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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック@コミカライズ2本連載中
一章 魔毒を喰らわば神皿までも

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第24皿 ヴェールは思い出の王子様を待っている

「これは……マズったわね」


 あたしはヴェール。

 いつか地上最強の魔女として名を残す……残したい可愛い可愛い女の子である。

 だけど今、周囲は敵に囲まれていた。


「魔女のお姉ちゃん……怖いよぉ……」


 しかも、年端もいかないひ弱な子供を守りながらだ。

 我ながら馬鹿な判断をした。




 マンバに付けられたジスの魔力を追って、とある大きな倉庫に辿り着いたまでは良かった。

 だが、倉庫にいた人質は、両親と引き離された子供が一人だけだったのだ。


 子供を遠目から見つつ、何もせず隠れながら──マンバと、その仲間達らしき暴力的な男達の会話を聞いていた。どうやら親子別々の場所に監禁しているらしい。

 それを今から処分するという。


 まずはこの場で子供を殺してから、別の監禁場所に使いを出して両親も殺すと聞こえた。

 最も効率よく判断するのなら、子供一人を見殺しにして、別の場所の二人を確実に救出すべきだろう。

 両方助けようにも、いくらあたしでも複数人相手、しかも子供を抱えることになったら無茶すぎる。


 そんなの、誰にでも分かる事だった。

 そのはずだったのに。師匠の教えでも、たぶんそれが正しい。

 本当なら、子供は首を絞められ、そのまま窒息か骨をへし折られるのを眺めている、クズと言われたあたしなのだ。


 くっそ、なのに、なのに何故か……。

 以前このアテナイで出会ってしまった、あの無償の愛を持つ純粋な青年の顔を思い出してしまう。

 自分を犠牲にしても、誰かを助けようとしていた、心から格好良いと思ってしまった一目惚れの人。


 こんな白馬の王子様に憧れたテンプレみたいな事、ジスに知られたら笑われてしまうだろう。

 だけど、だけど……あの人が見ているかも知れない、このアテナイでは……あたしは善き魔女で在りたいのかもしれない。

 未来を視る事で絶望して、力を否定したあたし。でも──。


「大丈夫、何とかする。だから安心して」


 とっさに子供を助けてしまった。

 少なくとも、ジスが来るまでは持ちこたえ、足止めしなければならない。

 戦力差は──。


「ホッホッホ。どうしてここにいるのかは分からないけど、そちらから敵対してきたからには覚悟できているのかしら? いくら魔女とはいえ、この人数相手に魔力は持つかしら? 戦い続けられるかしら?」


 食品が積み上げられた広い倉庫の中、すっかりと裏の顔になったマンバと、荒くれ者の男達がひしめいていた。

 見えるだけで数十人はいるだろうか。


「はっ!? “かしらかしら”五月蠅(うるさ)いババアね! ご存じかしら? 今あたしが思ってるのはアクビが出るくらい、退屈な戦いになりそうということよ! マンバ!」


