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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
一章 魔毒を喰らわば神皿までも

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第27皿 魔女が視た雷霆(ケラウノス)

 あたし──ヴェールは、ジス達と別れて三人歯(オドン)を追跡していた。

 相手は屋根の上を跳び、また一瞬で別の場所へと乗り移っているような人外のような動きだ。

 魔力を使っている形跡が無いため、身体能力だけでそれを成し遂げているのだろう。


 それに比べてあたしは──。


「死ぬほど痛い……」


 殴られ、蹴られた傷が癒えていない。

 その状態で、無理やりに身体強化と移動魔術を併用して追っているのだ。

 いや、まだグーパンで殴られた傷程度ならすごい痛いだけで済むだろう。


 ウォーハンマーのようなもので思いっきり胴体をやられた時の傷が割と致命傷だ。

 治療と痛み止めの魔術でギリギリ持ちこたえていたが、移動に力を裂いているために激痛が蘇ってきている。

 簡単に言えば、致命傷から魔術で回復、そこからまた無理をして死にそうになっている状態だ。


「でも、ここで諦めたら格好悪いわよね……」


 やっと再会できた白馬の王子様が、あたしに託してくれたのだ。

 それに背後に現れていた巨大建造物のような物体は、その姿を真っ二つにして消失していた。

 たぶん、あの刀を使ったのだろう。


 向こうは向こうでやってくれたのだ。

 あたしも走らなければならない。

 ふさがっていない傷口から血がしみ出してきているが、足は止めない。


 月を背に、屋根の上を一つ飛び越える。

 折れた肋骨が息をするのも阻害しているが、このハートは止めない。止めさせない。


「白馬の王子様の相手はお姫様のはずなのに……今のあたしは全力で走る馬か何かね……」


 自嘲気味に笑うと、咳と共に血が出てきた。

 それでも、前方の三人歯との距離を離さない。

 絶対に食らい付き続ける。


 根性が男だけの特権という認識は大間違いだ。

 お姫様みたいな扱いも憧れるが、骨折れ、血を吐き、意識が飛びそうになっても魂だけで踏ん張るというのも女子なのだ。


「……あ、やば……!?」


 着地した屋根が崩れ、身体は物凄い勢いで斜め下へ。

 そのまま民家へ突っ込んだ。


「お、おじゃまします……」


 一家団欒中らしき住人達と目が合った。


「だ、大丈夫か。あんた?」


 壊してしまった家の事より、あたしの心配をしてくれる善人らしい。


「すみません、後で弁償しに来ますので……。お邪魔しました」


 意識が消えてしまうか、死んでしまう前に何とかしなければならない。

 家から出て、飛び立ちながら前方を確認するが、三人歯の姿は既に無かった。


 ……追跡が、失敗してしまったのだ。


 絶望が襲ってくる。

 あの人質の子供の両親が殺されてしまう。

 さっきの家族のように、フィロタスさん達にも、そういう暖かいものがあっただろうに。


 あたしは……、ジスと、白馬の王子様に任されたのに。

 やっと命の重さを感じ取れて、人間を理解しようとして、このアテナイまでやってきたというのに……。

 もう、取り返しの付かない失敗をしてしまったのだ。


 魔術的には、肉体の損傷が皆無での死亡なら──。それからの超短時間なら初級蘇生魔術でも何とかなるかも知れない。

 だが、そのくらいは相手もわかっているだろう。

 プロならきちんと首をはねたり、焼いたり、魔術では蘇生不能にしてしまう。


「……あたしに、未来さえ視えていたら」


 昔は視えていたのだ。

 だけど、人の死の運命を視てしまってから、徐々に──。

 そして、今では視なくなった。


「つらくても……視えていたら、やりようもあったかもしれないのに」


 深い悲しみと共に涙が流れた。

 次の瞬間──前方の建物に一直線の光が天から降ってきた。

 それが何か理解は出来なかった。


 だが、遅れてやってきた音。

 耳をつんざく轟音。

 衝撃波のようなフラッシュバック。


 何故か見えないはずの建物の中が視えた。無事な男女と、炭化しているごろつき達が視えたのだ。


 徐々に暗くなる視界──映るのはフードを目深に被った背の低い少年の背中。


 その手には、短剣の柄と柄を二つ組み合わせたような神器──ゼウスの雷霆(ケラウノス)




* * * * * * * *




『おい、クソア魔女!? おい、生きてるか!?』


 暗闇で聞こえてくるとても不快な呼び名。

 まだ眠っていたい。

 だけど、それを否定して、相手を割らないと気が済まないように思えて、意識が戻ってくる。


『死んでたらパンツを覗き込んでやるぞ、良いのか!?』


「いいわけないでしょ……」


 張り付くように重い瞳を開けると、横にジスがいた。

 粉々で……ちり取りに入っている。


「あんた、素敵な家ね」


『冗談じゃ無い。超高級食器棚ならまだしも、こんな安物で満足するかよ』


 いつものやり取りをして、意識を失う前の状態を思い出した。


「そ、そうだ。ねぇ!? どうなったの!? あたしが意識を失って追跡を……失敗して……あたし……の……せいで……」


 段々と弱くなってしまう問い掛け。答えは分かっていた。

 あの状態で追跡が失敗したら、誰も位置を知る事が出来ずに人質は殺される。

 最後に見えた希望的観測のような幻。あんなものは絶望を深くするだけだ。


『みんな……死んじまったよ。人質の親子も、フィロタスも、ついでに白馬の王子様もな』


「そんな……」


 全てあたしのせいで──。




「あの、ボクを勝手に殺さないでくれませんか?」


「私も、助け出した息子夫婦も孫も生きていますぞ」


 にゅっと出てくる白馬の王子様エリク、傷だらけだがベストスマイル賞がもらえそうなフィロタスと、その人質だった家族達。


「ほぇっ?」


 あたしは思わず、すっとんきょうな声をあげてしまった。

 確か地球では、狸に化かされるとか、赤いキツネが蕎麦だった、と言うコトワザがあった。まさにそんな気分だ。


『あっはっは、ヴェールのマヌケ面は最高だな! 嘘だよ嘘。もしかして覚えていないのか? 自分で、使い魔のフォボスにきっちりと人質の場所を伝えてからぶっ倒れたんだろう』


「そ、そうだったっけ……」


 あの三人歯(オドン)が建物に入るところを見て、それを無意識に伝えてから倒れたのだろうか。

 幻覚を見るくらいだし、記憶の混乱くらいあってもおかしくは無いか……。


「う、うん! たぶんそう! やっぱり、やる時はやる魔女ね! あたしは!」


 だが、ふと疑問が浮かんだ。


「あれ? でも、あたしが倒れちゃったとしたら、誰が人質を助けたの?」


『んー、それがだなぁ……何か雷が偶然落ちて、中のゴロツキ共だけが炭化していた』


「雷……炭化……」


 何か引っかかる。

 何か……見たような……。

 さっきまで覚えていたはずなのに、もう思い出せなくなってしまっていた。


『まぁ、何とかなったからいいじゃないか』


「そうね。終わり良ければ、全て良しとも言うしね」


『よし、これにてアテナイの悪を平らげるディナーは終了! ご馳走様だ!』


 ──後日、大食料庫が破壊された影響で、一気に問題は加速するのだった。

これにて一章終了。

コメディ色の強い幕間数話挟んで二章予定です。

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