表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
二章 同じ皿の飯を食う冒険者ギルド、アルゴナウタイ設立

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/75

第40皿 最初から潜んでいた狂人

「ジス……!? 本当に、エニューオーに勝ったの!?」


 同じ森の中、少し離れただけの場所なのに、まるで凱旋のように出迎えてくる冒険者達。

 一番前には、ヴェールである。


「ああ、バッサリと斬ってやった。互いに全力を尽くした上で、私の完勝だ」


「やったわね、ジス! さすがあたしの神器!」


 別にお前のってわけでもないんだけどな、とぼやこうとするも、ヴェールの背後に控えていた奴らの歓声で掻き消されてしまった。


「うおおお! ジスの旦那がやったぞ!」


「デュフフ。さすがジス殿にござるな」


「あんなでけぇ相手を倒すなんて、さすが俺達の大将だ!」


 一応、ギルドマスターは別にいるのだが……。


 森の中で冒険者達の喜びの声が響き渡る。

 前線に出ていた奴はどいつもこいつも傷だらけで、後方にいた奴らも泥だらけだったりする。

 汗の臭いと、野太い声の歓迎でむさ苦しいったらありゃしない。

 だが、それもまた戦の風景だ。勝ち戦という最高の。


 そんな中、近寄ってくるクリュティエ邸の面々。


「ジス姉ちゃん、やったじゃん! 俺だったら百年経っても、エニューオーには絶対に敵わなかったよ! またお祝いにキスしてあげよっか?」


「い、いや。結構です」


 私は、人なつっこそうに近付いてくるサンダーを、腕を目一杯伸ばして押し返す。

 以前なら逆セクハラ発言を返すくらいの余裕があったはずなのだが、一度、挨拶のキスをされてから何か気恥ずかしくてたまらない。


「こら、サンダー。戦いの後でお疲れになっているジス殿を困らせてはいけませんよ」


「わーったよぅ、フィロタス」


 なだめる年長者、ナイス!