「あらまぁ、強がっちゃって。まぁいいわ。お前ら、それなりの金を払ってるんだから、ちゃんと殺さないで、痛めつけるくらいにしておきなさいよ」


 ニヤニヤと笑う、半裸で筋肉剥き出しの男達。


「えぇ~? 雇い主さんそりゃねーぜぇ。殺しちゃダメなのかよぉ。あの細く白い首をポッキリと折りてぇなぁ」


「殺しちゃったら、伝説の魔女とやらが復讐にくるかもしれないじゃないの。ただ、まぁ……腕の一本や二本は千切っても、義手とかで何とかなるでしょう」


「うっほほぉーい。折って、もいで遊ぶぞ~」


 こいつら、とんでもない事を言っている。

 まだエロい事をされるとか、ジス的な変態の方がマシである。猟奇的な事はNGだ。


「あたしをただのメチャクチャ可愛い魔女と思わない事ね……」


「こいつ、自分で何言ってるんだ。頭おかしくなっちまったのか?」


 あたしは、腰の両サイドぶら下げられている二本のショートソードを引き抜いた。

 子供を背に、後ろを取られない壁際まで下がりつつ魔術を行使。


「初級身体強化、初級物理防膜、初級武器強化」


 薄く光るショートソードと、あたしの身体。

 一応、魔術を放つという手もあるが、初級火魔法程度では一人を行動不能にするのも難しいだろう。

 それに燃費も悪い。


「魔女のお嬢ちゃん、グライアイの実行部隊は使わないであげるから安心なさい。ただのゴロツキ共に、惨めに、そのプライドを撃ち砕かれて、手足の無い生活でも送りなさいな」


「ふーん。三人の魔女に、歯が一つのグライアイとはよく言ったものね。もしかしてマンバ、魔女としての程度が低いあなたじゃ、グライアイの実行部隊とやらを自由に扱える権限がないんじゃない?」


 時間稼ぎ、……になるかは分からないが適当な推測と併せて挑発をしてみた。

 ──ビンゴだった。


「このガキが! あたしゃね、金という力を持っているんだよ! グライアイのこの地位も、今からアンタをぶっ殺す暴力もねぇッ!?」


「え、いいんですかい? 殺しちゃって?」


「存分に……いたぶって! いたぶって! いたぶって! それから両手両足を切り取って壺に詰めてから、殺してくださいと懇願させた後に生きながら豚に食わせてやるんだよ!」


 中国の処刑方法かよ、と心の中で突っ込んだ。

 集められたごろつき達も、このマンバの性格あってのものだと分かってしまった。


「それと──三人歯(オドン)


 マンバは、一人だけ異様な雰囲気のフードの男に話しかけた。


「もう一箇所に監禁されている、このガキの両親を殺してきなさい」


「……グライアイの意思では、我ら三人歯は──お前の護衛と、伝聞の使いまでだ」


「チッ、金ならいくらでもやるっていうのに。じゃあ、監禁場所のゴロツキ共に、ガキを殺すように伝えてきなさい」


「了解した。だが、残り二人の魔女の意思か、お前の死亡によって関係は解消される事を忘れるな」


 三人歯と呼ばれた男は立ち去ろうとしていた。

 コレは不味い。

 ここで逃すと、追う手段は無く、この子の両親が死ぬのが確定となる。


 何とかして引き留めなければならない。


「これはチャンスね?」


 あたしはわざとらしく(うそぶ)く。


「そいつさえいなくなればマンバ……あなたを楽に直接攻撃できそう」


「ふぅん……小娘。この私を挑発しようというのかしら? 健気ね、ありもしない希望にすがりついて……。ふふ。三人歯、少しここで待機なさい」


 さすが歳を取っていることだけはある、あたしの考えなどお見通しなのだろう。だが、気に障る事は気に障ったのだろう。

 マンバは、その邪悪な本心を顔に表した。

 黒い毒蛇のような──。


「いいでしょう。ええ、いいでしょう! 希望を捨てられない哀れな人間の方が、丸呑みしがいがあるもの! 無駄に足掻いて、引き()って、金のない惨めな人生の最後を呪いながら死ぬ若者の顔。サイコォォォオオオオじゃあないのさぁ!!」


