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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
二章 同じ皿の飯を食う冒険者ギルド、アルゴナウタイ設立

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第16皿 初めてっぽいお使い姫

『エニューオー、お前に聞きたいことがあるのだが──』


「何を聞きたいかは理解できる。が、こちらの質問に答えてからにしてもらおう。その後に、我、個人が話せることは話してやる。──グライアイのこともな」


 色々と直球で聞こうと思っていたが、それはお預けにされてしまった。

 だが、グライアイの目的や、今までとこれからの行動原理なども知れるチャンスだ。

 もう少し魔女様に付き合ってやろう。


『わかった。こちらも話せることは話してやろう』


「助かる」


 会話だけ見れば真面目なシーンに思えるが、実際は片方が皿なので……いつもながらかなりシュールな図である。

 こんなことなら誰かに憑依でもしておくんだった。


「まずは、食事に使わなかった部位はどうしているのかを知りたい」


『カリュドーンの猪のか?』


「そうだ。さすがに骨、皮は酒場では使えまい。そして、返答次第によっては……軍神アレスの剣の一薙ぎによって周辺は血に染まるだろう」


 すげぇ物騒なことを言っているな、おい。

 だが、本物の魔女エニューオーであれば、それくらいは容易いのだろう。

 嘘を吐いて、どこかの雷神よろしく骨と皮から蘇生魔法で猪君たちをエコっぽく蘇生させていますと適当ぶっこいても──。


「もちろん、偽証の場合はさらなる地獄を見せようぞ」


 正直に言うしか無いか。


『アテナイの骨工ギルド、革工ギルドの職人達と協力して、少しずつだが製品にしているところだ。さすがに捨てる部位も出てくるが、それは最小に留めている』


「ふむ……。食べるために狩り、生きるために加工する。それは良しとしよう。──だが、食用に不向きとされた毒のあるカリュドーンの猪をどうやって、それを食べに来る客をどうやって、どうやってだ」


 どうやって、どうやってと意外と細かい奴だ。

 こういう奴には実際に見せてやった方が早いだろう。

 確か今の時間は厨房にエリク、外にクリュティエ姫がいたな。


『わかった、それじゃあ私を持ってまずは厨房へ向かってくれ』


「も、持つ……イージスを……か?」


 急にまごついた口調になってしまった。

 何をためらうのだろうか?


『そうしないと、ただの客一人で厨房へ行くなんて不審者一直線だろう?』


「そ、そういう事情なら……。い、いいのか? 触れるぞ? 触れちゃうぞ?」


 口調がブレ始めている気がする。

 エニューオーの、武器を握り続けて出来たであろうゴツゴツとした、たこのできた手のひらが皿の私を両端から包み込む。

 本当なら胸に抱き抱えて欲し──いやいや、今はさすがにそういう状況じゃない。




 妙におどおどしているエニューオーに運ばれ、厨房までやってきた。

 まるでこのリアクション、憧れの王子様に出会ったヴェールのようである。

 もしかして陶器マニアか、こいつ?


『おーい、エリクちょっといいかー?』


「はい、ジス君。丁度一段落したところです──……おや? その方は?」


 厨房の中、休憩中であるらしいエリクを見つけた。

 ここは、酒場の厨房としてはちょっと広めに作られており、宿屋と同時稼働でも耐えうる感じだ。元から質の良い金属鍋や、年季の入った木製まな板などが大量にあったので大助かりである。必要な冷水や氷は、便利魔術師ヴェールが馬車ウマの様に働いている。


 他の人員としては料理長エリクに調理技術を教えてもらっている最中のマスターと、手の空いている冒険者などに割引券を渡して皿洗いや皮むきの雑用組。

 ピーク時には、航海中の海賊船のような狭苦しい慌ただしさになる。

 冒険者ギルドとして本格稼働した時のことを考え、エリクを外部で動かせるようにするためにもう少し人員を補強したいところである。


『ええと、こいつは──』


「グライアイのエニューオーだ」


 私の言葉を遮って、エニューオー本人が衝撃的な自己紹介をしてしまった。

 これにはきっと、エリクも度肝を抜かれて──。


「それはそれは。僕はエリクと申します。仕事は料理、趣味は食べる事、ですかね」


 普通のリアクションで返している……。

 これは私がおかしいのだろうか。警戒しすぎだったのだろうか。


『それでエニューオーにカリュドーンの猪を捌くところを、最初から見せてやって欲しいんだ』


「捌くところですか……。ある程度加工済みのものしか、ここにはありませんが」


 しまった、すっかり忘れていた。

 確かに丸々一匹、ここで最初から血抜きから解体までこなしているわけではない。

 うーむ、“ほうちょう”を使わない場合でも、食べられる肉にするまでは場所が汚れたりするので、見せようと思っていた手順は難しそうだ。


『ま、まぁ実際の手順は無理でも、簡単な説明で……』


「はい、わかりました。ええと、どこから話しましょうか。毒があって食べる事のリスクが大きすぎたカリュドーンの猪を、ジス君が解析して毒の回り方や、危険部位を特定したことでしょうか」


