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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
二章 同じ皿の飯を食う冒険者ギルド、アルゴナウタイ設立

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第8皿 クリュ、がんばる!

「調査! 一緒について行きます!」


「って、言われてもなぁ……」


 わたくし──クリュは、自分でも驚くほどのワガママを言っていた。

 依頼者の娘さんを探すために、わたくしも一緒に行きたいと頼み込んでいるのだ。


「グライアイ関連だと、かなり危険かもしれないぞ?」


 冒険者ギルドの一階、酒場部分でサンダーさんが困った顔をしていた。


「最悪の部類だと、首切り連続殺人鬼──ネックチョッパーの仕業かも知れない」


 ネックチョッパー。

 ここ最近、アテナイを騒がせているシリアルキラー。

 グライアイ所属ということ以外は犯人の素性は不明で、首無しの死体ばかりを量産し続けている。


「しかも、あいつが狙うのは若い女性のみ。クリュも年齢的に危ないと思う……」


「だからこそです! もし、そんな相手なら、わたくしは犯人を許してはおけません! 襲いやすい弱者を狙うなんて!」


「クリュ、熱血してるなぁ……」


 サンダーさんは呆れたような表情でため息を吐く。

 そのまま、こちらを気怠そうに指差しながら、如何(いか)にわたくしが間違っているかという説明を続ける。


「その英雄のような正義というのも素晴らしいと思うけど、付いてくるのなら、せめてジス姉ちゃん達が戻ってきてからでもいいんじゃないか? まぁ、あのエリクとかいう奴は怪しいから、あいつ以外で戻ってくるかもしれないけど」


「エリクさんは良い人ですよ。ご助力頂き、わたくしとアテナイまで御一緒しましたし」


「そうですな。私も色々と助けられました」


 横にいたフィロタスお爺ちゃんも、腕のギプスを軽く割りながら、笑って同意してくれた。

 ウェイトレス姿のクリュティエ様も、威厳に満ち溢れた顔で一言。


「雇い主であるこの私は、基本的に下の者を信じてるのよ。一度は毒殺しようとした相手だとか、成り行き上、雇ったコックだとしてもね」


「クリュティエ様……」


 改めて、許されていると感じたフィロタスさんは、深いシワをクシャリとさせながら、まるで孫の成長を見守るような良い顔をしていた。


「というわけで、誰が怪しいとか不毛なことはお終い! クリュも行きたいなら、自らの意思に従いなさい! このクリュティエ=アリストデーモスが許すわ!」


「……はい!」


 やっぱり、クリュティエ様は良いお人だ。

 村娘のわたくしなんかと違って王族の器であり、彼女と似た顔というのを誇りに思う。


「まぁ、姫さんがそういうのなら……。あと、俺はエリクってやつを、ちゃんと自分の目で確かめないと信用しないぜ」


 サンダーさんも、渋々という感じでわたくしの同行を認めてくれたようだ。


「ふふ、さすが全てをいさめる私の言葉! スパルタの姫ね!」


「おーい、そこの小さなウェイトレスさん。料理まだ~?」


「はーい! この姫な私にかかれば、料理なんてすぐ──!」


 酒場の客からの注文に、元気に答えるウェイトレスのクリュティエ姫。

 現在、酒場でマスターさんが雇っている人間はいないため、わたくしと、クリュティエ姫が雑用や受付をしているのだ。


「申し訳ないですクリュティエ様……! 戻ってきたら交代しますので……!」


「ふっふーん! ドジっ子メイドに交代してもらわなくてもこの程度、なんてことは無いわ!」


 いくつかのテーブルは、マスターさんが作る料理の遅さも相まって、まるで渋滞のようになっている。


「なにちんたら話してんだ! 早く料理持ってこい!」


 ──という、しびれを切らせた乱暴なお客さんもたまにいる。

 それに対して、フィロタスさんがひと睨み。

 2メートル近い巨躯から殺意を感じては、お客さんも態度を改める。


「あ、あの……ええと、訂正します。料理ができたら持って来て頂けると嬉しいです……」


「ふっふっふっふーん! まっかせなさい!」


 このお仕事をきちんとやり遂げて、お店でウェイトレスさんとかを雇えるようにして、お客さんに普通に満足して頂けるようにしないと……。

 このままだと誰も来ないお店になってしまう──!


* * * * * * * *


 どこかの狭く薄暗い室内の中、一人の男が何かを作っていた。


「今度のは、なかなか良い素材だ」


 人間が外部から受け取る情報というのは基本的に5種類だ。

 視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚。

 その中でも、この締め切られた部屋で一番強烈にソレを理解させてくれるモノ──臭いだ。


 臭いの発生源は、水たまりのようにしたたり続けている赤い液体だろう。

 脇に捨てられている肉塊からも、様々な汚物が流れ出している。

 シンプルに呼ぶと、それらが気化して鼻孔に届くモノの名は、死臭というのが適切だろうか。


「完成……。んっんー、作ってる時は傑作だと思えたのに、完成するといまいちか」


 丸い木の板に貼り付けられた、女性の生首。

 リベットで髪を巻き込み、それを十二個で板に固定されている。

 生首が最後に見たであろう悪夢が想像できるように、表情は恐怖に染め上げられている。


「やはり、殺し方(シチュエーション)に問題があったか。こんな下品な表情では、メドゥーサ様を表現することはできない。んっんー……どれ、この前のストックを使うか」


 男は、同じような生首付きの盾がいくつも並べられた部屋から、ドアを開けて次の制作のために出て行った。

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