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ルーザーストラテジー  作者: 七場英人
35/50

トップクラスの衝突

 根津はすぐに宮本を探した。根津は戦闘の中で逃げる橋爪を追っていたので最初の場所からずいぶん離れてしまっていた。山頂部は思っていたよりも広く、また入り組んだ構造だ。根津は一度立ち止まり目を閉じ、耳を澄ます。意識を集中させ、戦闘の音とエナの揺らぎを探す。【錬磨】の部活の初めは精神統一から始まり、それは周囲のエナの察知の感性も磨く。金崎のユニークのように広範囲のエナの動きを正確に感知はできないが、大まかな方向に強いエナを放つものがあることくらいは分かるようになる。

 右と・・・この道の先にも微かにあるな、これは治世君らか?

 根津は右に走る。戦闘の音も聞こえてきた。大きな岩を曲がるとそこには金崎とボロボロの宮本がいた。金崎は50cmの電撃の球体を発射したところだ。電気のエナは操作が困難で、それがこのような球形をとどめているということはかなりのエナを練り込んだマラヴィラであることが分かる。当然当たればその威力も尋常ではない。

「宮本君、伏せて!」

 根津は宮本に迫る電撃に向けて[ジャベリン]を投げつける。球体は宮本の5m手前で槍に貫かれ、その瞬間に膨張するように爆散しながら周囲に電撃を放つ。バリバリと音を立てる電撃の爆発の範囲は3mはあった。

「おや、なんじゃ橋爪のやつぁ負けおったのか。」

「ああ、あっけなかったで。」

「その割には時間がかかったのお。」

「ゆっくり遊んであげったんや。」

「ゆっくり遊んで、のぉ・・・。」

 訝しげな見ている。

「[ビショップ]。」

 根津は盾とランスをコンバートした。

「ふふふ、ゆっくりね~。どうやらワシともゆっくり戦いたいようじゃの。」

「ああ、そうやな。」

 根津の額にはじっとりとした汗が滲む。先ほどの戦闘のものでも、今走ってきたものでもない。この金崎と言う男の実力を知っているからこそ一瞬も気の抜けない緊張感が汗腺を刺激する。

「《ミラクル・ラピッドファイア―》。」

 金崎は突きだした片手剣、[クラウンマギー]の剣先から火球を連続して放出する。2cmほどの火球は凄まじい速度で飛ぶ。根津は盾で守る。盾に火球が当たり始めるとドドドドッと音が鳴る。根津が狙われている隙に宮本は金崎との距離を詰める。

「《ミラクル・バスター》。」

 金崎の左手に待たれた盾からビーム状の電撃が放たれる。消耗している宮本は回避が間に合わず斧を盾のように構え守るが、7mほど後退させられ後、体勢を崩して倒れてしまう。

「宮本君!」

 倒れた後も転がり、体勢を立て直した宮本は起き上がると根津の近くまで戻されたことに気付いた。根津は未だに火球のマラヴィラに襲われていて動けない。

「根津君根津君。これってまずくない?」

「ああ、だいぶまずいな。あの人どのくらいマラヴィラ使った?」

「う~ん、たぶん15回は使ってるはずかな、たぶん。」

「そうか・・・。」

「もうもうエナ切れになるよね?」

「・・・いや、きっとまだ半分以上残っとるやろな。」

「!?」

 宮本が対峙してから金崎が使ったマラヴィラは生優しいものではなかった。どれも今使っているような強力なもので、それを10回以上使っているだけで宮本はこの男のエナの量に驚いているのに、まだ半分はあるという根津の読みをにわかに信じることはできなかった。しかし根津の真剣な表情が決して誤った読みではないことも同時に宮本は感じていた。

 コイツはエナがあほみたいに多い。きっと上級生も含んで【錬磨】でも上位3人に入るエナの量や。でも・・・。

「ほら、アタッカー相手に足を止めちゃいけませんよ!《ミラクル・アース》!」

 根津は左に転がる。根津が避けた瞬間に地面から土のマラヴィラが突きだし、次々と1mほどの尖った岩がドスドスと生える。20秒間ほど根津を追うように岩の突きだし、辺りは岩の剣山のようになった。

