前ネー、アナタは使用人ネー」
「けっ」
舌打ちしつつ、賄いの肉料理を口に運ぶ。
肉は食用の巨大カエルで、あっさりして歯応えがある。庶民がよく口にしている食物の一つ。
それに黒パンと野菜のスープに、羊のミルク。使用人の朝食としては上等だろう。
エヌマも元は旅人なので贅沢は言うつもりはないが、要求があるならさっきから自分にベッタリなアドリアーナ女史を何とかして欲しいということだろうか。
「お前はアイツと飯食えよ、何でここに?」
「だって、お化粧が・・・・・・」
「またそれかよ」
「アイヤー! 女性は大変ネー」
一方その頃、リートン教授は。
「ふむ、アドリアーナ教授はエヌマと食べると。フフ、なつかれたものだな」
老執事の報告にリートン教授は笑みを浮かべていた。
エヌマはこう見えて働いている。ただ酒場で飲んだくれたり、喧嘩を吹っ掛けたりするだけではない。
主にやっていることは掃除。
学がなくても出来る簡単で、根気のいる仕事だ。
主にノーノーンと行動している。
「こっちは終わったぞ」
「アイヤー! お疲れさまネー! じゃあ次お願いネー!」
「まだあんのかよ!」
という具合に。
リートン教授の屋敷は広くはない。元々、彼は人嫌いで客室も多くなかったからだ。
しかしエヌマは仕事をサボることがあった。特に昼食後に決まって行く場所がある。
屋敷の庭の奥にある、小さな花の庭園。
植えられている花はすべて薔薇で、リートン教授が魔法で年中咲けるようにしていた。いわば彼の個人庭園ということになる。
本当は使用人も入れてはいけない、と言われているのだが、エヌマは無視していた。
「やっぱ良いな~、ここ」
庭園の中央には小さな泉があり、その淵には安楽椅子が置いてある。そこに彼女は腰かけて、薔薇の香りを楽しむ。
耳長族は花を好む。それぞれに好みがあり、エヌマの場合は薔薇ではないのだが、それでも基本的に花は好きなので、心地の良さを感じている。
「あー、酒盛りでもしたいな~」
実はエヌマは火酒の味を気に入っていた。なので、また飲みたいと思うようになっていて、ついでにアドリアーナ女史を誘ってみるか、とまで考えるようになる。
何だかんだ気に入ったようだ。
すっかり気分を良くしたエヌマは、懐からマッチと、買ったばかりの煙草を取り出した。喫煙家というわけではないが、せっかくだから数本買っていたらしい。
マッチを擦り、それを煙草につけようとしたとき。
「煙草は遠慮してもらいたいな」
雇い主のリートン教授が溜め息を漏らしながら、庭園にやって来た。
「ゲッ」
エヌマは嫌な顔をしたのは、言うまでもない。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
あまり進んでないように見えて進んでますが、バトルももう少し入れたいのが実情でして、なかなか大変です。
ではでは、次回でまたお会いできますよう、頑張っていきます!!




