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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
一章 魔毒を喰らわば神皿までも

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第19皿 クリュティエ毒殺計画

 クリュティエ毒殺計画。

 予想は付いていた。

 毒味できる皿が邪魔で、それを取り込んだ時点で発動可能。


 しかも、クリュティエがやろうとしているカリュドーンの猪対処を逆手にとって、森に生えている毒キノコを使用するらしい。

 あの毒キノコはカリュドーンの猪が現れてから生息し始めた種だ。

 それなりに関係があるのだろう。調査用に持ち帰ってもいる。


 それをそのまま食べさせるのではヴェールの治療魔術でも対処されてしまうので、毒性を強めて即死レベルまで濃縮させるらしい。


 あと一つ、たぶん理由があるのだろうが……それは心理的なものだろう。

 自分で暗殺を指示する立場になった時、一番気になってしまう事のため。


 計画の詳細まで話して、グライアイの使いは去って行った。


 私としては意外だった。

 正直、ここまで内容を明かされるとは思ってもみなかった。

 裏切られても平気な程度の情報提供のみで、信頼を得てから組み込むのが普通だろう。


 それを、私がグライアイに寝返るのが確定だと言わんばかりの対応だ。

 もしかして奴らは──皿になる前の私を──。


「ジス、どうしたの?」


『あ、いや。会食のメニューをどうしようか考えていてな。悩んでいたんだ』


 その声に、深読みしすぎる思考を中断させた。

 今は再びヴェールと合流して、二人で店に入ってお茶をしている最中だ。

 見た目的には桐の箱を持つヴェールが独り言状態だが、外見は魔女っぽい衣装なので誰も気にしない世界観なのだろう。

 前に言っていた使い魔とか、その類もあるのだし。


「そーよねー。安い食材を探したけど、めぼしいものは特になし。誰も食べないようなチビっちゃい魚とかは投げ売りされてたけど、そんなもの出せるはずも無いし」


『そもそも、私達にはロクな料理知識が無い。せめてレシピでもあればな……』


「レシピ……そうよ、レシピよ!」


 ヴェールはハッとした顔で、何かを思いだしたようだ。


「ずっと引っかかっていたの! お師匠様から託された役立つ何かを持ってた気がしたけど、ずっと思い出せずにいて!」


『このタイミング。お前の師匠、予知能力者か何かか……』


「あながち間違ってはいないかな。昔はすごい預言書みたいなのを持っていて、それでバリバリに未来を観測していたとか」


『人間か、それ?』


「今はもう預言書は封印しちゃって、普通のちょっと凄い……かなり凄い人間をやってるだけ」


 ……占いレベルではなく、完璧な未来観測、予言者レベルだったらそれはもう人外だ。神の領域。黄金の時代の存在。

 元、とは言え、そんな人物と敵対するのは恐ろしいってレベルじゃない。


「まぁ、未来なんて視えても良い事ばかりじゃないけどね」


『ん?』


「何でも無い。さて、ちょっとレシピでも見てみようか」


 取り出したのはいつもの不思議な、機械と呼ばれる薄い板だ。

 それを操作すると、画面に手書きレシピのメモらしき紙が映った。


「この中に良い物があればいいんだけどねー、って。そうだ、ジスは箱の中だから見えないか」


『いや、見下ろし型視点だから、薄い板程度の向こう側を見ることが出来る』


「へー、サード()パーソン()シューティング()の壁覗きみたいな感じかしら……あれ? それじゃあ、あたしが着替えるとき、ジスに布をかけてたのは」


 ……しまった。墓穴を掘った。

 ばっちりと、形の良い胸などをガン見していたのがバレてしまった。


『大丈夫、たぶん同性だから。……うっふん』


「日常的、それも蛇のような視線で覗きをするようなアンタが女だったら、何でも好きな事を一つ聞いてあげるレベルよ……」


『今、何でもって言ったか!?』


「その代わり、違ったら数百回パリンする」


 男だった場合は、もぎ取ってしまったという事にでもしておこう。うん。


「んじゃ、レシピを見ていく事にしましょうか」


 一枚一枚、機械板に表示されているレシピメモがスライドされていく。


「昔、お師匠様の知り合いが残した物を写真で撮っておいたみたい」


『写真?』


