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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
二章 同じ皿の飯を食う冒険者ギルド、アルゴナウタイ設立

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第11皿 斬首

「お、おい待てよクリュ! あいつ絶対に変だって! ニオイだけで分かるなんて獣じゃあるまいし、あの耳だってきっと人里に降りてきた、頭のおかしくなった精霊(ニンフ)か何かだって!!」


 今、わたくしは防具屋に向かっていた。

 そこに犯人と、行方不明の娘さんがいるかもしれないのだが、それをサンダーさんが肩を掴んで引き留めようとしてきている。


「そうかもしれません。ですが、わたくしは行くと決めたんです! それにもし間違いでも、その時は恥ずかしい思いをしながら謝ればいいんです」


「本当に一度決めたら、突っ走っちゃう幼女ですなぁ。クリュたんは」


 ポリュペーモスさんは呆れた口調だが、付いてきてくれているのでそこまで否定的ではないようだ。

 サンダーさんもそれに釣られたのか、ため息一つ。


「わかった……わかったよ。でもな、もし本当に犯人とされるネックチョッパーがいたらどうするんだ。ジス姉ちゃんとかの話だと、チンピラと違ってグライアイ直属の戦闘集団──“三人歯(オドン)”だった場合はかなり危険だぞ」


 確か、大倉庫で出会ったという黒ずくめのフードの人は、かなりの身体能力だったという。

 でも、時は一刻を争うのだ。


「危険は承知です! だから、わたくしなんかを守らずに、依頼者の娘さんを優先してください!」


「……本気なのか? なんだったら、ジス姉ちゃん達が帰ってきてから……いや、せめて他の冒険者やフィロタスのじっちゃんが合流してからでも……」


「──わたくし一人でも行きます!」


 サンダーさんの手を振り切り、防具屋へ早足で向かう。


「マジかよ……」


「な、なにかサンダーきゅんのやることなすこと、全部反対になってるでござるな。でも、安心めされい! 拙者が命を賭けても、クリュたんの肉盾に!」


「きゅんは本当によしてくれ。でも、もうそれしかないか……」


 ──二人は何だかんだ言っても付いてきてくれた。


「ポリュペーモス、死んでもクリュを守れよ」


「もちろん! その代わり、拙者が死んだら後を頼むでござるよ」





 防具屋のドアの前まできて、その臭いに気が付いた。

 以前、村で嗅いでしまった、記憶の奥底にこびりついて離れない臭気。


「微かですが、中から血の臭いがしませんか……?」


「いや、何も……」


「拙者もわかりませんな」


 気のせい……だろうか?

 だけど、わたくしの選択は変わらない。

 意を決して、目の前の木製のドアを掴んで、そのまま押し開いた。


 チリンチリンと、ドアと連動していたベルが鳴った。

 気付かれてしまったかな、というのと同時に、さらに濃い血の臭いを感じ取る。


「サンダーさん、やはりカウンターの奥の方から臭います。わたくし達が引きつけるので、その間に奥へお願いします」


「俺は一人でも何とかなるけど、クリュは本当に危険だぞ……?」


「はい、だからこそ一番戦力になるサンダーさんが、複数犯の可能性も考えて依頼者の娘さんのところに直行する必要があるんです。優先すべきはわたくしではありません」


 小声でそうやり取りをして、わたくしは防具を見に来たフリを開始した。

 シチュエーション的には、兄が戦闘に関わる職種に就くので、一緒に付いてきた年の離れた妹といった感じだろうか。


「ポリュペーモスお兄ちゃん、この鎧なんてどうです?」


「ん、ああ。頑丈そうだし、頭飾りも綺麗な毛を使っているでござるな」


 防具屋にしては広めの店内。木人(マネキン)に立て掛けてあった、何か気になった重厚な鉄の鎧。呼ばれた……感覚とでもいうのだろうか?

 幸いな事にサイズも大きく、太っていて背の高いポリュペーモスさんも着られそうだ。

 特徴としては、セットになっている兜の後ろにポニーテールのような飾りが付いている。


 そして──そこに声をかけてくる人物。


「そうでしょう、そうでしょう。その毛──附物(つきもの)は私が入手した一品でしてな。幼い動物の毛を使っています。んっんー、我ながら名品」


 カウンター奥の扉から出てきた、何の変哲も無い中年の男性。

 村で出会った盗賊達のように眼も怖くないし、言葉も乱暴では無い。服装も、職人達が使うエプロンの下に清潔なシャツと普通の格好だ。

 でも……奥の扉が開いた瞬間、さらなる臭気を感じ取れた。この人自体からも……!


