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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
一章 魔毒を喰らわば神皿までも

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第26皿 異界神器“暗月”

「ジス殿から与えられた料理のパワーがあれば、この程度のヘビなど!」


『あ、ああ……』


 この自信を取り戻したフィロタスなら、何者にも負けるはずが無い。

 そう思ってはいる……いるはずなのだ。

 だが、心の奥底、記憶の片隅で警鐘が鳴る。


「ぬおおおお! 渾身の一撃を喰らえいッ!!」


 相手は15メートルのヘビの下半身を持つ銀色の巨人である。

 フィロタスが2メートル近い巨漢の老人だからと言って、明らかな体格差だ。

 猛スピードで走り、その銀色の鱗を殴りつけて貫通させるもサイズが違いすぎた。


 同サイズなら致命傷かも知れないが、これでは損傷が浅い。


「ぐおぉっ!?」


 一瞬の出来事だった。

 銀の尾がきらめいたと思ったら、私を装備したフィロタスの身体が吹き飛ばされていた。

 想像以上に素早い。


 私自身は、フィロタスが両腕でガードしてくれたので無事だったが……。


「不覚……良いのをもらってしまいました」


 フィロタスの両腕は骨が突き出し、かなり痛々しい事になっていた。


『お、おい……大丈夫か……!?』


「はい、まだ両足と、のど元に食らい付く牙が残っておりますゆえ! 軍神アレスの加護を我に──」


『……よし、逃げるか』


 ここでフィロタスに玉砕させても無意味だ。

 数秒、よくて数分稼いだところでどうなる。


「じ、ジス殿!? 今、こやつを倒さねばアテナイに大きな被害が!」


『国の事なんて知るか!』


 私が大事なのは私だ。

 こんな隠し球があったと知っていたら、奴らと──グライアイと敵対なんてしなかっただろう。

 むしろヘビの尾をペロペロと舐めながら、土下座でも何でもしてやろうという気概さえ生まれそうだ。


 それくらい相手が悪い。


「た、確かに国だけが滅びるのなら、命を賭ける道理は無いかも知れません。ですが、今は人が残っているのです」


『私以外の奴のことなんて……』


「そんな事を言っても、ジス殿の事は存じておりますぞ。私の古い知り合い、クリュの祖母が殺された時も憤慨してくれたと」


『……チッ。だが、今は相手が』


 現実的に考えて無理だ。

 あんな巨大な相手。

 それでいて素早さもあり、出現時に放ってきた飛び道具も使われたら……。


「──まずい!」


 巨人の頭部──口が大きく開き、飛び道具を発射しようとしていた。

 その方角は、クリュティエの屋敷である。

 まだあそこには、クリュティエ、クリュ、サンダー、オマケのブリリアントもいるはずだ。


「させませんぞぉぉおおお!!」


 フィロタスは叫びながら再び、銀の巨体に走った。

 両腕が砕け、血をまき散らしながら、それでも両足は力強く地面を蹴り上げ──その頭部は巨大な城門をぶち抜く破城槌の如く。


「ぬぅぅおおおおおおッ!!」


 激突、物理的にありえない火花と衝撃波がまき散らされる。頭部からおびただしい出血が見えた。

 フィロタスは反動で吹き飛びながら、空中に浮いている。

 銀の蛇巨人の方はと言うと、何の奇跡かわからないが、体勢を崩している。


 これが人間の根性というやつなのだろうか……。

 だが──。


「……ジス殿。巻き込んでしまい申し訳ありません。本来ならジス殿だけ外して無事なところへ放り投げたいのですが、あいにく両手が動いてくれないのです」


 銀の蛇巨人の口──ビームの射線がこちらに向いていた。

 数瞬後にはどうなるのか、一瞬で予測できてしまう。


『まったく、これだから人間は……。しょうがないから守ってやるよ。国では無く──人間って奴をな』


「ジス殿……後はお任せしました」


『ああ、安心して休め』


 フィロタスは安らかな顔で眼を閉じた。


 光──広がる。

 周囲のガレキは焦げ、溶け、硝子の結晶となり、存在を消滅させていく。


『柄にも無く、格好付けで安請け合いしてしまったな』


 私は既に発動準備していたスキルを使った。


『──今ここに、人命を守れ! “反射魔術1(イージス)”!!』


 銀の蛇巨人が放った光と、私の力が拮抗する。

 一秒にも満たない時間、魔力が底を突いた。


 永遠に感じた一瞬。


『はぁはぁ……』


 運良く相手からの光も消え去り、生き延びることが出来たようだ。


 銀の蛇巨人も、こちらを脅威対象から外したのか、別方向へ移動していく。

 進行方向はクリュティエの屋敷だ。


『くそっ、うまく反射させる事が出来なかったか……。もうどうすりゃいいんだ』


 あの相手に対抗出来る手段が無い。

 反射によって倒すのが唯一の方法と思ったが、初見でそれは無理だったのだ。

 後はせめて、フィロタス以上の能力を持つ奴が、私の料理でも食べてパワーアップでもすれば……。


「ジスさん、今のをもう一度だけ頼めますか?」


 人質の子供を守っていたエリクが話しかけてきていた。


『どうするんだ? 既に魔力が尽きかけていて、さらに短い一瞬しか防げないかもしれないぞ』


「僕が戦います」


『……冗談だろう?』


 街のボトルアタッカーや、さっきのゴロツキからも逃げていたエリクなのだ。

 そんな事をしても……。


「見たところ、あれは神の眷属である、巨人族の身体です」


