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イージスの皿は砕けない! ~龍に勝つ方法? 飯を喰らって食事強化《バフ》ればいい~  作者: タック
一章 魔毒を喰らわば神皿までも

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第8皿 初めての食事効果

『よっしゃ! 女の子の水浴びシーンゲットだぜ!』


「ジス……。知らない人が見たら、あたしが言っているように勘違いされるから止めてね……」


 突然の悲鳴を聞きつけ、溢れでる我欲──もとい正義感から駆け付けた私達。

 森の少しだけ奥、湖があった。

 普段は動物達が憩いの場として使用しているような、そこまで広くない水面。


 今は──。


「た、たすけっ」


 幼い少女が生まれたままの姿、ヒザの辺りまで入水している。

 ガン見、ガン見する。

 歳は十代になっているか怪しいくらいの犯罪チック。


 シミ一つ無く真っ白い、無垢なるぷにぷに素肌。

 まだ膨らみを待つ(つぼみ)のような胸、少しだけぽっこりとしているお腹。

 金色に近い栗色の明るいロングヘアー、大きな眼にキュートな唇。


 小さな背丈も相まって、今すぐお持ち帰りしたいくらいだ。


「は、蜂が! 蜂がぁーっ!?」


 よく目をこらすと、その少女に、羽音と共に何か小さいモノが向かっている。

 本人が蜂というのだから、蜂なのだろう。

 全裸で毒針を持つ蜂と対峙、さぞ怖いだろう。


 その半泣きになっている表情は可哀想だが、少しだけ興奮するものもある。


「アレはハーレムビー……」


『し、知っているのかヴェール』


「ええ……。王蜂のオス一匹に対して、働き蜂のメス多数の構成で巣を作る蜂よ。その大奥のような環境ゆえか、メス達がドロッドロと同性への憎しみを普段から(つの)らせ、他種族の若いメスばかりを襲ってくるという恐ろしい嫉妬の塊」


『ハーレムもこじらせると怖いな』


「でも、その蜂蜜はすっごく美味なのよね~」


 他人の何とかは蜜の味というやつだろうか。


 私は悩んだ。

 すぐ助けようか、そのままギリギリまで眺めて助けた時の報酬を吊り上げるか。

 だが、気が付いた。


 その幼い少女に蜂が触れようとした瞬間、どこからか小石が飛んできて的確に撃ち落としている事に。


「ブリリアント! あんた、執事なんだからちゃんと守りなさいよ!」


 幼い少女が助けを求める先、ブリリアントと呼ばれた執事の青年が爽やかに微笑んでいた。


「申し訳ありません、クリュティエお嬢様。私も近付きたくないので、こうやって迎撃するのが精一杯……のお給金分の業務で御座います」


 言葉とは裏腹に涼しげな顔で、その執事は小石を投げた。

 目にもとまらぬモーション、的確に一射多殺。

 高い背、スラリと伸びた手足から繰り出される、一瞬で残像を置き去りにする程の華麗なフォームだ。


 そして一回投げたら休憩、まったく疲れた様子も無いのに。

 礼儀正しく、後ろ手に腕を組んで……ただ微笑む。

 顔の良さは人間離れした完璧さを備えた黒髪イケメン。長身スリムの優雅なたたずまいで、汚れ一つ無い燕尾服を着こなしている。


 ただ難点は、その胡散臭そうな……眼の色さえうかがえない細目の笑みだろうか。

 絵画に描かれる天使のようでもあり、悪魔のようでもある──顔に張り付いたような表情。


「ちょ、ちょっと休まないでよ! また来た、蜂ィ来たから!」


 そしてクリュティエと呼ばれた幼い少女が悲鳴を上げるターン。

 ぎりぎりで、執事のブリリアントが小石を投げる。

 悲鳴、小石、休憩。

 悲鳴、小石、休憩。

 悲鳴、小石、休憩。


 一見、コントのようだが、この事象を的確かつ精確にこなせる執事。タダ者では無い。

 日常に非日常をすんなり持ち込める程の実力……身体強化を施した魔術師か何かだろうか?


