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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
二章 同じ皿の飯を食う冒険者ギルド、アルゴナウタイ設立

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第37皿 戦女神の戦い

 私は全ての準備を終えて、無人の戦闘食堂の前に仁王立ちしていた。

 今、憑依しているのはエリクの身体。

 悪いが死地に踏み込む覚悟で、命を共有してもらう約束だ。


 何故エリクがそこまで付き合ってくれるのかは、お人好し以外の理由もあるのだろうが、信頼に値する相手なので気にはしていない。


「ねぇ、ジス……。本当にあたし達は協力しなくていいの?」


 ヴェールが珍しく不安げに、しおらしい態度を取っている。

 まぁ、エリクの身体の方を心配しているのだろうが。


「はっ! ヴェールや冒険者達が、鉄砲玉になって死んでもメリットを作れない相手だ。無駄死にした方が金というリスクがかかるんだよ」


「うぐぐ……悔しいけど、確かに今のあたし達じゃ、エニューオー相手には数秒持てばいいくらいかもしれない……」


 そう、あの超強力な身体強化魔術と、神々が使う魔法レベルの炎の剣を持つ“血塗れ武器の魔女”には、いくら数でかかっても勝算は薄い。

 戻ってきた冒険者達の報告によると、やはり獅子座のタラモサラタの効果ですら秒も持たなかったのだ。

 あの炎をまき散らすだけで、一瞬にして数の利は崩されるだろう。


 それを見越して、冒険者へ指示をしていおいた。

 エニューオーを発見したら、すぐさま戦闘食堂の事を大声で話しながら逃げろと。

 ……つまり、この場所に誘導して狙うは一対一。


 そう考えていると、ご本人様のお出ましだ。


「ジス、さすがだ。この力量差でも──我から逃げないとはな」


 森の奥から悠然と歩いてくる、屈強なる女戦士──いや、グライアイの魔女。


「よう、エニューオー。待っていたぜ」


 真っ正面から、堂々と1人で来るとはな。

 いくつか立てていた予想では、意表を突いてこちらの要である戦闘食堂を遠距離から破壊してくるとも思い、中を無人にしておいたのだが。


「お前達、離れていろ」


「わかったわ、ジス。あんたが死んだら、借りてた金は返さないんだからね。生きて戻りなさいよ」


 そう言いながら、ヴェール達は距離を取った。

 とりあえず、死んでも金は返せと言いたい。


「お前も決闘を望むのか、ジスよ」


「ああ、あいつらが無駄に死ぬとまた色々と金がかかるからな。……そっちは、もう助っ人の獣は呼ばないのか?」


「あれらは獅子神が下ろした、絶滅した動物の無念を乗せたニセモノ達。鉛の弾ではなく、今度はその手で葬られたと満足して皆逝った」


 動物達の無念とやらを晴らすために……満足させるために、エニューオーは後ろで見ていただけだったのだろうか?

 どういう事だ。前々から不思議だったが、都市国家アテナイに何かしたいのなら、もっと効果的に攻め落とす手段もあるだろうに。


「動物達と一緒に戦っていれば、私達を簡単に蹴散らす事が出来たんじゃ無いか?」


「くく……。戦神の妻の紛い物とはいえ、人形なりに縛られているのさ。もっとも、そんな我だからこそ、ただ一介の少女が──複数のエニューオーとして魔女(よりしろ)にされたのかもしれん」