 ──醜悪な笑顔。


「やれ、お前達。その娘が希望無くし心折れて“許してくださいマンバ様”と懇願したらボーナスを出してやる。その後に監禁されている残りの人質を殺しに行くよ」


「……このヴェールちゃんもお金は好きだけど、そこまで心を腐らせたくはないわね」


 圧倒的な劣勢の中、戦いの火ぶたが切って落とされた。


「おらああああ! その目付きの悪い顔を血で染めろやああああ!!」


 一人目のゴロツキ、無駄に雄叫びをあげながら突っ込んできた。

 目付きが悪いってなんだ、目付きが悪いって。


 相手の武器は剣。

 それを上手く強化ショートソードで受け止め、膝蹴りをぶちかます。


「ぐおっ!?」


「可愛いお目々と言いなさいよッ!」


 ゴロツキは派手に吹っ飛び、置かれている木箱の山に突っ込む。


「今、あたしの身体は魔術で強化されているの。ただの小娘と思わないことね」


 魔力の総量がそこまででは無く、しかも初級までしか使えないという魔術師として致命的な弱点。

 これでは種類豊富に複数同時に使えても器用貧乏というやつだ。

 頑張って強そうに見せようとしてみたが、これで引き下がってくれないものか。


「ちっ、気が乗らねぇが同時にいくぞ」


「おう」


 ……逆効果だったらしい。


「まとまったところで爆破魔術で吹き飛ばしてあげるわよ!?」


 本当は初級爆破魔術にそんな威力は無い。中級、上級ともなれば対軍としても使うらしいが。

 ちなみに爆破“魔法”の場合は、国や星規模と師匠が言っていた。


「あぁん? そんなもん使えてるなら、最初から使ってるだろう」


 なんてこと……ゴロツキの癖に頭が良い。

 戦闘の事に関しては、向こうの方が一枚上手という事なのだろうか。

 一応、既に使い魔のフォボスに『早く来い』と伝えておいたが、この状況では助っ人が来ても望みは薄い。


 フォボスは言うまでも無く戦闘能力は0に近いし、ジスがきてもこの集団相手は厳しいだろう。ラップでも魔力が尽きる。


「おらぁっ! 反対側ががら空きだぜぇ!」


「くっ!」


 前左右から繰り出される、ごろつき達の攻撃。

 背後に子供をかばっているために、大きくは動けないサンドバッグ状態だ。

 これは……マンバの言うとおり、望みも何も無く死ぬまで耐え続けなければいけないのかも知れない。


「隙ありぃ!」


「あぐッ!?」


 ゴロツキの一人が持って来た、大型のハンマーが肋骨にめり込む。

 文字通り──骨を砕きながらめり込んでいた。

 致命傷……ではないが、激痛から両手のショートソードを落としてしまう。


 傷が熱を持ち、規則的な呼吸が出来ない。

 だが、地に膝は付けない。

 精一杯踏ん張り、初級治療魔術をかけて生存時間を延ばそうとする。


「今度はこっちだっつのぉ!」


「があ……ッ!?」


 鉄パイプが振り下ろされる。

 頭蓋骨に直接響く音、衝撃、強烈な立ちくらみ──意識が飛びそうになり、頭部からの出血で片眼の視界を赤く染める。

 まだ倒れない。


 だって、だってさ、王子様が助けに来てくれるかもと、たまにはそんな甘い考えを持ってもいいじゃない……一度は絶望から救ってくれたんだから、もう一度くらい……。


「おもしれぇな! まだコイツ倒れねーぜ!」


「未来が……見えないの……」


「あぁん? なんだってぇ?」


 あたしは、ゴロツキの鉄パイプを握り返しながら、血で鉄の味がする口から呪詛のような言葉を吐き出した。


「まだ未来が見えないの……。だから……、まだ何が起こるか分からないわよ……?」


「っせぇな! 何わけのわからない事を言ってんだ! 離せっつーの!」


 ゴロツキの握り拳が顔面に直進してくる。

 歯をへし折りながら、動けないあたしはクリーンヒットを食らった。

 あご、脳が揺さぶられ、再び意識が飛びそうになる。


 朦朧とする中で気絶しないために、口内の肉を自ら噛み千切り、折れた歯と共に地面に吐き出す。


「……なっさけない、わね。……ま、だ……。あた、しを殺せないの? 早くしないと……あなた達の、未来が、消え失せるかもしれないわよ……」


