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ルーザーストラテジー  作者: 七場英人
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闘技部【武人】

 放課後、一色は修司を連れて総合体育館の室内闘技場に向かった。仙進学園には第1体育館、第2体育館、総合体育館などいくつか体育館があり、総合体育館は屋内プールやウエイトトレーニングルーム、室内闘技場などを含めた5つの施設が集合している。屋内闘技場はドアが開いていて、薄暗い中に上級生らしき一人の男がいた。

「あ、あの、ここが闘技部の【武人】の練習場所ですか?」

 一色の声に振り返る男、身長は高く、浅黒い肌で短髪、鋭い目で2人を睨む。怪訝な視線を二人に送りながら口を開く。

「ああ、ここで合っている。」

「僕たち見学希望なんですが・・・。」

「1年か・・・悪いが【武人】は強い者のための闘技部だ。・・・お前らにそんな素質があるようには見えない。帰れ。」

「え・・・。で、でも僕ここの部で、【井伊先輩】みたいに強くなりたいんです!」

 男の表情が一段と険しくなったことに修司は気付く。

「・・・おい、1年、身の程をわきまえろよ。・・・」

「・・・。」

「いいか・・・井伊さんはな、お前程度が簡単に目指していい人間じゃねーんだ!」

 男の怒号が空気を張り付かせる。

「・・・構えろ。俺が現実を教えてやるよ。」

「え?構えろって・・・」

「判断の遅い奴もここにはいらねーんだよ!獄炎!」

 そう言って男は一瞬で右手に長さ2m、幅50cmの巨大な剣をコンバートした。

「ほら行くぞ!」

 男が素早く間合いを詰めてくる。20mほどしか離れていない。混乱の中、一色はまだアームズを創れていない。ひどく殺気に満ちた顔の男が、巨大な剣と共にもう目の前に迫っている。振り下ろされる剣。

「うわあ!」

 キーンっと高い音が響く。頭を抱えしゃがんだ一色が顔を上げると、修司が両手を使い黒い剣、いや黒い棒にも見えるモノで巨剣を受け止めた。しかし修司に余裕はなく、膝をついている。

「チッ、生意気な1年だ、な!」

 両手の塞がった修司の胸に男に蹴りが入る。ドゴッと音がして、修司は後ろの一色と共に飛ばされる。むせる修司。コンバートした武器も砕けていった。

「わかったか1年、お前らには才能がねーだよ!負け犬にはな、ここで学ぶ資格はねーんだ!」

 男が吠える。怒りで立ち上がり、せめて一撃をと思った修司。しかし腕を一色が掴んでいる。

「も、戻ろう・・・。」

 その眼には涙が浮かんでいた。

「ここは【闘神・井伊安政】が闘技部っ!勝者が正義だっ!」

 二人の背中に男の声が響く。

 この男に勝つ算段もない。言われた通りの敗者である二人は、その場を後にした。外は雨が降りだした。

 

 雨の中、屈辱を味わった修司と一色は傘も差さずに校舎脇の森林エリア手前にいる。周囲に誰もいないせいで雨の音しかしない。先を歩く修司は怒りに満ちていた。横暴をはたらいたあの男に、友人を虐げたあの男に、そして力のない自分自身に。

「・・・僕ね、あの闘技部の井伊先輩って人に憧れてたんだ。」

 一色は不意に震えた声で語り出す。修司は耳だけを傾ける。

「この学園で闘技実績の秀でた3人の生徒を【三武天】って呼ぶのは聞いたことあるでしょ?井伊先輩はその一人、【闘神】って呼ばれる人なんだ。」

「僕はその話をノーベルの知り合いから聞いてて、学園に来たら絶対に井伊先輩の闘技部に入ろうって思ってたんだ。・・・でもやっぱり僕にはそんな才能なかったんだよね・・・。」

 一色は目にいっぱいの涙を溜めている。

「・・・一色。」

「・・・ふぅ、まあ僕のことは気にしないで!」

 一色は懸命に涙をこらえて震えている。

「それより修司君こそさっき・・・。」

「・・・ダメだ。」

「修司君?」

「このままじゃダメだろ。一色。」

「・・・。」

「・・・悔しいんだろ?」

「大丈夫だよ。」

「一色!・・・じゃあなんでそんな顔してんだよ。」

 一色は顔を真っ赤にして涙は顎からタツタツ垂れている。

「・・・僕悔しいよ!悔しい・・・」

 一色はむせび泣く。堪えていた涙が溢れ出る。地面に落ちる涙は雨と混じり、大きな滴となる。修司は一色が落ち着きだしたころに口を開く。

「認めさせればいい。」

「・・・え?」

「俺らが強くなってあの男や井伊ってヤツに認めさせるんだよ。」

「でもどうやって。」

「・・・【闘技大会】だ。」

「!?」

「闘技大会で優勝して、あの男も三武天もみんなに勝って・・・力を認めさせる!」

「修司君・・・。」

「俺はさっき言われた負け犬って言葉がずっと頭に響いてる。・・・この言葉を消すにはアイツに勝つしかない、そう思ってる。」

「・・・。」

「一色、悪いが、お前がやらなくても俺はやる・・・もう決めたんだ。」

「・・・うんっ!」

 一色は涙を拭きながら続ける。

「さっきの修司君のアームズ、あんな一瞬で、不完全だった。・・・でも、それでもあの人の一撃に耐えたんだ。・・・もしかしたら僕らでも頑張れば可能性はゼロじゃないかもって、思うよ」

