第4グループ
山頂東部、根津と宮本は第4グループの金崎と橋爪と対峙している。
「さあな?調べてみたらええやん。」
根津の発言を聞くと金崎は目を瞑りながら顔を左右に動かす。
「逃がしおったか・・・竹原さん、追うんじゃ。根津の後ろの道を道なりに進んでおる。
手負いが2人いてはそう遠くには行けてないじゃろ。」
竹原はそう言われると小走りで根津たちの方に走り出す。
「な、なんで?なんで分かったの!?」
宮本は困惑している。根津の指示で渡、愛川に篠河と枝を任せ、合流ポイントに向けて
下山させていたことをなぜこの男が分かったのか。その問いに根津が答える・
「あの人はエナの察知が普通のノーベルよりずっと得意なユニークなんや。他人のエナに
敏感に反応するエナ持ってて、レーダーみたいなもんらしい。」
説明が終わる頃には竹原はこっそりと根津を避けながら大回りで背後の道に向かう。根
津は竹原に。[ジャベリン]を向ける。
「あと一歩動いたら串刺しにするで。」
根津の一声に足を止める竹原。表情が怯えている。
なんや?意外とすんなり止まるやん。
「行きなさい。」
金崎がそういうと竹原が振り返る。
「で、でも・・・。」
「行きなさい。・・・行けるじゃろう?」
金崎は語調を強めた。竹原は困ったようにキョロキョロと見渡している。見かねた根津
が割って入る。
「こらこら、こんなとろ~っとした女の子に無理ゆうたらあかんやーーー。」
「《トゥルゥー》。」
根津が言葉を言い切る前に竹原の足元の土がもこもこと湧き上がるように、まるで地面
が膨れ上がるように隆起し、盛り上がった土は先端に竹原を乗せたまま伸び、根津と宮本
の頭上を越えて長さ20mのアーチを形成し、岩場の後ろに道を作った。竹原はアーチを
とたとたと降り、先に進む。地面から4mは高いアーチに根津も手が出せなかった。橋爪
も面白そうに見ている。
「奈美恵ちゃんのマラヴィラはいつ見てもすげーっすね~。」
こんな大量なエナ・・・どんなユニークや!
通常、仙進学園の1年生がこれだけ巨大なモノを強度を保ったままコンバートすること
はまずできない。これだけのものを創るだけのエナがないからだ。当然竹原もこれだけの
ものをエナだけでコンバートはできない。彼女のユニークエナは自然界の土と融和し、自
分の土のマラヴィラと混ぜて扱うことができるのだ。この橋も彼女のエナは5%程度しか
使われておらず、ほぼただの土でできている。
「さあ、これで思う存分に楽しめるのぉ。」
金崎は満足げだ。
山頂西部、迫間はアームズを構え臨戦態勢だが、鬼道はまだコンバートすらしていない。
冷静さが欠け、今にも飛び出そうな迫間を修司が制止する。
「待て、迫間。まずは雪野さんを避難させるのが先だ。」
迫間は鬼道と修司と雪野を素早く何度か順番に見た後に大きく呼吸をして頷いた。
「大久保さん、雪野さんと荷物頼む。」
修司は雪野を大久保に背負わせると荷物を渡した。迫間も荷物を大久保に預ける。
「あっちは戦う気なさそうなら避けていけないの?」
大久保は心配そうに言う。
「たぶんダメだ。」
「迫間君が許せないから?」
「いや・・、あっちも逃がす気はきっとない。」
「え?でもあの人たち・・・。」
大久保の見た所鬼道と傍らの玉置には襲ってきそうな様子はない。
「大久保、治世の言う通りだ。今は逃げてくれ。」
迫間もそう言うので大久保は荷物を持ってきた道を戻り出す。大久保が数歩歩くと背後
からバリリと音が鳴り、驚いて振り返る。そこには[ジェミニ]に電撃を帯びた迫間が立って
いた。
「え!?」
「ちょっと~、邪魔しないでよ~。」