 後はクリュティエも近くに来ているのだが、暗い表情で黙ってしまっている。

 何となく察しは付くが……。


 それより、気になる事があった。


「なぁ、フィロタス。あの胡散臭い執事──ブリリアントはどこだ?」


「ああ、勝負が決まった瞬間に、先に帰って戦勝記念の宴の準備をするとかで、ふらっとどこかへ行ってしまいました」


「そっか」


 勝負のケリが付くまでは全員の前に居て、不審な動きを見せていないと言う事は、この戦いに裏から関与していたというわけではなさそうなのか。

 一応は仲間になってからしばらく経つのだが、どこか信用しきれないきらいがある。もしかしたら、潜り込んでいるグライアイのスパイとか……。

 いや、まさかな。


「ね、ねぇジス……」


「ん?」


 突然、おずおずとヴェールが話しかけてきた。

 普段と違うこの感じ、何か変である。


「そ、その勝ったんだし……ね、労ってあげても良いわよ?」


「労い? 具体的には?」


「ほ、ほら……特に深い意味は無いけど、こういう時にハグする事とかあるじゃない?」


 それ、私の特より、あなたの特ですよね。エリクの身体に抱きつくって。

 ……と思ったが、ここ最近、裏方で頑張ってくれたヴェールを思い出してしまう。

 逆に私が、ヴェールを労ってやっても良いか? と、百年に一度のペースならという程度は思わなくも無い。


「ほれ」


 こちらと比べると小さなヴェールが抱きつきやすいように、両腕を広げて迎え入れる準備。

 瞬間、ヴェールは猫の如きスピードで飛びついてきた。

 戦闘の疲労もあり、倒れそうになるが──ぐっと堪える。


「……心配したんだから、ばか」


 紋付き袴に顔を押しつけられているため、ヴェールのくぐもった声が身体に響くようである。

 丁度、エリクの胸のところ辺りまでしかない身長差。意外とヴェールが華奢な少女だと感じる珍しい瞬間だった。


「悪かったな、大切な王子様を巻き込んで」


「……二人の事を心配したっての」


 思わず広げたままの腕を動かして、ギュッと抱き締めてしまうところだったが、それは止めておいた。

 またいつか、エリク本人に任せるべきだろう。


「ね、ねぇジス……」


 ヴェールよりさらに低い位置から聞こえてきた声。

 それは暗い表情をしたクリュティエだった。


「エニューオーは……」


 たぶん、“死んだのか?“という意味の言葉を吐き出そうとしているのだろう。

 エニューオーに気に入られていたクリュティエは、それなりに相手の事を考えてしまってもおかしくない関係だ。

 私は、幼い子供の口から──そんな悲しい言葉を言わせまいと、先に言葉をかぶせた。


「──エニューオーは、たぶん生きてるよ。不自然に付与されたエーテルだけを“炎月刀”で燃やし尽くしたからな」


 ぱぁっと明るくなるクリュティエ。


「そ、そう! 良かったじゃない! 冒険者はみんな姫である私の下僕みたいなものなんだからね!」


「元、冒険者だけどな」


「そ、そうだけど……」


「まぁ──またスカウトしてやればいいか、うん」


 私は笑いながら、そんな冗談を言った。

 ──それは冗談なのだ。

 だって、これだけ傷付け合った仲だ。


 人間風情が……。勝者が、敗者を許して再び仲間にするなんて事はありえない。

 戦を挟めば人間の、闘争の抜き身の部分が見えてくる。

 ひとたび、やり合っていた相手が敗者と分かると、それはもう“人間”として見ないのが当然なのだ。それが戦。勝者と敗者。


「そうだな! ジスの旦那!」


「……ん?」


「ジス殿、たまには良い事をいうでござるな。かなりマッシヴですが、あれは巨乳枠として十分にござる!」


「腕っ節もつえーしな! 一緒に飯食った仲間だぜ!」


 冒険者達が、何故か賛同し始めている。


「いや、今のは冗談で──」


「グライアイだか何だか知らないけど、このクリュティエがメイドとして雇ってあげましょう! 冒険者メイド、良い響きじゃない?」


「ふむ、それは良いですな。私は執事長なのに、部下が皆無で今や戦闘の訓練ばかり。久しぶりに剣より箒の握り方を訓練させて頂きましょう」


「まったく、お前らは……」


 魔女の毒で腐りかけていた都市国家アテナイだが、私の周りにはこんな奴らが集まってきてしまっていた。

 度し難いお人好し達だ。

 まぁ、もしまたエニューオーが狂気の炎に染まってしまったら、私が尻ぬぐいくらいは受け持ってやるか。


「……ということで、抱きつきっぱなしで深呼吸しまくってるヴェール。ちょっと離れてくれ」


「すんごい良い匂い! すんごい良い匂い!」


 空気を吸引しているのに、空気を全く読まないクズ魔女であった。

