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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
二章 同じ皿の飯を食う冒険者ギルド、アルゴナウタイ設立

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第17皿 金貨? 文鎮にもなりゃしねぇ!

「しょ、食事処……“アルゴナウタイ”のチラシよ。受け取りなさ……いえ、受け取って……ください。お願いします、本当にお願いします……うぅ」


 慣れない事に疲れ果てて、死にそうな表情の幼女──クリュティエ姫。

 チラシを持つ手はぷるぷる震え、屈辱で半泣きになっている。

 普段のアイツを知っているとかなり楽しめるのだが、この場面だけ見て、ただのいたいけな幼女として勘違いしているエニューオーからすると、マッチ売りの少女的な場面に見えるのだろう。


 ちなみにアルゴナウタイというギルドの名前は、元マスターがギルドマスターにランクアップしたため、本名である“イアソン”から連想して神話の英雄船団から名称詐欺っ(いただい)た感じである。


「がんばれ……がんばるんだ!」


 拳を握りしめて、遠目から熱く応援しているエニューオー。

 結局、チラシをほぼ受け取ってもらえずに時を告げる鐘が鳴った。

 それを聞いたクリュティエは、とぼとぼと移動を始める。


『私達も追いかけるぞ』


 時間によってチラシ配りの場所を変えるように、事前に指示していたのだ。

 これは偶然だが、色々と魔女対策の工作を仕掛けるのにも場所移動は都合が良い。

 さて次の場所は──。




 ──見つからないように尾行完了。


「この場所は……あまり好きでは無いな。下々の者を上から塗り潰して、土台にしている感じだ」


 眉を歪ませながら、エニューオーはそう小さく呟いた。

 ここは綺麗に区画が整えられ、人工的に緑が植えられた富裕層街。

 スラム街と対照的な場所で、立派な屋敷などが数多く建っている。


「うぅ……ここ本当に嫌……」


 尾行中で離れていてるクリュティエも、意図せずこちらのエニューオーと同じようなことを言っている。

 もっとも、その理由は違うものだろう。

 クリュティエ的には、王位からは遠くても一応、血筋での立場あって屋敷を構えていた場所である。


 そこにチラシ配りとして、給仕服を着て舞い戻るのである。

 屈辱的であろう、そうなのだろう。私としてはちょっとおもしろい。

 きっとブリリアント辺りがこれを知ったら、こちら以上にニヤニヤしてくれるだろう。


「あのクリュティエという少女もあんなに嫌がって……このチラシ配りというものに、本当に何の意味があるというのだ!?」


 ……何かこの魔女と並べられると、私の方が悪役のような気もしてきた。

 いや、元から正義の味方でもないが。


『身も蓋もない言い方だと、ただの宣伝行為だ。だが、実際に見ればどうしてギルドの食事が人気なのかは理解できるだろう』


 ほれ、とラップで矢印を作って、少し離れた場所を指差す。

 そこには小綺麗な場所に住んでいたであろう、小綺麗な貴族……いや、元小綺麗だった貴族が落ちぶれて、小汚い姿でフラフラと歩いていた。

 煌びやかだった金糸で縫い合わされたベストは泥とほこりで汚れ、実用性乏しいシルクのズボンは擦れて破れている。


「お、おい。誰か。食い物を寄越せ……! 俺は大貴族だぞ……!」


 辺り構わず、しゃがれた声で怒鳴っている。

 その内、道を歩いていた中流階級らしき男性に向かっても首根っこを掴みながら絡む。


「早く食い物を寄越せ! 俺を誰だと思って……」


「止めてくれよ。誰だって明日食べるものにだって苦労してるんだ」


 中流階級らしき男性は、貴族の手を振り払い、そのまま歩いて行く。


「ま、待て。待ってくれ……。か、金なら……金ならいくらでもあるぞ、ほら!」


「金貨で腐らないアテナ像は買えても、食べ物は買えねーよ。……もう文鎮にもなりゃしねぇ」


 哀れみの眼で見られ、唾を吐きかけられて倒れ込む貴族。

 他の通行人も似たようなものである。

 貴族達は落ちぶれ、その元で働いて頭を下げていたであろう者たちはそれらを見限っている。


「ジスよ、あれは一体?」


『以前から食料の価値が上がってはいたが、それが最近になって一気に青天井を突き抜けた。同時に公務員達の高給も支払われなくなり、金の価値が破綻した。……というか、お前グライアイなら知ってるんじゃないか?』


「いや、さんすうとか細かい事はあまり……」


 脳筋か、コイツ脳筋なのか。


『人間、生きるために本当に必要最小限のものは、水と食料だからな。所詮、信用のみで成り立っている金なんかのために、希少になりすぎた食料を手放さなくなったのさ。外部で使えるならともかく、外への移動もリスクが高いからな』