「何を言って……」


「そういうお前は──イージスの中に宿るモノとして何故、女神アテナの国を守ろうとしている?」


 エニューオーは、その炎の剣の切っ先をこちらに指し示してきた。

 その刃のような問いかけは、私に深く突き刺さる。


「何故……だろうな。確かに私は、人間や国に思い入れは薄い。王の首が落ちようと、隣人が死のうが眉一つ動かさないだろう」


「ほう、とんでもない冷血っぷりだ。まるで蛇のような温度──」


「しかし、少数だが気に入った奴らがいるんでな。そいつらのために国を滅ぼそうと、国を救おうと私の自由だ」


「くくくくっ……ハハハハハ! 女神のような豪快さ! やはり、それでこそお前──いや、貴女だ! ジス!」


 一応、気に入った奴の中にエニューオーも入っているのだがな。


「さぁ! 戦女神の戦いをしよう! 我と貴女の!」


「もはや魔女では無く、戦女神エニューオーか……。やっぱり逃げたくなってきたのだが」


「逃げた場合は、我は正当な手段として──この武器を無辜の血で濡らし、怒り狂った都市の破壊者となろう! こう明言でもしておけば、貴女も戦いやすいだろう?」


「そりゃ、お気遣いどーも」


 さて、お喋りをする時間は終わりのようだ。

 互いに武器を構える。

 エニューオーが持つ炎の剣──いくつかの逸話から見て、軍神アレスが持つとされる物だろう。


 言うなれば、ギリシャ語で松明(ダダ)。軍神アレスが彼の者に託した一つ目の神器。

 たぶん、もう一つあるはずなのだが……それは未だに見せてはいない。

 エニューオーからそれを引き出して、私が凌ぎきれるかが最大の壁となるだろう。


 ……いや、それより、まずは炎の剣を持つエニューオーと対等に戦えるかが問題か。


「参るッ!」


「応ッ!」


 エニューオーの高揚した豪快なかけ声に、異界神器──暗月を抜きながら同じ気持ちで応じる。

 何だかんだ言って、私も戦う事が楽しいのだ。


 両者、一気に飛び出して距離を詰める。

 一打目。

 実力者同士のセオリーでは様子見で互いの剣を弾くか、鍔迫り合いになる事が多い。


 ──だが。


「なに!?」


 私は暗月を持つ右手より、素手の左手を前に突き出していた。

 そして、エニューオーが振り下ろした炎の剣を──刃を直に握っていた。


「うらァッ!!」


 無理やり手のひらでエニューオーのアタックポイントを移動させて、右手の暗月で無防備な側を切りつける。

 エニューオーは一瞬で判断を切り替えたのか、冷静な表情で炎の剣を捨ててバックステップ。

 こちらの攻撃を見事に躱した。


「耐えられるのは0.5秒程度と言ったところか」


 私は左手に熱さという痛みを感じ始めたので、炎の剣を投げ捨てた。


「そうか、貴女もあの料理の効果を……。だが、直に掴む勇気はさすがといったところ……」


 正直、すげぇ怖かったけどな。


「エニューオー、お前も一瞬で武器を捨てる判断を下すとはやるじゃないか」


 それを聞いたエニューオーはニヤリとしながら、体勢を立て直した。


「軍神アレスの装備は、常に我と共にあり──」


 地面に落ちていた炎の剣は、ロウソクの火を消すように消滅。そして、エニューオーの手の中に戻っていた。再召喚したのだろう、

 非常に厄介である。私がエニューオーだったら、この能力のメリット使って“ある事”をするだろう。


「剣とはこういう使い方も出来るのだ!」


 投擲──炎の剣を投げ飛ばしてきた。私の予想通りだ。

 普通の戦場ならあり得ない。

 サブウェポンのナイフなどならまだしも、メインウェポンである剣を投げるなど継戦能力が一気に低下するためだ。


 また、剣を弾かれるという緊急事態に陥っても平気ということである。

 厄介な相手だ。

 飛んできている剣にも、その炎は纏われたまま。


 回避や受け止めても、下手をすれば炎に一秒ほど炙られてしまえば重傷になるだろう。同時に、1動作の隙が出来る。

 エニューオーとしては、剣を拾うという動作無しに次の行動に移れる。

 正攻法でまともにやり合っていては、一方的に不利になってしまう。


 なので──。


「空を切り裂け──暗月!」


 こちらも斬撃を飛ばして、炎の剣の到達を防ぐ。

 必要最低限の切り裂く動作で、弾くだけの小さな衝撃波。

 空中で二つのエネルギーがぶつかり合い、炎の剣は甲高い金属音を発生させながら宙に舞った。


 私はそのまま、二撃目の衝撃波をエニューオーへと放つ。

 相手の攻撃とは最大のチャンスなのだ。


「ほう、それが巨人の抜け殻を葬ったという……」


 自らに透明な刃が迫っているというのに、エニューオーは涼しげな顔をしていた。

 それもそのはず、彼女に隙など出来ていなかったのである。

 一瞬にして、炎の剣を手元に戻して、ただ立っているだけで衝撃波を霧散させていた。身体に炎を纏わせて。


「全力で放つと月まで斬って半月にしてしまいそうだからな、手加減はしているつもりだ」


 ……と、格好付けて言ったが、本当はアレを全力で放つためには溜め動作が必要なので出しかねているのだ。

 万が一の可能性として、戦闘狂のアイツだ。全力を楽しむために溜め動作を待ってくれたとしよう。


 その場合、あのでかい図体の巨人ならまだしも、エニューオー相手なら回避されるか、炎の剣を投げて軌道をずらされるか可能性も高い。

 つまり……トランプで言うのなら、ロイヤルストレートフラッシュという低確率を狙うために命のチップを賭けられるか? ということだ。私は嫌だね。


 だから、準備しておいたのだ。勝率を出来る限り上げる仕掛けを。

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