青春の約束
「これからの訓練は、俺は日ごとにアームズを変えて戦う。お前は俺のアームズやタイミングを考えて、アームズを変えていけ。」
「今までと違って、1種類に限定しないってことか・・・。」
「とにかく、まずかやってみろ。[立刀・倭]。」
全は刀をコンバートした。
「刀型なら・・・[コーラル]!」
「始めだ。」
修司の手には槍が持たれる。修司のコンバートが終わると、全が瞬時に距離を詰める。
リーチの利を消す気か!
修司は、槍を払い牽制するが、全は、ひらりとかわし、間合いに入る。修司はすぐに槍を回転させ、全を柄で殴ろうとしたが、刀身で受けられ、左腹を蹴られる。
「ぐっ!」
後退する修司。全の足は止まらずに、修司に向う。修司は槍を構え直し、迎え撃つ。
3分ほどしてもほとんど攻撃の当たらないボロボロの修司は、ふと気付いた。
この人はこれまでずっと俺の戦い方を見ていた!だから今までと同じ方法じゃいつまで経っても当たるわけないのは当然だ!
修司は槍を全に投げつける。全は簡単に叩き落とす。
「[オニキス]!」
修司は刀をコンバートし、全に切りかかる。鍔迫り合いの中、修司は、仕返しとばかりに全の右腹に蹴りを入れるが、右手の肘で防がれ、その間に足払いされ転ぶ。倒れた修司に全の刀が迫るが転がりながら避ける。追撃を牽制するために、刀を振りながら立ち上がる修司。
「やっとアームズを変えたか。」
息の上がる修司に、息切れ一つしない全が言う。修司はジリジリと距離を詰める。刀は連撃で攻める武器ではない。できれば一太刀で相手を仕留め、そうでなくとも相手の四肢の機能を失わせる程度の効果を狙う。雲の切れ目から暑い日差しが刀に注がれる。修司の初撃は右からの袈裟切り。全は、体捌きでかわす。その動き合わせて前進しながら突きを放つ修司。しかし全は簡単に切り払う。その瞬間に修司は右足で中段蹴りをする。全は即座に反応し、左腕でガードする。
「いい動きだ。」
ぽつりとつぶやきながら。バックステップで距離を取る全は。まるで、もう一度やってみろと言うかのような位置で待つ。
全さんの知らない動き。知らない攻め。知らない俺を探せ!
修司の腕に力が入る。
その日の訓練は終わる頃には、修司は久々に動けなくなっていた。頭も体もずっと動かしていたことに加えて、全の攻撃は容赦がなかった。正確に言えば、修司も自分で感じるほどの大きな隙やミスがあると、まるで罰則では与えるかのように鋭く、切り込まれたのだ。横になっている修司に全は話しかける。
「休みの内に実家に帰る予定はあるか。」
「・・・たぶん、ないです。」
「そうか。」
全は、丸太の傍に置いたトートバッグを取る。
「夏休みの間はひたすらこの練習だ。」
「・・・。」
修司は頷く。
「10月には、闘技大会だったな。」
急に話が変わったな。
「はい、10月の4週目の土曜から。」
全はバッグを肩にかけ、問う。
「改めて・・・お前は何のために戦っているのか、もう一度聞かせて見ろ。」
「それは・・・。」
倒したいヤツがいるからだと言いかけて、修司は、言葉に詰まる。最初は、単純に日下部に対する怒りや、悔しさだった。日下部を倒すことが闘技大会に出る目的に間違いない。今もその思いは変わらない。だが、何のために戦うのかと言われると、以前とは違う。アームズを振るときに、日下部の姿を見ることはもうほとんどなかった。ただアームズを振り下ろすその瞬間に集中し、そして、最善の一手を模索することに静かな高揚を感じていた。
俺が戦うのは・・・。
「・・・俺は、倒したい男がいて、ソイツに惨めな敗北を感じさせるのが、戦い始めた理由です。・・・だけど今は、戦っているときには、それよりも、俺がどれだけやれるのかを試したい思いがあって・・・。」
修司はぐっと力を入れて、上半身を起こした。
「だから、今の俺が戦うのは、自分の限界がどこかを知りたい、そして、もう日下部を倒すのがゴールじゃなくて、なんて言えばいいか分からないけど・・・超えなきゃいけない壁みたいなものだと、思ってます。」
「そうか。・・・」
全は森の道に進みだす。
少しはマシになったな。そう言ったように聞こえたが、気のせいだったかもしれない。
寮に帰ると、ロビーで、一色たちがトランプをしていた。傍らには大きなカバンが置いてある。
「あ、修司、おかえり。」
「よう、お疲れ。」
一色と迫間が言う。
「ああ、その荷物、一色の?」
「うん、これから実家に帰ろうと思って。」
「これから?明日じゃなかったのか?」
「うん、親が早く来いってうるさいからさ、へへへ・・・。」
一色は苦く笑っている。
「でも、一色は東京だから帰るの楽でいいよな~。」
「そんなこと言って、迫間君もそんな遠いわけちゃうやん。俺なんて2時間は新幹線やで、っと」
根津が手持ちのカードを出す。
「あ!・・・そういえば、明日からみんなしばらくバラバラになっちゃうね。」
明日から、夏休みの大半を一色と迫間は実家で過ごすらしい。根津も、盆の期間は実家で、その後も部活の合宿で、ほとんど学園にはいない。
「寂しいのか、一色?はは。」
「半年近く一緒にいれば、寂しくもなるって!」
