第1部 完
修司は、目を覚ますとベッドの中にいた。見知らぬ天井に、一瞬ドキッとしたが、すぐに状況を把握した。起き上がろうとしたが、体に力が入らない。呼吸もしづらい。口には酸素マスクがつけられていた。時計の針は、10時30分を差していた。記憶を整理しながら、誰かが来るのを待った。30分後、ノックとともに、一色と迫間、根津が入って来た。
「おお!目覚ましたか!」
「先生、呼んどこ!」
「修司、大丈夫?」
一色に返事をしようとしたが、まだうまく話せない。それを察した一色。
「あ、ごめん!いいよ、まだ無理に返事しなくて。」
根津が連れてきた校内医は、修司を診察すると、あと1時間もすれば話したり呼吸をしたりはできるだろうと言い、出て行った。医者の言った通りに、だんだんと口が動くようになってきた。一色たちは、その間も部屋にいてくれた。
「・・・うう、あ・・・。で、・・・俺、どうなった・・んだ?」
「試合のこと?覚えてないんだね。話すから、修司は無理して話さなくていいよ。」
一色は、なだめるように言う。修司は、頷く。
「井伊先輩の、一撃目でハンマーもろとも、体を真一文字に切られて、直後に頭から真っ二つ。そんな感じだったかな。」
「そんで、お前は、気を失って、ダウン。丸1日寝てて、今だ。」
「んまっる!?」
丸1日!?もう日曜なのか?
「落ち着けって、どうせ休日だ。」
目をキョロキョロと動かす修司に迫間は言う。
「心臓と脳にまで剣が届いてて、入院になったんだよ。」
「エナの影響で、脳まで痺れると、意識がなかなか戻らないことがあるって、言われたから、俺らも心配したわ。」
「あ、治世、他の参加者の結果も知りたいんじゃね?」
修司は頷く。
「勝ち残ったのは、柊だけ、他はみんなダメだった。」
ひ、柊は勝ったのか?相手は大学生だったろ?
「かなり苦戦してたけどなあ。勝ってしまってたなあ。」
「きっと明日は柊フィーバーだろうな。俺らも旗でも作るか?ははは。」
「そんなのしたら柊さんに殺されるよ。」
一色は、目を細めて言う。
しばらくして、口はしっかり動くようになってきた。修司はつぶやく。
「俺、あっけなく負けたな。」
「し、仕方ねーって!相手は【闘神】様だぞ。」
「うん、みんな井伊先輩が勝って当然みたいな空気出してたし。実況の人もグットルーザーだって言ってたよ?」
「お、おい、バカっ。それフォローになってねーぞ。」
修司は、依然として痺れている自分の腕を見つめる。
「また、負け犬に逆戻りか。」
「おいおい、見ろよ。鬱になっちまったじゃねーか。」
「ご、ごめん、修司、そんなつもりじゃなくて―――」
俯く修司に一色が謝る。その様子を見た根津が突然笑い出す。
「はははっ!負け犬?」
「ちょっと剣之助、やめなって、追い打ちになっちゃうよ!」
「はははっ、いや、そんなん嘘やん。ははは。」
「え?」
「負け犬がこんな目するか?ははっ。」
一色と迫間が修司の顔を覗き込もうとすると、修司はすぐに顔を上げた。その目は、以前の戦いに命を燃やす、生き生きとした目になっていた。
「諦めた訳ちゃうんやろ?」
「ああ、もちろん。今度はあの人だ。闘神は、力も技も、心でさえも俺より上だ。今度は、あの人に負け犬の本気を見せてやるんだ。」
「修司。」
「おお!いいぞ!いいぞいいぞ!」
迫間のテンションが上がる。
「俺には時間がある。その間に闘神だろうが、三武天だろうがなんだろうが、みんな倒して、今度こそ負け犬じゃあなくなるぞ。」
「大きくでたな~。」
「やる気になると、すごいよね。」
「ま、俺が一番のライバルになるだろうがな。」
「ああ、またみんなで勝負だ。」
「望むとこやな。」
「うん、僕も強くなるよ!」
窓の外の木枯らしは、落ち葉を巻き上げていた。イチョウの葉が舞う。
修司は、2日後には退院をした。その間に、1度南野が見舞いに来た。話は修司への慰労と、【玄刀】という二つ名は南野が考えたのだという話だった。帰りには、