 木にへばりついているカブトムシのように、無理やりにベリベリと引き剥がしてから、身軽になった身体で向かう。──倒れているエニューオーの元へ。




 エニューオーは崖近くで倒れていた。突進する戦車がそこで崩れたのだろう。

 あのインチキな戦車に乗った状態なら空中すら走りそうだが、この生身の状態で崖下へ落ちたら確実に死んでいたと思う。


「よう、元気そうだな」


「トドメを刺しに来ましたか……ゴホッ……ガハッ」


 顔色は真っ青、酷い咳き込みをしている。

 これがさっきまでの軍神だとは思えない。


「そうだな、これはお前を楽にしてやるスープだ」


 私は、倒れているエニューオーの身体を上半身だけ起こしてやりながら、手に持っているスプーンを口に差し出した。

 ゆらりと揺れる金色のスープ。


「毒による介錯か……かたじけない」


 顔に死相を浮かべながらの笑みを浮かべ、彼女はそれを飲んだ。

 すると、エニューオーの身体は輝きだし、一瞬で顔色が土気色から、元の健康なものへと回復した。


「楽になっただろう、エニューオー」


「こ、これはいったい……?」


「吹き飛んだ戦闘食堂の跡地から回収した、最後のスタミナ回復スープだ」


 地面に置いてある分身皿になみなみと注がれている黄金色のスタミナスープ。

 そこにスプーンを戻し、皿自体をエニューオーに差し出した。


「ほら、飲め。それとも私に飲ませて欲しいのか?」


「い、いえ! 貴女様にそのような事をさせるわけには! で、ですが……我……いえ、私に、どうしてそこまで?」


 慌てたように皿を受け取るエニューオー。

 私はそれを見て、笑いながら答える。


「まー、私としてはどうでもいいんだけどな。あいつらが、エニューオーの事を好きらしくてな。もしよかったら、また冒険者に戻らないか? ……って、あいつらがな。うん、あいつらが」


 私と、エニューオーの2人は視線を向ける。

 こちらを心配そうに見つめる、冒険者達や、クリュティエ邸の面々に。


「そう……ですか。貴女の周りは……アテナイの民も、やはり……とても……暖かい。炎の熱さとは違う、優しい暖かさ……うう゛っ」


「お、おい。泣くなよ。スープがしょっぱくなる」


「ごの(よう゛)に、敵対(でぎっだい)じだ……わだじを、受げ入れでぇ……ぐれぇるなんてぇ……」


 あまりの泣き方に慌てた私は、このエニューオーという女傑の皮を被っていた、ただの少女が泣き止むまで背中をさすってやった。

 何か背後でニヤニヤしている奴らが多くて、激しく恥ずかしいのだが。

 ギルドに帰ったら覚えてろよ、お前ら……!


「申し訳ありませんでした。もう大丈夫です……」


 スープも飲み干して、すっかり落ち着いたエニューオー。

 そろそろ、聞きたい事がある。


「なぁ、勝負で勝ったんだ。以前と同じような問いになるが、今度は隠し事抜きで教えて欲しい」


「……はい」


「都市国家アテナイを落とすだけなら、もっと効率の良い手段もある。そのために私が邪魔だというのなら、さっきの炎の力でギルドごと焼けば良い。そういう選択肢も選ばずに、私に接触してきたという事は──」


「貴女様が勘ぐっていた通りに、そう──ジス様。貴女は女神メドゥーサご自身です」


「そう、その事だ。やっぱり共通点がいくつかあるってだけの、当てずっぽうじゃないのか?」


 皿のような盾、胸当てであるイージスらしき神器。その中に魂を封じられている存在。その程度で同一視されては困る。アテナと敵対し、首を落とされ、最強の盾とされた女神メドゥーサに。


「グライアイの方針を示してきた“黄金の林檎”と、今までの全てを予言のように当ててきた“三魔女の赤き眼”が告げていたのです。あの日、貴女が出現した日時を。メドゥーサ様が降臨なさると」


「あの日……? もしかして、私が皿として目覚めた日か」


「はい。その時は半信半疑でもありましたが、偶然に居合わせたデイノーの部下である魔術師が、貴女様に倒されました」


 魔術師といえば、あの盗賊のリーダーの男か……。


「その報告で私達も本当の事だと確信しました。何せ、“赤き眼”が告げることはグライアイの活動で的中率が100%でしたから。ここまで条件が揃えば、信じるしかないのです」


「その……充血してそうな眼のやつは、どんな──」


「正体は不明です。私達ですら、その姿は知りません。男なのか女なのか、人間なのかバケモノなのか。それがグライアイの魔女が共有する“眼”です」


 黄金の林檎に、正体不明の赤眼か。いよいよ神話じみてきたな。

 いや、それよりも──。


「つまり、本当に私はメドゥーサという事なのか?」


「はい。ただし、完全には蘇っていないという事です。そのために下手に手を出せず、僅かながらの接触に済ましていたのですが……。私の中のエニューオーが、どうしても衝動を止められなくなってしまい」


