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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
二章 同じ皿の飯を食う冒険者ギルド、アルゴナウタイ設立

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第9皿 脂肪フラグ

「というわけで、今から捜索パーティーを分けますぞ!」


 大通りの真ん中で、ビシッと背筋を伸ばし、鋭い眼光で指示をするフィロタスお爺ちゃん。

 その対面に居るわたくし達一団。

 サンダーさん、ブリリアントさん、それと10人の冒険者の皆さん。名前は──……そういえば、まだ名前を知らない。


「あの、失礼ですが、冒険者の皆さんのお名前を教えて頂けますでしょうか?」


 わたくしは初対面の乱暴な印象が残っていて、少しびくびくしながら聞いてみた。

 だが、それに答えたのはニィッと頬を吊り上げた気前の良い笑顔。


「俺の名はティーピュス! 元船乗りだ! こっちは弟分の──」


「アンカイオスです。その節は申し訳ありませんでした。正直、落ちぶれていました」


 仲の良さそうな男性二人組。気の強そうな方が兄貴分だというように、がっしりと肩を組むというか、一方的に載せている。


「……元船大工のアルゴスだ」


「俺は──」


 それからも自己紹介が続く。カイネウス、エウリュトス、ヒュラース、オルフェウス、エウペーモス、ポイアス。

 正直、自分から言い出したのだけど、一気に言われても覚えきれない……。

 それに気になってしまう点がある──。


「な、何か名前の最後に『ス』が多くないですか」


「というかみんなだな! このアテナイでは神話にちなんで名付けられることが多くて、大体はそうなるっす!」


 サンダーさんがおちゃらけながら語尾を変化させていた。


「さ、最後は拙者でござるな……。名前はポリュペーモス……」


 ラストの十人目。

 脂肪だらけの巨漢、汗をかいている彼は──見た事がある。


「……あ、酒場で襲ってきた人」


「ち、違う! 誤解でござる! せ、拙者はただ小さい子を守ろうと!」


 ポリュペーモスさんは興奮したのか、わたくしにぐいっと近付いてくる。

 それを手で押さえ、遮ってくれるサンダーさん。


「クリュにあまり近付かないでくれるか? ただでさえ誤解されるようなことをして、体格差も年齢差もありすぎるんだ。それとも、もしかしてそういう趣味の持ち主かい?」


「さ、サンダーさん。何もそこまで言わなくても……」


 わたくしが、必要以上に怖がっている風に見られてしまったのが原因なのだろうか。

 ポリュペーモスさんに悪い事をしてしまった気がする。


「わ、わかったでござる……。なるべく近付かないようにするお……ふひっ」


 ……やっぱり、何か変な笑いとか漏れたりしてるのが怖いかもしれない。


「よし、お互いを知ることも出来たし、複数のパーティーを作りますぞ! 戦力的に考えて──」


 フィロタスお爺ちゃんが人員の組み合わせを決めようというところで、いつもの糸目スマイルで姿勢良く待機していたブリリアントさんが一言。


「こんなに一気に新しい名前が出てくると、誰か死にそうなフラグな気もしますね。ふふ」


 とても楽しそうだった。


* * * * * * * *


「こ、この三人ですか……」


 チーム分けをして、それぞれで情報を集めて捜索することになったのだが──。


「俺がクリュの横を歩くから、ポリュペーモスはそこから近寄るなよ」


「ひ、ひどいでござるお」


 わたくし、サンダーさん、ポリュペーモスさんのチームとなった。

 横で二人が険悪な雰囲気を醸し出しながら、石畳の目抜き通りを歩いている。


「さ、さて。どこから探すお?」


「そうだなー。行方不明ってんなら、まずは地道に聞き込みからだろう。もう兵士達に捜索願を出してたっていうし、そいつらが探して無さそうな人気(ひとけ)の無い裏通りとか、いかにもなスラム街に行こうぜ」


 サンダーさんの提案──確かに兵士さん達が探したところは、消去法で選択肢から省くのが効率的だ。


「で、でも、クリュたんがそんなところに行くのは危ないでござる」


「く、クリュたん……? わたくしのことですか?」


「う、うん。可愛いから」


 謎の呼び方に戸惑ってしまう。

 それを見たサンダーさんは不快感をあらわにして、割って入った。


「ポリュペーモス、お前本当にロリコンじゃないんだよな……?」


「し、失敬な! クビにされるまでは、孤児院で働いていたんだお!」


「クビになった理由が絶対にやばい気がするぞ……。まぁ、話を戻すとだな。スラム街程度、多少の危険があっても俺がクリュを守ってやれるさ。ただ、一人しか守ってやれないから、お前は自力で何とかしろよ?」


「だ、大丈夫でござる! 拙者はキミ達より年上だからね! なんだったら、この命を賭けてクリュたんを……ま、守るんだな!」


 ポリュペーモスさんは自慢げに鼻息を荒くするが、年上というだけの根拠が適当すぎるような……。もっと、パンクラチオンを体得してるとか、ハルパーを上手く扱えるとか。


「クリュも、探索場所はそれでいいよな?」


「ん~」


 問い掛け──選択肢──何か違う気がした。


 確かに、サンダーさんの言う事は正しいと思える。思えるのだが──。


「わたくしは、大通りを探してみたいです!」


「ん? なんでまた?」


「勘です!」


「えぇ……」


 サンダーさんと、ポリュペーモスさんに呆れ顔をされてしまった。

 でも、上手く説明できないけど、村で虫取りをするときは遠くを探すより、近くの石の裏とか意外に隠れている……みたいな?


「い、いや、クリュ……俺の話を聞いていたのか……」


「はい! とても的確だと思うので、別のチームの皆さんもそちらに行っているはずです!」


「でもだな、的中率が高い方に人数を割いた方が……」


「よ~し、あっちの大通りから行きましょう!」


 昔、お婆様は言っていた。

 直感を信じろと。

 今、この小さな身体に流れる血潮が告げている気がするのだ。最初、お皿さんに出会った時のような熱い気持ちを。


「さぁ、試練をこなしますよ~!」


「もう、どうあっても聞かない感じだな……クリュは」


「パワー系幼女、クリュたん! 引っ張られるお! ハァハァ」


 ──いつの間にか、わたくしが先頭に立って歩いていた。

 最初は守られるとか何とか言われてたような……まぁ、いっか!

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