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ルーザーストラテジー  作者: 七場英人
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祝勝会

 3人は、寮に戻ると、食堂で祝勝会&残念会を行った。他のテーブルでも、同じような雰囲気のグループがいくつかあった。持参したお菓子とジュースを食べながら、それぞれの反省やら他の組の試合の感想やらを言っている。しばらくすると、遅れて根津も合流した。ひとしきり盛り上がった後で、迫間が話す。

「よし、じゃあ、そろそろ本題だ。」

「本題?」

 一色は、よく分からないようだった。

「情報交換兼来週の対策会議だよ。」

「ええな。」

「とりあえず、それぞれの次の相手の確認な。治世は2年の日下先輩、根津も2年の大森先輩とかって人、そんで俺は滝田・・・。あれ?俺負けじゃね?」

「ふふふ、いつになく弱気だね。」

「いや、もうアイツとの力量の差は分かってるし、この1週間に工夫してどうにかなるもんじゃねーって。」

「じゃあ、諦めるのか?」

「なわけ。」

「それでこそ、やな。」

「そんで、治世の相手については何か調べてあるのか?」

「う~ん、名前と顔、それに闘技部の【武人】だってことくらいかな、知っているのは。」

「ほら、それに大剣を使うでしょ?[獄炎]とかって。今日もあのときと同じようなアームズだったよ。」

「ああ、それで戦い方はどうだった?」

「ファイターで、マラヴィラは使わなかった、と思う。ずっとは見てなかったから変わらなかったけど。」

「その人ならたぶんマラヴィラ使わんで。」

「お!知ってるのか?」

「年に3回、闘技部同士で交流戦やるんやけど、その時に見たんや。」

「そんで、印象は?」

「今、治世君言ったみたいに、典型的なゴリゴリのファイターで、大剣ぶん回して、相手を吹き飛ばすような戦いやね。ありゃきっと【武人】の井伊先輩の影響もろに受けてんやろ。」

「んで、弱点みたいなのは分かんないのか?」

「その時は、こっちの先輩が土のマラヴィラで足止め&遠隔攻撃で削って。それでも結局、あの人、強引に近付いて来て、こっちの先輩をバッサリ切ってしまったから、頑丈さはあるやろな。」

「パワータイプだな、ははは。」

 迫間は笑う。

「あ、ごめん、少し嘘やな。バッサリ切ったなんて片づけるとアレやけど、実際は、近い間合いでも、そこそこうちの先輩動けてたんやけど、日下部先輩の大剣の連撃にアームズへし折られてしまったんや。

「やっぱりパワータイプだったな。」

「・・・そうやな。ははは。」

 一瞬考えた後、根津も笑う。

「そうすると治世君はどうするんや?」

「俺も基本は、マラヴィラをうまく使っていくつもりだけど、相手がそういうスタイルなら、強度のあるハンマーでいこうかと思っている。」

「相手の機動力にもよるな。」

「日下部先輩も動ける感じだったな。」

「そこはいろいろ試してみる。」

「特別顧問もいるしな。」

「そうそう、全さんに相談すればきっといい戦法を考えてくれるよ。」

 修司は、全の反応を想像した。

 きっと、「お前は、俺に聞かないと戦い方も考えられないのか?」ぐらいは言われそうだな。

「う~ん、そういう人じゃないから、難しいかもしれないな。はは・・・。」

 修司は苦く笑う。3人は不思議そうな顔で見つめる。

「でも、とりあえず相談はしてみるよ。」

「それで、大森って人はどうなんだ?何か知ってるか?」

「ぼくらは知らないよね。」

「今日もどれがその人かすら分かんなかったからな。」

「根津は?」

「ああ、その人なら今日【錬磨】の先輩から聞いたけど、アタッカーよりのファイター、アームズは双剣、得意なマラヴィラは水でエナも中の上の量、でも割と戦闘には器用貧乏、やって。」

