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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
一章 魔毒を喰らわば神皿までも

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第17皿 お掃除メイドと自爆魔法

「失礼しまーす。ベッドメイキングに来ました~」


 自室の扉がノックされた。

 声からしてクリュだ。


「どうぞ~」


 ヴェールはベッドに寝そべりながら、だらしなく謎の薄い機械板をいじっている最中だった。

 指先で魔術を行使、部屋の鍵が解除される。

 ついでにドアも勝手に開いた。


 いきなり見たらホラー、ポルターガイストである。


「おじゃましまーす……」


 そろりそろりと、警戒する小動物のように入ってくるメイド服のクリュ。

 机の上に載っている私を見て駆け寄ってくる。


「こんにちは、お皿さん」


『やぁ、お皿さんだよ。こんにちは』


 だらしのない格好のヴェールの太ももを眺めていた私は、視線をクリュへと移す。

 とびきりの笑顔が眩しい。

 邪念が浄化されていく……!


「そういえば、お皿さんは食器棚に入っていなくていいんですか?」


『食器棚?』


 思わず聞き返してしまう。


「だって、お皿さんって、お皿じゃないですか」


『確かに……今の私は皿だった』


 人がベッドで寝るように、皿は食器棚で寝るもの。確かに常識的に考えればそうだ。

 思考がもろに人間寄りなので気が付かなかった。


「何だったら、私が運びましょうか?」


『い、いや! それは平気かな! 一応、持ち主っぽいヴェールの近くにいた方が何かと都合が良いし、外で汚れても自分で洗剤を出して洗えるし!』


 全力で死亡フラグ回避。


「そうですか~……。わたくしの力が必要になったら、何でもしますからね!」


 何でも……します……とな!?

 と、普段ならリアクションをするのだが、クリュに限ってはプラトニックな愛おしさのようなものを感じてしまう。

 年の離れた小さな妹のようなものだろうか。


 同じ外見でも、クリュティエの方は若干イタズラしたくなるような雰囲気を感じてしまう。不思議!


「さてと、それじゃあお仕事します!」


『超薄給なのに頑張るな~。値段相応に手を抜いてもいいぞ~』


 クリュは腕まくり、板をいじるだけのオブジェクトと化しているヴェールをベットからどけて、シーツなどの交換に入った。


「あ~れ~」


『幼女に休日ママプレイされる魔女、あわれ』


 意外と力があるのか、ヴェールのだらしないモードがテキトーに軽すぎるのか良く分からない。

 クリュはテキパキと仕事をこなしていく。


「さてと、次はぞうきんで──。あ、バケツに水を入れ忘れてた……」


 拭き掃除のためにぞうきんを濡らそうとするも、空のバケツ。

 急いで部屋から出て、水を汲みに行こうとするところを引き留める。


『そうだ、ヴェール。水魔法で何とかしてやれよ』


「ん~、でもいいのかな? フィロタスさん、扉の影からめっちゃ見てるけど」


 実は私も気が付いていた。

 クリュが一人で業務を完遂できるか確認しているのだろう。


『ヴェールが暇そうなら、片手間に協力してもらえばいいんじゃないか。ブリリアントがよくやっている、お給料分の手の抜き方ってやつだ』


 フィロタスがため息を吐きながら部屋に入ってきた。


「まぁ、ヴェール様がそれでいいのなら……」


「オッケー、それじゃあ水魔術で、っと。それと、さっき水“魔法”を要求されたけど、人間が使えるのは基本的に“魔術”までだからね」


『おっと、悪い悪い。ややこしくて間違えた』


 確か魔法の方がワンランク上で、神々の領域みたいな扱いなんだっけ。


「ですが、例外的には“魔法”も出回っておりますね」


 意外にも、フィロタスが話に乗ってきた。


『フィロタスって、もしかして魔術師か何かか?』


「いえ、私は剣士寄りでしたね。魔力も見えませんし、才能がないのでしょう」


『魔力が見えない、私と一緒か』


 フィロタスはあの偽ヴェールに出会っても気が付かなそうだ。


「ですが、私も魔法を使うことが出来るのですよ」


『魔術を使えなくて、他人の魔力も見えないのに?』


「ええ」


 その言葉を聞いたヴェールは、いじっていた機械板から目を離し、珍しく真面目な顔になった。


「それって、もしかして……」


「例え見えなくとも微かにある魔力と、自らの魂を混ぜて解き放つという──自爆魔法にございます」


『……物騒だな』


「最後の手段として昔、覚え込まされていたのですよ」


 ヴェールはあごに指を当てて思案、伏し目がち、独り言のように呟いた。


「そうか、一度きりなら魂と魔力を混合、エーテルを使い捨て。そしてこの神の居ないとされる世界でもハデスの加護なら存在している……」


『なぁフィロタス。それって、自爆というくらいだから使ったら死ぬのか?』


「はい。自らの魂を玉砕させるものなので、魂を失った身体は無傷だったとしても、確実に死の状態といえるでしょう」


 恐ろしい魔法だ。

 使うと確実に死ぬという事と、魔術より上の存在である魔法という威力。

 私の“魔術反射”でもどうなるか……。


「まぁ、私程度では魂を使っても魔法一回がやっとですが、ヴェール様のお師匠様は自在に魔法を使えたと聞いております」


「あの人のは北欧神の加護だから、系統が違うけどね」


 上には上がいるものだなぁ、と私とクリュは感心しつつ、掃除を開始した。

 ヴェールが出してくれた水と、私による拭き掃除用“洗剤”射出。

 二度拭きいらずで、窓ガラスその他もピカピカだ。


 成分的にも調整でボディソープやシャンプーとしても使えるくらい優しく万能の、まさしく魔法の洗剤……のようなものなので、手荒れなども安心だ。

 むしろスベスベになるだろう。


「ああ、そうだクリュよ」


「はい、何でしょうかフィロタス様」


「んん……様はよしてくれ。今は執事長だが、元々そういうのは苦手でな」


「では、フィロタスお爺ちゃんで!」


 フィロタスは口をあんぐりと開けてフリーズ。

 自分で言った癖に、この返答は予想だにせず恥ずかしかったようだ。


「ま、まぁそれは追々決めるとしてだ。地下にある扉、あの先は掃除しなくて平気だ」


「あ~、あの開かずの扉、まだそのままなんだ」


 ヴェールは訳知りと言った感じだ。


『開かずの扉って何だ? お宝でも隠されているのか?』


「この屋敷の地下に昔からある扉。いえ、開かずの扉の上に屋敷が建てられたと言った感じね。以前、それを調べるためにお師匠様と一緒にここにきたの」


 この屋敷や、クリュティエの事を知っていたのはそのためか。


「でも、結果はその名の通り開かず。強力な上位魔法で施錠されていて、並の解錠方法じゃビクともしない。魔法をぶつけてぶっ壊した場合、中までどうなるかで手を出せず」


『それは厄介だな』


「扉に描かれている図と、伝承からして黄金で作られた杯があるとか。お師匠様は“不死食物(アンブロシア)”とか言っていた」

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