「わぁー、すごーい! ポリュペーモスお兄ちゃんの初陣にぴったりです! 何か守ってくれそうなご加護がありそう! 試着させてもらいましょう!」


「どうぞどうぞ。鎧の装着は始めてでしょうか? 手伝います」


「あ、ああ。助かるでござるよ」


 店主さんが、ポリュペーモスさんの試着を手伝っている間に、何か武器になるようなものを探す──が。

 ……防具しか無い。防具……そういえば、ここは防具屋だった。

 仕方が無いので、何かの材料として置いてあった中サイズの丸太を両手で抱えた。


 それを棚や防具に引っかけないように持ち歩き、店主の付近に立つ。


「サンダーさん! お願いします!」


 開始の合図。視界の隅で頷いて、店の奥へ向かうサンダーさんが見えた。

 わたくしはそれを確認すると、何のことかと振り向いた店主さんの両膝に向かって──。


「てりゃあぁぁッ!!」


 丸太をフルスイング──店主さんの両膝が反対にボキリと折れ曲がった。

 そのまま店主さんは痛みで絶叫しながら倒れた。


「あああああ、俺おれ折れの脚がああああ!? なんで、なんでええええええ!?」


「く、クリュたん!? もしこれで違ってたらシャレにならないよ!?」


「その時は一生懸命謝ります!」


 村で壺を割ってしまった時も、一日中謝ったら何とかなった! きっと大丈夫!

 これで店主さんは無力化したし、後はサンダーさんが娘さんを救出さえしてくれれば──。


「あれ、いない……」


 わたくしは油断していたのかもしれない。

 相手の外見があまりにも普通だったから。


「なんで、なんでぇ~……分かったんだぁ~?」


 両脚が折れて動けなくなっていたはずの店主はその場から目を離した瞬間に消えていて、今はカウンターの裏側から手斧を持ちだしている姿が見えた。


「俺がネックチョッパーだとなぁ……」


 確かにへし折ったはずの両脚は、元通りになって普通に歩いている。

 いや、それだけではなく──。


「まぁ、いい。死ねェ!!」


 一瞬にして距離を詰められ、眼前に手斧を振りかぶるネックチョッパーの姿が。

 完全に意表を突かれ、避けることも何もできない。

 このまま本当に死──。


「ぐうううう!?」


 痛みに苦しむ声。

 だけど、それは自分の声では無かった。


 ──目の前に鉄鎧の壁ができていたのだ。

 そして、それは片膝を付き、力無くゴロンと横に倒れた。

 それは……わたくしをかばってくれたポリュペーモスさんだった。


「ポリュペーモスさん!?」


「だ、大丈夫でござるか……」


 信じられない事に鉄の鎧は無残に切り裂かれ、腹部から血が勢いよく噴き出していた。

 心臓の鼓動に合わせるように、徐々に流血のリズムも弱く、遅く……。


「んっんー。そうか、思い出したぞ。その巨体と変な喋り方。無名だった頃の俺が昔、襲った孤児院で働いていたやつか。それで正体がバレたのか」


 調査中にポリュペーモスさんが話していた、働いていた孤児院を首になった話ってもしかして──。


「残念……拙者は子供達の仇敵の顔も見ていないし、その名前も知る事ができなかったでござるよ……」


「なぁんだ、偶然か。だが、それも運命。良い事を教えてやろう。お前が付けている兜の毛はな、俺が手に入れた素材で作ったんだ。──あのォ! 孤児院のォ! 子供の髪でなァ!」


「この外道……が……」


 そのまま動かなくなってしまったポリュペーモスさんと、狂気と嬉々に塗れた笑い声を上げるネックチョッパー。

 わたくしはそれを睨み付けながら構える。


「んっんー。そっちのお嬢ちゃん、良い。良いねぇ。死ぬ直前でも気丈。すんばらしい材料になりそうだ」


 わたくしはその言葉を無視して、丸太をフルスイング。

 だが、ネックチョッパーの手斧によって丸太は呆気なく真っ二つにされてしまった。


 ──切れ味と、それを扱う技量が桁違いすぎる。


「力任せの攻撃、児戯ってやつだなぁ……まぁ、子供だから児戯か」


 べったりと血糊の付いた手斧が、ゆらりと迫ってくる。


「さぁて、その永遠の純真を込めた瞳、英雄のような意思を持ったまま──」


 高く振り上げられた鋼の刃。

 もう今からでは、どう動いてもわたくしの身体を切り裂くだろう。


「──材料の生首になってくれよォ!」


「お皿さん、皆さんごめんなさい……。助けられた命、あまり有効に使えませんでした……」


 振り下ろされ──。


 いや、ネックチョッパーの腕だけが切断されて落下していた。

 視線は頭上へ。


 防具屋の天井が網目状に切り裂かれ、そこから天使のようにふわりと着地してきていた青年。


「よう、クリュ」


 その声は、わたくしを村でも助けてくれた大切な友達──。


「お皿さん!」


 止まっていた時が動き出したかのように、天井からの建材と、首も切断されたネックチョッパーが、重力によって地面に落ちた。

 エリクさんに憑依しているお皿さんは、刀を鞘に収めて、意地の悪そうな素敵な笑顔を見せた。

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