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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
一章 魔毒を喰らわば神皿までも

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第22皿 毒殺成功!

 マンバは顔というキャンバスを、毒蛇のような加虐性を塗りたくった色に染めた。

 悪魔のような、ピエロのような、為政者のような突き抜けた至福のアルカイックスマイル。

 その一瞬を、私は待っていた。クリュティエの毒殺を眼にもくれず、マンバの表情をずっと観察していたのだ。隙を突いて、気付かれぬ1動作でアレをペタリ。


 意識さえすれば360度、同時に認識できる皿ならではだろうか。

 マンバは、再び表情を優しい老婆に変化させてから、白々しく大きな悲鳴をあげた。


「な、なんて事ーッ!? クリュティエ姫が! クリュティエ姫が料理を食べた途端にーッ!? 誰か、誰かー!」


 外に待機していたサンダーとブリリアントが入ってきた。


「お、おい。何か声が聞こえたけど、どうした!? ……これは、どう、した?」


「……ふむ」


 慌てた後に、口を閉ざしたサンダー。


 いつも通り、何を考えているのか分からず、落ち着き払っているブリリアント。

 裏切り者では無かったのに、ブリリアントは相変わらず全てを知っているかのように達観している。

 もしかして、何も知らないが知っているかのように振る舞える、ポーカーの勝負師か何かでもしていたのだろうか。

 紛らわしい奴だ。


「た、大変よ! クリュティエ姫が動かなく! お薬を、いえ、お医者様を!」


 マンバは慌てた口調で説明をしている。

 私からしたらさっきの表情で、毒殺の首謀者であるという確信から──確定へと変化したので演技めいて見える。


 なぜ私が、毒殺の首謀者とアタリを付けていたか?


 単純な話だ。

 物流が滞り、品薄になれば物価が上がる。

 そして、物価が上がれば物をため込んでいた奴が儲かる。


 明らかに、かなりの量を事前に備蓄していたか、それか秘密の物流ルート確保している商会ギルドの人間が怪しいとなる。

 ここまでは、ただの妄想の領域だった。

 だが、偶然を装い、私とヴェールに接触してきていた事で疑念が強まった。


 だって、そうだろう。

 金持ちが護衛も付けず、一人で偶然に歩いているなんておかしいではないか。

 それも、気配を探ると離れた所で護衛らしき人物達がジッと観察していたのだ。


 引ったくりにあった時、まるでその場に居合わせた私達に動かせる意図があるかのように不動。

 それから後日、私に持ちかけられた毒殺計画。


 ここまでくれば怪しいのは、この物価高騰がクリュティエによって解消されては困る人物。


 普通の商会なら、また経済が盛り返してくれれば商売にも繋がると考えるかもしれない。

 だが、犯罪ギルドとしては国なんて食いつぶしてナンボなのだろう。

 金が手に入って、そのまま国が潰れても構わないのだ。


 なぜ私に情報を出し過ぎたのか、細かい疑問は残るが──大体はそんな推理からだ。

 そして、今回の観察で、その邪悪な笑みを見て確信へと至ったのだ。

 あれはクズ以下の、過剰なサディストの笑み。


 まさしく黒猛毒蛇(ブラックマンバ)の顔だ。


「薬、医者? 無駄に御座います……。これはグライアイからもたらされた即死毒。もう、クリュティエ様の呼吸も止まっております」


 うつむき、淡々と語るフィロタス。

 主人に近付き、愛おしむように髪を撫でた。


「私には、クリュティエ様への恨みはありません。ましてや、スパルタ本国からの指示でもありません。これは私が、グライアイに……息子夫婦と孫を人質に取られ、実行した暗殺に御座います……」


 なるほど。フィロタスにそう宣言させることによって、グライアイは自らの手柄を主張できるわけか。

 私怨や、国家間の争いで王族が死ぬなんて珍しい事でも無いし。

 となると、次に私が打つ手は──何通りか考えていた中、いくつかは使えそうだ。


 そうだな、手っ取り早く──。


 と、その時だった。

 予想外の言葉が飛び込んでくる。


「これ以上、クリュティエ様の無残な姿を晒し続けるわけにはいけません……。償いにもなりませんが、亡骸もろとも、私の自爆魔法によって──」


 眼が皿になった。

 ど、どうしてそうなる。

 まずい、まずいぞ。


 思わぬ方向性に焦ってしまう。

 今──クリュティエを吹き飛ばされるのは不味い!