「クリュティエお嬢様。人生とは醜悪、救済、怠惰で構成される三拍子のワルツのようなモノなのですよ?」


「あ、あんたがコントロールしてるんでしょー!」


「長く生きていけば皆、何事も思い通りにならない操り人形だと諦めるのです」


 意味深な言葉で客観視しすぎた持論を展開する執事と、それどころではないらしい幼女の不思議なやり取り。

 それを無表情で見学していた私達。

 ヴェールはこちらに視線を向けてきた。


「どうしようか、アレ」


『執事がいるって事は、本当にお嬢様の家柄かもしれないけど……関わり合いたくないな』


「家柄は保証するけど、関わり合いたくないのはあたしも同感」


 回れ右、立ち去ろうと──。


「ま、待って! あなた、伝説の魔術師の弟子よね! ヴェールよね! た、たすけっ」


「人違いです。たまに下級悪魔が化けたりしているので」


 家柄は保証するとか言ってたから、顔見知りなのだろうか。


「こ、この私──クリュティエ=アリストデーモスの屋敷に客人として招かれているのですから、今この場で助けてくれても良いんじゃありませんこと!?」


「はぁ……しょうがない」


 ヴェールは心底面倒くさそうな表情をしながらも、初級魔法を使ってピンポイントで蜂の羽根を燃やして迎撃する。

 落下し、藻掻(もが)く羽根無し蜂達。

 そのまま蜂が出現してくる方向へ、初級結界を張りながら進む。


「これが蜂のリスポーンポイントか。ま、当たり前よね。蜂の巣だし」


 眼前にあるのは蜂たちが丹精込めて作ったであろう巨大松ぼっくりのような、とても恐怖感を煽る茶色い蜂の巣。


『リスポーンポイント?』


 次々と出現する拠点という事だろうか、若干ひねった言い方である。


「何でも無い。……それよりジス。煙で(いぶ)すから、蜂の針で貫けない程度の厚いラップを精製できる?」


『わかった、私にかかればお安いご用だ』




 そのまま蜂の巣の処理を待ってから、元来た道を戻った。

 意地汚い持ち主様のヴェールは、羽根を焼かれて落ちている蜂を、ひょいひょいと器用に拾って空き瓶に詰め込みながらだ。

 何か魔術用の触媒にでもするのだろうか?


「ふ、ふふ。私を助けさせてあげたのよ。感謝なさい」


 湖の(ほとり)まで戻っての一言目がそれである。

 もちろん、発言者はあの水浴びしていたお嬢様。

 いつの間にか、残念ながら服を着て、青ざめた顔で震えながらの台詞である。


「どうでもいいけど、後で謝礼を払いなさいよ。都市国家スパルタの姫」


 ヴェールが半眼で呟いた……いや、姫?