「相変わらずダッサイ名前のマラヴィラやな!」

「そのダサいマラヴィラに踊らされるのは楽しいのか?《ミラクル・アース》。」

 また土のマラヴィラが地面から突き出る。回避する根津だが身体的な疲労に加えて盾とランスの重さで機動力が落ちている。本来敵から放たれる地上の攻撃を防ぐために盾を持っているが金崎はその狙いも知っていた。いや、根津がエナ切れになりかけていることも、あのランスでの戦法が相手のエナ切れを狙った長期戦を想定したものであることも知っていた。それはこれまで3か月間ともに部活の中で戦ってきた様子を見ていれば分かることだ。部活中に同学年の中で特に秀でている柊に注目が集まる中でも金崎は根津に一目を置いていた。故にこの一戦でも根津のやりたい戦いをさせず、自分のペースで戦い続けられるように考えた結果がこの戦法だ。

「ほれ、これでどうじゃ。」

 金崎が右手を大きく振り上げると地面から飛び出る岩が1,5mほどの大きさになり、その太い岩の柱から枝が伸びるように何本もの30cmの岩の棘が飛び出す。一発目は根津も避けられたが、2、3発目は根津を挟むように同時に出て来たため、根津も避けきれず右ももと背中にくらう。しかし金崎は攻撃の手を緩めない。次の一撃がまた根津の足元から突き出る。根津は咄嗟に盾を地面に向け防ぐが、マラヴィラの飛び出る勢いに負け、盾ごと30センチほど宙に浮き、地面に落ちる。落ちる根津の腹にまた土のマラヴィラが迫る。構えていた盾がそれを防ぐが中心からずれて当たった反動で根津は半回転して地面に背中を打ちつける。

 くっそ・・・こうなりゃヤケクソや!

 根津はすぐに起き上がり金崎の方に走る。土のマラヴィラの攻撃速度は根津の速さに追いつけない。金崎は火のマラヴィラに切り替える。一直線の火球の列が根津の正面に連なる。根津は盾で防ぐが、次第に盾はボコボコとへこみだす。ずっとエナの攻撃を受け続けていたことで耐久の限界が近づいているのだ。

 もってくれ!

 根津の盾は崩壊を始める。もう数秒後には砕けて消える。しかしもう良いのだ。もうあと一歩で[ビショップ]の射程に入る。根津は盾を投げ捨て力いっぱい右手の槍を突き出す。

 ・・・なんや?

 金崎は火のマラヴィラを止めていた。

「《ミラクル・バースト》。」

 ランスの矛先が金崎を貫く30cm前、根津と金崎は光に包まれる。いや根津は金崎の光に包まれたのだ。光のマラヴィラは通常ダメージを与えられない。高濃度のエナでなければ相手のエナに干渉できないからだ。金崎が光のエナが得意で膨大なエナを込めたとしてもなお、その攻撃範囲は半径3,5mの球体に留まる。そしてこのマラヴィラは今まで根津が受けたマラヴィラとは全く異なる。光の中では最初は全身を柔らかな温かさに包まれ、心地よくすら感じた。しかし、徐々に熱を帯びるような、じわじわと浸食させるような、そんな感覚に変わっていく。そしてそれは根津を球の外にはじき出すような斥力を生み出し、根津は4mは飛ばされた。

 反則やろ・・・。

 根津は力なく地面に落ちた。


 11時33分。山頂西部。迫間は[アクエリアスを]をリリースする。この勝負で5度目のリリースだ。そして6度目のコンバートを行う。[アクエリアス]は1度目よりもゆっくりと形成させる。迫間のエナがもう尽きかけているのだ。恐らくまともの戦える強度でコンバートできるのはこれで最後となる。一方修司はアームズこそ1度もコンバートし直してはいないもののもうほとんど動けなくなっていた。そして鬼道は・・・。