 かといって、マンバが目の前にいる現状で()れる手段も少ない。


「この──自爆魔法(ディストラクト)によって!」


 考えている時間は無い。

 どうにかするため、私の付近に誰かを呼び寄せて、身体(サラ)を持ってもらう暇は無い。

 一人では動けない皿の私──。


 仕方が無い。


 仕方が無いが、密かに練習していたアレを使うしか無い。

 ヴェールにすら黙って、修得した奥義。


「クリュティエ様、申し開きは冥界にて──」


 魔力が見えない私にすら、フィロタスから溢れでる何かが分かる。

 感情のようなモノすら流れ込んでくる、魂が入り交じった何か。

 たぶん、一瞬の後には、フィロタス自身とクリュティエの身体を消し去るのだろう。


 それを阻止するため、私はラップスキルを発動。

 皿下部に両足を構成。

 ──ただの皿サイズの両足を形取ったモノではない。


 きちんと筋肉や腱など、編み込んで再現したモノだ。

 構造的には機械人形の内部に近いだろうか。

 なぜか私は手先が──、いや、皿先が器用なので日々の練習で何とかなった。


 さぁ、後はもう大博打。勢いに任せるしか無い──!


『ッさせるかよぉーッ!!』


 叫びながら、透明素材の両足でグッと踏み込み、跳んだ。

 皿が跳ぶ……、これくらい自らおかしいと思う言葉も無いだろう。


「なっ、ジス殿!? どいてくだされ、貴方まで巻き込まれてしまいます!?」


『うっせぇ! 私は助けるんだ! こちとら基本的にクズだが、恩は返すんだ!』


 自爆魔法が発動中のフィロタスと、クリュティエの間に割って入った。

 皿の表面がチリチリと焦げ付きそうだ。

 魂の力、エーテルによって、私の魂にまで干渉してくる。


 視える──フィロタスの心がぼんやりと見える。

 愛する息子夫婦と孫の三人と、クリュティエを天秤にかけた苦渋の決断。

 断ったら全員殺すと、グライアイの使いに脅されていた。


 幼い頃からクリュティエを知っていて、まるで我が子か孫のように想っていた。

 それを3人の家族と助けるために殺せるものか。

 だが、もう一つの葛藤が何かあった。


 クリュティエの未来に待ち受けるモノが悲惨すぎるため、ここで──。

 私には視えてしまった。

 血の涙を流しながら、噛み締めすぎて歯に亀裂が入っているフィロタスが。


 慈悲と修羅の悪鬼となった、この(たけ)きスパルタの老将。

 その命を散らしての一撃──自爆魔法。

 ……これは業深き悲劇の選択なのかもしれない、だが!


 それに挑むもこの状況!


 無理に破るもまた一興!


 眼が皿させるは──神器たる暁光(ぎょうこう)


『フィロタス! 私はお前を助けるぞ! 日々作ってくれた一皿の恩は、一皿にて返す!』


「お逃げくだされ! もう私は手遅れに御座います──」


『ケツまくって後ろを見せる皿なんて居やしねぇ! 皿はいつでも表でドンと、料理でも魔法でも受けるもんだ!』


 空中で光り輝く私の身体──1枚の白い──イージスの皿。

 白銀に染まり、全ての理を映し出す鏡のようになる。


「ああ、なんと美しい……」


『全知全能なる天空神(ゼウス)より下賜されし、矛盾の怪物王すら凌ぐ無敵の楯! 森羅万象、災厄払う叢雲の鏡! 愍然たる蛇の女王を番えて、今ここに──』


「その御慈悲の白光にて、私──フィロタスを滅して魂を救ってくださるのですね……」


 んなわけねーだろう。誰が殺してやるものか。

 そんな誰にでも出来るような、妥協した安易な救済なんて、もたらしてやるものか。

 私はいつか最強となる神器──……そう。


『──今ここに、全てを守れ! “反射魔術1(イージス)”!!』


 私は、神器イージス! なの! だから!