「俺も寂しくなるわ~。なんやかんや、あほなことやるのは、この面子やしな。」
「おいおい、お前まで、そんなこと言って。」
軽い口調の根津を迫間は茶化す。
「じゃあよ、せっかく別々で過ごすんだから、この夏に誰が一番強くなれるか競争しないか?」
迫間は突然のひらめいたように提案する。
「ああ、ええで。」
「う~ん、まあいいけど。」
相変わらず根津は軽い。一色は渋々といった感じだ。
「治世、もちろん乗るだろ?」
「ああ、面白そうだ。」
「よし、決まり!一番の奴は他の三人から学食一回ずつ奢ってもらうのな!」
「お、ええやん。勝つのは俺やし。はは。」
「え~、絶対僕不利じゃん~。」
わいわいとしている雰囲気に修司は、ふんわりとした温かさを感じた。そしてふっとこみあげて笑う。
「俺は、この夏に全さんと戦いながら、自分を磨く。だから、3人にも。負けはしない。」
修司は、何か喜びを感じながら、不意に宣言をしてしまった。
「おお、言うな治世!俺も実家に行くけど、もちろん特訓もする。そんで、お前らを打ち負かす必殺技を作ってやるわ。ははは。」
「はいはい、迫間君の必殺技はどうせビリビリ攻撃やろ。」
殴りかかろうとする迫間を一色が止める。
「俺は、合宿で先輩に揉まれて、いやでも強くなる。なんや、最近この3人とちょっと差が埋まっているかもしれんけど、休み明けはもうダントツやろな。」
「確かに、剣之助が一番かもね。・・・僕もできるだけ、努力はする。特にマラヴィラの特訓をして、どうにか追いつきたいかな。」
「伸びしろは一番一色があるからな。」
「きっと誰が一番でも、おかしくないと俺は思う。」
修司の方を3人は見る。
「俺らは戦い方も性格もバラバラだけど、それぞれが絶対にこの夏で成長してくると思うんだ。それで、きっと互いに、負けたくないって思いは強いはずだ。」
修司の言葉に迫間は大きくうなずく。3人とも目の奥に何かが燃えているのがよく分かる。
「だから。俺は本気で頑張る。」
「よく言った治世!」
「青春やな~。」
「青春だね~。」
「よし、修司も入れてもう一回やり直しだ!」
迫間は、持っていたカードをテーブルに投げ、他のカードと混ぜた。
「あ、ちょっと!紅仁が負けてたからって!―――」
4人は一色が出発するギリギリまで遊んだ。まるでこの夏に合わない分を埋めるかのように。ロビーにはしばらく笑い声が響いていた。
一色を見送って、部屋に戻ると、もう夜8時になっている。携帯を見ると、10分前に幼馴染の南野からメッセージが届いていた。
電話ちょうだい、か。なんだ?
修司は、言われたとおりの電話をかける。8コール目で南野が出る。
「もしもし!ごめん、お風呂に入ってたから、服着るまで少し待って!」
南野がそういうと、ぼふっという音がした。きっと携帯をペットに投げたのだ。通話状態のまま修司は待つ。2分ほどして、南野声がした。
「もしもし?ごめんねー。」
「もしもし、大丈夫か?なんならかけ直すけど?髪乾かしてないだろ?」
「いいのいいの、タオル巻いてるし。」
「そうか・・・んで、何の用だった?」
「あ、そうそう!修司実家にはいつ帰るの?」
「俺帰らないよ?」
「え!?なんでよ!」
「いや、別の帰る理由ないからな。」
「せっかくの機会なんだから帰りなさいよ!」
「いいんだよ、やることがあるんだ。」
「・・・わかったわ。じゃあ、私が帰ったら、おばさんに代わりに言い訳しといてあげる。どうせ、おばさんにも言ってないんでしょ?」
「ああ、助かるよ。ありがと。」
「・・・。」
「・・・用件はそれだけ?」
「うん・・・そう。じゃあ、また夏休み明けたらね。」
「ああ、じゃあな。」
修司は電話を切るとすぐに、シャワーを浴びに行った。
学園内、第2女子寮の一室。南野真夏は耳に当てていた電話を見つめる。
「一緒に帰ろうと思ったのに。・・・ばーか。」
ベッドに横たわる修司。一色、迫間、根津との約束を思い出しては、自分も闘争心を煽られていることに気付く。
こういうのって、中学の時までの友達とは違うよな。てか、きっと、他の高校生もなかなかこういう経験ないんじゃないか?互いに切りつけ合うのに、こんな・・・清々しい?さっぱりと?対決する約束するなんて。
そんなことを考えながらまた、笑いがこみあげてくる。その後は、学園から出た課題は、全との訓練のない日にまとめてやろうとか、全との訓練で、今度はマラヴィラを使おうとか、色々なことを考えている内に眠ってしまった。夢に中では、全との訓練をしている自分を修司が見ているような感じだった。そして隣には一色や迫間がいて、根津はトランプをしていた。夢の中のアームズはやけに重い。そして切りつけられた修司は地面に倒れ、それをみんなが囲んで起こしてくれた。笑いながら何かを言っていたが、よく聞こえなかった。
翌日。修司が全との訓練をしている間に根津と迫間は実家に帰って行った。数日の間に寮の人間は少しずつ減っていき。盆の頃には数えるほどしか生徒がいなかった。時折、一色や迫間がグループのSNSにメッセージを送り、お互いに頑張っていることが分かった。
そして、夏の暑さもピークを過ぎた頃。国立仙進学園の第2学期が始まった。