「もう完璧だな。」

「何も情報いらないじゃん。」

「まあ、【錬磨】に先輩いるし、情報源はいっぱいだよな。」

「あ、俺勝手にスパイにされとったわけか?」

 根津は自分の立ち位置に気づいたらしい。

「根津の情報に期待しての集まりだからな。」

「そんなら、名前も『根津さんの話を聞く会』にしろや。」

「へいへい、そうするから、治世のために日下部先輩の弱点とかクセとかの情報をもっとよろしくな~。」

「腹立つ言い方やな~、そんなの言われんでもするわ!」

「悪いな、助かるよ。」

「ぼ、僕も、できることは何でも言ってね!」

「ああ、頼む。」

 キラキラと目を光らせながら身を乗り出す一色に修司は優しく話す。

「じゃあ、とりあえず、これからの一週間の確認な。俺は、滝田想定で一色に相手してもらいながら、新技開発、だな。」

「俺は部活で先輩と対策練れるから、先輩に期待ってとこやな。」

「便利でいいな~。治世は?」

 迫間は、ポテトチップを頬張る。

「全さんに、しごいてもらいながら、運がよけりゃ何か掴めるかもってくらいかな。基本は自分のイメトレで、たぶん想定は・・・。」

「鬼道か?」

「ああ、あれが俺の知ってる限りの最強の大剣だからな。」

「そうやな・・・。鬼道君ならだいぶ近いな。けどあんなに本能的ではないかな。もっと考えて動いてる感じやったわ。」

「そうか、それも意識しておく。」

「一色は?」

「え?僕も?」

「あたりめーだろ。」

 一色は驚く。迫間の乱暴な言い方に優しさを感じられる。

「僕はさっき言ったみたいにみんなのサポートできればと思う。だから相手になる以外のときは情報収集に徹することになるかな。」

 一色が言い終わると迫間が3人の顔を見回す。

「ま、みんな予想通りっていうか、ぱっとしなっていうか・・・。」

「今からドカンと覚醒イベントなんて起きへんやろ。」

「そうだな、この中の誰か死んで友情覚醒か、悪魔が取りついて魔力覚醒くらいしかねーわな~。」

「そんなこと起きないから。」

 一色は呆れたように言う。その後、雑談をしながら、遅くまで語り合った。修司が根津とこんなに話をしたのは、夏休みに入る前以来だった。一色と迫間も同じだ。授業で一緒に話すことあるが、ここ数週間は放課後の部活はもちろん、昼休みもミーティングに、朝の自主トレと、根津は忙しく活動していた。何よりそんな根津の顔がいつも真剣で、根津にためにも話しかけられなかったし、自分も負けられないと思い、話しかけるよりも、自分も体を動かしたくなったのだ。修司は部屋に戻るとすぐに歯を磨く、鏡の前に立っていると急にふらりとする。

 疲れたな。

 決して激しく動き長時間戦ったわけではない、普段の訓練に比べれば準備運動のようなレベルだ。しかし、その独特の緊張感や昂揚感は、じわりじわりと疲労となっていたのだ。歯磨きもそこそこに、ベッドに倒れる。ベッドは、ひんやりとしている。

 そろそろ暖房つけるかな。

 気付くと朝だった。


 翌日、学校に行くと、先週までとはだいぶ様子が違かった。掲示板以外にも、廊下の壁に新聞が張られ、ガヤガヤしていた。教室に入るなり、数人に男子生徒におめでとうと言われる。クラスの3分の2は昨日で脱落しているので、勝ち残り組には期待が集まる。特に3名しかいない女子の初日通過者である柊には注目が集まる。

 休み時間には、2年生の何人かが、教室を覗きに来た。偶然前を通った川元を捕まえて、何かを聞いていた。2年生が帰った後に川元に聞くと、柊のことを探りに来ていたらしい。1年生の中で自分たちを脅かす可能性のある柊について調べ始めたのだろう。

 昼食を食堂で食べているときも、修司は視線を感じた。一色は、居心地が悪そうに話し出す。

「ねえ?すごい見られてない?」

「そりゃ、見てんだろ。」

 迫間は意に介さないように、ご飯を口に運ぶ。

「ここには、俺に治世に根津と3人も通過者そろってんだし、それなりに見られるだろう。」

「まあ、有名人気分を味わおうや。」

 その日は、根津のミーティングもなく、4人で昼食を食べていたため、周囲の生徒から余計に視線を集めた。どこからか、「あれって・・・。」「ああ、あいつだ。」などとも聞こえてくる。

「こんな注目の中でご飯食べるなんて、僕無理だぁ、修司も平気なの?」

「俺は、まあ。それなりに気になるけど、あれに比べたらさ。」

 修司は、食堂の奥に座る柊たちを指さす。柊と細田、夏目の座っているところの周囲は不自然に空き、その周囲の生徒がチラチラと見ている。遠目からでも分かるほどに監視されている。

