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第7皿 目指せ神器イージス

 まだ昼間だというのに、人もまばらな街道。

 物騒になってきたという、この世界の情勢のためだろうか。

 私と、クソア魔女──ヴェールは、その道を王都に向かって歩いていた。


『なぁ、これ重くないのか?』


 私は自分で動けない皿なので、ヴェールの右手に割と雑に持たれている。

 偽ヴェールと違って、優しさを全く感じられずに揺れで酔いそうだ。


「これって? ……ああ、リュックの事ね」


 そう、これとは私の事では無い。

 小山のように膨らんだヴェールのリュックの事だ。


「お宝だと思えば軽い軽い! それに、背負ってる重量は魔術で何とかなるからね。細かく初級重量軽減、初級筋力強化。ついでに初級風魔術で後ろから押してもらう」


『器用な奴だな』


 クズの見本であるようなヴェールは、当たり前のように盗賊のお宝を盗んできた。

 一応、私にも分け前はあるようなので、外道過ぎず、クズフェア好感が持てる。

 ちなみに毒死しそうだった盗賊は解毒魔術をかけて、他の盗賊と一緒にアジトの牢にぶち込んでおいた。


 後で人買いに連絡して金をもらうそうだ。

 ヴェールは戦果でテンションが高めになっているらしい口調だが、その眼は死んだままだった。

 同じ表情のまま喜び、同じ表情のまま殺すという仄暗さを感じる。


『話は戻るんだが、お前が王都へ行って金とコネのために……たかるのは分かった』


「たかりも正義よ、正義」


『だが、ゆくゆくは私を神器にするとはどういう事だ?』


 いきなり神器とか言われても困るのである。

 神の一皿とか言って、最高の料理でも盛り付けたいのだろうか。


「あー、それね。まず、師匠の事を話した方がいいかしら」


『何かお前のすごそうな師匠か』


「実際すごいの。十数年前に異世界を滅ぼそうとした疑似天使を魔法で焼いたり、拳でぶん殴ったりして何百体もスクラップにしてるんだから」


 ツッコミどころが多いが、そこはスルーしておこう。

 きっとマッチョヘラクレスな、白髭のスパルタ爺さんみたいな人外魔法使いなのだろう。


「その師匠が、物置に置いてある皿で、とある事をしろって言ってきたワケよ」


『なるほど、その皿が今の私の身体か』


「そう、昔チラッと聞いたことがあるんだけど、結婚祝いでもらったらしくて、どこかの神様が作った伝説の金属製の皿だとか」


『一つだけ突っ込むけど、今の私は非常にデリケートな陶器の皿なのだが……』


 金属製なら、落としても割れないだろう。

 メタリックジスではないので、今の耐久力は1である。


「うーん、そこなのよね……。でも、治療魔術で復活とかしちゃうから、何かしら特別だと思う」


 確かに普通では無いが……。


「あ、それで、その皿を適当な魂でコーティングしろって言われたの」


『いきなり物騒だなオイ! それで殺人か!』


「いや~……なぁ~んでもいいかな~、テキトォ~……でいいかな~、と思ってなるべくグロくない方法で……」


 何でも、適当。で私はそんな目にあったのか……。

 本当にクソア魔女である。


「そこで私が考え出した完璧な方法!」


『適当なのか完璧なのかどっちだ』


「ヘビとかの動物が集まってきている小屋の裏に、転移陣を設置! 後は数メートル離れた転移先の魔女鍋にポチャンと落ちるようにして、オートメーションで加工! レールや重量、振動なども利用して部屋一個分のピタゴラスイッチを完成させたのだ!」


 ツッコミが追いつかない。

 だが、頑張ろう。

 うん、頑張る……。


『確か、転移陣って空間“魔法”だよな? 魔法は魔術より上で、使える人間はほぼいないという。そうか、さすがの私も魔法で転移させられてはダメだったか……さすがの私も』


