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第5皿 お宝発見! 大勝利!

「ねぇ、ジス。あたし達って、もうパートナー? パートナーよね? ね?」


『あ、ああ』


 あれから一夜明けた。

 朝の森は、薄い霧を発生させているがどこか清々しい。

 私達は、その中を歩いていた。

 盗賊のアジトを目指して。


 ……といっても、私は皿なので、ヴェールに両手で大切に扱われている状態だ。

 そのヴェールに違和感を覚えていた。

 何故だか無性に機嫌が良さそうなのだ。


「うん、もうパートナーなんだよね。一緒に居て、同等の存在で、あたしをいじめたりもしない!」


 その丁度良いサイズの美乳にギュッと押しつけられ、堪能。

 皿になっても良いものだ、おっぱい。


『ヴェール、お前っていじめられてたのか?』


 最初に出会った時の印象や、村人達からの話では考えにくいような……。


「うん、ここに来る前はね……。何をやってもダメで、周りには自分よりすごい人しかいなくて……。その内、なんで役に立たないあたしが生きてるのかなって思い始めて……」


『重いな、おい……』


「あ、あはは……ごめん。でも、今はジスがいる! あたしだけの特別なジス!」


 ここまで重い“特別”はゴメンだが、真っ向から否定してしまうのもいきなり叩き割られてしまう可能性がある。

 最初と印象が変わっても、事実コイツは私を片手間でコーティング材に変え、残りの身体を流してしまったのだから。


『私には、お前の気持ちが分からない』


「そ、そう……だよね……」


 しょんぼりと落ち込んでしまうヴェール。


『私は、周りにどんなモノがあっても光り輝ける特別な存在だからな! いつ、いかなる時も最高の一品! だから、まぁ、その私を両手で抱いていられるのだ。誇りに思え、自信を持て』


「う、うん! あたし、これからがんばる!」


 また明るくなるヴェール。コロコロと表情が変わって面白い奴だ。


 そんなよくわからないやり取りをしていると、盗賊のアジトが見えてきた。

 山中にある洞穴で、奥に住居や宝物庫があるらしい。

 入り口に見張りが二人。


「ねぇ……ジス。……大切な話があるの。実はわたしは──」


『ああ、わかったわかった。だけど今は、また重い過去話は後回しだ。終わったら何でも、うんうん頷きながら優しく聞いてやる。だから、さっさと終わらせるぞ!』


「……そう、だね! これが無事に終わったら言う事にする!」


 三人称視点スゴーイ(TPS)で木陰から様子をうかがい、相手の目線がこちらから外れたところで飛び出した。


 私は、徐々に慣れてきたラップを使う。

 見張りの盗賊二人の顔面へと巻き付けるように放つ。

 二箇所同時、それも正確に。


 次弾で二人の両腕、両脚ごと身体をラッピングする。

 何重にもする事によって強度なども補強。

 これで見張りは完全に動けなくなった。


「すごいわね……」


 ヴェールが感嘆(かんたん)の声を上げた。

 遠距離から、透明で見えにくく、音も無く相手を拘束。

 意外と使い勝手がいいのかもしれない。


『見張りの交代が来る前に行くぞ』


「うん! ジスがいれば何もかも平気な気がしてきた!」


『当たり前だろう。私は最高の皿なんだからな』


 洞窟──盗賊のアジトの中は広かったが、内部には三人しか盗賊がいなかった。

 村で倒した盗賊達で、ほぼ全てだったのだろう。

 同じようにラップで拘束。


 万が一のことを考えて殺してしまう事も考えたが、可哀想だからとヴェールに止められてしまった。

 同じクズ仲間だと思っていたが、どうやらファッションクズだったらしい。

 よし、これからは騙す側にまわれる!


