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ルーザーストラテジー  作者: 七場英人
43/50

滝田VS玉置

「じゃあ、そろそろ俺も行ってくるわ。」

滝田は招集場に向かった。もう11時近くになっているため、だいぶ温かく感じる。小春日和といった感じだ。修司と迫間は周囲を見渡して一色を探したがまだその姿はない。修司たちは一色のことが気がかりなまま、3組目の生徒たちが入場を始めた。

3組目は滝田が圧勝し、根津も難なく勝利していた。退場ゲートで修司と迫間が根津に声をかけると、うれしそうに手を振ってきたが、すぐに練磨の部員たちの方に行ってしまった。そして、昼休憩。修司と迫間がコンビニで買ったパンやおにぎりを食べていると目がまだ赤い一色が戻ってきた。

「ごめん、紅仁の応援しなくて。」

「いいって、気にすんなよ。」

「もう大丈夫だから、午後は全力で二人の応援するから!」

一色は振りきったような笑顔を見せた。

「おお、頼んだ。」

「ほれ、一色も昼飯食えって。」

「うん。もうすごい腹ぺこだよ。」

3人は束の間の休息の後、午後の対戦カードを掲示板で確認した。

「2組目で修司はアレン君と、1組目で紅仁は1組の君か。」

「宮本は治世の戦法を知ってるだろうし、さっきよりはやりづらいかもな。」

「迫間の相手って、どんなヤツだ?」

「1回合宿で会ったけど、確かアタッカーだったはずだな。でも、直接戦ってはないし、どうなるか。」

「大丈夫だって、よし、紅仁はもうアップする?」

「おう、一色頼んだ。」

 迫間は一色に遠距離系のマラヴィラを使わせて、それを防いだり、避けたりする練習をした。先ほどの1回戦のことを復習しているようにも見えた。ほどなく迫間は招集場に行き、修司と一色は観戦場所に移動した。観戦場所では南野が武人の部員への取材が終わったところだった。修司に気付くと南野はすぐにかけてきた。

「ちょっと!やったね!」

「ありがとう。」

「修司って思ってたより強かったんだね。私てっきりダメダメなのかと。」

 南野は意地悪な笑いを見せる。南野は1回戦目での修司に余裕のある試合を見て、驚いていたのだ。

「修司は、すごいんだよ、確実に1年生の中の上位10人には入ってるね。」

 一色は自分のことのように話す。

「それってほんとですか!?」

 南野の後ろから、カメラを持った小柄な男生徒が出てくる。

「いや、そんなことはーーー」

「そんなことあるんです。だから次の試合も楽しみにしててください!」

「おー!お名前いいですか。」

「僕は一色学です!」

「・・・えっーと、隣の彼の方の・・・。」

「あ、彼は治世修司です。傷を治すの治すに世界の世、修学旅行の修に司、ですね。」

「チゼシュウジ、と。」

 男はメモを取っている。

「この人は私と同じ新聞部の2年の先輩で白河先輩。今日は一緒に取材してくれてて。」

 南野は簡単にその男の説明をした。そこに雪野が表れる。

「あれ?治世くんと一色くん、取材されてるの?」

「いいや、名前聞かれただけなんだ。」

「てっきり、さっきの活躍で取材来てるのかと思ったよ~。」

「修司、同じクラスの人?」

 ん?呼び捨て?

 女子の雪野はその一言に引っかかる。

「ああ、同じクラスで合宿でも同じチームだった、雪野さん。」

 雪野はペコリと頭を下げた。

 合宿って、あのサバイバルの?・・・じゃあ何日も一緒に野宿してたんだ・・・。

 南野も、笑顔もペコリと頭を下げた。

「こっちは、幼なじみの南野真夏。普通科の人だからたぶん会ったことないよね。」

 幼なじみなんだね・・・。

「じゃあ、僕たちは次の予定があるので!何かあったら、治世くんも取材しますので、よろしくお願いします。ほら、行くぞ。」

「はい!じゃあ、修司、次も頑張ってね!」

 白河と南野は足早にどこかへ消えた。

「かわいい幼なじみさんだったね。」

「ね、南野さんってかわいいよね~。」

 雪野と一色は同じ内容を言っているのに、どこか二人の雰囲気は違かった。


 迫間は苦手なアタッカー相手だったが、1回戦よりも苦戦はしなかった。相手が男だったので、始めから全力でいけたこともあるかもしれない。同じ組では、柊と鬼道がまたしても暴れた。柊は、2組の本郷と相手だったが、本郷がたまらず降参するほどに一方的な試合だった。鬼道の相手は、雪野だった。


