ゴールデンウィーク
放課後、修司、一色、迫間は教室で話していた。オレンジ色に照らされるグラウンドから運動部の声が聞こえる。
「で、闘技大会で例の上級生たちに勝つための策は思いついたのか?」
迫間は〈うまい筒〉を食べながら聞く。
「・・・正直特別な方法は何も、って感じかな。」
「僕も特にはまだ・・・でもこの前の人が誰かはわかったよ。」
「ほんとか?どうやったんだよ!」
「ただ先生に聞いてみたら、『去年の闘技大会の記録を見たら参加者と使用アームズが載ってる。』って教えてもらえたから、見てみたんだ。ほら、学校のホームページの〈闘技大会〉ってとこ。」
「げっ、こんなにたくさんのデータに目通したのか?」
迫間は驚いた様子で聞いた。
「いやいや、検索使って、[獄炎]って探したら出てたんだ。ほら、去年1年生で予選3回戦敗退の日下部久志って人。きっとこの人だよ。」
「あいつで予選3回戦か・・・。確かそのあとに本戦でトーナメントがあるんだよな。」
「うん、でもこのときよりも強くなってるだろうし、相手が強い人だったのかもしれないよね。」
「いや、でもな、1年生で予選3回戦まで行ったってのはまあすごいと思うぞ、実際。」
迫間は神妙な面持ちだ。
「今日の【闘技】の授業の感じからしてももっと頑張らないとだよな。特に一色。」
「う、うん。」
「今日の感じだと治世は分かんねえけど、一色はまずあの剣を扱い切れてない感じだよな。」
「だよね・・・。」
一色はその剣の大きさを御することができずに、散々な試合をしたらしい。修司も横目で見ていたが剣を振る姿よりも剣を盾にしている姿の方をよく見かけていた。
「一色くらいエナ操作が器用なら重さも調整できるだろ?」
修司は素直な疑問をぶつけた。
「うん・・・まあ軽くすることはできるけど・・・でっかくて重量感の武器を使うのに憧れててさ・・・。」
「憧れも分かるけどさ・・・、実用的じゃないとな、な?治世。」
「うんそうだな・・・。もしかしたら柊みたいに剣と盾を持つ方が実用的なのかもな。」
「うげっ、あの女と同じスタイル勧めるのか?」
「いや、でもさ柊は女子の中でも相当強いようだし、見ててもセンスがあるのは事実じゃないか?」
「うん、確かにそうだね。」
「俺は気が引けるな~。だったら一色も治世も俺とおんなじく二刀流にするのはどうよ?」
最後の言葉を迫間はニヤニヤしながら言った。
「双剣か・・・。」
「修司君は迫間君の双剣と試合してみてどうだったの?」
「2本あるから気は抜けないけど、迫間の攻撃がそこまで連続ではつながって来ないからさばけたって感じかな。」
「ま、まだ使い始めたばっかりだから仕方ないだろ!それに俺のは[ジェミニ]って名前があんだよ。」
迫間は慌てたように取り繕う。
「じゃあ、迫間君は[ジェミニ]を使った感想は?」
「う~ん。まあ実際治世が言ったみたいにまだどう攻撃をつなげていけばいいのかわかってないけど、ガンガン攻めていきたい性格だから合ってるとは思ってるが・・・。」
「双剣は手数で翻弄するのがいいんだろね。」
「だな、単純に右と左で交互に切るだけじゃなくて色んなパターンも考えられるしな。」
「ほらな!やっぱ二刀流がいいんだよ~。」
迫間は誇らしげだった。
「あ、いやいや、てかお前らの話はどうしたんだよ。」
「僕はとりあえずアームズはもう少し今のままでやってみて、必要に応じて変えようかとは思う。」
「俺も色んな人とのアームズや戦法見て学ぶことから始めるかな。」
「そうか・・・だが、あまーいっ!」
不意に迫間がピシャリと言うので二人はビクッとした。
「ど、どうしたの急に?」
「あのな、滝田は毎日素振りとか特訓やってるんだぞ。」
「お、おう。」
「これがどういうことか分かるか?」
「・・・滝田君は頑張り屋さん?」
「ちがーう!このフワフワボーイめっ!」
「フワフワ・・・。」
「ただでさえ強い滝田は毎日部活で鍛え、授業で鍛え、特訓で鍛えてるんだぞ・・・。俺らはこんなのんびりのペースであいつに追いつけるのか?ましてや本来の相手は上級生しかも武闘派ゴリゴリ部、毎日着実に強くなってるだろう・・・。」
一色の喉がゴクリと音を立てた。
「だから俺らはあいつらの2倍も3倍も練習するかすげー策を考えなきゃなんないんだよ!」
迫間の表情は真に迫っている。
「た、確かに・・・。」
一色も真剣な表情だ。
「だから俺たちもガンガン特訓しなきゃなんだよ。」
「でも特訓って言ってな。」