「あー、こっちだと水晶による画像記録みたいなもの」


 なるほど、アレを薄っぺらい板に投影させている感じなのか。

 恐るべし、機械というシロモノ。


「ここに書いてある文字はわかる?」


『ん? 何を言っているんだ。ああ、そうか。私が文字の読み書きを出来るかどうかという事か! もちろん、両方できるっぽいぞ。生前はインテリだな』


「いや、そうじゃないけど……まぁ、それがこの世界の常識か」


 何を言わんとしてるのかは良く分からない。

 文字が読めれば、読めるのは常識だろうに。

 ただ──。


『読めても意味が分からないものが多いな……“エビチリ”とか初めて聞いたぞ。エビの辛いのか。他も素材は知っていても、調理方法が複雑怪奇だ』


「あたしは結構、地球でご馳走になったわよ。このレシピの持ち主の若奥さんからね。どれも美味しかったなー。は~……毎日の塩スープと黒パン生活との落差がつらい」


『へぇ、地球という場所の料理なのか』


「あ、他にもドワーフ世界の、野性味溢れるマンイーター料理とかもあるわよ」


 そんな物騒な魔物料理、食えるのだろうか……。

 いや、でもそれは会食では無いが、今後の参考になりそうだ。

 そんな事を考えつつ、スライドされていくレシピであるモノに気が付いた。


『……ん? ちょっとそのページで止めてくれ』


「これね。えーっと、これは──」


 現状でも何とかなりそうなものを見つけた。

 このアテナイで材料費がかからなくて、美味しそうで、会食に来るあの商会ギルドの老婆も喜ぶヘルシーさ。

 同時に、舌が肥えている相手への特攻効果もあるだろう。


 複雑な調理工程は魔術の応用で何とかなりそうだ。

 問題は調味料などの細かな部分だが──。


「このアテナイで手に入りにくいものがいくつかあるわね……」


『魚醤なら何とかなりそうか? うぬぬ、でも無くても味自体は塩とかで──』


「しょうがない、あの店に行ってみましょうか」


『あの店?』


* * * * * * * *


 連れてこられた一軒の雑貨屋。

 見た目的には赤い屋根で、観葉植物が外に飾られ、大きなショーウインドウで明かりを取り込んでいる普通の可愛い店と言った感じだ。

 小規模だが、綺麗にまとめられている。


「やっほー、カノ。買い物に来たわよ」


「あ、ヴェールさんいらっしゃい。またアレを買いに来たんですか?」


 店内で棚の整理をしていた少女。

 カノと呼ばれたその子は、バラのような赤い髪をしていた。

 身長は小さいが胸はそれなりに大きい。


 ロリ巨乳というやつだろうか。

 純粋な小さな子好きからは敬遠され、さらに純粋な大きな胸好きからも敬遠されるという恐ろしい属性。

 だが、私は全てを受け入れよう。そういう真摯で紳士な気概でおっぱいを凝視する。

 下はピンクスカート、上はカフェの制服のような、コルセットで強調される服ナイスである。


 ……と、同時に、その視界の端、頭横の特徴あるパーツに気が付いた。

 耳がとがっている。


「あのカードはもう、懲りたからいいかな……」


「それじゃあ、対巨人(ギガス)用のY式量産機械甲冑ですか? いえ、もしかして天上の階位(ヒエラルキア)中級第一位の神霊を斬り裂ける魔剣でしょうか?」


「そんな物騒なもの、あたしの異世界物取り扱い免許のレベルじゃ足りないでしょ」


 カノは、最初から分かっていました、という風なイタズラな笑み。


「それじゃあ~お求めは……わ・た・し?」


『はい、カノちゃんをください!』


 思わず私は、そのお決まりの台詞に反応してしまった。

 だってしょうがないじゃない……可愛いロリ巨乳が言うのですから。

 どんな純真な女神だって、悪辣な怪物だって、おっぱいの魅力に勝てるはずが無い。


「あ、それ神器さんですね」


「そうそう、見た目はコレだけどね」


 ヴェールは、かぱっと桐の箱を開けて私を見せた。

 意外にも、いつもの驚かれるリアクションはされなかった。

 冷静に、まるで箱の中に何がいるのか最初からわかっていたような一連の反応。


「ジス、この店でだけはトラブルを起こすのはやめておいた方がいいわよ」


 ヴェールは珍しく真面目に、私を制止した。


「以前、盗みに入った盗賊が店内で消えたわ。ええ、文字通り髪の毛一本残さず消えたの……」


 カノは、その可愛らしい顔でニコリとした。


「ふふ、あれはセキュリティが自動で処理してしまって。あの天井の隅っこに設置されてる位相光線銃(フェイザーガン)で原子も残さず消滅()っちゃいました」


 !?