「それでギルドまで来たわけか」


「最初は少し様子見をしたら、離れようと思っていたのです。でも……その、貴女に惚れ込んでしまって……」


「む?」


「い、いえ! 貴女様を含めたギルドの人間に惚れ込んでしまって! ……久しぶりだったのです、グライアイ以外のまともな人間は……。私はそれを知って、弱くなってしまい、戸惑いました」


 エニューオーは、過去の出来事からアテナイの人々を恨んでいたのだろう。それが普通に良い奴もいると知ってしまい、戦う事ができなくなる前にギルドを脱退。

 たぶんそういう経緯だろう。


「その迷いを振り切るため、貴女にメドゥーサとしての自分を思い出して頂くために、神々も用いていたエーテルをぶつけ合って戦いを挑んだのですが……アレスの神器達が暴走して、お見苦しいところを。一歩間違えば、貴女様を殺し──」


「いや、それは構わない。確かにエニューオーの炎を喰らった時、“耐熱皿(ギガフォティア)”の条件が表示された。その仮設は正しいかもしれない」


 ということは、これからもやべー奴と戦わないと目覚めないということである。戦闘中は楽しいのだが、冷静になるとリスクやらなにやらで回避したくなる。


「それで、グライアイの最終的な目的についての質問だ」


「……はい」


「私をメドゥーサとして復活させて、祭り上げ、世界を滅ぼしたいのか?」


「そ、それは……っ」


 エニューオーは言葉を詰まらせた。

 とても辛そうに、息苦しそうに、泣きそうに。


「私も……貴女様と出会う前はそう思っていました。父を狂わせ、母を殺し、私を穢したアテナイの民を皆殺しにしてやろうと──でも……」


 後悔の表情。


「直に知ってしまったら、みんなを殺せるはずないじゃないですか……」


「まぁ、戦争っていうのは相手の素性を知ったら、普通は出来るもんじゃないよな」


「……でも、あの子は違う」


 エニューオーは、そうポツリと言った。


「ん?」


 空気が変わった。

 エニューオーの、ではない。

 表現しようのない、世界の空気が。


「あの子──デイノーを助けてやってください……!」


 デイノー──たまに話に出てきた、グライアイの三魔女の最後の1人である。

 確か“手段を選ばない恐怖撒きの魔女(デイノー)”だったか。


 その魔女の救済を求めるように、エニューオーは右手をこちらに伸ばしてきた。


「デイノーは、マンバや私に比べて、その世界への憎しみは計り知れません! 私がアテナの民にされた事など、些事と思えるくらいに! あの子は! あの子はただ、小さな身体に信じられないくらいの狂気を施され、世界の全てを奪われ、それを世界に返しているだけで──」


 エニューオーが話している最中の事であった。

 稲光が走り、私達の前に1人の少年が瞬時に出現した。


「メドゥーサ様……どうか……可哀想なデイノーを助けてやってください……」


 エニューオーの右腕が斬り飛ばされていた。


「いきなり、そんな事をバラし始めるとはね。狂っていた時の方が、俺達グライアイにとってはまだマトモだったよ?」


 少年は血まみれの武器を握りながら、いつもとは違う昏い笑みを浮かべていた。


「サンダー。何をしているんだ……」


 少年──サンダーは、エニューオーの心臓に突き立てられた武器を抜き去り、それを一振りして衝撃波を発生させた。

 吹き飛ばされ、崖下へ落下していくエニューオー。


「なにって? 役立たずのゴミが、余計な事を話し始めたから処理しただけだよ?」


 私達の中に最初から紛れていた、グライアイの狂人。


「あ~、もう偽名は名乗らなくていっか。本名がどんなのかは前に言ったよね? 少年Aみたいな代名詞で、ありふれすぎていて、日常で使いにくいって──」


 私は“炎月刀”を鞘から抜いて、構えた。


「俺の名は、神の代名詞ともされるやつ。つまり──“ゼウス”さ」


 ゼウスは、その手の中にあるギリシャ神話最強の神器──“雷霆(ケラウノス)”を振りかざした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