酒場の帰りに
「エヌマしゃ~~~ん、でへへ~~~、意外とおっぱい小さいんですね~~~」
「あー、わかったから揉むなー」
さて、酔いが残って赤い顔のエヌマは、彼女よりも赤くなり、すっかり泥酔しているアドリアーナ女史を背負いながら帰路についていた。
最終的に二人の勝負は引き分けになった。というのも、アドリアーナ女史が酔って暴れてそれどころではなくなったのである。
やっと酔いが回って大人しくなったかと思えば、一人では立てないと言い出して、仕方なくエヌマが背負って帰ることにした。
「でへへへー! エヌマしゃん、良い匂いします~~! 美味しそう、ガブッ」
「あだっ、首を噛むな首を!」
「エヌマしゃん、美味しでふ~~~!」
魔法使いといえど、流石にこの状態で夜の街を歩かせるわけにもいかない。
今も悪どいことを考えてそうな連中が様子を伺っている。早くいかなければならないのだが、酔ったアドリアーナ女史は意外と面倒臭かった。
「エヌマしゃ~~ん! エヌマしゃんの夢ってなんれふか~~?」
「あぁ、夢だぁ?」
「私はリートン教授と結婚することれふ~~~!」
「ぶぶっ!?」
酔っぱらいとはいえ、事も無げに大声で、いったい何を言い出すんだコイツは!?
でも、そういえば酒場に来たとき、あのクソ野郎を愛してる、とかなんとか言っていた。
まさか、それが本気だったとは。
そうエヌマは驚いた。ついうっかりアドリアーナ女史を落としそうになったが、何とか抱え直しつつ、酔っぱらい相手ということを弁えた上で、訊ねてみる。
「お前、それ正気か? お前ならもっと良い男と一緒になれるだろ?」
「あの人しかいないんれふ!」
「ほーん。そんなもんかね」
「そんなもんれふ! 私はずっとあの人に憧れてきまひた、でも、あの人は足を事故で失ってから、ましゅましゅ孤独になっへ、私がささえ泣きゃっへ!」
「事故? あの野郎の足ってそれであーなったのか?」
「はい~、遺跡発掘中らしいれふ~~」
「ほーん」
「エヌマしゃんの、夢はなんれふふぁ?」
「私?」
「ひゃい~、聞きたいれふ~~」
エヌマは恥ずかしくなった。人前で言うのはリートン教授以来で、しかもそのとき自分は泣いていた。
そのことを思い出して口をつぐむが、背中に乗ってる酔っぱらいは、は~や~く~! と暴れるので仕方なく、言うことにする。
「私は女優になりたい。それも、王立劇場で活躍するような、女優に。例えば、スカーレット・バトラーみたいな。あとな、一応演技の勉強は独学だが出来るぞ、演目も何個か練習してる。聞かせてやるよ」
彼女も酒が回っているせいか、自分の夢を語るうちに、普段よりも興が乗っている。アドリアーナ女史が既に力尽きているというのに、それに気づかずに頼んでもない演技を披露するのだから。
「じゃあ、私が一番好きなやつから、好きな場面で。私は両方できるんだぜ!」
子供のように自慢顔だ。しかし、それはすぐに役者に変わる。
キザな男と、女に。
『 昨日なにしてたの?』
『そんな昔のことは覚えていない』
『今夜会える?』
『そんな先のことは分からない』
短い場面だが、情景が浮かぶのか、エヌマの瞳には一杯の酒があった。
本来は何気ない一コマなのだろうが、彼女の心には特に印象深かったらしい。
またもう一つ、演じてくれる。
『ラダナージ兵に飲まれるくらいならすべての酒を捨てた方がマシだ』
『なら、飲み干しましょう』
「そうだな。君の瞳に乾杯」
「きっ!?」
最後、言うはずだった台詞を誰かに言われた。しかも聞き覚えのある声で。
「ふむ、往年の名優とまではいかないが、なかなかじゃないか。流石に王立劇場を目指すだけのことはあるな、エヌマ」
夜の中から、小さな子猫のような、リートン教授の使い魔が現れた。
見られていたわけだ。
指先を使い魔に向けて口をパクパクさせ、顔は既に噴火寸前。
「おまっ、おま~~っ!」
「やれやれ。飲みすぎだ馬鹿者」
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