「《水猿・岩猿・黄火猿》。」

 雪野は、すぐに3猿のマラヴィラを出す。鬼道の噂は聞いていたし、そうでなくても、もたもたしていたらやられてしまう。3猿は唸り声をあげながら鬼道に襲いかかる。鬼道は、大きなノコギリ刀を振る。刃は水の猿と岩の猿を切り裂くが、火の猿だけは太刀筋から逃れ、鬼道の左腕に噛みつく。しかし鬼道は乱暴に振り払い、猿は地面にたたきつけられる。鬼道は自分の左腕は見た後に、起き上がり睨みつけている猿のマラヴィラを見つめる。

「お前・・・生き物のユニークのやつか。」

 雪野は鬼道が自分のことを知っていることに驚いた。

「確かに珍しいが・・・。ただ動くだけじゃねーか。」

 鬼道は憎らしい表情で、残念とでもいった言い方だ。鬼道は、一度ため息をつくと、ズンズンと雪野に近づく、早歩きではあるが、走ってはいない。余裕の表れか。火の猿がまた飛びかかるが、容易に薙ぎ払われて消えた。

鬼道は歩みを止めない。

 みぃちゃんたちがこんな簡単に・・・。やるしかない!

「《善門の虎》。」

 雪野の目の前に、バチバチと空気を弾きながら2mほどの虎が表れた。見たところ、電気のマラヴィラが元にできているようだ。虎の咆哮が響く。雪野はその場に座り込む。エナを使い果たし、顔が蒼い。

「楽しませてくれよ。」

 鬼道は左の口角を上げる。虎は鬼道に向って駆け出し、直前で立ち上がり、爪を立てる。鬼道は、ノコギリ刀で防ぐ。虎は噛みつこうともがく。鬼道にはずっしりとした重さがかかっている。

「重さは、実物級か?」

 鬼道が虎の腹に蹴りを入れると、虎は、後ろに下がるが、あまりダメージはなさそうだ。虎は低く唸りながら、鬼道を睨みつける。鬼道も静かに虎を睨む。鬼道の興味は虎に移ったようだ。周囲でも闘技をしている生徒たちがいるが、他の騒音は掻き消え、虎の唸り声とその電気の肉体が時折空気を引き裂く音だけが聞こえるように思えた。羊雲が太陽をわずかに隠す。突如、虎は鬼道の襲いかかる。鬼道は、ノコギリ刀で切りつける。虎が振りかざした右前足を深く切る。虎は怯むことなく鬼道に噛みつく、7cmほどの鋭利な牙は鬼道の首に深く刺さる。虎は頭を振り、鬼道の首を取ろうとする。

「いてえじゃねーか、」

 一瞬でノコギリ刀が虎の首と胴を切り離す。虎は最後まで鬼道の首に噛みついたままリリースされていった。鬼道は先ほどまで牙の突き刺さっていた首を撫でながら、あることを思い出す。

「そうだ、お前が残ってるんだったな。」

 鬼道はここで対戦相手が10m先で座り込んでいたことを思い出した。雪野はまだ動けそうにない。けだるそうに近づいてくる鬼道。

「リタイアしなかったことは褒めてやるよ。」

 鬼道のノコギリ刀が雪野を袈裟切りにする。その瞬間に、審判が試合を止めた。雪野は気を失い、担架で救護テントに運ばれていった。


「雪野さん、すごかったね。」

「ああ、最後まで諦めてなかった。目がずっと鬼道を見ていたもんな。」

「ほんとすごいよ。」

 一色は何か強く感じるものがあったようだ。迫間が戻ってくると、2組目の滝田の試合を観戦した。滝田の相手は、1組の玉置である。修司と迫間は玉置に合宿で会っている。情報収集の得意な玉置は二人のことをしっかりと調べていた。玉置はギャル風な見た目とは対照的に、相手の情報から戦略を考えていく頭脳派だ。しかも、滝田はそのような相手に対応できる臨機応変なアタッカーではなく、むしろ、愚直に自分の剣技を磨く生粋のファイターである。滝田にとってやり辛い相手であることは間違いなかった。