「よく知ってるわね。あ~、でも、あたしが使えるのは魔術だけだから」


『おかしいな。私の微かに残る記憶では、時間や空間系は魔術では存在しないで、魔法のみの伝説のお話かと思っていたのだが』


 時間を進めたり、巻き戻したり出来るインチキのような時間魔法。

 空間を断絶したり、異世界を自由に行き来できる空間魔法。

 その二つは、人間ではおいそれと扱えない魔法のはずだ。


 そんな簡単にお手軽魔術として扱えていたら、この世界の根底のバランスすら崩れているだろう。

 一瞬で距離関係なく要人暗殺もできるし、ミスったら巻き戻してやり直せばいいだけで、魔術師個人個人の都合の良いイビツな理想世界ができあがる。

 ちなみにもし、私が使えたのなら時間を止めて、可愛い子にエロい事をしたい。


「あたしはね、ほぼ全ての系統の魔術を使えるの。何故か存在しないと言われていた空間、時間の魔術も含めてね」


『お前……スーパーな魔女だったのか!』


「ふふ、見直してくれたかしら?」


 今思えば、納得出来る。

 治療魔術、武器強化魔術、重量軽減魔術、筋力強化魔術、風魔術、解毒魔術──系統がバラバラ過ぎる。

 これだけの種類を、この年齢で同時に使えているというのは常人ではあり得ない。


「というわけで、その凄い空間魔術──転移陣を設置して、あたしは室内で本を読んだり、蒸かし芋食べて、昼寝をしたりしていたわけ」


『……人格は凄くないな』


「でも、イレギュラーな事が起きた。あたしの空間魔術は、魔術ゆえに制限があったはずなのに……転移してきたのは、何故かただの動物の魂じゃなかった」


『ん? どういう事だ?』


 魔法でしかありえなかった空間系、それを魔術にランクダウンさせた時、どうなるというのか。


「本来は、設置した転移陣が発動するのは数百回に一回のランダムな確率」


『ま、まぁ魔法じゃなくて魔術だしな』


「もちろん、すぐ連続して踏んでもカウントされないからね。されなかったからね」


『う、うん。一度は試してそうだな』


 ヴェールが一人で試行錯誤している図が脳裏に浮かんだ。


「それでここからが本題。運べるモノの制限が──本来はあるはずだった」


『運べるモノの制限?』


「そう、転移陣が数百回に一回発動する条件。いくつかあるけど、あたしの空間魔術では人間を転移させられないはずだった」


『いや、でも人間のジス──つまり私が実際に……』


「そうなのよね~……。だからあたしも困惑してるし、被害者だというか、急に成長してしまっていたあたしの魔術がすごすぎるっていうか?」


 被害者面した加害者ほど、ぶん殴りたくなる奴はいないのであった。

 やはりクズである。


「まぁ、そんなこんなで、喋るし、変な能力も付いてるし、ただの魔道具じゃないと踏んだワケよ。これはもっと上を目指せる、師匠を超えられるチャンスだと!」


『そ、それで私を神器に仕立て上げて、地位や名誉、コネと金を得ようと?』


「勢いで本当に神器にまで成長するかも知れないじゃない。名前がジスだし、使い勝手が良いジス、いいジス──神器イージスなんてどうよ? 諸説あって楯だけじゃなく、皿みたいな胸当てだったとも言われていたらしいし」


 神器イージス……。

 その神話最強の楯の名前は、赤子ですら知っているだろう。

 宇宙を一瞬のうちに何回も滅ぼすような怪物の王テュポーンと、全知全能の主神ゼウスの戦い。


 その最終決戦で用いられたのがイージスの楯だ。

 例え怪物の王が大陸を投げようとも、星を破壊しようとも、イージスの楯は砕けない。


 ゼウスが持つ雷霆(ケラウノス)が最強の矛だとすれば、イージスが最強の楯だ。


『名前が完全に詐欺ってる』


「というわけで、よろしくね。ジス!」


 頭があるのなら、頭を抱えたい。

 ヒザがあるのなら、そのままヴェールの顔面にニーキックをかましたい。


「キャーッ!! 助けてーッ!!」


 その時、妄想ニーキックをされたヴェールの──ではなく、聞いたことの無い声。

 絹を裂くような女性の悲鳴が響いてきた。

 私と、ヴェールは……謝礼金の臭いを感じて、そちらの方へ走った。


 そして──見てしまった。

 水浴び中の全裸の幼い少女と、それを覗く微笑み眩しい執事の青年を。

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