「魔女のお姉ちゃん。もういい、もういいから……」


 情けなくも、子供に心配されてしまうくらいの酷い怪我らしい。


「ふん……。子供は黙って……守られてなさい。あたしは……、子供なんてどうでもいい……。けど、白馬の王子様が、子供好きで困っちゃうわよ……本当に……もう……」


 息も絶え絶えで、うまく喋れない。

 背後に感じる子供の気配だけで、何とか根性を保っているようなものだ。

 だけど、そんな事はお構いなしで、丸腰で満身創痍になったあたしに──。


「おっらぁ!」


「ぐっ……うっ……」


 ゴロツキ共はいたぶるように、武器を使わずに殴る蹴るを繰り出してくる。

 そのうち、ボロ布のようになったあたしの両手首を掴んで高く掲げて拘束。

 何も出来なくなっている体勢。容赦なく腹に拳を、えぐるように、深く突き入れてくる。


「ッ……」


 叫び声さえあげられない。

 虚ろな視線は、焦点が定まらない。

 既に激痛程度では、意識を保っているのが難しい。


 ストンと、何もかも堕ちて落として楽になってしまいたい。

 意思、信念、記憶、個人、そういうものを全て蹂躙、否定する暴力に晒されている──。


「どうかしら、小娘? これが私の、金の力よ」


 豪華な服を着た老婆は、心底満足そうなサドっけタップリのアルカイックスマイルを見せている。

 もう許してくださいとでも言おうか。

 言えば、楽にしてくれるだろうか。


「白馬の王子様とやらは、助けに来ないようねぇ? ふふふ」


 いや──……。それだけは捨てない。捨てられない。

 あたしは過去に様々なモノを捨てたのだ。

 明日への希望を捨て、人間らしさを捨て、助けられる命を捨て、自らの力を捨て、意思を捨てた。


 でも、あの人──白馬の王子様に救われたんだ。

 だから……だから……。やり直そうと思った時に出会ったクズなジスですら、子供──クリュを見捨てなかったんだから……。


「来るのがちょっと遅いだけよ……。待っていれば必ず白馬の王子様はやってくる……。子供を見捨てない善き魔女のところには……、いつか必ずやってくるんだから……!」


 あたしの精一杯の言葉を聞いたマンバは、何かを思いついたように視線を移動させた。

 ──子供の方へ。


「そう? じゃあガキから始末してしまいましょうか」


「ま、まずあたしからやればいいでしょ!?」


 男の拘束を振り解こうにも、既に力は残っていなかった。

 一際大きい岩石のようなゴロツキが、子供に向かって手を伸ばした。


「や、やめっ──!」


 また……あたしは……目の前のモノを捨ててしまうの?


 悔しさに涙が溢れそうになってくる。


「うっぎゃあああああああ!! いでぇよぉおおおおお!?」


 悲鳴。


 子供の悲鳴ではない。


 ゴロツキの手の平に、木の串が刺さっていた。

 突然の事で、マンバは周囲を見渡し、大慌てで襲撃者を探した。


「な、何やつ!?」


「テーブルマナー心得の条──」


 いつの間にか倉庫の扉が開け放たれ、男のシルエットが逆光で現れていた。


「ひと~つ! 人の世のスープを横から(すす)り」


「ど、どうした!? 見張りがいたはずだ!」


 一歩一歩、確実に近付いてくる。


「ふた~つ! 不埒な悪食三昧」


「こんなところに乗り込んでくるなんて、正気かこいつは!?」


 段々とその男性の姿が見えてきた。その男性はきっとあたしが待っていた──。


「な、名を名乗れ!?」


「み~っつ! 醜い金食い豚を、退治てくれよう──イージスの皿!」


 王子様。……ではなく、ジスを胸当てのように身につけたロマンスグレーの男性。


「なお、死して屍──調理する者無し!」


「フィロタスさん、何やってるんですか……」


「死して屍──調理する者無しッ!!」


 何故、二回言ったのだろうか。

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