 やべぇ、やべぇよ。

 何かこの店だけ文明レベルが違う。


 ……恐る恐る、私は提案した。 


『あの、ヴェールさんや』


「どうしたの?」


『もうこの御方に頼めばアテナイの問題は全て解決するんじゃ?』


「御方なんてやめてください神器さん。私の事は、さっきのようにカノちゃんとでもお呼びくださいな」


 段々と可愛さとのギャップに震えが……。


「私はこの世界のルールに基づいて商売をさせて頂いているので、基本的に自衛以外の武力行使は致しません。商品も影響少ないモノを、取り扱い管理が出来る方だけにお売りしている感じです」


『と、ところでこの店は何のお店……?』


 聞くこと自体が怖いが、勇気を振り絞って聞いてみた。


「あなた方が異世界と呼ぶ場所の商品を売っている、小さな小さなお店です」


『もしやと思ったけど、そのとがった耳は精霊(ニンフ)ではなくて──』


「ドヴェルグという種族、正確には混血ですね。こちらの言葉で言えばドワーフ、山精霊(オレイアス)に近い生き物です」


『な、なるほど』


 道理で異質なわけだ。

 こことは違う、異世界の店なのだから。


 視線を動かすと、機械と呼ばれるものだけではなく、何となく意味の分かる魔術的なものも陳列されている。

 つまずきそうになると魔術で支えてくれる転ばぬ先の杖、酸っぱい物を甘く感じるようになるフルーツ、この世界では珍しいルーン文字が刻まれた使い魔精製用の小瓶とか──。

 ……小瓶? あれは確か、見た事がある。


 ヴェールがどこかで……。

 ああ、そうか。

 となると、そういう事か。


 実行のためのピースが集まっていくな。


「あ、それでカノ。お醤油って取り扱ってる? 魚じゃなくて、大豆を使った和風の」


「うーん、なにぶんと小さな店舗なので在庫は無いですね。現地から取り寄せるのに少々のお時間が……」


 残り時間は少ない。

 なるべくなら今すぐ欲しいところである。


「でも、個人的に醤油、味噌、豆板醤(トウバンジャン)、ケチャップとか自宅のキッチンに常備してるので少量で良かったらお貸しできますよ」


「助かる!」


「いえいえ。大変、恩義ある──あの魔女さんのお弟子さんですから。個人的になら協力しますよ」


 ここでもヴェールの師匠繋がりなのだろうか。

 いったい、どんな人物なのだろう。


「あ、じゃあ、ついでに久しぶりの手作りプリンが食べたいかな」


「ん~、残念。冷蔵庫に入れておいたのは兄に食べられてしまいました。勝手にです、ひどいですよね?」


 カノちゃんは妹らしい。

 何とも微笑ましくも可愛らしい出来事だ。


「で、聞いてくださいよ。その後に炎の聖剣同士での兄妹喧嘩になって、文字(ルーン)魔法が暴発、家が半壊して……」


 ……やべぇ、やべぇよ。



* * * * * * * *



【異世界アイテムショップ“カザリ”アテナイ支店】


 ドヴェルグ種族の双子の兄妹が任されている店。

 普段は妹のカノが店番をしている。

 基本的に、誰にでも販売できるレベル0のカテゴリーを並べている。


 レベル1~からは異世界環境条約により、取り扱い免許が必要になるため、地下に保管されている危険物が多い。

 大型二足歩行兵器から、終焉狼のゆるキャラまんじゅうまで。

 アテナイにお越しの際は是非──窃盗が出来るか、盗賊スキルの腕試しをしてみよう!


 ──盗賊免許皆伝ガイドより抜粋。

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