 この幼い少女は姫なのだろうか。

 名前は確かクリュティエ……。


 村で出会ったクリュと名前が似ている。

 それどころか服を着て、凝視していた裸体ではなく、顔を見て気が付いたのだが……うり二つだ。

 名前も、顔も。


 村娘クリュと、クリュティエ姫。


『なぁ、ヴェール。これってクリュが先回りしていたとか、また悪魔が化けていたとかいうオチは無いよな?』


「彼女固有の魔力だし、紛れもなく誰でも無いクリュティエというダメな他国のお姫様よ」


『他人のそら似というやつか……』


 無駄に高そうなフリルが付いた白いドレス姿なので、生まれからして違うのだろう。

 何か関係があると思ったのだが、どうやら気のせいだったようだ。


「あれ、ヴェール……。あなた、魔術だけじゃ無くて腹話術でも使えるの? 知らない人の声が……」


「えーっと、これは話せば長く──はならないかもだけど、レアなケースというか、眼が皿になるというか」


「げ、幻聴かしら……。何やら悪寒と震えがと、ととと止まらないしぃ……」


 クリュティエ姫は、そのままぶっ倒れ──。

 ……よく見ると違った。正確にはギリギリで地面に激突する寸前、執事が靴先で額を受け止めた。

 その図はコサックダンスのようだ。


「おお、クリュティエ様。危ないところで御座いました」


 わざとらしい声で表情を変えず、執事は糸目のままで微笑んでいた。

 コメディのような雰囲気に流されそうだが、この一瞬での行動速度は人間離れしている。

 魔術師か、人の皮を被った享楽家の人外かは分からないが、様子見が必要そうだ。


 いや、そもそも二人は本当に執事と姫という主従関係なのだろうか? 異様だ。

 悪魔と契約している人間、という関係と言われた方がまだしっくりくる。


* * * * * * * *


「う……うぅ……寒い。ぢぬ……ぢぬうぅぅう……」


 毛布にくるまり、顔を赤らめながら震える幼い少女。


「まだ暖かい季節でも無いのに、水浴びしすぎましたね。はは」


 相変わらず和やか、冷静な執事のブリリアント。

 クリュティエの髪を三つ編みに結いつつ、いつもの糸目で微笑んでいる。


「あんたがキチンと蜂処理しないから、動けなかったんでしょうが!」


 弱っていてもツッコミだけは元気である。


 ヴェールは、しょうがないという事で、身体を温める物を作る事にした。

 リュックに入っていた鍋を使い、薪になる乾いた枝を拾って、初級火魔術で湯を沸かす。

 火起こしがいらないというのは、非常に便利である。


「一家に一台ヴェールちゃん、って感じでしょ?」


『そんなにお前がいたら世界がクズまみれになるだろう』


「どの口が言うか、どの口が」


 これまたリュックに入っていたらしいジンジャーを取り出して、ナイフで細かく刻む。

 そして、メイン。

 ラップに包まれた蜂の巣の登場だ。


『なぁ、これどうするんだ?』


「大雑把でいいのよ、食べられれば」


 うら若き魔女の癖に、その思考は完全に男の料理だ。

 ヴェールは煙で動かなくなっている蜂をどかしながら、蜂の巣をラップから取り出す。

 そしてナイフでゴリゴリと表面の松ぼっくりっぽい部分を削っていく。


 すると、中からは樹液が染み出るが如く、ハモニカ状の蠱惑的な部分が見えてくる。

 琥珀色の液、全てがあの甘い蜂蜜なのだろうか。

 ヴェールはナイフでそれを解体。


 厚いハニカムの板状にする。

 そして、それを両手で砕くように絞る。豪快だ。

 とろ~りと垂れてゆくタップリ採れ立て蜂蜜。


 それと刻みジンジャーを鍋で煮込む。

 最後にレモン果汁を一垂らし。


「さてと、これを~……カップでもいいけど、せっかくだからジスを使いましょうか」


『えぇ、蜂蜜プレイ?』


「ジス、食事と言動が見事にマッチしないわね……」  


 私の中に問答無用で注がれていく黄金色の甘い液体。

 いつものように、何か力がみなぎってくる。

 食器としての本能──。


【メガサラァ!】


 何か段々、この謎の自動発声が心地よくなってきた気がする。

 既に何回か食事で経験値を稼いでいたため、レベルは4になった。

 取得スキルは“アナライズ”だ。


 使い方は──と考える前に、すぐ分かった。

 この注がれている黄金色の液体の成分などが一瞬で理解できたためである。

 皿に載った物の分析。


 それがこの“アナライズ”である。

 私が意味を把握していない“どこかの世界基準の知識”も流れ込んでくる。


 成分分析──、グルコース、マルトース、グルコン酸、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、バリン、ロイシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、フェニルアラニン、セリン、p-クマル酸、バニリン──etc、etc。

 材料、水、生姜、蜂蜜、レモン──。

 食事効果──。


「さぁ、この生姜と蜂蜜レモン……の、ええと~、皿だからスープかな。“生姜と蜂蜜レモンスープ”が完成したわ。飲めば身体が温まるわよ。あたしの魔術の治療は、傷は治せてもスタミナ回復は苦手だからね」