「なかなかやるじゃねーか。はあはあ。」

 呼吸が乱れ額には汗が流れる。

「・・・だが、まだぬるい。」

 鬼道はにやりと笑う。修司と迫間が全力で攻撃を仕掛けても鬼道には決定的なダメージを与えられていない。時折、かする程度の攻撃はできてもこの男には【激しい運動】程度のことでしかなかった。

「くそっ!」

 コンバートを終えた迫間がまた動き出す。流れるような連撃。通常であれば大剣のような大きな得物はこの手数、速さに対応しきれずにどこかで被弾する。しかし鬼道は違う。剣の全体を使い器用に守る。迫間の連撃の速度も精度も決して易しいものはない。それでも鬼道の動体視力はそれを見切ってしまう。そして迫間の連撃のわずかな隙間、ほんの一瞬の息継ぎ、その間に鬼道は大きな一撃を繰り出す。

 またかっ!

 迫間は大きく下がる。[挽殺]の刃は空を二分するような鋭い風切り音とともに空を切り始める。迫間はこの攻撃を双剣で守ろうとしてしまったがためにアームズを破壊されていた。身を引いた迫間を鬼道は追撃しない。

「ほら、もう一回こい。」

 挑発されて迫間は飛びかかる。右の切り上げ、左の突き、そのまま水平切り、右の袈裟切・・・どう攻撃をつなげても有効な一撃にはならない苛立ちが迫間の平静を崩す。そして乱れた瞬間、また鬼道の一撃が来る。迫間はまた避けるが今度は鬼道の背後から修司が[ハイパーシーン]を振る。鬼道は横に切る動作のまま一回転し、修司の攻撃も弾く。金属の激しくぶつかる音が響く。鬼道は大きく息を吐いた。

「はあ・・・、もういいか。」

 鬼道はノコギリ刀の切っ先を一度地面に着ける。

「終わりだ。」

 分厚いノコギリ刀を持ち上げると鬼道は一気に迫間との距離を詰める。振り下ろされた剣を避ける迫間の右足を払うように鬼道は蹴る。迫間は体制を崩すが立て直す。しかしもう追撃がそこまで迫る。右から迫るノコギリ刀を左手の剣でかばう。威力が弱かったのか今度は迫間の剣も砕けない。次の瞬間鬼道は[挽殺]をぐっと引く。すると鋸状の刃が[アクエリアス]の刀身を削り、引き終えると同時に左の[アクエリアス]は折れてしまった。また背後から修司が襲うが鬼道はサッと右に移動ずる。そして空振る修司の胸にノコギリ刀が入る。ノコギリ刀は1cmほどしか切らない。しかし鬼道が修司を押しながらノコギリ刀を引くと、ぎこぎこと肉を挽くように進行する。刃は肺に達し呼吸が苦しい。修司は膝を着く。

「油断したな。」

 鬼道の右腹に迫間の残った剣が刺さる。迫間は違和感を感じた。

 な、なんで手ごたえがないんだ。

 鬼道の腹に思い切り突き立てたはずの剣は3cmも刺さってはいなかった。鬼道は迫間を肘打ちし、のけ反ったところで右斜めから切り上げる。剣が降られると肉が割かれるような感覚とともに痺れが襲う。

 迫間は地面に背中から倒れる。

 こ、ここまでかよ・・・。

「ふう・・・止め刺しとくか。」

 鬼道は面倒くさそうに修司の方に歩く。ノコギリ刀を引きずりながら1m80cmを超える巨体が迫る。

 ゆっくり呼吸しろ、まだ・・・まだ動けるはずだ!