 コンバート開始の合図が出る。

「[村正]。」

「[ミリタリー]。夏休みの間に出来上がった日本刀。2尺2寸7分。実物を見て作ったんだよね。」

「お前・・・俺のファン?」

「そうね。ファンかもね。」

 玉置の情報に驚く滝田。笑顔で八重歯が見える玉置。試合が始まった。

「《アパッチ》。」

 玉置のダガーから小さな何かが高速で飛んでくる。滝田は、その飛翔体を刀で防ぐ。マラヴィラははじけ飛び。焔が空中に漂った。玉置は、残念そうな顔をしている。

「さすがに反応されるか~。」

 一般的な中距離型のマラヴィラの移動速度は、時速90~150kmである。マラヴィラに使用するエナの分配を考えた時に、威力のあるマラヴィラで回数も撃て、そしてノーベル相手でも避けられにくい速さということを考えると、このくらいの速さに落ち着く。しかも、速さにエナを振るということは威力振るよりも、効率が悪く、あまり速さを求める生徒はいない。しかし、玉置は、ダメージを期待できるギリギリの威力、大きさのマラヴィラを時速210kmで放つ。これはプロテニスプレイヤーのサーブの初速と同等の速さである。

「どんどんいくよ!《アパッチ》。」

 玉置の高速火球が次々飛んでくる。滝田は、集中し、一つずつさばく。玉置の火球は1回ごとに一呼吸の間が空く。確かに恐るべき速さだが、滝田に反応できないレベルではない。

 オヤジの面打ちの方がもっと、早い気がするな。

 滝田の父親は、剣道の師範代で、かなりの腕だ。また剣道はより近い間合いで相手の剣が迫ってくるため、滝田の体感は間違いではないだろう。滝田は、高速の火炎休をさばきながら、前進する。

「ちょ!ちょっと!なんで当たらないのよ!」

 玉置は叫ぶ。滝田は進む。

「来ないでよ!《アパッチ》!」

 玉置のマラヴィラは、滝田の顔面に跳ぶが、滝田は、首を曲げ避ける。滝田は玉置との距離を8mまで縮めた。

「な、なんなのよ!」

 玉置の顔に焦りが見える。

「い、いやっ!」

 滝田はもう6mまで先まで来ている。玉置は、後ずさりする。目には涙を浮かべているようにも見える。

「もうだめっ・・・!」

 滝田は、勝負を決めるために、刀を上段に構え、素早く前に進んだ。玉置は、アームズで顔を覆う。

「・・・なんちゃって~。」

 玉置は、アームズの奥から満面の笑みを見せる。

「《アパッチ・ガーディアン》。」

 玉置の周囲に3cmほどの火球が数十個表れる。その数個が、気が付くと消える。滝田は、自分の左上腕と右太もも、右わき腹に衝撃を感じた。滝田は素早く3歩身を退く。しかし、また玉置の周囲の火球が消えると思うと、自分のどこかに当たっている。

 早い。完全に俺の反応を超えているな。

「まだまだ~。私の弾丸は、加速するよ!」

 玉置の火球は、最早いつ消えたのかも分からない。そして、気づくと滝田の体には、じわじわと痺れが蓄積される。滝田は当たったことを後になって知るだけである。

 滝田は、横に動き、回避を試みるが、数発は避けられても、すぐに当たり出す。

「不用意に近づきすぎなのよ。」

 ダメージも上がってるか?

 玉置のマラヴィラは、高速でぶつかることで、ダメージとは別に、衝撃を与え、体感的に強力なマラヴィラになったように錯覚させる。滝田は、素早い体捌きと刀さばきで極力避けようとするが、放たれた半分以上は被弾している。

 よく考えられた技だな。

 滝田は大きく息を吸う。次の瞬間、瞬時に12mあった滝田と玉置の間合いが詰まる。

「え?」

 玉置は、右肩から深く袈裟切りにされ、肺がうまく動いていない。胸を押さえ、膝を着く玉置。

 い、今のは・・・。なんで闘技部でもないこの人が・・・。

 審判は試合を止める。滝田は刀を腰に収め、リリースした。

「お前、すげーよ。」

 滝田は、一礼をする。

「しゃべりすぎだけどな。」

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