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プロローグ それは……神の一撃すら防ぐ皿

 私は、眼前に迫る数十匹のモンスター達を眺めていた。


「む、無理です! 旅の剣士様!」


 既に諦めている村人達。

 私は、それに対して豪快に声を上げることで一喝(いっかつ)


「ふはは、笑わせるな! 言っただろう、お前らから施された一皿の料理分の仕事はしてやろうとな? 腹ごなしには丁度良い」


 状況はこうだ。

 立ち寄ったばかりの見ず知らずの村がモンスターに襲われた。

 私は村で食事を味わっていた──ただそれだけだ。


 人を助ける理由なんて、適当に作ってしまえば良い。

 それに、村人が用意してくれた食事はなかなかに美味かった。


「ジス……アンタが人のためなんて珍しいじゃない」


「皿の礼は皿で返す、ならば──私が出るしかなかろう! なぁ~に、いざとなったら食事強化でほんの少しだけドーピングすればいい」


食事強化(バフ)、ほんの少しだけ……ねぇ」


 連れの若い魔女がやれやれといった仕草をした。

 まぁいい、こんなものは私──ジス一人で十分だ。

 今の私は、整った顔を持ち、細身だが確かに鍛えられたしなやかな筋肉で動くことが出来るのだから。


 ここで良いところを見せたら村娘に圧死させられてしまうかも知れんな。

 くんずほぐれつ、というやつだ。

 もちろん王子としての私も格好良いが、更に格好良いのが──。


「ところで旅の剣士様、その不自然な胸当てはいったい……? 陶器の皿、でしょうか? なんなら防具をご用意しますが……」


「馬鹿が! これが何より格好良いのだ!」


「そ、そうでございますか……」


 チッ、皿の良さがわからんとは。


 私は舌打ちしながら、村の門から外へ軽やかに歩みを進める。

 背後には心配そうに眺めている村人達。

 眼前にはモンスター達数十匹。


 ゴブリン、オーク、オーガといったポピュラーな者たちだ。

 キチンと武装しているために、どこかの派閥にでも属しているのだろう。


「旅の剣士様! 奴らは数で連携してきます! それにその背後には凶悪なるレッドドラゴ──」


「何度も言わせるな。腹ごなしに丁度いいのだ、邪魔をするなよ?」


 さぁ、野蛮な輩との舞踏会の始まりだ。

 私は自信に満ちた笑みを浮かべながら、前方へのステップを踏む。

 構えようとしていたオーク目掛け、眼にもとまらぬ抜刀術。


 音を置き去りに振り抜ききった剣に、心地良い感触が伝わってくる。

 血しぶき──最低限の切傷(せっしょう)で最大限の出血を噴水のように吹き上げて倒れるオーク。


「どうした、連携とやらでかかってこいよ?」


 私の力量を知ったモンスター達は、遠目から警戒しつつ、投擲用のナイフやジャベリンを取り出した。


 距離を取るとは……思ったよりお利口さんのようだ。

 だが──。


「はぁッ!」


 私は斬撃を飛ばした。

 凄まじい勢いで空間を切り裂き、離れている相手へ衝撃波を到達させる。

 ゴブリンは実際に剣で斬られたように真っ二つに。

 それも、横薙ぎために十匹程度が同時に倒れる。


「あ、あれは一体!?」


「王子の類い希なる剣の才能は、人では無く(くう)を斬るにまで至った。知ってる? 南の地方の山なだれ、あれから(ふもと)の村を剣一振りで守ったのが──この方よ」


 何やら後ろの方で連れの若い魔女と、村人達が解説をしている。

 私はそれを聞きながら、斬撃を飛ばし続けモンスター達を一瞬で全滅させた。


「終わりっと。これじゃあ腹ごなしにもなりゃしねぇ」


 私は余裕の表情で、白く輝く歯を見せてニヤリとした。


「た、旅の剣士様格好良い! しかも王子!? 王子なの!?」


 村娘達から歓声があがる。

 どうやら、また女共を魅了してしまったようだ。

 この甘いフェイス、どこまでも通る凜々しい声、卓越した剣技、それとニヒルな性格と格好良い皿──。そう、胴体につけた非常に格好良い皿のおかげだろう。

 やはり皿の時代だ。


「た、旅の剣士様。気を付けてくだされ──」


 村人の警告の声と同時に、地鳴りが響く。

 地震……ではない。

 一定のリズムがあり、段々と大きくなっている。近付いてきている。


 山陰から途方も無く巨大な何かが出現した。

 それは森の木々をメシリと踏みつぶし、口から押さえきれない炎混じりの煙を噴かしていた。


「邪竜配下の四竜が一角……焼死吐息(ファイアブレス)のレッドドラゴンです!」


「ほう、ようやく普通の戦いが出来そうな奴が出てきたな」


「旅の剣士様! 無理でございます! 奴のブレスは、天然の極大魔法のようなもの! いくらお強くても、剣術では防ぐ事などは──」


 そう、人間の限界である魔術より上の存在──神々が使う魔法と言われるモノを、あのドラゴンは放ってくるだろう。

