プロローグ 狂人製造方法
昔の記憶。最初の記憶。嫌な記憶。
物心ついた時から、母親はいなかった。
スラム街じゃ普通の事かも知れない。
父は酒と薬におぼれていて、すぐに暴力を振るった。
それから守ってくれる光のような存在、父とは違う本当の意味の家族がひとり。
──彼女が家のお金を稼ぐために唯一働いていた。
夕方に出かけて、朝方に疲れて帰ってくる。
お帰りなさいと言うと、彼女は優しく微笑んで、ただいまと言ってくれた。
それから死んだように眠り、起きて仕事へ行くという繰り返しだった。
早くこっちも同じように働きたかったが、彼女に勉強するように言われた。
彼女のために栄養の付く食べ物を盗んできた時は、抱き締められて、そして謝られた。
だからスラム街の住人なのに、盗みはしなくなった。彼女が悲しむから。
ある日、父が、彼女を泣かせていた。
許せなかった。
殴った、父をひたすら殴った。
次の日、逆恨みしてきた父に売られた。
奴隷というやつだ。
表だっての罪人の奴隷では無く、金のために売られた罪無き人を扱う裏の奴隷。
境遇もそれなりに酷い。
一人目の御主人様に虐待されたが、彼女の事を考えたら何も辛くなかった。
悲鳴をあげないのが面白く無かったのか、飽きてまた売られた。
二人目も、三人目も、四人目の御主人様も……数えるのを飽きるくらい繰り返した後に、その魔女に出会った。
魔女は比較的自由な行動を許してくれた。
そこで、久しぶりに家に帰って、彼女に会いに行った。
そこで……久しぶりに……家に帰って……アレ?
なんだっけ……。
うまく思い出せない……けど、父を殺した。
彼女とずっと一緒になれた──!
しあわせ だから まじょに かんしゃ しよう。