「ここが宝物庫っぽいね、ジス……」


『ああ……』


 入り組んだ通路の奥、鉄製の扉を開くと宝石や金貨が雑多に置かれていた。

 おとぎ話に出てくる金銀財宝の山、とまではいかないが、それなりの額になりそうだ。

 たぶん集めたら大きなリュック一袋分くらいはある。


『ん? なんだこれ。木の実か』


 木製のテーブルに置かれた宝石と宝石の間に、何か木の実らしきものが置かれている。

 それが、やけに光り輝く文字で主張してくるのだ。“泡の実──スキル取得アイテム”と。


「木の実……? 宝石と一緒に置かれているという事は、値打ちモノっぽいのかな?」


『いや、何か文字が浮き出て……』


「うん? 何も見えないけど」


 そうか、これが“サーチ1”の効果なのかも知れない。

 何か特別なアイテムを、私だけに教えてくれるのだ。

 となれば、試してみるに限る。


『ちょっとその木の実を皿に載せてみてくれ』


「う、うん」


 ヴェールは恐る恐る木の実を手に取り、皿の上にゆっくりと置いた。

 すると──皿のフチに“洗剤スキル取得”と文字が浮かび上がった。


『経験値は入っていないみたいだな……。どうやらこの皿はレベル関係なく、何か特別なアイテムを載せてスキル単体で得る事もできるようだ。スキル取得の“専用アイテム”と言ったところか』


 泡の実と書いてあったので、たぶん置いた物と似たようなスキルを得ると仮定しておこう。

 前回取得した“サーチ1”というスキル、これから役立ちそうだ。1から2になったらもっと幅広く何かを知る事が出来るのかも知れない。


『ちょっと試しに使ってみる』


 得たばかりの“洗剤”を使ってみると、皿の表面にねっとりとした透明な液体が出現した。


『ヴェール、触れてみてくれ』


「わかった。ちょっと触ってみ……う、ヌルヌルしてるぅ……」


 名前が名前だけに、これで皿を洗うのだろう。

 女の子にヌルヌルしてると言わせるとは最高の性能だ。


 ヴェールは嫌そうな顔をしながら、川で汲んでおいた水筒で洗い流す。

 その時に泡が発生していた。

 さすが、元のアイテムが泡の実だ。


『というかこれ、水は別なのか……』


「そうみたい……」


 微妙に完璧では無いところが、本来武具では無い皿という感じがする。

 まぁ、これはこれで色々と使えそうだ。

 戦闘で相手を滑らせたり、大量に泡立たせて目くらまし。

 エロい事では、これでヴェールの身体を洗うという口実で水浴びや風呂に……げっへっへ。


「あ、こっちにすごいのあった! すごいのあったよ! ジス!」


『ん? どうした?』


 私は視点を動かす。

 宝石や金貨から浮いている、もう一つのモノ。

 それは──あった。


 ルビーのように赤い鱗、ピンク色の断面。

 太さは子供の胴体くらいだろうか。


「ドラゴンの尻尾だよ!」


『神話の存在じゃなかったのか……?』


 確かに見ようによっては、超巨大な爬虫類の尻尾……の切り落とされた先端である。


「あたし、話に聞いたことがあるんだ。本当にそれとそっくり!」


『普通じゃない宝石鱗に、この大きさ。何より未加工っぽいのに腐敗していない……』


「ねぇ、ジス! これを料理して、皿に盛り付けたらすごい経験値が入るんじゃない!?」


『そ、そうだな。普通の料理でもそれなりに経験値が入っていたのだから、ドラゴン肉ともなれば……』


 さすがにこのシチュエーションは胸が高まってしまう。

 皿になってしまったのは不本意だが、ドラゴンの肉を載せられるのならワクワクしてしまう。

 冷蔵庫を召喚して、何とか押し込んで保管。残りのスペースはかなり少ない。


 こんなお宝、持ち歩いていたらいつ盗まれるのかわからないので、冷蔵庫を消して必要な時になったら取り出すことにした。

 大体、料理方法が分からないし。


「やったね、ジス。大収穫!」


『ああ、盗賊のアジト攻略、無事に終わったな。楽勝だ』


 私を手に持ち、ジト眼の気だるい表情ながらも、達成感の可愛い笑みを見せるヴェール。


「あ、それでね。話があるの……」


『ああ、入り口で言ってたやつだな。どうした?』


「その……もう都市国家アテナイ救済なんて良いから、あたしと一緒に、ずっと一緒に二人で遠くに……」


 その時、ヴェールのみぞおち辺りから──二本の金属板が生えてきた。


「……あ、れ……」


 それが二本のショートソードだと認識した時には、刃に魔術の光が灯り──。


「死になさいよ」


 背後の誰かの声と共に、ヴェールは両断された。

 上下二本、血しぶきの弧を描く光刃は──赤い半月のようだった。




 ヴェール──だったと信じていた……いや、信じさせられていたモノは、地面で動かなくなった。

 今思えば……、注意深く観察していれば、そのフラグは色々とあったはずだ。

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