『特定した危険部位は肝臓、卵巣、精巣』


 ちなみに精巣とはキン○マのことだ。

 クリュには絶対に説明できない。逆にクリュティエ姫には雇用主への報告と称して、長々と説明して顔を真っ赤にさせて楽しんだ。

 私は! 幼女だろうと! 友以外には容赦はしない!


『そこから死後、時間をかけて全身の肉にまで毒が回ることを発見した。そこで狩った直後に特定部位を切除するやり方で、無毒化したのだ』


「なるほど」


「毒の部位も、漬けて発酵させれば食べられそうなので色々と研究中です」


 こちらの漬けての毒抜きは、あの異界のレシピメモでフグの糠漬けというものがあってそれを参考にした。

 それにしても、悪名高い毒魚のフグをモリモリ食べるなんて“ニホン”という異界は頭がおかしい。

 まぁ、それがカリュドーンの猪を日常的に食べるというイメージに結びついたのだが。


 ちなみにニホンではフグと呼ばれているが、こちら──ギリシャではフスコプサロと呼ぶ。毒名は“テトロドトキシン”となっていたが、こちらの矢毒(トキシン)と言葉が似ている。実際、矢毒として使うこともあるからだろうか。


 トリカブトの生みの親、ケルベロスもびっくりである。


「ここまでされれば、狩られる側も満足だろう。少なくとも、人間である我も同じように心の臓を止められ、屠殺されて解体されたのなら……そう思う!」


 エニューオーは感心したように頷いているが、人間と重ね合わせるのは重すぎて共感できない。


『納得したのなら、次に行くぞ。あと、客の前ではそういう食欲がなくなりそうな話はタブーで頼む……』


 私はため息を吐きながら、外への移動を指示した。




 店の外では、クリュティエ姫がチラシ配りをして客を呼び込もうとしていた。


「ジスよ、あれは何をしているのだ?」


『なにって……チラシ配りだ。幼女を酷使して、見世物のようにして哀れみを誘って美人局しているとも言うが』


 以前は紙が貴重で、それを捨てるように配るなんてギリシャとしては考えられなかったのだろうが、魔術の進歩によって可能にしたのだ。

 イリアスやオデュッセイアといった叙情詩を書いたホメロスが見たら、この紙の無駄遣いをどう思うか。


 まぁ、商売にとっては楽になったと言えるだろう。

 物を売るというのは、知ってもらうこと、つまり知名度がほぼ全てなのだから。


「つ、美人局? それで、その幼女を酷使して行う行為に何の意味があるというのだ? あの紙に何が書いてあって、何を広めようとしているのだ?」


 我々が眺めているクリュティエは、チラシを渡そうとするもスルーされたり、段々と人間不信になってきてチラシを捨ててしまおうとするも必死に踏みとどまったり、半泣きでギルドの入り口を眺めていたりしている。


『まぁまぁ、今はあの幼女を観察しようではないか。スパルタ王の血族でありながら、生まれた順番だけで片隅に追い遣られ、今や人質のようにアテナイに送られ、ささやかに血税でクズ生活を送っていたら毒殺されかけて、家を売られて、慣れない給仕や雑用をしているお姫様だ』


「そ、そうか」


 意外とエニューオーはどん引きである。

 おかしい……魔女といえば、ヴェールやマンバみたいにクズ行為が大好きで、このシチュエーションも、黒い初めてのお使いを眺めて楽しむみたいな嗜みではないのか?

 少し言葉の路線変更をした方が良さそうだ。


『見守る……というのは大切だからな! 見守るというのは!』


「うむ、そうだな。もしかしたら、小さき子の表情を曇らせて楽しんでいる腐れ外道のようにも聞こえたが、それは勘違いだったようだ。もしそうだったのなら、その場で血塗れ武器を披露するところだった」


 ……セーフ。

 本当にコイツは犯罪組織のトップの一人なのだろうか。

初めてっぽいお使いのBGMで執筆。

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