幕間 確率の悪魔に侵されるヴェール
時間軸は一章途中、14~16話のヴェール単独行動時のお話。
幕間はコメディ色が強くなっています。
あたし! ヴェール=モイライ! 美少女天才魔女!
……と、ちょっと好きな地球の物語口調を真似してみたが、実際に言うのは恥ずかしいので止めておいた。
ジスからは、やたらと死んだ魚の目をしてるとか言われてるし。
さて……あたしは今、ハマっているものがある。
それを説明するには、まず師匠からもらった、この魔法の機械の事を理解してもらわないといけない。
ジスに対してはガイドブックの機械とか言っておいたが、これは地球で言うスマホである。
それも師匠が魔法をかけて、この世界でもインターネットが使えるようになっている特別製だ。
インターネットを魔法に変換って、どんなデタラメなんだ。
だが、未だにお子様扱いなのか、ほとんどのアドレスがフィルタリングで弾かれてしまう。
漫画や動画の定額サービスが解放されてるのが、せめてもの情けだろうか。
普段は親近感が持てるファンタジー関連で“あるある”と共感しているが、最近は時代劇を見たりもしている。あれは剣士寄りで新鮮だ。
そういえば、他にもスマホで繋がるサービスがある。
ソーシャルゲームというやつだ。基本無料のガチャを回す感じの。
据え置きゲーム機を持ち込むことに失敗したので、暇つぶしでたまにやっている。
“神の戦略遊戯”とかいう、何か三流感が漂うタイトルだ。ネーミングセンスが無い。しかもβテスト中。なぜ師匠はこれをチョイスしたのか……。
このゲームは、リアルマネーを使ってガチャを回すように勧められるのだが、未だに私は無課金というやつだ。
こんな現実離れした魔術を使えるキャラが引けるぞ! と出ても、周りにすごい魔女がいたのでセールスポイントにならない。
そもそもこのゲームバトル物だし、どちらかというと小さな画面で遊ぶのはパズルの方が好きだ。
そんなこんなで、ジスと都市国家アテナイに辿り着いてからも、暇つぶし程度の無課金で遊んでいたのである。
……はぁ、新作RPGのドラキュエ11か、可愛いツモツモがやりたい。
だが、思わぬ事がおきた。
ガチャの新キャラに、私の白馬の王子様に似た人物がいたのだ。
現実の白馬の王子様の特徴をそのままパクったかのような……。
私はそこまで気にせず、本当にそこまで気にせず……無課金で手に入れていたガチャで使う石をつぎ込む。全てだ。
……結果、出ない。
排出率を見ると5%とか書いてある。
つまり、20回引けば絶対に出るくじ引きという事だ……!
もう結構引いているから、あと少し引けば──。
そう思い、そのガチャのラインナップが変わってしまう前に急がなければならない。
──というわけで、ジスの誘いを断って一人で、異世界アイテムショップ“カザリ”アテナイ支店まできたのである。
「やっほーい、カノ」
「いらっしゃーい。お久しぶりです、ヴェールさん」
相変わらず、店内は雑多に物が陳列されている。
これで広い地下があるというのだから、どれだけの品物が用意されているのであろうか……。
「何かご入り用ですか? 魔術触媒とか──」
「えーっと、魔法のカードをちょっと……」
魔法のカードと言っても、本当に魔法が使えるようになるカードでは無い。
「あー、はいはい。アプリ課金用のカードですね。取り扱いレベルは~……オーケーです。価格は自由に選べるので、ドラクマ銀貨、オボル銀貨、ステーター金貨などのギリシャ通貨からお選びください」
「そ、それじゃあガチャ一回分で……」
ちょっと少額過ぎて恥ずかしくもあるが、どうせ20回目を引けば出るのだ。
ソーシャルゲームで課金というのも初だし、抵抗もある。
「はーい、こちらです~。この銀色部分を削ってコードを入力してくださいね」
細かい買い物なのに嫌な顔一つせず、逆に和やかに笑みを浮かべてくれるカノちゃん。彼女は天使だろうか? 種族はドワーフだが天使だ。天使。
「それじゃあ、入力して~……ガチャをポチッと」
ハズレだ。
何かガルムとかいう無駄に使いにくい犬が出たので捨てた。
「か、カノちゃん。もう一枚……」
「は~い」
ハズレ。ロボットに乗ったモヒカン。
「もう一枚」
「はいはい♪」
ハズレ。嫉妬に狂った義手義足の怖い少女。
「も、もう一枚……」
「うふふ」
ハズレ。
これをひたすら、数十回繰り返す事になった。
「お、おかしい……。5%って事は、20個の内の1個なんだから、20回引いたら絶対に出るはず……」
「ヴェールさん、世の中そんなに甘くないんですよ~」
「え?」
「それ、実際のくじ引きとは違って、一回引いたらまた戻すタイプなんです。しかも同レアリティの他のキャラが出ることもあります」
一瞬、理解できなかった。いや、理解したくなかった。
「つ、つまり……?」
「運が悪かったら一生引けないという事ですね」
「本当にござるかッ!?」
「最初から何となく予感はしていましたが、まさか本当に気が付いていないとは……ショックでリアクションも何か変ですし」
何故くじ引きを毎回戻す!?
ありえない、ありえない、そんな馬鹿な……。
私は放心状態になってしまった。
「でもでも、これで引けなきゃ注ぎ込んだお金が無駄ですよね~?」
「……あ、……あ、あ。うわああああああああああ」
私の中で何かが弾けた。
金貨が詰まった袋に手を付けていた。
「ふふふ、毎度ありです~」
ハズレハズレハズレ。
ハズレハズレハズレハズレハズレハズ。
レハズレハズレハズレハズレハズレハズレハズレ……。
たんまりとあったはずの金貨が半分になった頃、ようやくそれは出た。
「でっ、ででででででで出たああああああああああああ!?!?」
「おめでとうございます。まさか、いくらなんでもここまで運が悪いとは……。煽ってしまった私も罪悪感を感じるレベルです♪」
妙にカノちゃんが和やかなのは気のせいだろう。
「青く輝く瞳の王子……えへへ。何か本当に再会できる気がしてきた」
──この時、あたしはまだ知らなかった。
──ガチャ芸人として歩んでいく第一歩だったという事を。
* * * * * * * *
ユニット名:青く輝く瞳の王子。
コスト:中級第三位。
行動性格:人以外を攻撃対象とする。
特殊効果:料理修業により、美味しい料理を作ることができる。
特殊効果:異界神器“暗月”を装備した時、ダメージ特攻、射程増加を得る。
特殊効果:???を装備することによって、人も攻撃できるようになる。




