表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

四歳からの魔法

 前世を思い出してから八ヶ月、俺は四歳になった。


 過剰な保護体制は相変わらずで半分軟禁されているような生活だが、多少流暢な会話をしてもおかしくないと思われる程度には学習を進められた。賢くて活発な子アピールも上手く重ねることができたと思う。


 現在、俺の傅育役に就けられているのは乳母が二人と侍女四人、魔術師を含む騎士六人、学士二人、薬師一人、王国の守護神である光明神に仕える神官が一人、後宮の一隅で育てられてる都合で全て二十代前後の女性で揃えられている。


 本来なら現状の半分くらいが標準のところを、隣国のお姫様だった母が自分の侍女を乳母に指名してこの国の貴族勢を刺激したせいで、両方から一セットずつ傅育チームが派遣されてこの有様だという。


 三歳児相手に大げさな構成だと思っていたが、幼児の生存率が高くないこの世界の王侯貴族は六歳で洗礼を受けるまで仮の子扱いする風習があって、これでもかなり控えめな方なのだそうだ。六歳を過ぎれば、護衛や学友なんかを含めて一個中隊くらいの人数が俺の世話をすることになるらしい。


 八ヶ月間、面倒を見てもらっていて分かったことだが、母が指名した傅育チームは、乳母ゼルマを筆頭に侍女二名、魔法騎士二名、魔術師一名、学士一名。ゼルマは母の乳姉妹で侍女の二人もゼルマの親族、魔術師と魔法騎士達は母と同門の妹弟子、学士は魔法具の研究をしていた技術者と、母の肝煎りの顔ぶれが一丸となって俺の安全と健やかな成長を考えてくれている。


 一方、クラルヴァイン王国側は、乳母のコンスタンス子爵夫人以下、侍女から騎士、学士、神官に至るまで第二王妃を出した侯爵家に対抗する派閥の寄り合い所帯で、互いに牽制し合いながらもゼルマ達相手には団結するというお約束の状態だった。

 それでも、共通して俺の歓心を買おうと頑張ってくれていたので、俺は差別せず全員公平に学習に付き合わせて振り回したがな。


「大の大人が寄って集って三歳児の機嫌を伺うって、不健全極まるよな……」


 もし、俺に前世の記憶がなく、ゼルマ達も居なければ、我儘いっぱいに育ってもおかしくない状態だ。


 前世で恋人に悪役令嬢ものってのをいくつか読まされたけど、不思議に思ったことがある。

主人公が悪役令嬢に転生してなけりゃ、婚約者役の貴公子は誰もがうらやむ高スペックで、悪役令嬢は本当に婚約破棄されても仕方ないような悪事を働く役どころのはずだ。

 ところが、中身が入れ替わってる悪役令嬢の行動や態度が変わるのはともかく、どういう訳か大抵の場合、婚約者の方までボンクラに成り下がる。


これが何故なのか分からなかったが、どこかでバランスを崩すとボンクラ側に転落してもおかしくない素地ってのが、こういう時期に作られていたりするんだろうか。


 そんな十六人の女性と二十畳程度の部屋が俺の世界の全てという生活だったが、四歳になって少しした頃から、今まで見ていた風景の中に不思議な色が重なって見えるようになった。


 例えば、後宮の中庭にある噴水の水に重なって光が見えたり、自分の周りの空気に薄らと煌めきがちりばめられていることに気付いたりする。


 始めはごくたまに見えていたのが次第に頻繁に見えるようになり、光が強いと色彩も多様になっていって、認識が追いつかず目眩や頭痛、吐き気を感じることすらあった。

 俺にとってはこれが初めてのファンタジー体験だったので、さすがに何が起きているのか分からず混乱して毛布の中にうずくまるしかなかったんだが、それを助けてくれたのが護衛の魔法騎士の一人、フェオドラだった。


 彼女は、二メートル近い長身に加えてプラチナブロンドをショートカットにしたクール雰囲気の女性で、寡黙に護衛を務めてくれていた騎士だったのだが、俺の状態を察すると大きな腕で毛布ごと俺を抱き抱え、ゼルマに事情を話して母を呼ぶように進言してくれたのだ。


「何も視たくない、そう強く思って下さい。大丈夫、すぐに元通りになります」


 初めて聞いた彼女の声は、何度もそう囁いて俺の心を落ち着かせた。


 結局、俺が見ていたのはいわゆる魔力というものだった。普通は洗礼を受けたときに知覚できるようになる場合が多いらしいんだが、その場合でも漠然と肌で感じる程度が殆どで、視覚的に認識できるというのもかなり珍しいことだったらしい。