「あれよりは、いいさ。」

「よくあの場所にいられるよね。」

「まあ、『私、こんなこと気にしないし。』とか言いそうやしな。」

「ああ、言いそう言いそう。」

 一色は、早々と食べ終え、ゆっくり食べる迫間を急かした。


 その日の放課後、全との訓練が始まる前に、修司は闘技大会のことを簡単に報告した。

「―――来週は、日下部と戦うことが決まりました。」

 全は反応もなく、聞いているのか、いないのか分からない。ゆっくりと口を開く。

「そうか、始めるぞ。今日は―――。」

 修司が思っていた通りに、全は特に、日下部のための対策を考えてくれるわけでもなく、いつも通りに訓練を始めた。修司は残念な思いもあったが、いつもと変わらない安心も感じていた。

 何も変わらない、俺は今までどおりに戦うだけだ。

 

 訓練後寮に戻り、部屋で休んでいると部屋の外をどたどたと走る音が聞こえた直後に、勢いのよいノックが響いた。修司がドアを開けると、そこには興奮したような一色の姿があった、

「どうした?」

「来て!大変なんだ!」

「落ち着けって。」

「いいから来て!」

「おわっ!」

 一色は、修司の手を引くとまた走り出した。ロビーに行くと根津と迫間が座っている。

「お、連れて来たか。」

「なんだ?何かあったのか?」

 修司は、不安げに聞く。迫間も根津も神妙な面持ちをしていたからだ。迫間が話す。

「根津が、先輩たちの強さの秘密を聞いたらしい。」

「お!朗報じゃないか。」

「それがそうでもないんだ。」

 一色はまだ慌てたように話す。

「まあ、座りや。」

 根津に促され、修司はソファに座る。

「で、強さの秘密ってなんなんだ?」

「先輩たちの一部、たぶん、今度の予選まで残っている2年生の半分と大体の3年生、それに大学生は、簡単に言うとエナでの肉体強化をしてるんやって。」

「ほう。」

「エナを体に満たすことで、瞬発力や筋力を高める効果があるんだとさ。」

「それって、そんなにやっかいなことなのか?」

「このことを説明されてから、改めて考えると、うちの部活の先輩たちの異常な速さや反応の説明がつくんやが、一瞬で5mくらいを移動するようなこともできてたり、馬鹿でかくで重い武器を軽々と振り回すこともできてたりしてる。。」

「それはすごいけど・・・秘密を知ったっていう割には、なんだか内容がふわふわしている気がするんだが。」

「そこが問題なんだよ。」

「どういうことだ?」

「この方法は先輩たちが一人一人でやり方が違って、どんなふうに肉体を強化しているのかが分からないんや。」

「おお・・・。根津はどうやって知ったんだ?」

「2年生の先輩が今日になって、これから予選で上級生に当たったときのために教えてやるって、言って説明してくれたんやが・・・。俺もなんだかまだよく分かってないのが実際なんや。」

「そうか。」

「闘技において、身体能力に差がつくとやばいよな。」

「そうだな、かなりやばいかもな。」

「実際に見たらビビるで。」

 3人とも空中を真っ直ぐ見ている。

「それってさ、これから、どうにかみんなで同じようなことできないのかな?」

 一色は、控えめに提案する。しかし、迫間は愛想悪く返事をする。

「やり方も分かんないのに、どうすりゃいいんだよ。」

「だよね・・・。」

「今更教えやがって、使えん先輩やー。」

 根津は伸びながら背もたれに倒れる。

「まあ、知っていれば対策は立てられるかもな。少なくとも心は準備しておける。」

「そうだな。でも、俺は今週の内にどうにかならないかやってみる。肉体にエナってことは、エナ操作系だろ?一色も練習しようぜ。」

「あ、うん!ぜひぜひ!」

「俺は、全さんに聞いてみるか。何か分かったら教えるよ。」

「ああ、サンキュ。」

「こっちこそありがと、有益な情報だった。」

 修司は、小会議が終わるとすぐに部屋に戻った。ベッドの中で身体強化について考えた。

 確かに、よく思い出してみるとこの前の予選で2年生の中ですごい体の動きをしていた人がいたような気がするな。ただでさえ常人よりも強いノーベルの肉体をさらに強化するのか。どんどん超人化していくな・・・。そういえば、ノーベルで消防隊とか警察官とかも多いのってそういうのもあるのか?警察ってノーベルも一般人と同じ試験受けるのか?・・・

 だんだんと意識は遠のき、気付くとカーテンから淡い光が漏れる時間になっていた。

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