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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
二章 同じ皿の飯を食う冒険者ギルド、アルゴナウタイ設立

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第14皿 見えなくても大切な者

『いや~、ショタと美青年が二人して汗を流しているのはエロいな!』


 こんなセリフを言うのは誰だ! 私だ! ギルド兼酒場のテーブルに載っている、ジスだ!


「そ、そういうものですか?」


「エリク兄ちゃん、聞き流しちゃった方がいいと思うよ……。この前はフィロタスのじっちゃん相手にも、枯れたエロスがあるとか言ってたし……」


 私の言葉に困惑するエリクと、呆れながら布で汗を拭くサンダー。

 二人は早朝のトレーニングから、ギルドに戻ってきたところなのだ。


『くくく、女性陣にもきちんと同じような事を言っているから大丈夫だ!』


「ジス姉ちゃん、皿じゃなかったら訴えられてるよ……」


 皿故に人の法では裁けない。私は無敵! 無敵の皿だ!

 女性陣からたまに割られているが、気持ち的には──無敵だ!


 ふと気が付いたが、ヴェールの奴が酒場のカウンターから頭半分だけ出して、隠れながらこちらを覗き見ている。

 視線はエリクへ一直線。

 呼んでやろうかとも思ったが、王子様が関わると行動が全て空回りする運命を背負っているらしいので放置しておこう。スルー。そのまま二人との会話を続ける。


『そういえば、二人はフィロタス鬼教官の元で一緒に鍛錬をしないのか?』


「俺は昔からやってるから、急激にそういうことはしないかなぁ」


 というサンダー。

 それに同意と言った感じで頷くエリク。


「そうですね、僕も毎日自分のペースで鍛錬をしています。それに、僕の場合は戦闘のためではなく、食べた分の脂肪を燃やす事と、料理のための筋力作りですから」


 王子様体型のエリクは、そんなことをしなくてもイケメン中のイケメンだと思うが。

 それに、料理のための筋力作りとは……。


『そんなに必要か、料理に?』


「ええ、基礎の鍋を振る動きから、包丁さばきのための剣術等々」


『やっぱり、その“暗月”って刃物……包丁じゃなくて刀なんじゃ?』


「ハハハ、ただの包丁ですよ包丁」


 エリクがいつも腰から下げている日本刀。アレを包丁と言い切るエリクは意図的なのか天然なのか。

 それなりの長さのために、狭い場所ではかなりアクロバティックな取り回しで肉などを捌いている。

 これから早朝の仕込みも、その自称包丁でするのだろう……。


 おっと、そうだ。もう朝だった。そろそろギルドを開くための準備が必要である。

 主に、とある理由で繁盛してきた酒場としての方面で。


『サンダー。そろそろ二階のクリュ達を起こしてきてくれ』


「あー……うん」


 清々しい雰囲気の朝とは真逆で、急に歯切れが悪くなったサンダーの答え。

 そういえば、クリュのことで何か引っかかっていそうだ。

 ネックチョッパーと対峙した時に、サンダーが離れていた瞬間に色々起きてしまったためだろうか?


「起こしてくるよ……」


 サンダーは二階への階段を登っていった。

 それを見送ってから、私はエリクに提案をした。


『──なぁ、急に足りない材料が出たりして、それの買い出しをサンダーとクリュに頼みたいなんて事はないか?』


* * * * * * * *


 というわけで、私とサンダー、それとクリュで買い出しに来ている。

 あれから街は物価の上昇が加速度的に進み、雰囲気は朝だというのに人々はどんよりとしている。

 ようやく大多数の公務員ですらその煽りを受け始めて、国の危機だという実感が湧いたのだろう。


「なぁ、このくらいの買い出しなら一人だけでも良かったんじゃ。三人も必要だったのか?」


 そうサンダーが不満を漏らす。

 一枚と二人だから、合わせて三人ということなのだろう。


『クリュはまだアテナイに慣れてないから、サンダーがエスコートしてやる役だ』


「よろしくお願いします! サンダーさん!」


 力強く、両拳を握って気合いを入れる小さなクリュ。その身体に比例して歩幅も小さい。

 歩くスピードが速いサンダーに早足で追いついて~、離れて~、を繰り返している。


「そうか。まぁ、姉ちゃんがそういうのなら……」


 サンダーはバツの悪そうな顔をして、クリュの方をチラリと眺めて歩行速度を緩めた。

 何だかんだで、コイツは良い奴なのだ。

 ただ、若さゆえに自分で自分を許せないで、魚の骨が喉に引っかかっているような状態なのだろう。


 そこで、その原因であるクリュと二人で行動させて、解決の糸口にでもなればいいと今回の買い出しを仕込んだ。

 ちなみに私は、クリュの胸当てのように張り付いている。

 いつもならエロい感想が思い浮かぶのだが、クリュは友である。


 表面に触れている小さな胸の膨らみが、今後の成長を期待させてくれるのと同時に、不可侵の神聖さを感じることが出来て嬉しいだけである。

 ……たぶん他人から見たらただの変態だが、友達というニュアンスがあるので全然違うのである!