 フィロタスのエーテル。


 ──解析。


 ──分解。


 ──再構成。


 私の周りに透明な球体がいくつも出現して、そこから力を撃ち放った。

 だが、前回のようにコピーした攻勢のモノを撃ち放ったのではない。

 今回はフィロタスの魂から創り出されたエーテルが起爆する直前、まだ魔法変換前の素のエーテルが残っている時に“反射魔術1”を使用したのだ。


 言うなれば、銃のトリガーが引かれて、撃鉄に叩き付けられる直前。

 その火薬(エーテル)を抜き取って、撃鉄がぶつかった後に──。


「……なんと。自爆魔法が発動しない……?」


 また火薬(エーテル)から再構成した魂をフィロタスに打ち込み、元の状態に戻した。

 魂変換の超高度な入れ替えである。


『はっ。私にかかればチョロいもんだ』


 ギリギリセーフだった。

 落下、両足で着地する私。内心、心臓バクバクである。心臓無いけど。

 一応、二度目の“反射魔術1”だったので慣れたというのはあるが、エーテルや魔法というものに対しては未知数。


 しかも、それを元の魂に再構成して、相手に戻すという離れ業。

 ぶっつけ本番の大博打としか言えない……言えないが……。まぁ、フィロタスに真実は言えないわけだ、格好悪いし。

 神器イージスという、テキトーに取って付けたはずの銘を持つ者ならではの贅沢な悩み。……簡単に言えばクズの強がりだろう。


 その私とフィロタスのやり取りを、周りは呆然としながら見ていたわけだが。


「わ、私は帰らせてもらいます! こんな危険なところにいられませんから!」


 慌てて我に戻ったマンバが、そそくさと退場していった。

 実行犯と死体の証拠隠滅、私が寝返らなかった事。

 それが心理的に揺さぶったのだろう。


 だが、マンバが居なくなった事で、やっと説明ができる。


『まぁ、そう落ち込むなよ。フィロタス』


「全て、私のせいに御座います……。脅されたとは言え、クリュティエお嬢様を毒殺し、この国の救済の芽を摘むという……。何故、この老体に生き恥を晒せと……」


「あー、フィロタスのじっちゃん。ジスが軽いクズなのはいつもの事だけど~……」


 フォローに入ろうとするサンダー。


『おいおい、軽いクズって酷いな! ちゃんと、今回はクリュティエの身代わりが毒を飲んで、クリュティエ本人は無事じゃないか~?』


「そ、その通り……私は生きていますわ」


 突然、扉から現れたクリュティエ。

 瞬きもせず眼球が乾き、呼吸が止まっている毒死体のクリュティエと完全に同じ見た目である。


「ど、どういう事に御座いますか……」


『つまりだ、似てる奴に毒を飲ませた』


「ま、まさか──」


 クリュティエに見た目が似ている奴──そんなのは。


「メイドのクリュを身代わりに毒殺してしまったというのでしょうか……私は……。この私はなんて事を。最もしてはいけない事を……なんて事を……」


 フィロタスは頭を抱えてうずくまった。

 どうやら、クリュティエではなく、クリュを毒殺してしまった場合は更にショックが大きいようだ。

 身近な人間より、出会ってまだ日も浅い娘を手にかけてしまった方が罪悪感があるという感じなのだろうか?


「あの……わたくし、クリュも生きています」


 扉からもう一人、同じ顔の少女が入ってきた。

 三人もいて非常に分かりにくいが、一人称が“わたくし”で、着ているのもメイド服なのでクリュだ。地味におさげを垂らしてる位置も右と左。


「で、では、この死体はいったい!?」


『そういえば、私とヴェール以外は会ったことが無かったっけ』


 私はちょっとだけ楽しそうに、ソイツの正体を明かした。

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