「なるほど、アテナイは陸の孤島状態ということか。今思えば、マンバは頭が良かったな」


 金、物流のコントロール。やはりアイツの仕業だったか。

 だが、それだけでこの状況を作り出せているとは思えない。

 さらなる情報が欲しいところだが──そのためにコイツを満足させなければならない。


『お、クリュティエが、あの貴族にチラシを渡しに行くぞ。きっと面白い物が見られるはずだ』


「あの小さな子が、ついに努力を実らせるのか!?」


 何かエニューオーの眼が少女のようにキラキラしている。

 結構良いガタイでこれは、ギャップで少し可愛いのかもしれない。


「ち、チラシ……チラシを受け取ってください……。もう一時間、誰にも受け取ってもらえてないんです……」


 ビクビクしながら、クリュティエの小さな手が震えと共にチラシを差し出す。

 それを貴族は、うるさい羽虫のように払いのけようとするが──。


「あ、あなたはクリュティエ姫……!?」


 瞬間、クリュティエは眼にライトが灯ったかのように輝きを得て、表情をいつもの自信満々の小憎たらしいものに戻した。


「バレてしまいましたか、バレちゃいましたか! このみすぼらしい給仕服でも高貴なオーラを隠しきれませんでしたか!」


 さっきまでのいたいけな幼女感はどこに。


「で、ですが、姫がどうしてそのような格好で、チラシ配りなど……?」


「そ、それは……世を忍ぶ仮の姿というか、庶民達ともふれあえるように極上の配慮というか……。そ、そう! 身分を隠しての世直しのためです!」


 今のクリュティエの身分は、まごう事なき最底辺である。

 普通のウェイトレスならまだしも、現状はまだ予断を許さないので超低賃金。

 自ら超低賃金設定したクリュと同じという因果応報である。


 まぁ、それでも逃げ出さずにやっているだけ、私も認め始めてはいるが。


「どんな人間でもお腹が空いたら死んでしまうと学んだわ。あなたもこのチラシを受け取りなさい。本当はチラシをくれくれと誰も彼もが、私に救済の手を求めるが如く忙しいのですが、特別に渡してあげましょう」


 現在、クリュティエは朝から数枚程度しか配れていない。

 ちなみに人なつっこいクリュが配ると数分で紙束が消滅する。


「このチラシは……。な、なんと!? まだこの時世に開いている食事処があると!? だ、だが出している物は毒肉……」


「恐れてはいけません! 特別な調理法で食べられるようにしてあり、念には念を入れて解毒の魔術が使える者も待機させているのです!」


「ほう……それは興味が。……い、いえ、ですが、こんな大衆と一緒の物を食べるというのも、貴族としては──」


 そこは織り込み済みである。

 ようは実際に美味いか、食いでがあるかではない。

 こういう金の余っている人種はブランドというものが好きなのだ。実体というより、高価な希少性を食べるのだ。


「ふふ、ちゃんとそれなりの地位にある者たちのために、希少部位の料理を用意しているわ。一匹から少量しか取れない、極上の一皿をね!」


「な、なるほど……。それなら……。見学がてら、寄らせてもらいましょう!」


 貴族はチラシをひったくるように受け取り、言葉とは裏腹に猛ダッシュしていった。下らないプライドだ。


「ジス、今の話を聞くに……貴族を生かすためにカリュドーンの猪を料理しているのか……?」


 少しだけ不機嫌な表情で、私を見てくるエニューオー。

 その言葉を急いで否定する。


『慌てるな。お前も実際の料理の安さを知っているだろう?』


 エニューオーが酒場で頼んでいた本日のオススメセット。というか生産性の都合で今はメニューがそれと数種類しか無い。


「ふむ、確かに安くてボリュームがあった」


『金を持っている相手からは希少部位で搾り取り、それを普通の料理分に回している感じだ。金儲けのためだけじゃなく、冒険者ギルドとしての評判の下地作りというのもあるからな。──本当は全員から搾り取れるだけ搾り取ってやりたいが!』


「なるほど、そのような考えで行動していたわけか。納得した。それにオマエの人柄についてもだ」


 人柄というのは良く分からないが、納得してもらえたようなら何よりだ。


「では、ジスよ。最後に口だけの存在ではないと、実際に戦って証明してもらおう──」


 当初からそんな展開になる予感はしていたが、再びチラシを渡せる相手を探し始めて半泣きの幼女をチラ見しながらなので、微妙に締まらない感じだった。

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