玉置はさほど残念でもなさそうに言う。先ほどの音は玉置のマラヴィラだ。
「おいおい、ばれてんじゃねーか、玉置。」
「鬼道君がコワイ顔してるからだよ~。」
玉置はヘラヘラと笑う。
「大久保・・・走れ!」
迫間の言葉で走り出す。それを見て玉置も修司たちの方向に向かってくる。迫間は玉置
の前に立ちはだかる。
「[ミリタリー]。」
玉置は背に鋸状の凹凸のある大きなダガーをコンバートして、迫間の剣を受ける。
「迫間君の[ジェミニ]って意外と厚みがあるのね。」
「な、なんで俺の名前―――。」
玉置は迫間の言葉の途中に体を屈め、回転しながら迫間を避けた。迫間の背後に回り込
んだ瞬間に修司のハンマーが振り下ろされたが、それもひらりと跳び、かわす。
「ちょっと、女の子に危ないじゃんか~!。」
「・・・。」
玉置は大きく下がり、おもむろにポケットからメモ帳を取りだし、何かを書きだした。
「ねぇねぇ・・・そのアームズはこのサバイバルからだよね!」
「!?」
「だよね、治世君?」
玉置はにやりと笑う。
迫間だけじゃなく俺の事まで知ってるのか!?
「なんで知ってるんだって顔ね。・・・ぜーんぶ知ってるよ?治世君は[ブラックジャック]
を最近は全然使わなくて[オニキス]、[スピネル]、[コーネル]って色んなアームズを試して
る。それに比べたら迫間君は[ジェミニ]と[タウロス]であんまりアームズは試さないね~。」
ぺらぺらと修司や迫間の事を話す玉置に2人は手が止まる。玉置は学年の中でも豆に情
報収集を行い、個々の生徒のデータを管理している。他クラスの生徒の情報はなかなか集
めることができないが、高いコミュニケーション能力と広い人脈を活かし修司や迫間の事
もしっかりと調査済みであった。
「それに二人は生粋のファイター。ちょっと分が悪いかもよ?」
「それはどうだかっ!」
迫間は右の剣で水平切りをする。ダガーで受け、足の止まった玉置に追撃する迫間。ま
た大きく下がった玉置。下がった先にはまた修司が待ち構えていた。修司の小ぶりなスイ
ングを玉置は避けきれず、左腕に受ける。しかしまたハンマーの力を逃がすようにバック
ステップを踏むことで玉置は威力を殺した。
「甘―――イっ!。」
玉置は左のすねに衝撃を感じた。足元の地面には迫間の[ジェミニ]の1本が刺さっており、
それが投げつけられ、玉置の足を切ったものだと分かる。訓練を共に行うことの多い修司
と迫間は片方が引きつけ、片方が虚をつくような連携も取れる。並みの相手にとっては手
ごわい組み合わせだ。
「[アクエリアス]。」
迫間は[ジェミニ]の片割れをリリースすると、70cmの青龍刀型の双剣をコンバートし
た。
「このアームズは知らないだろ?」
「・・・。」
「生粋のファイターだと分がなんだって?」
「さあね!」
「治世!このまま仕留め―――」
「迫間、避けろ!」
修司の声に半分振り返った迫間は視界の端に物体を捉えた瞬間に前に転がるように回避
する。地面にズンっとノコギリのような刃の大剣が刺さる。迫間は間一髪避けたが、心臓
がバクバクと脈打つ。
「おい玉置、とっととあの女を追え。」
「は~い。」
「行かせるわけねーだろ!」
また玉置の行く手を阻む迫間。しかしその迫間を鬼道のノコギリ刀、[挽殺]が切り上げ
る。双剣で守る迫間だが、力負けし、ズズっと後ろに下がる。修司も玉置を阻もうとする
が、早くも鬼道がその修司を阻む。振り下ろされた剣を避けた修司だが、避けた修司を鬼
道が蹴る。ハンマーで守るもそのまま蹴り飛ばされる。そんな修司と鬼道に脇を玉置がす
り抜ける。