「一色・・・。」

「やってみよう。修司君!」

「ああ!」

 気付けば雨は止んで、夕日が木々に付いた雨粒に反射して黄金の景色が広がっていた。輝く空間で二人はこの学園の歴史を変えようと決意している。当人たちはそんなこととは知りもせずに。

 闘技大会はこの仙進学園において一年間で最も長く、最も盛大に行われる行事である。参加者は高校部と大学部の両方から150人程出て、トーナメント式で戦う。十月から十一月まで、土日を使って予選から本戦を行うが闘技経験やエナ操作の熟練度の面から考えて当然上級生が有利となる。この闘技においてエナの操作の未熟な1年生が優勝した記録はこれまでにない。去年の優勝者も高等部2年時に優勝して、世紀の天才だと言われた。なので、それを1年生の二人が超えることは困難を極めることである。

 

 翌日、教室で滝田、迫間、根津に闘技部・武人はどうだったのかと聞かれた時には二人は苦笑いをして、濁しながら昨日の出来事を話した。

「・・・っま、とりあえず先輩と合わなそうだったから止めといたって感じかな?」

「う、うん、そんな感じだよ。」

「それは残念やったな~、だから【錬磨】にしときって言ったのに、なあ?」

「まあ、そういってやるなよ。コイツらも残念だったろうしさ。他の部活のことは考えてるのか?」

「いや、それは考えてないかな。」

 全てを話すのは気が引ける一色は少し困っている。そこで修司が助け船を出した。

「それより滝田と根津はどうだったんだ?」

「俺はイイ感じだったぞ!剣道だから普通科の生徒が多いけどノーベル科の先輩が3人いて、大喜びされたしな。」

「俺んとこも。まあまあいい雰囲気やったな。部員17名で昨日の見学者は9人、部活は本人の向上心に期待して自由参加らしいけどな~。」

「じゃあ二人はそこで頑張れそうだね。よかった~。」

「おう、まあそうだな。」

 友人に隠しごとをしている二人の心のように、今日は外でザワザワと風が吹いている。


 放課後、また部活見学に行く滝田と根津を見送って、修司は一色、迫間と寮へと帰っていく。まだ外の風は強く、目に砂が入りようだったが、もう寒くはない。

「あのさ、お前ら、ほんとは何があったんだ?」

「え?」

「昨日の闘技部の話だよ。なんか隠してんだろ?」

「・・・よく分かったな。」

「へへ、一応半月一緒にいるしな。それに【武人】は異常な空気なんだって親戚に聞いてたからな。で、実際どうだったんだ?」

「うん、それがね、僕ら室内訓練場に行ったんだ・・・。」

 一色は昨日のことを丁寧に迫間に話した。できるだけ明るく話そうとしていたと思う。それでも迫間は途中から苛立ちを顔に出していて、とりあえずは顛末を聞いた。

「・・・そうか、とりあえずそのむかつく先輩は置いといて、闘技大会で優勝するってのは本気なんだよな?」

「ああ、俺は本気で優勝を目指してる。途中で【あの男】も倒す。そんで奴らから一色を勧誘させるくらいはさせたいな。」

「修司がこんなに言ってるなら、僕も本気で優勝を目指そうって思ったんだ。」

「そうか、治世が熱くなるのは驚いてるが、・・・だけど実際きびしーと思うんだ。」

「まあ、確かに俺らは1年だけど・・・。」

「いや、だってさ、闘技大会は大学部の人も出て、大学部4年にもなれば22歳とかだろ?それに今の前年度の優勝者って今、高等部2年の時から3年連続で優勝してるらしいぞ?」

「・・・うーん、だけどさ、その人が2年で優勝できたなら、僕らもチャンスってないのかな?」

「どうなんだろな、俺も聞いた話だし、知らないことは多いけど、高等部2年で優勝したのって学園の歴史でその人だけらしいしな・・・。」

「・・・でも、もう俺らは頑張ってみるしかないんだよ。」

「治世・・・。」

「もう全部倒さないときっとダメなんだと思うんだ。だから無理かもしれないけど、やってみる。」

「・・・そうだよね。うん、そうだよね!」

「そうか・・・まあ応援はしてるし、相談も乗るぞ!練習相手にもなるしな。ははは。」

「ありがとう迫間。」

 風は追い風に変わっていた。

ルーザーストラテジー用語

闘技部【武人】=体育会系ゴリゴリ闘技部

闘技部【練磨】=テクニカル系キラキラ闘技部


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