第6皿 水浴びを見られると因果応報アタック
『私は観察に集中したいから、後は任せていいか? エリク』
「はい。人でなければ、お任せあれ」
カリュドーンの猪の行動パターンや、食肉サンプルが欲しかったので、エリクに何匹か倒してもらうことにした。
エリクの剣術は卓越していて、私の食事によるパワーアップがなくともカリュドーンの猪程度なら普通に倒せるようだ。
あの蛇巨人の時とまではいかないが、小さな斬撃が空を伝って猪に到達。
すると実際に刃に切られたかのように、距離を関係なく威力を発揮している。
『最初の一匹は、この“討伐肉化包丁”でトドメを刺してくれ。皮、骨、人間が食べられる肉と内臓──とイメージすれば勝手に解体してくれる』
「わかりました」
スキルで包丁を出現させて、エリクは刀との二刀流。
一瞬で猪まで距離を詰め、その硬い頭蓋骨へと深く突き刺す。
猪は断末魔すら上げられず、その動きを止めた。
「これは良い包丁ですね。これだけ硬く鋭ければ、食用とする部分を無駄に傷付けずに済みそうです」
一見すると躊躇無い残酷な殺し方だが、猪は自らが死んだという認識すらなく絶命しただろう。
苦しませることをしない、慈悲ある屠殺である。
『人間相手の時と違って、巨人や動物相手だとまったく戸惑いがないな』
「はは……。古くから続く血筋というやつでしょうか」
血筋? エリクは由緒ある家系か何かなのだろうか。
そう考えていると、カリュドーンの猪は“討伐肉化包丁”の効果で一瞬にして解体された。
眼前に広がるのは、血の詰まった袋を破いたようなあまり良くないビジュアルイメージだが、実際の解体はもっとアレなので省略する。
『それじゃあ、もう数匹倒して、そっちは普通に解体。両者を比べてどこが毒の臓器か、どれくらいで毒が回るか、どう倒せば毒を拡散しないで済むかと確かめていくぞ』
呼び出せる冷蔵庫も容量が増えたので、そこに詰め込めるくらいは狩っておこう。
* * * * * * * *
『うっへぇ、私もエリクも、血みどろだな……』
「そうですねー。このコックコートとエプロンは、不浄の魔術が付与されているのでホコリなどには強いのですが、さすがに血とかは落ちやすくなる程度です」
血で真っ赤なシェフ、ちょっとホラーっぽくもある。
ヴェールが起きていれば水魔術である程度はなんとかなるのだが、あいにくと今は疲労で寝てしまっている。
安全のため木の上に吊して、みの虫のようになっている姿が滑稽で笑える。
「そういえば、近くに川がありましたね。そこで身体を洗いますか」
『お色気シーンか!』
「はは、僕の裸なんて望んでいる方なんていないでしょう」
少なくとも私とヴェールは激しく希望しているだろう。
半覚醒していたっぽいヴェールが、身体をビクッと動かしたのは見なかったことにしておいた。
『よし、それじゃあ水浴びシーンへデッパーツ!』
私は“メガサラァ!”と自分で叫びたくなるくらいテンションが上がってしまっていた。
ぐへへ。
川に到着し、無警戒に服を脱ぐエリク。
男だからといって、エロい目で見られないと思っているのかコヤツは! 可愛いものだな、うはは!
彼の若々しい身体。太股は、女性の丸みを帯びたモノとは違い、鍛えられ引き締まっている鹿などの野生動物のソレだ。
腹筋も程よくシックスパックで割れていて、それでいて主張しすぎない程度のくびれが出来ている。
胸板は密着していた時から気が付いていたが、こちらも割と男らしい。男性でも盛り上がる筋肉の胸、男のおっぱい……!
だが、それに反して全体のシルエットは太すぎず、華麗とも言える。あえて華奢さも感じさせる美しい、鎖骨からうなじにかけての少年らしさも残した色っぽいライン。
その尊いイケメン長身細マッチョを、運動したばかりの汗が煌めいて飾っている。
これは抱き締められたくなる部類であり、抱き締めたくもあるギリギリで最高のバランス。
『写真に撮って、そのあとギリシャ彫刻にしよう。うん』
「何を言っているんですか。ほら、ジス君も洗いますよ」
私は、そのエリクのしなやかで女性より美しい指で無造作に掴まれ、身体をもてあそばれ……ああっ!? そこはぁ!? 透明なのォ──出ちゃうぅ!
「洗剤、もうちょっとお願いします」
『おう、出して出して出しまくってやる!』
そんな仲良くお風呂タイム。
暑い季節なので、水風呂と思えば幸せな時間だ。
私の身体は皿。つまり食器洗いをされているのだが……何かこちらばかりで悪い気がしてきた。
うん、他に他意は無い。
『なぁ、エリク。今度はお前のことも洗ってやりたいから、憑依させてくれ。洗いっこってやつだ!』
「ふふ、誰かに身体を洗ってもらうなんて、いつぶりでしょうか。幼少期を懐かしく思います」
オーケーと受け取った!
おらぁ! 欲望ゼロの憑依ぃぃぃいいい!! エリクの素肌すべすべぇぇぇえ密着ぅぅううううう!!
「おぉ、これが全裸のエリク! フルチンというのも開放感があるな!」
『は、はは……あまり恥ずかしいのでそこは凝視しないでくれませんか』
「いいや! 綺麗にきちんと洗ってやるぞ! うん!」
今のこの勢いならヤレる! ヤレるぞ!
泡をタップリ付けた右手で、いや、左手も同時にでもいいだろう!
それを、股間へ──。
「……ん? 見られている気配が」
その謎の違和感を辿ると、視線の先には一本の木。
そこで隠れながら顔半分を出して、眼光を光らせまくっているヴェールの姿が……。
のぞき見というやつだろうか。
ふてぇ野郎だな、まったく! 人の水浴びを覗き見なんて!
私だったら、もうちょっと見つからないように知恵を回すだろう!
「だが……。どれ、少しサービスをしてやろうか」
私はエリクの身体を使って、隠れているヴェールの方へ向かい、腕を組んで仁王立ち。
股間を見せつけるように──!
ヴェールの反応はと言うと、突然の事にショックを受けて噴き出しながらも凝視、ガン見である。顔が真っ赤なのはきっと処女の証だろう、うん。
数瞬、何か通じ合ったような奇妙な間。
その後、どこからともなくカリュドーンの猪が走ってきて、ヴェールを跳ね飛ばしていった。
水面に落下するヴェール……良い奴だったのに。