「生粋のファイターの分が悪いのは私じゃなくて、彼の事よ。」
玉置は道を曲がって消えた。
「はあ・・・少しは楽しませろよ?」
鬼道は興味の薄い目で修司と迫間を見る。
11時03分。山頂東部。根津は橋爪と対峙していた。当初は金崎が根津との戦闘を希
望していたが、橋爪も根津との試合を熱望し、壮絶なじゃんけんの末、橋爪が根津との戦
闘の権利を得た。
「おお、結構やるっすね!」
後退しながら橋爪は根津を褒める。追いかける根津は橋爪の胸を目がけて突くが、橋爪
はゆらりと攻撃をかわす。そして不意の反撃。振り上げた槍は根津の顔を切り裂く軌道だ
が根津は顔を曲げ矛先をかわす。そしてまた橋爪は距離を取る。
なんやコイツ・・・やり辛いわ。
橋爪のアームズは2m70cmの二又槍、[グングニル]。その戦闘は橋爪の性格のように
のらりくらりと動き、行動を読みにくい。そして橋爪の最大の特徴が攻撃の軽さだ。軽い
アームズと軽い身のこなし、そこから繰り出されるのは槍の突きをほぼ捨てた斬撃。[グン
グニル]は三角形の矛先の外側を鋭利な形状にすることで切ることに特化した槍だと言える。
「《フレア》。」
根津の放つ火球のマラヴィラを橋爪は身をのけ反らせ避ける。そ体勢を崩した瞬間に根
津の槍が太ももを狙う。迫る槍も橋爪は自身の長い槍の柄を器用に使い防ぐ。根津も攻撃
をつなげるがなかなか当たらない。また橋爪は距離を取る。
「どうしたんすか?【錬磨】の人ならもっとマラヴィラガンガン使っていいんすよ~。」
橋爪は槍をくるくると回している。
あほか。こちとら朝にエナ使い果たしとんねん。
根津は朝にエナほとんど使い切りってからもう何時間も経ってはいるがエナが完全に回
復できるほどの休憩は取れていない。それに元々根津は体質としてエナの回復も遅い方だ
と自覚しているので、現在のエナの残量は全快時の6割といったところだ。当然マラヴィ
ラの使いどころも考えなければならない。
「じゃあ、そろそろこっちも行くっすよ!」
橋爪は走り出す。根津は槍を構え、橋爪の一撃を待つ。リーチの長い橋爪の初撃をかわ
しカウンターを狙っている。橋爪は右下から左上に切り上げるように槍を振る。半歩引い
てかわした後に踏み出し橋爪の右足に突きを放つ根津。しかしそれよりも早く橋爪の槍は
左上から振り下ろされる。冷静に攻撃から防御に切り替えた根津は槍の柄で弾く。橋爪は
弾かれた反動のまま一回転して水平に振る。また守る根津。橋爪は連撃のペースを緩めな
い。
「やっぱり結構やるっすね!」
なんやこの余裕な感じ!
根津の反撃は空を切る。根津は所々でカウンターを狙うがどうも当たらない。それは普
段武闘派な【武人】の上級生に絞られている中で橋爪が開花させた回避の才能が根津の攻
撃の才能よりも上回っているからと言っても過言ではない。また橋爪は根っからのファイ
ターであるために接近戦の差は徐々に露わになり、次第に根津は削られていく。
「ほら、ガードがあまいっすよ!」
一瞬の隙を突かれ、根津は左腹を5cmほど切られる。腹にはピリピリと痺れが走る。
「《フレインズ》。」
9つのピンポン玉大の小火球が橋爪に向うが、槍を回し全て払う。
「こんなんじゃザキっちの方がやり応えあるっすよ。」
うっさいわ、ボケ。
「ザキっち、君の事過大評価してたんすかね~。」
しらんわ!それにザキっちて誰やねん。
橋爪がまた槍を振る。初撃はかわすが連撃が一定回数を超えると根津の被弾が出てくる。
また反撃をするが橋爪は容易にかわし距離を取る。
「もう結構ボロボロすっよね。たぶん左足なんて相当じゃないっすか?」
うっさいわ、だまっとけ!