「あの……サンダーさん」


 クリュはドジっ子性質を発現させて迷子にならないように、サンダーの横にぴったりとくっつくように寄り添っている。

 大通りに出て人混みの中を歩き始めたとはいえ、年端もいかない者同士、何とも微笑ましい光景である。


「先日はありがとうございました──!」


「俺は……何もしていない。できなかった。また守れなかった」


「また……? い、いえ! サンダーさんはわたくしの頼みを聞いてくれて、きちんと依頼者の娘さんを助けてくれたじゃないですか!」


「でも……クリュとデブ──いや、ポリュペーモスという立派な奴を……」


 サンダーは顔を背けてしまった。

 やはり表情を見られたくないくらい、その時のことを悔やんでいたのだろう。


『守るっていうのは、目に見える──その人の身体を守るのも大事だけど、目に見えない──その人の気持ちを守るのも大事なんじゃないか?』


「ジス姉ちゃん……」


「そうです! あの時はあれが最善の手段だったと信じています! もし、わたくしが死ぬようなことになっていても、絶対に後悔はしませんでした! サンダーさんには冥界からでも感謝の言葉をかけていたでしょう!」


「クリュ……」


 こちらを向いたサンダーは珍しく、しおらしい表情になり、泣きそうになりながらも堪えていた。


「あ、でもポリュペーモスさんを巻き込んで大けがを負わせてしまったのは心苦しいです……」


『そこは気にするなクリュ。たぶんポリュペーモスも、自分の行動に満足しているだろうさ。退院してから、さらに力を付けたいと他の冒険者の誰よりも訓練に励んでいるし』


 あの元デブだった巨漢は、今や筋肉太りの巨漢となっていた。

 全身の脂肪を筋肉に置き換えたアイツは、ヴェール曰く“スモウレスラー”という神技を操る存在に似ているらしい。

 冒険者全員もそれに触発されて、ゴロツキだったダメ人間から屈強の戦士へと生まれ変わっている最中だ。


「俺……今度は絶対にクリュを守るから。もうあの時みたいに誰かを死なせたりは──」


「あはは、だから誰も死んでませんって。お皿さんが間一髪のところで駆け付けてくれましたし!」


「そう……だね。手伝いで行ってる演劇の脚本か何かと混同してしまったのかもしれない」


 再び俯いてしまうサンダー、それを覗き込むように近寄りニコッと笑いかけるクリュ。


「でも、その気持ちは嬉しいです! わたくしも守られる価値がある存在になれるように、一生懸命ギルドの給仕のお仕事をがんばります!」


 相変わらず、ギルドの酒場でもドジっ子を発揮して食器を割ったりしているが、それがマスコットキャラか看板娘的になって人気にもなっている。

 クリュのファンという客もちらほらと出てきているが、お触りをしようとしたロリコンは、丁重(びょういん)にお送りしている。


* * * * * * * *


『買い出しから戻ったぞ~う』


 冒険者ギルド兼酒場として営業を開始した我が城。

 以前が嘘のように人で賑わっていた。

 広すぎると感じていた室内は、食事を求める人々でテーブルが埋まり、ネックチョッパーを撃退したという評判で新規の冒険者達が掲示板の依頼を眺めていた。


「お帰りなさいジス君。猪肉と山菜が足りなくなって来たので、また後で狩りに行きましょう」


『おう、エリク。適当に動ける奴を見繕っておこう』


 カリュドーンの猪による被害を減らすために狩猟をギルドで定期的に行い、それをギルドの酒場で調理して客に出す。

 これが意外と──いや、計算尽くの好評で冒険者以外も集まってきているのだ。

 こういう手法は“ジビエ”と呼ぶらしい。


 冒険者ギルドとしても、食事処としても軌道に乗ってきたので金銭的な問題は何とか回避できそうだ。

 後の心配事は……グライアイと呼ばれる組織についてだろうか。

 奴らについては、今分かっている情報が余りにも少なすぎる。


 確かトップが三人──既に倒した“豪奢(ごうしゃ)な服を着た意地悪な魔女(パムプレード)”。それと詳細不明の“血塗れ武器の戦闘狂の魔女(エニューオー)”と、“手段を選ばない恐怖撒きの魔女(デイノー)”ということらしい。


 今のところは相手がこちらを全力で潰しに掛かってくるような姿勢を見せていないものの、前回と今回のケース的にはアテナイで顔を合わせれば厄介な敵対者となるのは間違いない。


 それに、何やら私の過去を知っているような口ぶりの奴もいた。

 エニューオーか、デイノーという魔女にでも穏便に接触できればいいのだが、そう都合良くも行かないだろう。

 また密かに、相手が正体を隠しつつ接触してくるのを待つしか──。


「オマエは、イージスの皿を名乗る──ジスか?」


 考え事をしていたら突然、テーブル席に座っていた体格の良い女性に話しかけられていた。


『そうだが? あんたは?』


「我はエニューオー。グライアイの三魔女が一人である」

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