「い、頂きますわ……。こっ、こここの私に飲まれる事を光栄に思いなさい……?」


 お姫様が震え、鼻水を垂らしながら言う台詞では無い。

 スプーンで皿をひとすくい。

 それはまるで黄金の海から、アフロディテが誕生するような場面であった。


「こ、これは──」


 クリュティエがそれを口に含んだ瞬間、目を見開いた。

 淡い光が、身体から溢れだしている。


「甘酸っぱさの中にも、爽やかな生姜のアクセント! 蜂とレモンがダンスをしているわ!」


「何言ってるんですか、クリュティエお嬢様。今日はまた、いつにも増して頭がおかしい台詞を」


「ほ、本当なのよ! ブリリアント! この、一皿分を全て胃に収めないといけないという呪縛のような魅惑! 嗚呼、たまらないわ!」


 クリュティエ姫様は、ついにスプーンを使うのを止めて、私をガッシリと両手でロック。

 そのままゴキュゴキュ一気飲み。

 皿のフチが唇と触れていて、これはもうキスである。


 ふふ、たぶんこのお姫様のファーストキスはもらった!


「っはぁ……。すごい、すごいわね……。さすが伝説の魔術師の弟子、ヴェールと言ったところかしら。どんな禁術を使ったの?」


「え、ああ。うん……?」


 料理を作った当の本人、ヴェールはポカンとしていた。


「それ、ただのどこにでもある家庭医学的なもので……。いや、でもおかしいわね……身体が光って、一瞬で体調が回復。スタミナの急速回復は、この世界で希有な上級魔術ですら難しいっていうのに……」


『私が教えてやろう』


 皿である私がまた急に喋ったため、クリュティエはビクッとした。


『どうやら、先ほど得たスキル“アナライズ”によると、その料理の食事効果を引き出したようだ。スタミナ上昇という効果を、な!』


 この生姜と蜂蜜レモンスープは、解析によると“スタミナ上昇小”らしい。

 スタミナという項目の詳細、小とはどのくらいなのか、等々はまだ謎だが、私が料理の力を引き出すのは理解できた。


 というか、元々料理の力を引き出す事は出来ていたのかもしれない。

 私を使って料理を食べたのは、あの低級悪魔らしい偽ヴェールだけなので、人間にだけ与えられるのかもしれないが。


 ……いや、よく思い出せば、村での怪力の発揮も。


「あー、そう。うん。そうだったわね、うん。この神器イージス! あたしの持ち物である神器イージスは、様々な奇跡が宿っているの! ただのスープですら、上級魔術という人類の限界すら簡単に越えてしまう、無敵の能力!」


 お、おい。さすがにちょっと言い過ぎじゃないか。

 そう思い私は止めようとしたのだが、ヴェールは矢継ぎ早に言葉を紡いでいく。


「さらに料理の無限のバリエーションで可能性は綺羅星の如く! 与える加護はヘラクレスのようなパワー! アキレスのようなタフネス! ヘルメスのようなスピード! それを一般人にも施すことができる! 何人でも、何百人にでも!」


 いやいやいや、そんな食事効果まだ見つけてないし……。

 後戻り出来ないレベルの吹聴だろう。


「お、おぉ……ヴェール、神器とな……。凄まじいではありませんか」


 体調が戻ったからか、ちょっとだけ偉そうな口調のクリュティエからの羨望の眼差しを向けられた。

 一国のお姫様に宣言してしまったということは、もう神器という事で通すしかないのだろうか……。


 ラップを出して、洗剤で自己洗浄できて、生姜と蜂蜜レモンスープで相手を光らせて喜ばせるだけの皿が“神器イージス”とか、どうすればいいのだろうか。本当に成長していって出来るようにしなければならないのだろうか。


 非常に前途多難である。


* * * * * * * *


【生姜と蜂蜜(ハーレムハニー)レモンのスープ】

 経験値:小。

 ヴェールが、体調を崩した時に師匠に作ってもらったものを再現したもの。

 本来はドリンクとしてカップに注ぐのがオススメ。

 甘酸っぱい、世界で最も尊敬するあの人の味。


 なお、今回はかなり雑な調理だったため、成分で蜂、幼虫が混入の嬉しくないスペシャルバージョン。クリュティエ姫には内緒である。

 食事効果:スタミナ上昇小。

男性陣の裸が見たい奇特な方は、第12話までちょっと待ってね><

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