橋爪の言う通り、根津の左足は痺れでうまく動かなくなっていた。それどころか右肩、
左腹の痺れも大きい。根津は腕をぶらんと下げ深呼吸する。
あかんあかん、落ち着け・・・一番最悪なのはここで俺が負けて、宮本君もやられてコ
イツらが治世君たちのとこに行くことや。それを避けるには・・・はぁ~・・・アレでい
くしかないか。
「どうしたんすか?まだ腕は動くんすよね?」
「・・・ああ、なんでもないで。ほないこか。」
根津は走り出す。根津の突きを柄で受ける。
「動きが鈍いっすよ。」
橋爪は余裕の笑みを浮かべる。
「《フレイムタン》。」
[ジャベリン]の矛先が火のマラヴィラで形作られた刃で延長される。真っ直ぐ顔に向けて
伸びる火の矛先を橋爪は首を曲げ避ける。
「隠し玉も失敗すね!」
根津の口角が上がる。
「ここからや。《フレイムルダンス》。」
火の矛先はボウッと音を立て大きくなる。そして三又の槍の矛先のそれぞれを火が覆う。
うねうねとうごめく3本の火の矛先の1本が橋爪の肩を刺した。橋爪はまた距離を取る。
「うわ!気持ち悪いっすねそれ。」
「悪い、時間ないねん。」
それだけいって根津が距離を詰める。3本の火の矛先はタコの触手のような動きをする。
橋爪は根津の攻撃を避けようとするが、うごめく矛先は予測不能な動きでどう避けてもど
こかを刺される。防ごうにもリーチが40cmはある動く火の槍など防御のしようもない。
「ちっ!」
橋爪は防御を諦め攻撃に転じる。多少の被弾があっても根津の方がこれまで受けている
ダメージ大きいので押し切きる方向にシフトした。足やら腹を突かれながらも根津に肩か
ら腰に袈裟切りに槍を振る。ガキンと音がした。見てみると火の矛先が大きくぐねりと曲
がって橋爪の槍を抑えている。
どんだけエナ練り込んだマラヴィラなんすか―――。
「こりゃ参ったっす。」
次の瞬間橋爪は腹を2本の火の矛先が貫く。そして[ジャベリン]本体も橋爪の腹を突く。
橋爪はその場に倒れた。同時に火の矛先は消えた。倒れた橋爪は陽気に話しかける。
「ははは、腹が痺れて動けないっすわ。」
「ふう・・・元気やな。」
「まあ、君よりはね。あんな燃費の悪いマラヴィラよく使う気になったすね。」
「・・・。」
気付いとったんか。
橋爪の言う通りにこのマラヴィラはただでさえ燃焼中はエナを消費し続ける火のマラヴ
ィラを一定の硬度を保ったまま動かすので今の根津は1分も持続させていられない。その
ため今のエナの残量も1割ほどなので倒しきらなかった場合は大きなリスクが伴った。根
津は黙って一応橋爪の足を槍でさす。
「ちょっ!痺れる、はっはは、もう動けないっすから!」
橋爪は痺れると笑うタイプのようだ。笑いながら叫ぶ橋爪だが今の根津には聞こえてい
ない。
はあ・・・ほんとはこれは治世君や迫間君を驚かすための秘策やったのに・・・。
根津はぐりぐりと槍を突き刺した。
「ぎゃははは、もう許してくださいっす~!」
数秒後我に返った根津はすぐに宮本の元に向った。