「今回のこと、おばさんにも連絡したら、すごく心配してたよ。メールとか返すんだよ?」
とさびそうに言い残して南野は帰っていった。修司は気乗りしなかったが、携帯には確かにメッセージが届いていた。長々と体調を案じる内容やら、普段の様子を南野から聞いていることが書いてあった。最後には、「一度は実家に顔も見せてください。」と締めくくられていた。修司は、返信に悩みながら。「どうも。」とだけ返した。
学校に戻ってからは、クラスのみんなによく褒められた。残念会を男同士で集まって行い、楽しい時間を過ごした。また廊下で鬼道に睨まれることはあったが、絡まれることはなかった。もしかしたら井伊が何かを話したのかもしれない。井伊の懐の深さを勝手に感じていた修司であった。
闘技大会は、その週の第2予選で柊は負けた。相手は【三武天】の【魔神・仙石氷月】だった。修司は、これまでに見たことのないレベルのマラヴィラを見た。仙石は、間違いなく学園一のアタッカーであると確信をした。しかしその仙石も、準決勝で同じ【三武天】である【英雄王・アーサー=キングスマン】との試合を棄権した。結局、決勝は【闘神】VS【英雄王】となったが、その戦いはもはや別次元のものだと思った。修司は、一観戦者として興奮するとともに、熱く闘志を燃やしていた。
時は流れ、学園祭や卒業式など、学生としての行事は過ぎていった。修司は、その一つ一つを楽しんだ。充実した時間を過ごした。そしてその間も修司は訓練を続けていた。約半年後に迫る闘技大会で向けて、変わらずに技を磨き続けたのだ。変わったことがあるとすれば、あの闘技大会のときから訓練をずっと一人で行っていることだ。全からの連絡は一切なくなり、その痕跡もない。修司なりに改めて全のことを調べても何も分からなかった。
「いよいよ僕らも2年生になるんだね。」
一色は、感慨深く言う。迫間は、晴れた空を見上げるように草の上に転がっている。
「なんか長かったような短かったような1年だったな。」
「そうやな~。」
根津も腰を下ろす。春風はその髪を揺らす。
「きっとすぐに闘技大会になっちゃうよね。」
「そうだな。三武天も全員、仙進の大学部に入ったから、きっとまた闘技大会には出て来るな。」
「そうやろな。・・・ほら。」
根津は、横の迫間を小突き、顎でくっと動かし、視線を誘導する。迫間と一色は目を合わせて、にやつく。
「修司!」
「お?」
「な~に、ニヤニヤしてんだよ?」
「大方『やっとリベンジできるぜ。』とか思ってんやろ~?」
迫間と根津は茶化すように言う。
「いや。また一年が始まるんだなって、思ってさ。」
「ずっとそのこと考えてたのか?」
「楽しみだな、何もかも。」
「そうだね。楽しみだね。」
「ああ、そうやな。」
「・・・だな。ふふ。」
例年より早く咲いた桜の花びらは、風に乗り学園の森の中にまで届いていた。青年達は、麗らかな日の下で、これから始まる新たな1年に思いをはせていた。
「ルーザーストラテジー」のご愛読ありがとうございました。
2年ちょっと前から掲載を始め、長い休載を挟んで、ようやく迎えた終わりでした。
この「ルーザーストラテジー」は自分の中では3部作の予定となっています。
そのため、1年次の主人公は下地ができただけで、まだまだ他の方の作品の主人公のような万能さも、勝利への安心感もありません。簡単に負けるのが、この主人公だと思っています。
作品の中で、まだまだ未知の部分、明らかになっていない部分が多くあります。この続編で、少しずつ分かってくるようになるかと思います。
筆の進みが遅いので、時間はかかるかもしれませんが、年内には、続編の投稿を初めていきたいと思っています。そのときは、ぜひまた読んでいただければ幸いです。
アクセス解析で、この作品を読んでくれている人が一人でもいたことが励みでした。これからもよろしくお願いいたします。
七番英人