 俺の周りにいる人達の中では、フェオドラだけが同じく視覚で感じる力を持っていたので、俺の症状に見当がついたし助言もできたというわけだ。


 天才魔法剣士の片鱗が思わぬ形で俺自身に牙を剥いた事件だが、母はこの件を良い切っ掛けとして自ら俺に魔法教育をすると宣言した。


 乳母が付いてることから分かると思うが、本来なら高貴な身分の家では父母が直接子供を育てるようなことをしないところを、自分で面倒を見ると宣言したんだから、廷臣や貴族達からはけっこうな反発があったようだが、この国で最も優れた魔術師は自分なのだからと押し切ったらしい。


 どうやら、ゼルマやコンスタンスから俺が言葉を覚えたとかダンスを踊ったとかいう報告を聞いていて、自分でも俺が初めて何かを憶える瞬間に立ち会いたいと思っていたようで、嬉々として俺を膝の上に抱いて魔法の話を聞かせてくれたり、魔法を実演して見せてくれたりした。


 こうして、俺の四歳は図らずも母と一緒に魔法漬けで費やされることになった。

 知識を学習して実演を見学し、簡単なところから真似してやってみるというのは今までの生活でもやってきたことなので、母も交えて楽しく魔法学習の日々を送る。


 まず、この世界の魔法がどんなものかざっくりと言ってしまうと、魔力という万能物質を使って求める現象を起こすことを指す。


 魔力は土(固きもの)、水(流れるもの)、風(幽かなるもの)、火(熱きもの)の四つの力で構成されていて、魔力の中からどの力を取り出して使えるかによって地水火風の属性が決まり、これに特殊属性である光と闇、六属性が魔法の系統になっている。

 

 ではどうやって魔法を使うのかというと、昔から魔術師達の間で伝わっている魔法語と呼ばれる単語を組み合わせた呪文で、体内に蓄積されている魔力に働きかけることで魔法を発動させる。


 故に、扱える属性の数、体内で生み出される魔力の量と一度に使える魔力の量、そして魔法語の知識と文法力が魔術師の力量を決定づけるのだという。


 自他共に認める王国最高の魔術師である母は、風と水の属性を操り、膨大な量の魔力を日々生成し、圧倒的な語彙力と文法力で効率良く大量の魔力をぶっ放すことができるし、母ほどではないが強力な魔術師だというゼルマの詠唱や魔力放出も流麗なものだった。


 俺はと言えば、小説での設定通り四属性全てに適正があったんだが、その分、知覚できる力の種類も多かったことが災いして、視界内の魔力全てに反応して混乱したようだ。後で聞いたんだが、地属性単体しか認識できないフェイドラは、初めての時も目がちかちかする程度で済んだらしい。


 父方のクラルヴァイン王家の血筋には、始祖王が使った光魔法『ホーリーライトソード』が眠っており、父ヘンドリック七世はその欠片である『シャイニングブレード』が使えると言っていた。前者は何も無いところに光の剣を生み出す魔法、後者は手に持った剣に光の魔力を纏わせる魔法だそうだ。


 ゲームの設定では、剣にも魔法にも優れながら何の光魔法も発現しなかったことがアーサー王子のコンプレックスになっていて、それを解消させることが攻略の鍵だったっけ。


 さて、長々と説明してしまったが、実はネット小説のネタバレによると、最終的に発生する現象を決定付けるのは術者のイメージなんだそうだ。魔法語というのは、一つ一つに紐付けされたイメージがあって、それの組合せが魔法の発動イメージを構築する仕掛けになっているという。


 つまり、現象をしっかりイメージできれば詠唱は必要ないし、対応する魔法語を用意する必要もない。逆に新しい言葉にイメージを紐付けして魔法語にすることも可能ということになる。


 ネット小説のために作られた世界の魔法なので、ゲームのように定型式に嵌め込まれた魔法が使われている中、リュシエンヌが知識チートで新しい魔法を生み出す演出のために用意された設定なのだろう。


「リュシエンヌに可能だったことが、俺には不可能だと思うか?」

 

 というわけで、俺もイメージに任せて魔法を使ってみようと思い立ったとき、俺はもうすぐ五歳になろうとしていた。

お読みいただきありがとうございます。

長々と独り言を綴っているような書き方ですみません。

正主人公のリュシエンヌが登場する六歳までは、一年一話の独白形式になりますのでよろしくお付き合い下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