「みなまで言うな治世。ここはこのゴールデンウィークに特訓場所や方法を各々考えるという宿題を出そう。そんで明けてからはその特訓を実践だ。」
「うん!」
「ああ、まあそうするか。」
「よし決まりだな!じゃあ今日は解散だ、ダッシュで帰るぞ!」
「おー!」
一色はノリノリだった。きっと特訓とかそういう言葉が好きなんだろう。ただ俺は思う。いつの間に迫間まで闘技大会であいつらに勝つことが目標になったんだ。
薄暗い帰り道を走って帰る。街灯には小さな虫が集まっていた。
ゴールデンウィーク初日の土曜日には修司は一人で出かけた。一色はこのゴールデンウィーク中は実家に帰る用事があるらしく、朝からいない。滝田と根津は部活の合宿、迫間は親戚のノーベルに会いに行くらしい。とりあえず高等部の校舎に着くと幼馴染の南野とあった。
「あれ?おはよう修司、今日はお友達は?」
「ああ、みんな予定があるらしい。」
「ふーん、一人だけ暇でかわいそうね。ふふふ。」
「いや一応俺は目的があってだな・・・。それよりお前だって一人で何やってたんだよ?」
「私はこれから新聞部の取材よ。残念ながら修司と違って忙しいの。」
南野はふざけながらいじわるな顔をした。
「そうか・・・てか、お前新聞部なのか?」
「そうよ、ここの新聞部はノーベルのこととかいっぱい調べてあるし、記事の面白さに定評があるから外部からも発注されるくらいなのよ。知らなかったでしょ?」
「お前がそういうのに興味あるなんて知らなかった。」
「まだまだ私の研究が足りないわね。ふふふ。あ!もう行かないと!またね!」
小走りでバス停の方に向かう真夏。修司も歩き出そうとしたときに、南野が叫ぶ。
「シュウジー!」
つられて修司も大声で返事する。
「どうしたー?」
「修司もなんか記事になりそうな面白いことあったらネタを提供してねー!」
「ああ、覚えてたらなー。」
「じゃあ大丈夫ね。修司はそう言っていっつも覚えてくれてるもんね。」
くすっと笑いながら真夏はつぶやいた。
「え?なんか言ったかー?」
「なんでもー!またねー!」
南野はそのあとは振り返りもせずに行ってしまった。
「忙しいやつだな、まったく。」
修司は校舎の裏側へと向かう。
この前の探検で見つけた個人訓練場らしき場所に着いた。やはり校舎裏から来ると10分程度で着くことができる。太陽の前を小さな雲が通る度に視界の明度が変わるが、芝生のような草がさわやかな色を発している。ここに来れば何か見つかるかもしれないと思ったのだ。
特訓って言っても特に方法があるわけでもないし、それにそもそも俺らはエナについても闘技についても知らないことが多すぎる。だからまずは知識を付けてと思ったけど・・・それじゃきっと遅れるのは確かだよな。でもじゃあどうすればいいんだ?部活なら先輩や顧問にでも教えてもらえるだろうけど、俺らには・・・。
「[ブラックジャック]。」
修司はやおら立てられた丸太に近づき剣をコンバートした。丸太に一振りする。まとまらない気持ちへの苛立ちをぶつけた。キーンと音を立てて剣は弾かれた。
「え?」
・・・おかしくないか、これ木だろ?切断できなくとも刺さるくらいには[ブラックジャック]の強度はあるぞ。しかも今の音・・・。
もう一度、今度ゆっくり剣を丸太に当てる。キンッ。金属同士のぶつかるような音。つまりこの木もエナの濃度が高いことを音が教えてくれる。
なんだこの木は・・・。見た所普通の木の様だけど、訓練用の特別性なのか?それとも誰かがコンバートした・・・。
あたりを見回す修司。モンシロチョウが飛ぶ姿しかない。
この丸太がどんなものかは分からないが、これをうまく使えれば!
おもいっきり丸太を切りつける。鈍い高音が響く。手がジンジンする。[ブラックジャック]は刀身の3分の2が砕けていた。
この丸太を切れるくらいの強度で創れば・・・相手のアームズを破壊できるんじゃ・・・。
修司は特訓の糸口を見つけた気分になった。
修司は試しに5分かけて全力でエナが高密度の[ブラックジャック]を創った。軽く息切れを起こすほどエナを注ぎこんだのは初めてだ。その力作を構え丸太をめがけて目いっぱい振った。キーンと音がして反動で手が痺れたが今度は折れていない。
しかし丸太も切れてはいなかった。修司は改めて自身の剣の刃をよく見ると小さく欠けていることに気付いた。
この丸太を切ることができるようになれば俺は・・・。
ルーザーストラテジー用語
うまい筒=スナック。筒状でサクサク。迫間はコンポタ味が好き。