 修司は空気をうまく吸えていない。先ほどの攻撃は横隔膜にもダメージを与えていた。鬼道はもうすぐそこに来ている。その時女の声がした。

「鬼道!」

 鬼道と修司は声の方を見ると盾と片手剣を持ったツインテールの女が修司たちの来た道に立っていた。

「なんだ、今忙しいんだ。すぐ相手してやるからちょっと待ってろ。」

「アタシは今用があんのよ。アンタ、2日前に細田真尋って女の子襲ってるでしょ。」

「うるせーな、ちょっと待ってろ!」

 鬼道は剣を修司に向けて振り上げる。

「襲ったかどうか聞いてんのよ!」

 怒鳴る女の言葉に鬼道は手を止める。

「・・・悪いな。」

 鬼道は女の方を見る。

「2日前は雑魚しか狩ってねーから覚えてねーんだ。」

 鬼道は目を見開いて言い捨てる。

「ははは、細田?知らねーよそんなヤツ!きっと大勢飼った雑魚の中に・・・あ、待てよ・・・それって女か?」

「・・・。」

「あ~、いたかもしれねーな、まあ、結局それも雑魚で・・・ははは!そういえば2日目に狩った中に『ゆ、ゆるして~。』なんて情けなくなく女がいたから首をぶった切ったが・・・そいつは、他の獲物を追ってたんじゃないか?」

 鬼道は満面の笑みを浮かべる。

「殺す!!!」

 女は走り出す。柊の瞳孔は開ききっている。

「柊、お前は楽しませろよ!」

「黙れ!」

 柊が剣を振る。鬼道がノコギリ刀で受けるがすぐにノコギリ刀ごと盾でバッシュされる。鬼道は体勢を崩す。

「《インフェリオン》!!!」

 鬼道は火に包まれるが、それを鬼道は剣で払う。鬼道は興奮している。

「やっぱりお前は上物だな!」

「殺す!!!」

 柊は血走った目でまた鬼道に跳びかかる。

「治世!立てるか?」

 修司の脇には第6グループの本郷がいた。本郷は修司の体を支え、立たせる。

「ああ、でもどうして。」

「今は柊が暴走してるから、って言ってもずっと暴走してるようなもんだけど。とりあえず同じクラスの奴らがこんなんなのにほっとけないだろ。」

 本郷はさわやかに笑う。

「ありがと。」

 修司を岩のそばに連れて行くと本郷はすぐに迫間の所に向った。迫間はほとんど本郷に抱きかかえられながら修司の元にきた。

「とりあえず、これで大丈夫だな。」

「ほんとに助かった。」

「いいよ、気にすんな。」

 本郷は柊の戦闘に目を向ける。柊が押しているようにも見えるが、まだ鬼道の表情には余裕があるようにも見える。

「それよりさ、牛はどこにいるか分かる?」

「いいや、俺らもここに来てすぐにアイツと戦ってたから。」

「そうか・・・。」

「柊のサポートはいいのか?」

「あ~・・・俺が行っても邪魔になるだけだし。それよりもきっと食料を確保してる方が役に立てると思う。」

 本郷は苦笑いする。

「俺はもう行くけど、二人は大丈夫?」

「ああ。あ、いや、俺らも行こう。」

「え、ちょっと、無理しない方がいいって。」

 修司の言葉に驚く本郷。

「いや、治世の言う通りだ。俺らも行かないと他のトコに取られるかもしれない。」

「でも・・・。」

「心配してくれてるのに悪いな。」

 修司は不安げな顔の本郷に言う。

「でも俺らも待たせてるやつらがいるんだ。」

 修司の眼差しにどう説得もできないと悟りうなずく本郷。

「じゃあ、そっちから行ってみよう。」

 3人はゆっくりと移動を開始する。修司と迫間はまだ全身に痺れがあるが、幸いにも足の痺れはなんとか歩ける程度のものだった。3人がいなくなったことなど気にもせず柊と鬼道は戦っていた。現状、今年の仙進学園の1年生のトップクラス同士の衝突だ。

 修司はしばらく歩くと何やら音が聞こえることに気付いた。その音はちょろちょろと液体が流れているようだ。修司は耳を澄ます。

「こっちだ。」

「え?」

 水の流れの聞こえる方に向かう修司。右の岩の影にあった細い道を抜ける。

 確信があるわけじゃない。でも、水があるなら―――。

 そこにはわずかに滴る源流と繁茂する苔、青々しい草があった。そしてその葉をはむ茶色い2頭の子牛。修司は即座に牛を発見した合図のマラヴィラ、黒い光のマラヴィラを高く打ち上げた。

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