 普通なら、ドラゴン自体が吐息(あくび)をするだけでも、付近の生命は消し炭すら残らない。

 それが、その存在が──敵対者として見るであろう私に放ってくる死の一撃。


 今から、私をどれほど楽しませてくれるのか期待させてくれる。


「た、旅の剣士様!? 何を!?」


 私は魔力を集中させ、世界で私にしか使えない、スキルというシロモノを発動させた。

 空間の裏側から出現させたのは、異界の冷蔵庫。

 それを開けて黄金色の冷製コンソメスープを取り出し、スプーンをチャキッと構えた。


「見てわからんか? 食事だ」

「食っとる場合ですかーッ!?」


 優雅に飲み干すと身体に力がみなぎり、本来の百分の一程度は実力を発揮できるようになった。


「一皿の借りは、一皿で返す事にしよう」


 食事中に近付いてきていた、眼前のレッドドラゴン──それはとてつもない迫力。大きすぎて山と見間違う程。

 ルビーのような鱗は、ただの物理的な攻撃は効かないだろう。

 魔術や魔剣でダメージが通るかどうか、というところ。

 黒曜石の様な爪は、足下の岩でさえ軽々と踏み砕いている。

 長く太い首、スクリーンのように長大な翼──まさに神話で語られる存在。


 そんな化け物が、腹を膨らませて体内の虐殺器官で死を生成している。

 竜独特の、縦長の紅瞳孔で睨み付けながら。


「来いよ? 腹ごなしには丁度良いからさ」


 拘束具を解かれたかのように、一気に解放される竜の(あぎと)


 私の挑発に乗ったのか、レッドドラゴンは喉奥から溜めていた──殺意を放った。

 爆発する大気。

 荒れ狂う魔力。

 木々を焼き払い、赤熱焦がすファイアブレス。


 継続的な火吹きの大道芸を想像していたが──現実は、小型の太陽を投げられたようだった。

 簡単に街一つを、いや、王都すら半分くらいは焼き尽くせるかも知れない。

 私は近付いてくるソレを相手に、舐めきった表情を見せた。


 見下し、(あざけ)り、力の差を突き付けるニヒルな歪んだ笑み。


「──完全反射(イージス)


 ただ呟いた。

 力強く必死に叫ぶわけでも無い。

 焦りも無い。


 だってそうだろう?

 腹ごなしの運動に何を必死になる?


 ……多少、人が龍に対抗(・・・・・・)出来る程度(・・・・・)の神話級食事強化をしているが問題では無い。


「えぇッ!? ファイアブレスが跳ね返って!?」


 村人達が驚くのも無理は無いか……、普通の人間というのはそういうものだ。

 私は、小型の太陽とでも言うべき赤い球体を眼前で受け止め──いや、正確にはその相手の力を改変して、自らのモノとして撃ち返した。

 まるで刻を戻したかのようにレッドドラゴンの方へ向かっていく焼死吐息。


「────ッ!?」


 竜と火球の激突。

 光が弾け、衝撃波が飛び、それから音が到達する。

 こんなに離れていても、五感の何もかもを滅茶苦茶に乱すような結果。


 その一瞬で、レッドドラゴンは力量を見極めたと言わんばかりに、赤い鱗を溶かしながらも撤退していった。

 なかなかに利口な奴らしい。

 この状況で私と敵対しても利が無いと本能で察したのだろう。

 さすが神話龍の配下の者だ。


 くく……トカゲとしては上等な方だろう。


「ああ、そうだ。食後のティータイムがまだだった」


 私はわざとらしく、振り返りながら村『人』達に言った。

 いや、村『娘』達に向かって──視線をチラリと。


「わ、私と一緒にいかがでしょうか!」


「いえ、私が先よ!」


「きぃ! 王子様に最初から目を付けてたのはこっち!」


 ははは、喧嘩をするなよレディ達。

 私は逃げない、皿の上の料理と一緒さ。


 内心にやけながら、私のために争う可愛い娘達の方向へ歩いて行く。

 だが──。


「すげぇな! 旅の兄ちゃん! 俺見てたぜ! その皿がピカッと光ってファイアブレスを跳ね返したんだ! かっけぇー!」


 一人のピュアそうな村の少年。

 その指摘は大当たりだった。

 ……そう、この皿が一番格好良いのだ! 何故なら!


「もう一回やってみてくれよ! なっ! 今から石を投げるから!」


「ちょ、ちょっと待て、物理的なものは……」


 村の少年は悪びれもせず、小石を投擲する。

 そして、それがコツンと胴体に装備されてる皿に命中。


『うぎゃあああああああああああああああ』


 物理防御0、体力1の皿は真っ二つにパリンと割れた。

 その格好良い皿、それが私の本体──ジスであった。


 王子の肉体は了承を得て、一時的に憑依させてもらってるだけ。


 こんな身体(サラ)になってしまったのは、あの日の事が原因なのだ……。

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