(テオス)……。巨人(ギガス)……』


 その言葉──何か記憶の底から引っ張られるような、妙な感覚のトリガーとなる。


「ですが、魂を感じられません。さしずめ、機械巨人と変わらないのでしょう」


『随分と詳しいんだな』


「以前に少しだけ縁があったので」


 この状況なのに(・・・)、妙に冷静なエリク。

 いや、この状況でも(・・)……なのだろうか。

 普段の優男の雰囲気そのままだ。


「それに、ジスさんの皿から私も少し食べさせてもらいましたから」


『そういえば、食べていたな……』


「料理人として、一皿の恩をお返しするだけです」


 私は、その言葉に噴き出してしまいそうになった。


『サイコーに格好良い言葉だな』


「え? そうですか?」


『ははは。私がよく言う台詞だからな』


「ふふ、二人は似ているのかも知れませんね」


 笑い合いながら、二つの魂は密着した。

 エリクの身体に、イージスの皿をラップの紐で胸当てのように装備。


『それで、私は防ぐだけでいいのか?』


「はい。アレへの攻撃は多少、溜めなければいけないので。その間だけお願いします」


『分かった』


 もう、こうなればダメ元だ。

 このエリクが何をやろうとしているのかは分からないが、これに賭けてみる。

 安らかな眠りについたフィロタスにも大口叩いてしまったからな。


『準備はいいぞ』


「では──」


 エリクの気配が変わった。

 魔力すら見えない私だが、フィロタスがあの時に放ったエーテルというモノを感じる。

 いや、それよりも何か人間離れしている。

 だが──懐かしいような、愛おしいような。


 エリクは深く腰を落とした構え。そして剣を鞘に入れたまま、鮫皮が張られた柄を握りしめる。


『ん? よく見ると、その剣の反り方。もしかしてサムライブレードというやつか?』


「いえいえ、包丁ですよ。それはもう本当にただの包丁」


 1メートル近い包丁……解体用か何かだろうか。

 漆塗りの鞘にも見事な装飾が施されている。

 決して豪華絢爛では無いが、叢雲(ムラクモ)が月を黒く染めている浮世絵。


 その内、光の鱗粉が舞い始めた。


『お、おい。ただの包丁の割にすげぇ光ってるぞ』


「妖精の粉ですね。たまに悪さをするから困りものです」


『……絶対に包丁じゃないだろう、これ』


 こちらの気配に気付いたのか、銀の蛇巨人が頭部をゆっくりと向けてきた。

 そして口を開き、光を収束させていく。


「ただの拾い物の包丁ですよ。銘は仰々しいですが」


 エリクが何をするのかは分からないが、向こうの方が先手を取った。

 発射されるビーム。

 狙いは寸分違わず、一直線に向かってくる。


『ったく、本当は楽して可愛い子とイチャイチャしたいだけなのに』


「はは、またそんな照れ隠しを」


 本心である。


『全知全能なる天空神(ゼウス)より下賜されし、矛盾の怪物王すら凌ぐ無敵の楯! 森羅万象、災厄払う叢雲の鏡! 愍然たる蛇の女王を番えて、今ここに──』


 この攻撃を受けるのは二度目。

 多少は効率よく防ぐ事が出来る。


『……──今ここに! 人命を守れ! “反射魔術1(イージス)”!!』


 だが、残りの魔力は雀の涙だ。

 根性で相手の力を解析して、それをほぼ100%再利用するしかない。

 一瞬でも解析をミスるか、再利用して防げなかったら終わりだ。私の身体が耐えられなくて割れてしまってもダメだ。


 目の前に光の楯が出現。

 そこにぶつかる銀の蛇巨人のビーム。

 楯の内側以外を地獄のような光景に染めていく。


『くっそ、一瞬撃たれるなら反撃も何とかなるが、ずっと撃ち続けてやがる……持たないぞ!』


 既に私の身体にはヒビが入り始めていた。


「ジスさんなら大丈夫ですよ」


『その自信ありげな根拠はなんだ……!?』


「何となくです」


 ……こいつ、大丈夫なのだろうか。


「ボクは料理人です。だから、お世話になる調理道具に対しては、見る眼があると自負していますから」


『そーですか……』


「はい。また使いたくなる、とても良い皿です」


 ピシリ、ピシリと亀裂が広がっていく。


『ここから生きて戻れたら、また使わせてやるか考えてやるよ』


「そうですか。では──」


 砕け散る私。

 それに伴い、“反射魔術1(イージス)”は消滅。

 眼前に光が広がっていく。


「包丁は人には向けられません──」


 エリクの身体から、白い光(ほとばし)り、黒い(もや)がそれを覆い隠す。

 蒼い焔を放つ眼光(グラウコーピス)だけが、研ぎ澄まされた刃のように(きら)めいていた。


「人は斬れませんが──神、龍、世界ならいくらでも殺しましょう」


 カチリと(つば)の金属音。スラリと包丁が抜かれ──いや、どう見ても東洋の美しい刀身が見えた。水に濡れた鮫の牙のような、丁子乱れ(ギザギザ)刃文(はもん)

 瞬間、何かの溜めだったかと思うように手先がブレて消えた。


「異界神器──“暗月”」


 それは刹那の結末を迎えた。


 エリクは相手に背を向け、チンッと自称包丁を鞘に納めながら、何も無かったかのように歩き出した。

 銀の蛇巨人の方へ目を向けると、ビームが一直線に切り裂かれ、巨体は“姿無き刃”によって空の叢雲まで斬り飛ばされていた。


「さて、ヴェールさんを追いかけましょうか」


 銀の蛇巨人だったものは、銀砂となりて闇夜に流れ散った。


 人定、亥一つ(にじゅういち)時──今宵は美しい暗月だった事に気が付いた。

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