兄、知る
兄側の第四話。
誰が見ても完全に世界説明。
書いてる途中で文がだるだるしたかも。
銃を腰に差し、宿屋の通りへ向かう2人と1匹。
「そういえば、アンタ名前なんだっけ?」
「…雷藤蒼河。」
「ライ…なるほど、異世界人か。」
「??」
一人で何かを納得したアストゥール。
「当事者に言っちゃうのは申し訳ないんだけどー…
異世界人って、王都クラスの所から捕まえるように
言われてるんだよねぇ。」
「はぁ!?」
突然の一言に飛び退く蒼河だが、それを言った
アストゥール本人は別に何もして来ない…少なくとも
彼女が蒼河を捕まえるつもりは無いらしい。
「俺だって指名手配犯みたいなもんだし、アンタの首を掻ききったりはしない。むしろ秘密にして、知識
とかを共有した方がリターン大きいし?」
キレ者なのか、ただ利益に目が眩んでいるのかは
分からないが…少なくとも頭は悪くないようだ。
そのまま寝床を確保する為に宿場へと向かっていた時、気になる物を見かけた。
それは人探しのビラ。いわゆるコントラストだけで
描かれた物だが、ネコ耳のような物が見える…はて、何処かで見たような。
1枚壁から剥がして持ち運んでみることに。さて…宿屋一軒一軒の見た目はRPGに出てくる家その物で、8軒
ほど連なって建ち並んでいた。私営のはずなのに
並べる…よっぽど自信があるのだろうか。
「凄いだろー、これ全部でホテルなんだ。」
「いや、宿屋じゃねえのかよ!」
そもそもこれ全部で1軒であった。
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外見と裏腹に、中は非常に和やか。それでいて動物の首を飾るというセンス…非常にむせる。
そんな事を考えながらウェルカムドリンクの紅茶に
口をつける蒼河、この後とんでもない事になる。
「ペット同伴可の部屋…じゃここで。」
「!?」
飲んでいた紅茶が肺に真っ逆さま、その後蒼河は盛大に噴き出す…アストゥールが選んだのが1部屋だったからだ。引きニート童貞に、ネコ耳付き美人が相部屋…以下蒼河のどピンク妄想。その様子をブルームが冷めた視線でガン見。
思春期の変態がいると知らず、アストゥールはその
荷物を部屋へと持っていく。荷物と言っても、彼女のそれは貴重品とデリンジャーの道具位か。
「こりゃまた広いn」
「うわぁ久しぶりのベッドだぁあー!」
部屋に着くなり、荷物を置いてベッドに飛び込むアストゥール。そのまま寝そうな勢いで転がり込むと、
いつの間にか布団に入っていたブルームが。
「あっ」
「ギャウッ!?」
ポキャッと言う軽い音が微かに響き、部屋が静まり
かえる。ブルームが痛みに悶えながら治療を受けたのは…言うまでもない。
その時にも蒼河は新しい物を目にする。現代ゲームで回復魔法と呼ばれるアレだ。
「回帰せよ、その魂にふさわしき姿へ、
【リライズ】」
「おぉ…」
みるみる内にブルームの腫れが引いていく。この世界の魔法…少なくとも回復魔法は言霊に近い。すぐに
覚えられる様な気もするが、魔力の概念がどうなっているのかが気になった。
アストゥールに話を聞いた所、体内に溜まった魔力が発動する魔法の素になり、詠唱に魔力を乗せて精霊へ捧げる事によって効果が現れるらしい。そして魔力の容量は魔法を使わないと測ることも出来ず、それも人によって多かったり、無い場合もあるとか。…聞いた感じ、まずは精霊とやらを探さないと測る事すら
できないようだ。
「俺が使えるのは治癒、風、水の3つ。他にも火とか
あるけど、そっちは合わなかったみたいだ。あと闇も
あるらしいが…悪魔を認めさせないといけないから、普通に使えるのは帝国魔術団しか見たことないね。」
「帝国魔術団?」
「ん、さっき言った王都クラスの兵よ。」
彼女の説明によれば、この世界は球状の天体である事が証明されてから多くの国が領土を奪い合ったのだという。その中で勝ち残った国は、勝国同士で不可侵
とする条約を結んだ。それがつい11年前。その条約の名から取って、その国々全体を王都と呼んでいるの
だという。
「でもそれは大国同士が争わなくなっただけの事で、小国同士は戦争が続いてる所もある。何でかな?」
「資源の枯渇か?」
現世での理由は生きる為に必要な資源の奪い合い。
その果てに片方が滅びるという戦いがほとんどだった事から、こちらの世界でも基本はこれと思い聞いた。しかし生の異世界は、その常識から違う。
「正解…と言いたい所だけど間違ってる。正しい理由は王都の資源を得るためなんだ。」
「王都に挑むため…?」
アストゥールいわく、その理由は王都が持つ権利に
あるらしい。その権利というのは、世界の中心にあるという超純粋な魔力の塊、通称【魔核】と呼ばれる
物質を掘り出す場所を管理する事。
「それから作った物には命が宿るって噂もあるし、
莫大な価値を生み出すのは目に見えるからだよ。あと基本資源だけど、この世界の魔法ってそういう物質の形成は大得意だから。」
「へ、へぇ…」
蒼河の中で音をたてて崩れていく異世界像。え?魔法ってこんなに万能だったっけ?彼の中で、この言葉がループし続けていた…
「さて…世界の作りはもういい?」
「ま、まぁだいたいは…で、近い国はどこなんだ?」
理解が追いつかないが、自分の目で確かめさえすればその話の意味も理解できるはずだ。アストゥールの話は説明書のような物としておこう。
「ここから近い国…確か東の森を挟んだ先に
ピュアエルフの住む国があったと思う。」
(東の森…さっき落とされた場所か。)
苦い顔になり、その道程が険しくなる可能性があると懸念する。そこにアストゥールが追い打ちをかける
ように口を開いた。
「気をつけて。森には盗賊がいるとか、幻覚を呼ぶ
悪魔がいるって噂もあるから。」
所詮噂だ…と、魔法の事を聞くまでは思っただろう。
だが悪魔を認めさせなければ使えない魔法もあると
なれば、その情報を無視する訳にも行かない。
どうせなら転移魔法が欲しかった。
「…少し準備が必要だな。」
【世界観再説明】
王都
「世界戦争時代における実質的戦勝国の別称。合計で
5つの国がこう呼ばれている」
条約
「正式名《世界平和統制条約》。形上は世界全体の
バランスを維持する為、王都がリーダーとなって戦を抑制するという物。実際は世界の中心にある魔核の
採掘権を独占する不当な条約であった。」